声楽的発声におけ 母音知覚―声楽経験および F0 の影響―
遠藤希美 東京大学大学院総合文化研究科 ，川原繁人 慶應義塾大学言語文化研究所 ， 皆川泰代 慶應義塾大学文学部
1. 目的
声楽家 歌声 通常 話声 比較 聴取 困難 あ いわ い ．特 ,ソ ラ 歌手 歌唱 う ，非常 高い基本周波数 F0 歌唱 母音 通常 話声 母音を 比較 た場合，音響的 全 異 た ，母音 明瞭性 F0 高
Sundberg，1987 ．
Morozov 1965 ， 男性歌手 女性歌手 歌わ たシラ 母音
知覚 い ，男性 歌声 女性 歌声 いF0 知覚 容易 あ た ，男性歌手
F0=390 Hz 以 ，女性歌手 場合 F0=523 Hz 以 正答率 た．非常 高
い基本周波数を音源 ，ス 倍音構造 希薄 ，聴取者 母音を
断 貧弱 信号 いう 考え ．人 音声 統制 た刺激
い ，F0 高 母音 成績 た ，F0 影響
非常 大 い いえ Majewski & Hollien，1967 ．歌声 母音 知覚 成績 隣接 子
音や歌声 音色，発声法，口 動 ，歌詞 対 知識 ，様々 手 向 Gottfried & Chew，1986 Jesse & Massaro，2010 Ginsborg，Fine，& Barlow，2011 ．
，実 対象者 声楽経 有無 母音 知覚 向 を検討 た先行研 究 い．声楽 経 者 声楽的 発声 音声 知覚 容易 ． 本研究 ，
F0 声楽経 声楽的 発声 た母音 知覚 う 影響を及 ，ソ ラ 歌
手 発声 た日本語 5 母音 い 検討 た．
2. 方法
2.1. 実験参加者
実 参加者 ，声楽家群17名 均 齢21歳 び一般群20名 均 齢22歳 あ た．音楽大学 声楽を専攻 い 者 び専攻 た者を声楽家群，声楽を専攻 い い一般大学 通う学生を一般群 た．参加者 全員女性 あ ，聴覚 異常
た．
2.2. 刺激
刺激 音楽大学 声楽専攻を卒業 たソ ラ 歌手 3 名 音声を用いた．刺激 用い た音声 /a/，/i/，/u/，/e/，/o/ 5母音 あ ，各母音 F0=440 Hz F0=880 Hz あ
た．刺激 長 1500 ms あ ，刺激 音圧 を75 dB 統一 た．
録音 防音室 行 た．録音 コン ュ Probook4730s，HP アン US-366，
TASCAM を接続 ，アン マイ ATM98，audio-technica を接続 た装置を用いた．
防 音 室 中 マ イ 設 置 た ． 音 声 析 び 加 音 声 解 析 ソ Praat，
University of Amsterdam を用いた．各母音 い F0 5000 ms程度発生
た．F0=440 Hz 場合 誤差 1 Hz以内，F0=880 Hz 場合 誤差 2 Hz以内
た部 を1500 ms 取 た． 取 た音声を音圧 75 dB う 加 た．
解析 参考 ，地声 /a/，/i/，/u/，/e/，/o/を録音 た．地声 F0 均 225
Hz あ た．3話者 地声 ォ マン 均 布を図1a，F0=440 Hz
ォ マン 均 布を図1b，F0=880 Hz ォ マン 均 布を図1c 示 た．
た，F0=880 Hz 拡大 た ォ マン 均 布を図1d 示 た．
図1: 地声，F0=440 Hz，F0=880 Hzにおけ フォルマント平均分布
2.3. 手続き
聴覚実 防音室 個 行 た．刺激 呈示 コン ュ LIFEBOOK，
a 地声におけ フォルマント分布 b F0=440 Hzにおけ フォルマント分布
c F0=880 Hzにおけ フォルマント分布 d F0=880 Hzにおけ 拡大 た
フォルマント分布
FUJITSU ッ ォン HD 280 pro 64Ω，SENNHEISER を用いた．コン ュ
直接 ッ ォンを接続 た．刺激呈示 制御 刺激呈示ソ SuperLab，Cedrus
行 た．刺激 音圧を75 dB 統制 た ，疑似耳 4153，Brügel & Kjaer 音
計 2250，Brügel & Kjaer を用い 音圧を計測 た．
1試行 2 刺激を順番 呈示 た 二肢強制選択法 2AFC方式 ．歌手 各F0 5 母音を総当た 組 合わ た．2 刺激 間隔 500 ms あ た．組 合
た刺激を8回繰 返 ，そ うち4回 呈示順序を入 替えた．刺激 呈示順序 ラン ム あ た．各歌手 ッ を ，3 ッ た．順序効果を統制 た ラテ ン方格を用い ッ 順序を統制 た．1 ッ あた 試行数 母音 組 合わ 10対×F0要因2条件×繰 返 8回 計160試行 あ た．刺激呈示中 コン ュ
画面中央 注視点を呈示 た．刺激呈示後 コン ュ 回答画面を呈示 た．回 答画面 各刺激対 呈示順序 い 母音を示 マ字2対を イ ン ， 右 2通 呈示 た．回答画面 文字 呈示 置 右を入 替え ランスを
た．参加者 ，刺激を聴い 画面 示 い 呈示順序 ち 正 い順序 あ 画面 順序 あ キ ボ Fキ ，右 順序 あ Jキ 回答 う， 文章 び口頭 教示を行 た．刺激呈示 キ ボ 回答 時間を計測 ， 反応時間 た．
2.4. 結果の処理法
各刺激対 い 知覚 成績を求 た ，二肢強制選択法 信号検出理論
用い dʹ2AFC 値(Z(Hit)-Z(FA)/√2) を参加者 算出 た．刺激対 呈示順序 2 通
うち一方を呈示順序A， う一方を呈示順序B ，呈示順序A 正答率をHit (/X/-/Y/
刺激 対 ，/X/-/Y/ 解答)，呈示順序B 正答率をPB た ， 1-PB をFA(/Y/-/X/
対 ，/X/-/Y/ 解答) た．1/√2 ，2AFC 法 信号検出理論 修正法 あ
(Macmillan & Creelman 2005: 167-170)．歌手3人 ， わち3 ッ を た ，
母音 組 合わ を母音要因 ，各刺激対 い 算出 た dʹを用い 声楽家要因 2 水準×F0要因2水準×母音要因10水準 散 析を行 た． た，各刺激対 反応 時間を3 ッ た 参加者 算出 ，声楽家要因2水準×F0要因2水準× 母音要因10水準 散 析を行 た．多重比較を行う場合 ライアン法を用いた．
3. 結果
3.1. 成績
歌手 3 人 ， わち 3 ッ を た 各刺激対 い ，母音 組 合わ を母音要因 ，算出 たdʹを用い 声楽家要因2水準×F0要因2水準×母音要因10 水準 散 析を行 た．紙面 都合 一部省略 主要 結果 述べ ．
各F0 各母音 い 声楽家群 一般群 dʹを示 た ラ 図2 あ ． 散 析 結果，声楽家要因 F0 要因 母音要因 有意 交互作用 あ た F(9, 315)=2.17，
p<0.05 ．F0要因 有意 主効果 あ ，440 Hz条件 方 880 Hz条件 dʹ 高 た
F(1,35)=2286.49，p<0.05 ．声楽家要因 F0要因 母音要因 有意 交互作用 あ たた ，
単純交互作用検定を行 た．/i/-/u/条件 声楽家要因 F0要因 有意 単純交互作用
あ F(1,350)=10.76，p<0.05 ，単純 単純主効果検定を行 た結果，880 Hz条件 /i/-/u/
条 件 声 楽 家 要 因 有 意 単 純 単 純 主 効 果 あ ， 一 般 群 dʹ 高 た
F(1,700)=8.12，p<0.05 ． /u/-/o/条件 声楽家要因 F0要因 有意 単純交互作用
あ F(1,350)=4.20，p<0.05 ，単純 単純主効果検定を行 た結果，440 Hz 条件 /u/-/o/
条 件 い 声 楽 家 要 因 有 意 単 純 単 純 主 効 果 あ ， 声 楽 家 群 dʹ 高 た
F(1,700)=5.18，p<0.05 ．一般群 F0要因 母音要因 有意 単純交互作用 あ た
F(9,315)=11.58，p<0.05 ．声楽家群 F0 要因 母音要因 有意 単純交互作用 あ
た F(9,315)=17.76，p<0.05 ．詳細 統計値 省略 ，一般群 声楽家群 母音要
因 各条件 周波数要因 有意 単純 単純主効果 あ ，440 Hz条件 dʹ 高 た． 声楽家要因 各条件 周波数要因 各条件 母音要因 単純 単純主効果 あ た． 母音要因 単純 単純主効果 い ライアン法を用い 多重比較を行 た結果 省略 た．
図 2: F0要因の各条件におけ 各母音条件の声楽家群と一般群のdʹ
3.2. 反応時間
各刺激対 い 3 ッ を た 反応時間を参加者 算出 た．反応 時間 い 声楽家要因2水準×F0要因2水準×母音要因10水準 散 析を行 た．声楽
家要因 F0要因 有意 交互作用 あ た F(1,35)=6.71，p<0.05 ．声楽家要因 F0要因
有意 交互作用 あ たた ，単純主効果検定を行 た．図3 一般群 声楽家群，440
Hz条件 880 Hz条件 反応時間を た ラ あ ．880 Hz条件 声楽
家要因 有意 単純主効果 あ ，声楽家群 反応時間 一般群 長 た F(1,70)=18.10，
p<0.05 ．一般群 F0要因 有意 単純主効果 あ ，880 Hz条件 い 反応時間
440 Hz条件 長 た F(1,35)=11.07，p<0.05 ．声楽家群 F0要因 有意 単純
主効果 あ ，880 Hz 条件 い 反応時間 440 Hz 条件 長 た F(1,35)=48.85，
p<0.05 ．
図3: 440 Hz条件と880 Hz条件 との声楽家群と一般群におけ 反応時間の比較
4. 考察
本研究 目的 声楽的 発声 た母音 知覚 い F0 声楽経 影響を調べ あ た ．実 結果 ，F0 高い方 母音 知覚 困難 あ 示 た ．
Morozov 1965 示 通 ，F0=880 Hz 倍音構造 希薄 各母音 ォ マン
構造 類似 た あ 考え ．声楽経 母音 知覚 成績全体 向 影響
を及 ，440 Hz条件 /u/ /o/ 母音 ア い 知覚成績
声楽経 者 高 た ，880 Hz 条件 /i/ /u/ ア 声楽経 者 弁 困難
た ，あ 特定 条件 声楽経 母音 知覚 影響を及 明 た．
440 Hz条件 /u/ /o/ 母音 ア ，他 母音 ア 比較 全体的 dʹ 有
意 た．/u/ /o/ 母音 ア ，声楽家群 方 有意 dʹ 高 知覚 成績 良
た．地声 ォ マン 刺激 ォ マン 特徴を440 Hz条件 比較 440
Hz /u/ /o/ 母音 非常 近い特徴を持 いた ，声楽家群 方 一般群 成績 良
た ，声楽家 そ 特徴を聞 い た あ 考え ．
880 Hz条件 い ，/i/ /u/ ア 声楽家群 有意 dʹ 小 ，一般群 dʹ 正
値 あ た 関わ ，声楽家群 dʹ 負 値 あ た．図1d ，880 Hz条件 い /u/ /i/ F1 変化 い F2 /i/ 方 わ 高 た．反応時間 結果
，880 Hz条件 い 声楽家群 一般群 反応時間 長 た ，一般群
F2 を手 /u/ /i/ 母音を弁 た ，声楽家群 F2 を手 ，
方略 母音 弁 を試 たた あ 示唆 た． た，880 Hz条件 ，
声楽家群 一般群 /i/ 対 他 母音 弁 成績 ，声楽家群 い 特 成 績 傾向 あ た．図1d ，/i/ 母音 他 母音 比較 F2
あ 弁 困難 音響特性を持 い 可能性 あ ． ，未経 者 F2 を手 弁 を行う ，声楽経 者 他 方略を用いた 考え ．声楽経
者 う 方略を用い F0=880 Hz 母音 知覚を行 た ，人 音声 細 刺激を設定 た実 を行う 考察 必要 あ ．
本研究 F0 2倍 異 条件 比較 たた ，F0 影響 強 出た ，440 Hz
880 Hz 間 あ 高 う 母音 知覚 変化 ，そ 変化 声楽経 影
響 現 を検討 た．今後 課題 ，440 Hz 880 Hz 間
あ 周波数や440 Hz い周波数，880 Hz 高い周波数 ，他 F0
発声 た母音 知覚 声楽経 影響を今後 実 検討 たい．
参考文献
Ginsborg, J., Fine, P., & Barlow, C. (2011). Have we made ourselves clear? Singers' and non-singers' perceptions of the intelligibility of sung text. In A. Williamon, D. Edwards, & L. Bartel (Eds.), Proceedings of the International Symposium on Performance Science (pp. 111-116). European Association of Conservatoires (AEC).
Gottfried, T. L., & Chew, S. L. (1986). Intelligibility of vowels sung by a countertenor. The Journal of the Acoustical Society of America, 79(1), 124-130.
Jesse, A., & Massaro, D. W. (2010). Seeing a singer helps comprehension of the song’s lyrics. Psychonomic bulletin & review, 17(3), 323-328.
Majewski, W., & Hollien, H. (1967). Formant frequency regions of Polish vowels. The Journal of the Acoustical Society of America, 42(5), 1031-1037.
Macmillan, N., & Creelman, D. (2005). Detection theory: A user’s guide. 2nd edition. Mahwah: Lawrence Erlbaum Associates Publishers.
Morozov, V. P. (1965). Intelligibility in singing as a function of fundamental voice pitch. Soviet Physics–Acoustics, 10, 279-283.
Sundberg, J. (1987). The Science of the Singing Voice. Northern Illinois: Northern Illinois University Press.
