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卒論の書き方(第1回演習 配布資料) 卒論マニュアル(名大東洋史)

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卒論の書き方

名古屋大学 東洋史学研究室

1. 論文とは

「論文」とは元来オリジナルな研究のことであり,それが単なる「レポート」とは異 なる点である。

少なくとも日本でまだ誰も明らかにしていないことを明らかにするのが,「論文」た るものの本来の目的であり,条件である。したがって,そのテーマに関するかぎり, 既存の邦語文献の研究水準を超えていることが要請される(なお,これは必ずしも「卒 業論文」には厳格に適用されないが,これをめざすことが求められる)。

2. 論文の構成

一般に論文は,序論,本論,結論の三構成をとる。 以下に,一般的な論文の構成と,その心得を述べよう。

2.1 序論

前述のように,論文には既存の研究水準を超えていることが要請されている。 そのためにはまず,自分が選択したテーマに関する従来の研究をできる限りすべて 読み,そのテーマに関してこれまでどのような議論(論争)がおこなわれ,何がどこ まで明らかにされているかを確認することが必要である。

その上で,自分の論文においてさらに何を明らかにするのか,いかなる具体的な問 題を解明するのかを明確にすることになる(問題設定)。

ここまでの内容を文章化したものが序論を構成する。先行研究の議論を必要に応じ て紹介し,自分の論文が従来の研究に何を付け加えようとするのか,言いかえればど こがセールスポイントなのかを明確にしなければならない。

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2.2 本論

このように設定された問題に対する具体的な解明過程が,論文の本論を構成する。 一般には論述を整理し,説得力を増すために複数の章から構成されるのが普通である。

本論は論文の基幹部分であり,自分が主張したい結論を読者(専門の研究者を想定 せよ)に説得し,納得させる論証部分である。そのため,この部分(他の部分もそう だが,特にこの本論)は考えられる限りの他者の批判を想定しながら構成・執筆され, 有無を言わさぬ説得力が求められる。

その説得ないし論証の方法は大きく分けて二通りある。膨大な量の史料を提示して 証明する方法と,緻密な論理を駆使して説得・証明していく方法である。しかし実際 には,この二つの方法が同時に用いられていくのが普通である。つまり,主張したい ことがらを直接証明しうる,できる限り多くの史料的事例と,その個々の事例を歴史 的背景や当時の社会状況の中で把握し,体系的に配列して結論へと導いていく緻密な 論理構成とが求められる。

本論では主張したい結論を説得・証明していくことに焦点を絞る必要がある。その ため,それに直接関わらない事柄は,削除するか,注に落とすことになる。証明に直 接関わらない論述は単に無意味なだけでなく,論旨不明瞭になって説得力を落とすこ とになる。論文は,設定した問題のみを解明する一貫した論旨をもって構成されるべ きものである。

このようにできる限り完璧な証明が要求されるため,実証論文の場合,いかなプロ の研究者といえども設定する問題はきわめて小さく限定されたものにならざるをえな い。というのは,仮に分析対象が歴史上の一事件だとしても,その背後に広がる歴史 的・社会的背景はきわめて広大なものであるため,多方面からの分析が必要となるか らである。テーマ・具体的な問題をどこまで絞りこめるか,という点が論文の成否を 大きく左右すると言っても過言ではない。

2.3 結論

本論で展開した議論を整理し,この論文で何を明らかにできたかを明確にする。 序論で提示した問題設定との対応が取れていることは非常に重要である。序論で行 った問題設定と結論の叙述がかみあわない場合,論文全体の構成を見直す必要が出て くる。したがって,実際に執筆する際には序論を本論よりあとに書く場合が多い。

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いかに問題を絞り込んだとしても,一本の論文でそのすべてを明らかにすることは 困難である(これは卒業論文に限らず,プロの研究者の書く論文でも同じ)。また,一 つの問題が明らかにされたことにより,次の新しい問題が浮かび上がってくる,とい うこともある。

したがって,結論の最後にこの論文で扱いきれなかった・やり残した問題,次に研 究されるべき課題を指摘・展望することも重要である。たとえ卒業論文以後研究を継 続する意志がなかったとしても,これは従来の研究史をふまえた上で自分の設定した テーマを位置づけられているかどうかの指標ともなるため,省略すべきではない。

以上のような論文の構成をふまえ,以下の部分では具体的にどのようなプロセスで 論文のテーマ・問題設定を絞りこんでいくかを考えてみたい。

3. テーマの設定・問題の設定

テーマ設定および具体的な問題を設定する際には「自分が何に興味があるか」「何を やりたいか」が大前提であるが,同時に「何ができるか」の配慮が重要になってくる。

テーマによっては読まねばならない文献や史料が膨大であったり,特殊な語学の能 力が必要とされたりするなど,1年で仕上げねばならない卒論の場合,断念せざるを えないこともある。また特定の問題に関して利用しうる史料が明らかに不十分な場合 も同様である。誰が考えてもきわめて興味深い・重要なテーマなのにこれまでほとん ど研究されていない,などという場合は注意が必要である。

3.1 テーマ設定

したがってテーマ設定は,実はかなりの程度の読書の後にはじめて可能となる。し かも,テーマ設定がなされてはじめて,具体的な先行研究の読み込みや史料の収集な どの作業が行えるようになることも確かなので,テーマの設定は遅すぎてはならない。

テーマ設定のプロセスは,まず概説書を読み,そのなかの一部に興味を持ち,次第 に焦点が狭まって最終的に確定していく,という場合もありうる。しかし,概説書を いくら読んでも焦点が定まらない場合もある(なぜなら,概説書は問題設定とその解 明がその目的ではなく,もっぱらすでに明らかになっている歴史事象を体系的に並べ

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たものであるため,歴史学上の諸問題が見えにくい)。むしろ実際のケースとしては, たまたま読んだ個別論文に興味を触発され,ついで概説書を読んで,その論文の意味 や背景が分かって,ますます興味が湧き……という形で進行することも少なくない。

したがって,まずできる限り多くのもの(概説書だけでなく,専門論文も)を読む ことが必要である。

3.2 問題設定

テーマ設定と問題設定とは異なることを理解していただきたい。テーマは,たとえ ば専門論文のタイトルだと考えてよい。たとえば「16~18 世紀における荒政と地主佃 戸関係」といったようなものである。卒論中間報告会においてはレジュメのタイトル を飾るものである。

こうしたテーマにおいて,卒論で,具体的にいかなる問題を取り上げて解明するの かを確定する作業が問題設定である。

最初に述べたように,論文は既存の研究の水準を超えること(つまり,現段階で未 解決の問題を解明すること)が目的であるため,何が未解決の問題であるかは,その テーマに関する従来の研究をすべて検討した上で最終的に確定されることになる。そ して,このような「先行研究の整理 → 問題設定」が卒論の序論を構成する。

こうして設定された問題は,本論の実証過程を通して必ず解決されねばならないも のであり,上の「論文の構成」でも述べたように,きわめて限定されたものにする必 要がある。しかも卒業論文の場合,提出期日に間にあうかどうかも同時に考慮に入れ なければならない。

また,史料は入手できるか,さらにその史料を使って,はたしてその問題を実証・ 解決できるか,といったことも配慮しながら,最終的に問題が確定される。したがっ て,問題設定は史料を通読した後に,変更を余儀なくされることもありうる。そのた め,テーマを設定したら,先行研究の検討と同時に,直ちに史料収集を開始し,問題 設定に先だって史料を確認できるようにしておいたほうがよい。言うまでもないこと だが,先行研究に引用された部分を見るだけでは,史料を確認したことにはならない。 歴史の研究においては,史料はかならず原本(この場合の「原本」は印刷・出版され たものを含む)にあたる必要がある。

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4. 研究史整理

問題設定を導く上で,その前提となるものが,そのテーマに関する従来の研究の整 理である。従来の研究において何が論争点となっているか,どのような問題が未解決 であるか,そうしたさまざまな未解決の諸問題のうち,特に何を卒論で取り上げ解明 していくのか,以上のような考察・作業が問題を設定していく上で不可欠となる。

論文にオリジナリティが求められる以上,研究史整理も他人のものの引き写しでは なく,自分で独自に構成したものでなければならない。ただし初めての経験でもある ので,どのように整理するものなのかは,専門論文の序論や研究動向を主題とした論 文などから学んでいくべきであろう。手本になるようなよい序論をもつ論文や研究史 論文は,教員や院生に聞いてみるとよい。

また自分のテーマの背景に広がる,より大きな歴史学上の問題に関する研究史も, 勉強しておくべきである。自分の研究が,歴史学研究の動向の中で,どのような位置 を占めるかを自覚するために,欠くことのできないものだからである。これは自分の 研究の重要性をアピールすることにもつながっていく。

こうした研究史の流れを勉強していく上で参照すべきものは,『中国史研究入門』・

『アジア歴史研究入門』・『史学雑誌/回顧と展望』など,他にも多数あるので,教員 や院生にたずねて読んでいくよう努めてほしい。

5. 参考文献の調査:史料・研究文献

テーマを設定する場合,いかなる参考文献があるかを同時に調べること。そしてそ れが,自分の閲覧可能な範囲にあるかを調べること。前述の「何ができるか」はこれ と関係がある。

テーマ設定以前の文献の所在調査は,小手調べ的な作業だが,テーマの設定後は, この作業は本格的に開始されねばならない。

5.1 参考文献の調査

参考文献の調査は,「系統的」と「経験的」との二つの方法を利用する。

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「系統的」

1. テーマ別に文献を紹介する「入門書」の利用。

『中国史研究入門』『近代中国研究入門』『アジア歴史研究入門』 など。

2. 文献目録・データベース 東洋学文献類目

(冊子版/オンライン版 http://ruimoku.zinbun.kyoto-u.ac.jp/)

CiNii(国立情報学研究所(NII)論文情報ナビゲータ) http://ci.nii.ac.jp/ Webcat Plus http://webcatplus.nii.ac.jp/

中国関係論説資料(冊子版/CD-R 版)

中国知网(CNKI) http://www.cnki.net/

国家哲学社会科学学期刊数据(NSSD) http://nssd.org/

など。 3. 専門雑誌の研究動向

『史学雑誌・回顧と展望』など。

以前は『東南アジア 歴史と文化』にも文献目録がついていたが現在は廃止。デー タベースの発達により,この手のものは減少傾向にある。

「経験的」

参照した著書・論文に引用されている文献に注意する。特に,比較的最近刊行され た専門的研究書の巻末の文献目録(特に洋書の場合,通常膨大な文献目録がついてい る)は概して利用価値が高い。この場合,なるべく新しい著書・論文を起点にして, そこから「芋づる式」に遡っていくことになる。

5.2 所在の調査

- 名大中央図書館の OPAC

- CiNii Books(http://ci.nii.ac.jp/books/)(国立情報学研究所) - Webcat Plus(http://webcatplus.nii.ac.jp/)( 〃 )

ただしこのようなオンライン目録は,一定年度以前のものは収録されていないので,カード等との併 用が必要。名大中央図書館の場合,和・洋書は 1987 年度,中国書は 1996 年度,東南アジア諸言語は 2005年 1 月以降に購入された図書に限られる(2014 年 4 月現在)。

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7 - 漢籍史料の所在調査については,以下を参照

- 全國漢籍データベース http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/kanseki - 漢籍の探し方(京都大学図書館機構)

http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/refguide/13216 - 中国以外のアジア諸国に関する資料調査案内

- アジア諸国の情報をさがす(国立国会図書館) http://rnavi.ndl.go.jp/asia/

- 図書館のカード

- 雑誌目録(文学部図書掛,中央図書館)

これらを利用して,参照する必要のある史料・文献が図書館などに存在するか否か を調査する。名大に限らず,他大学・国会図書館・各種研究機関などへも出向いたり, 図書館の相互利用貸出を利用したりして閲覧・コピーする。

この調査の結果いかんで,テーマを変更せざるをえなくなる場合もある。またこの 調査は,おおむね読書と並行して行われる。

中には重要文献が国内で手に入らない場合があり,海外に発注しなければならない 事態もしばしば起こる。その場合,入手できるまでに数カ月を要することが普通であ る。そうした事態に備えておくためにも,文献調査はただちに開始しなければならな い。

調査した文献に関しては,リストを作成する。このリストは卒論演習レジュメの重 要な一部分となり,また実際の卒論の引用文献表の元になるものである。最初に作っ たリストがいい加減なものだと(刊行年やページ数を落とすことが多い)二度手間に なるので,最初の段階からきちんとしたリストを作成しておくこと。リストの作成(書 式)については「東洋史学 卒論・修論執筆要領」の後半部分を参照。

6. 論文マニュアル

『卒業論文を書く―テーマ設定と史料の扱い方―』(歴史科学協議会編,山川出版社,1997 年)

『論文の書き方』(沢田昭夫著,講談社学術文庫,1983 年) 欧文研究分野向け

他多数。近年この手の本が数多く出版されている。生協書籍部にもコーナーがあるの で見ておくとよい。

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7. 参考文献

(いずれも東洋史学研究室所蔵,禁帯出)

『東洋学文献類目』(京都大学人文科学研究所付属漢字情報研究センター)

(オンライン検索も可能。ただし発行年度に注意。)

『史学雑誌・回顧と展望』史学会。

『東洋史料集成』平凡社,1956 年。

『近代中国研究入門』坂野正高・田中正俊・衛藤瀋吉編,東大出版会,1974 年。

『アジア歴史研究入門』(1~5巻,別巻)同朋舎,1983~87 年。

『中国史研究入門』(上下)山根幸夫編,山川出版社,1983 年。

『近代中国研究案内』小島晋治他編,岩波書店,1993 年。

『戦後日本の中国史論争』谷川道雄編,河合教育文化研究所,1993 年 (中国語訳あり)

『殷周秦漢時代史の基本問題』『魏晋南北朝隋唐時代史の基本問題』『宋元時代史の基 本問題』『明清時代史の基本問題』汲古書院,1996~2001 年。

『中国歴史研究入門』礪波護・岸本美緒・杉山正明編,名古屋大学出版会,2005 年。

『近代中国研究入門』岡本隆司・吉澤誠一郎編,東京大学出版会,2012 年。

『東南アジア学の手法』(講座東南アジア学・1),弘文堂,1990 年。

『東南アジア学入門』(講座東南アジア学・別巻),弘文堂,1992 年。

『東南アジア史研究案内』(岩波講座東南アジア史・別巻),岩波書店,2003 年。

『海域アジア史研究入門』桃木至朗編,岩波書店,2008 年。

『東南アジア史研究の展開』東南アジア学会監修,山川出版社,2009 年。

『モンゴル史研究 現状と展望』吉田順一監修・早稲田大学モンゴル研究所編,明石 書店,2011 年。

『イスラーム研究ハンドブック』(講座イスラーム世界・別巻),栄光教育文化研究所, 1995年。

『日本における中東・イスラーム研究文献目録:1868-1988 年』東洋文庫附置ユネス コ東アジア文化研究センター,1992 年。

他多数。

(上記のリスト書式は卒論・修論の書式とは異なります。)

©名古屋大学東洋史学研究室 2007-2017

参照

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