労働経済学1(第 7 回)
広島大学国際協力研究科
川田恵介
政策的含意
• 労働市場に対して、多くの政策が実施されている。 例)最低賃金、失業保険、雇用助成金、職業訓練、職業 紹介 etc
• 労働経済学に対して、政策提言を求められる機会は 多い。
そもそも“望ましい”社会とはどのような社会であるか?
事実説明的分析
• 政策変更が経済変数に与える影響を、分析する。
(例)失業給付の1%の増額は、失業率を0.01%増加させ る代わりに、失業時の所得低下を10%軽減する。
(政策に対する一つの立場)
経済学が政策決定において果たすべき役割は、政策効 果を可能な限り正確に予測すること、に留まるべきである
(ざるえない)。
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規範分析
経済学において、社会の善し悪しを図る体表的な基準 は、公平性と効率性である。
効率性:部分均衡においては、 の大きさ
公平性:どのような状態を公平というのか(べきか)、ま だよくわかっていない。
効率性の本来的定義
パレート非効率的状態:だれの効用も低下させずに、誰 かの効用を高められる状態
パレート効率性:パレート非効率的状態ではない状態 パレート効率的なのは?:晩御のお店のチョイス Aさんの優先順位:居酒屋、中華、フレンチ、
Bさんの優先順位:中華、居酒屋、フレンチ Cさんの優先順位:中華、フレンチ、居酒屋
労働市場における“余剰“
余剰:ある労働市場が存在することで生じる便益 労働者の余剰=
企業の余剰=
(注意)企業の余剰は、株式の配当等を通して、家計に配 分される。
部分均衡分析(ある市場のみを分析対象とする分析)で は、先の定義は使いにくい!!⇒余剰分析
労働者の総余剰
賃金 労働供給
=留保賃金
雇用されている労働者の賃金と留保賃金の差の総和
企業の総余剰
賃金
労働者を雇用することからの限界利潤の総和
労働需要
=限界収入
社会余剰
賃金
社会余剰の解釈
企業の余剰は、株式の配当等を通して、家計に配分さ れる。社会余剰の最大化は、
の最大化を意味している。
(注意)企業の余剰の配分は、通常不平等である(例、 所得の低い家計はまったく株式を保有していない、一方 所得の高い家計は多くの株式を保有している。)
市場均衡の効率性
賃金w
完全競争市場均衡は
完全競争市場の特性
なぜ社会余剰は最大になるのか?
ある労働者が雇用されたときの社会余剰の変化分は、 労働余剰+企業の余剰=
賃金w
完全競争市場の特性
留保賃金>限界収入ならば就業者を減らす、留保賃金
<限界収入ならば増やすことで、社会余剰を改善できる。
⇒留保賃金=限界収入において社会余剰は最大になる。
完全競争市場均衡
留保賃金=賃金=限界収入
命令VS市場
市場が競争的ならば、各経済主体が自身の留保賃金 または限界収入を知っていれば、効率性を達成できる。 同じことを政府による命令によって達成するには、
各個人の留保賃金と企業の限界収入を聞きだし、だれ が働き、またどの会社が雇うか決定する必要がある。
⇒正しい留保賃金と限界収入を聞き出すことは困難で ある(うそをつく誘因が存在する。)
効率VS公平 (?)
所得再分配が容易に行えるならば、効率性を高めるこ とは、一般に公平性を阻害しない。
(例)ある政策により、豊かなAさんの余剰は50増えた が、貧しいBさんの30減った⇒総余剰は20増えた。
⇒ ことにより、Bさんの余剰 は20増える。
⇒問題は一般に再分配には、コストがかかる。
応用1)外国人労働者
• 外国人労働者が増加した場合、労働、企業の余剰や 社会余剰はどのように変化するのであろうか?
• だれが得をするか?
モデル
• 単純化のために、留保賃金額を0とする。
⇒労働力人口はすべて労働力となる。
応用1)外国人労働者
賃金
労働供給
労働需要
応用1)外国人労働者
賃金
企業の 余剰
労働余剰
外国人労働者
外国人労働者の流入によって、 余剰は低 下、 は大きく増大、自国民の総所得は増大 する。
企業の余剰の分配が公平ならば、すべての自国民の 所得は増大する⇒不平等であるために、移民の是非は 問題になる。
資産家は VS資産のない人は
需要弾力性の重要性
賃金
労働需要
(弾力性 高)
需要弾力性の重要性
賃金
労働需要
(弾力性 低)
まとめ
• 完全競争的な労働市場は、効率性を達成できる。
• 公平性ではない可能性がある。
• 特に労働市場において、市場の失敗は深刻であると 考えられる。
労働市場の実情に即した政策を行う必要がある。