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帝国書院 | 高校の先生のページ 高等学校 世界史のしおり 2006年 1月号

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Academic year: 2018

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− 20 − 東ユーラシア史の500年 これらの新研究を総合した 概説書の最新のものが、本書である。著者の上田信氏 (1957年生まれ)は、江南は江南でも地主や農民でな くゴロツキを扱った論文で学界にデビューし、大平野 やデルタでなく盆地世界をフィールドとして最初の著 書を出版し(『伝統中国』講談社選書メチエ、1995年)、 社会経済構成体の発展段階論にかえて生態システム、 社会システム、意味システムが重なり合う「史的シス テム論」を提起し、環境史の領域を開発する(『森と 緑の中国史』岩波書店、1999年ほか)など、明清史研 究の革新を象徴する活躍をしてきた人物である。

その上田氏が描く明清の歴史が、「閉じた一国史」 であろうはずはない。本書が扱う紅巾の乱から太平天 国まで500年間の歴史は、「日本海・渤海・黄海・東シ ナ海・南シナ海の5つの海とそれらに接する島嶼・陸 地」(31頁)の総体としての「東ユーラシア」を舞台 として展開し、宋までの中国史との連続性よりは、モ ンゴル時代から近代世界システムの時代へと流れる世 界史の同時性が重視される。それを可能にするキーワ ードが「海」と「帝国」である(アンソニー・リード の『商業の時代の東南アジア』などで知られた「海」 と貿易はともかく、なぜ「帝国」なのかピンとこない 読者は、中国史で中公世界史など岸本美緒氏の諸著作、 グローバルヒストリーで山下範久『世界システム論で 読む日本』講談社選書メチエ、2003年を併読するのも よいだろう)。もちろんそのことは、農民や内陸の世界、 自然環境などの要素を軽視し、海を通じた外部からの 影響が中国史を一方的に動かしたとか、中華帝国が中 国社会を一方的に支配したなどと主張するものではな い。「人の数だけ世界がある」(54頁)。描かれるのは、 複雑な相互作用の総体である。

3つの画期 本書は「はじめに」と「おわりに」には さまれた、10章からなる。第一章「出来事の時空間」 で全体構想が示されたのち、時代順の叙述が世紀単位 で進められるのだが、注目されるのは、15、17、19世 紀は1章ずつにまとめられている(「海と陸の交易者」 「王朝の交替」「環球のなかの中国」)のに対し、14世

紀(「明朝の成立」「海と陸の相克」)、16世紀(「商業 の時代」「社会秩序の変容」)、18世紀(「産業の時代」「伝 統中国の完成」)がそれぞれ2つの章に分けて詳しく 叙述されている点である。そこに、この3つの世紀を 画期として重視する著者の姿勢・視角がよく表されて いる。とくに18世紀の章では、鎖国日本の歴史の刷新 と比べて高校教育でまだよく知られてはいないが、し かし現代の東アジアと中国を理解するのに不可欠な諸 変動が描き出されている。

より個別的な論点でも、明帝国と清帝国の性格の違 い、明末以降の交易管理を朝貢システムでなく互市シ ステムととらえる点など、重要な問題提起が少なくな い。明清時代史同様に革新が進められてきたモンゴル 時代史や日本列島史などの新研究への目配りも幅広い。 巻末には、主要人物略伝、歴史キーワード解説、解説 つき参考文献リスト、年表、索引など有用な参考資料 がある(初版のつねとして、出版社側で付した固有名 詞や専門用語の不正確・不適当なルビがやや目立つ。 増刷時の訂正をまちたい)。歴史好きの読者だけでな く、現代中国の経済慣行や役人の態度に悩むビジネス マン、中国は一枚岩の国家で反日教育も反日デモも政 府の指示で一斉におこなわれていると大誤解をしてい る市民、それらの予備軍としての学生にも、こういう 書物を読んでほしい。

(大阪大学文学研究科教授 桃木至朗) 明清史研究の革命的変化 日本の「戦後歴史学」といえば必ず思い 出される動きに、中国史の時代区分論争があった。それは社会主義 革命など近現代の変動の史的前提を解明するための論争だったから、 近現代の直前にあたる明清時代に無関心でおれるはずがなく、江南 地方の土地制度や郷紳を中心に、熱い議論がたたかわされた。

しかし80年代以降の中国史研究においては、現地を見られぬまま に思弁を重ねる研究に現地留学とフィールドワークが取って代わり、 歴史研究を通じて理解すべき現実は社会主義から市場経済・グロー バル化と巨大国家へと変化した。この変動にもっとも敏感に反応し た明清時代史研究では、とくにめざましい変化がおこった。地域社 会論と帝国論を二つの焦点とし、門戸を開いた中国の学界や躍進す る欧米の学界とも交わりながら、農業開発と生態環境、銀の奔流と 商品・貨幣、信仰や宗族、法と裁判、朝貢システムと世界認識、対 外貿易と戦争など、多くの領域で、斬新な研究成果が次から次へと 公表され、その影響は学習指導要領や高校教科書にも及んでいる。

上田 信

中国の歴史 09

海と帝国 明清時代

講談社 2005年

参照

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