第
5
章 消費者理論
●
1
.消費者の直面するトレードオフ
消費者が「何かを買うかどうか」についての合理的な意思決定
消費者には使えるお金に限度がある(予算制約).
ある財・サービスを買うと他の財・サービスを買えなくなるという意
味で,トレードオフが存在.
ある財・サービスを買うことで買えなくなる他の財・サービスの価値
が機会費用となる.
消費者は財・サービスを消費することで満足(効用)を得る.
消費者はトレードオフを前提に,最も効用が高くなるような消費
● 〇〇〇〇
1.1
予算制約
消費者が今使うことできる金額を所得といい, I と表記.
財・サービスの消費量を c と表記.
財・サービスの価格を P と表記.
財・サービスの購入額は P×c=Pc
所得のうち使わないで残しておく金額(貨幣保有量)を m とする
.
現在利用できる所得は財・サービスの購入額と使わないで残し ておく金額の合計に等しくなる(予算制約式).
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
〇●〇〇〇
1.1
予算制約
予算制約式を とし横軸を c ,縦軸を m とした平面で図示したも
のを予算制約線という.
〇〇●〇〇
1.1
予算制約
予算制約線は
縦軸の切片が I ,傾きが -P の右下がりの直線.
直線上の組み合わせであれば予算の範囲内で選択できる.
c を増やすと m が減るというトレードオフを表す.
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
〇〇〇●〇
1.1
予算制約
価格 P が一定の下で所得が低い場合( I1 )と高い場合( I2 )
予算制約は と なので,所得が高い場合の予算制約線は右上に
平行移動した形になる.
同じ消費量を選択したときでも,貨幣保有量が多くなることが分かる.
〇〇〇〇●
1.1
予算制約
所得 I が一定の下で所得が低い場合( P1 )と高い場合( P2 )
予算制約は と なので,価格が高い場合の予算制約線は横軸の
切片のみが左側に移動した形になる.
同じ消費量を選択したときでも,貨幣保有量が少なくなる.
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
● 〇〇〇〇〇〇
1.2
効用関数
消費者は財・サービスの消費から効用を得ると同時に 貨幣を保有することからも効用を得る,と考える.
「お金はいくらあっても困るものではない」ため,貨幣の保有量
から得られる効用は,貨幣が増えれば増えるほど嬉しいとする.
貨幣保有と貨幣保有から得られる効用の関係は1次関数(線形関係)
であると仮定する.
財・サービスの消費から得られる効用は,消費すればするほど
飽きてしまう性質があるとする.
喉が渇いている時の1杯目の水・ビールと,何杯も飲んだ後の水・ビールでは,飲む
ことから得られる満足度の増加の度合いが異なる.
〇●〇〇〇〇〇
1.2
効用関数
貨幣保有量が増えると効用は単調に増加すると仮定する.
貨幣保有から得られる効用を u1 とする.
効用 u1 と貨幣保有量 m の間には以下の関係があるとする.
A は貨幣保有量の変化がどの程度の効用の変化をもたらすかを表
す未知の定数(パラメータ).
m の増加に応じて単調に効用も増加していくと仮定.
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
〇〇●〇〇〇〇
1.2
効用関数
財・サービスの消費量が増えると追加的な消費量の増加によ
る効用の増分は低下する(飽きる)と仮定する.
消費量をわずかに増やした時の効用の増分の程度を限界効用という.
消費量の増加に従って次第に限界効用が下がっていく性質を限界効用
の逓減と表現する.
消費から得られる効用を u2 とする.
効用 u2 と消費量 c の間には以下の関係があるとする.
B は c と u2 の関係を表す未知の定数(パラメータ).
〇〇〇●〇〇〇
1.2
効用関数
例) .消費量 c=4 を頂点とする放物線.
消費量 0→1 の時,効用は 0→3.5
消費量 1→2 の時,効用は 3.5→6
消費量 2→3 の時,効用は 6→7.5
消費量 3→4 の時,効用は 7.5→8
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
〇〇〇〇●〇〇
1.2
効用関数
効用関数 のパラメータ B の意味
2次関数は左右対称な放物線.2次方程式の解とは2次関数が表す放
物線と x 軸の交点.ふたつの解の中点が放物線に頂点を与える座標.
すなわち,2次関数は で必ず頂点を取る.
効用関数 は, より
で頂点をもつ.( B は消費の飽和点)
2次方程式の解の公式
の解は
〇〇〇〇〇●〇
1.2
効用関数
財の消費と貨幣の保有から得られる効用
消費者が得られる効用の全体を U とし,貨幣保有から得られる効用
u1 と財・サービスから得られる効用 u2 の和であるとする.
効用関数の性質についての仮定
1. 貨幣保有量が増加すると効用は単調に増加する.
2. 消費量が増加すると,その追加的な消費量の増加によ る効用の増分は逓減する.
財・サービス
消費による効用 貨幣保有による効用
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
〇〇〇〇〇〇●
1.2
効用関数
例) .消費量 c=3 を頂点とする放物線.
消費量 0→1 の時,効用は 0→5
消費量 1→2 の時,効用は 5→8
消費量 2→3 の時,効用は 8→9
● 〇〇〇〇
1.3
無差別曲線
効用関数はある消費 c と貨幣保有量 m が与えられた時の効
用.
逆に,ある一定の効用を達成するような消費 c と貨幣保有量
m の組み合わせを考えてみる.
と効用の水準を固定する
効用関数より
横軸を c ,縦軸を m とした平面上に,「ある効用を達成するよう な消費 c と貨幣保有量 m の組み合わせ」を図示したものを
無差別曲線という.
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
〇●〇〇〇
1.3
無差別曲線
例) A=1 , B=5 , =19 とすると,
縦軸の切片が 19 , c=5 で頂点を持つ下に凸な放物線.
無差別曲線上の消費 c と貨幣保有量 m は全て等しい効用を与える.
〇〇●〇〇
1.3
無差別曲線
例) A=1 , B=5 で =25 とすると,
縦軸の切片が 25 , c=5 で頂点を持つ下に凸な放物線. =19 の時の無差別曲線を上に平行移動した形になる.
より右上の無差別曲線上
の消費量 c, 貨幣保有量
m ほど効用が高い.
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
〇〇〇●〇
1.3
無差別曲線
無差別曲線の接線の傾き(の絶対値)を限界代替率という.
0 5 10 15 20 25 30
m;貨幣保 有量
c;消費量 引き下げ る貨幣
保有量 増やす消
〇〇〇〇●
1.3
無差別曲線
限界代替率とは,効用(満足度)を変えないように財・サービス
の消費量と貨幣保有の程度を置きかえるような交換比率.
消費量を 1 単位増やすとその分消費から得られる効用が高まる.する
と,効用を一定に保つという観点からは,貨幣保有量を減らすことがで
きる.
消費(の望ましさ)で評価した貨幣保有量の望ましさ.
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
● 〇〇〇
1.4
最適な消費・貨幣保有量の選択
無差別曲線と予算制約線を利用すると最適な財・サービスの
消費量 c と貨幣保有量 m を決めることができる.
予算制約線は,予算の範囲で選択可能な消費量 c と貨幣保有量 m を表
す.
無差別曲線は,消費量 c と貨幣保有量 m の組み合わせごとの望ましさを
表す.
消費財の価格 P=1 ,所得 I=17 として予算制約式が以下のよ
うに書けるとする.
無差別曲線として以下を考える.
の時
〇●〇〇
1.4
最適な消費・貨幣保有量の選択
点 x と点 y はどちらも予算制約線上にあるので選択可能. 点 x は緑色の無差別曲線()と交わる.
点 y は青色の無差別曲線()と接する.
点 x と点 y では点 y のほうが
より高い効用を得られる.
予算制約線は,青色の無差
別曲線より右上にある無差 別曲線とは交わらない.
点 y が効用を最大にする消
費量と貨幣保有量の組.
0 1 2 3 4 5 6 7 8 0 5 10 15 20 25 30
m;貨幣保有量
c;消費量
17
�_1=
1
y
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
〇〇●〇
1.4
最適な消費・貨幣保有量の選択
点 y では無差別曲線と予算制約線が接している.
無差別曲線の接線の傾きは限界代替率.
予算制約線の接線傾きは(相対)価格.
効用を最大にする消費量 c と貨幣保有量 m の組み合わせでは
,
限界代替率=(相対)価格
〇〇〇●
1.4
最適な消費・貨幣保有量の選択
価格が上昇するとどうなるか?
(例) P=1 から P=3 へと上昇.予算制約式は .
予算制約線は縦軸切片を固定したままで傾きが急になる.点 y の組み合わせは実
行できない.
→ 無差別曲線と予算制約線の接点
は点 z に移動.
点 z は点 y よりも消費量が少ない.
ある財・サービスの価格が上昇す
ると,その財・サービスの消費量は
減少する.
消費者の効用を最大に
する消費量を需要量という.
0 1 2 3 4 5 6 7 8 0 5 10 15 20 25 30
m;貨幣保有量
c;消費量
�_1=
1 17 y
z
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
● 〇〇
2.1
消費者の効用最大化問題
消費者の直面する
効用関数 予算制約式
予算制約式という制約条件の下で効用を最大にする c と m
の組み合わせを選ぶ.
予算制約式を効用関数に代入. c のみの関数になる.
上に凸の放物線となる.
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
〇●〇
2.1
消費者の効用最大化問題
消費者の直面する問題
この関数は消費量 の時に頂点をもつ(効用が最大).
効用を最大にする消費量を需要( Demand )量と呼び
と表記.これを需要関数という.
価格が0の時の需要量は B (効用の飽和点).
〇〇●
2.1
消費者の効用最大化問題
具体的な数値例
効用関数 予算制約式
予算制約を効用関数に代入すると,
書き換えると
効用を最大にする消費量は の時.
需要関数は
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
●
2.2
需要曲線の導出
需要曲線 を「 P=… 」の形に書き換える.
これを逆需要関数という.
横軸を需要量,縦軸を
価格とした平面上に 逆需要関数を図示した ものを需要曲線と呼ぶ.
需要曲線は右下がり.
P ; 価
格
D;需要量
● 〇
3
需要曲線と消費者余剰
需要曲線と消費者余剰
価格のもとでは個目までの財を購入してよい.
個目以下の購入(例えば個目)に対しては,よりも高い価格(例えばま
で)を支払ってもよかった(留保価格).
個目の購入については,
だけ得したことになる.
(消費者余剰)
需要曲線より下で価格より
上側の面積(⊿ abc )が 消費者余剰の全体となる.
P ;価格
D ;需要量
a c b d f e o g h
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
〇●
3
需要曲線と消費者余剰
具体的な数値例
需要関数 逆需要関数
1 個目の留保価格
2 個目の留保価格
価格が 3 であれば
1 個目の消費者余剰
2 個目の消費者余剰
需要量をより細かい単位でとらえた時,消費者余剰の合計は,需要曲線より
下,価格より上の面積となる.
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0 1 2 3 4 5
P;価格
● 〇〇
4
経済環境の変化と需要曲線のシフト
1. 消費者の好みの変化
冬になると,多くの人がマフラーや手袋を欲しがるようになる.
季節の変化などによりある財から得られる効用が変化することがある.
2. 代替的な財・サービスの登場
ビールと発泡酒,スカイライナーと成田エクスプレスのように,同じような意味を持
つ関係にある財・サービスを代替財という.
代替財が登場することにより,ある財から得られる効用は低下する.
3. 補完的な財・サービスの登場
ビールと唐揚げ,羽田空港の国内線と羽田空港の国際線のように,他の財・サー
ビスの利用価値を高める関係にある財・サービスを補完財という.
補完財が登場することにより,ある財・サービスから得られる効用は上昇する.
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)
〇●〇
4
経済環境の変化と需要曲線のシフト
経済環境が変わると価格と需要量の関係そのものが変化.
需要曲線のシフトという.
財・サービスから得られる効用の程度は,飽和点を表す B で表現できた.
もし B が B1 から B2 へと変化したと
する ().
需要曲線の縦軸切片のみ大きくなる. 需要曲線は右シフトする.
多くの人がある財を好むようになると,
B が上昇する(右シフト).
代替財は B を低下させる(左シフト),
〇〇●
4
経済環境の変化と需要曲線のシフト
4. 将来不安による貨幣への選好
将来ひょっとしたお金が必要になるなどの理由で,お金をより多く保有
しておきたいと考えるようになったとする.
この場合,貨幣保有から感じる効用の程度が高まると考えられる.
もし A が A1 から A2 へと変化したと
する ().
需要曲線の傾きと縦軸切片が
小さくなる.
梶谷真也・鈴木史馬『しっかり基礎から ミクロ経済学-LQアプローチ』(日本
評論社)