学術大会からピックアップ(1)
L. stelleroides Planch
種 名 ス テ レ ロ イ デ ス は ,「 ジ ン チ ョ ウ ゲ 科 Stellera属に似た」の意だそうですが,日本には ない属の様です。中国,朝鮮半島,モンゴル,東 シベリア,日本に野生する唯一の1年草です。山 地のやや乾いた草原などによる見かけます。
草丈50〜60cmで,茎葉ともに毛はなく,茎は 細くて直立し,上部で分枝します。葉は互生し線
植物とその仲間
形で先は尖り,下部に3脈があります。8〜9月 頃淡紫色でアマに似た径約1cmの5弁花をまば らな総状花序に咲かせ,後に直径3.5mm内外で球 形の 果を結びます。中国では,茎葉・種子を薬 用。
8〜9月頃,球形の果実が褐色に変り始めた頃 に根ごと抜きとり,シート上で日干しとし,種子 を採集して更に4〜5日間日干しにしたものが亜
ア
麻マ仁ニンです。亜麻仁は長卵形で扁平,一方がわずか に湾曲し,長さ約6mmの褐色でつやがありま す。
亜麻仁には,脂肪油30〜40%,蛋白質約25%,
粘液約6%などを含んでいます。脂肪は亜麻仁油 と呼ばれ,主成分はリノール酸linoleic acid,リ ノレン酸linolenic acid,オレイン酸oleic acid,ス テアリン酸stearic acid,パルミチン酸palmitic acidなどです。
その他,蛋白質はグロブリンglogulin,粘液質 はペントサンpentosan,少量の青酸配当体リナマ リンlinamarinなどが知られています。ご存知の 様にリナマリンは,加水分解により青酸を生じま す。
アマの茎葉や果実を与えたウシ,ヒツジ,ブタ などが,てんかん様のけいれんを起し,或いは疝 痛が持続して斃れるのは,青酸によるとの報告が あるといわれます。日本でこの事例があったかど うか,筆者は聞いたことがありません。
亜麻仁油は,緩下作用があり,リナマリンには 小腸の分泌・運動の調節作用があるといわれてい ます。また,リナマリンが酵素の作用で分解して 生じた青酸は,杏仁水の様に気管支神経を鎮静す る作用があるともいわれています。
亜麻仁を常温で圧搾して採油すれば,黄色で透 明,不快臭のない亜麻仁油が得られます。これが 空気に触れると濃い色に変化し,臭みが出ます。
温圧油は,褐色を帯びた黄色となります。薬用と しては精製して用いられます。
往年は,亜麻仁油を腸カタルによる軟便,しぶ り腹などに用いたようですが,現今では軟膏の基
薬用 主な成分
剤など製薬原料として用いられています。また,
軟石けん原料としても用いられています。
民間では,種子をすりつぶし,少量の水を加え て練るとねばねばします。これを皮膚のかゆみ,
抜け毛などの患部に直接塗布すると,かゆみ止め や抜け毛防止に役立つとして外用します。切り傷 やすり傷には,生葉をもんで止血に外用します。
中国では,亜麻子の性味・効能は甘,平。滋潤 し,風邪を去るとしています。風邪とは病理で,
外的病因となる寒風のことだとのことです。体表 を侵襲し,悪風・発熱・頭痛・筋肉関節痛・しび れ・咳・鼻水などの症状を起すとしています。
応用としては,皮膚のかゆみ,めまい,便秘に 1日量4.5〜9gを煎用するとしています。皮膚の かゆみにも内服して治すようで,滋潤し,風邪を 去ると考えているようです。日本では前記の様に 外用しています。
中国では,アマ科のマツバニンジンを野亜麻と 称して薬用しています。夏の開花期に地上部を刈 り取り,生で用いるか,日干しにします。秋には 種子を採集し,これも日干しにして用います。茎 皮には,ペントサンpentosanを含むとか。
性味・効能は,甘,平。血を滋養し,風邪を除 き,滋潤・解毒作用があるとしています。応用と しては,血虚の便秘,皮膚のかゆみ,蕁麻疹,化 膿したできもの・はれものなどに用います。1日 量は3〜9g。外用は適量の全草を用います。
血とは,生体の血液とその生理機能のことで,
気の働きで生体内を循環しています。また,血虚 とは,貧血など血成分の不足や,血の生理機能の 衰弱などのことで,月経障害などを伴うとしてい ます。
野亜麻とは,名の示すように野生の亜麻の意で 名付けられたようですが,性味・効能,応用など 亜麻と同様に取扱われています。同属植物で性状 もよく似ているので,成分的にも大差はないのか もしれません。
ヨーロッパでも咳止めに内用し,また,腫瘍,
夏日斑,リンパ腺腫,蚕蝕性潰瘍などに外用して います。婦人の子宮病には,浴湯料として用いら れれ, 下の目的には灌腸薬としているなど,広 く活用されています。
亜麻仁油は,不飽和酸を多量に含んでいるので 乾燥しやすく,空気中に放置するか,空気を吹き 込みながら加熱すると,たやすく酸素を吸収して 酸化反応を起しながら縮重合し,弾力性,耐水性 のある半透明の高分子物質リノキシンlynoxynと なります。
その高度の乾燥性を活用してペイント,リノリ ウム,ワニス,印刷インキなどに,また,ゴムの 代用品などにも用いられています。東ヨーロッパ やロシア連邦などでは,冷圧搾油の亜麻仁油は食 用としても用いているといわれます。
茎からとる繊維は,つやがあり毛ばだたず,軟 らかいことから織物とされ,リネンLinen,リン
その他 ネルなどと呼ばれています。汗を吸い易く,すぐ
に発散させる麻布として,夏用の服地として賞用 されているのはご存知の通りです。
感触が爽快なことから,乳児や婦人用肌着,ハ ンカチーフ,テーブルクロス,ナプキン,シーツ など,あまりにも日常の手近にあるので,あまり 気付かずに使っています。テント,帆布,油絵用 キャンバス,パッキングなども亜麻繊維です。
往年,傷の手当に脱脂綿やガーゼが用いられ,
その上から亜麻仁油紙で覆ったのが思い出されま す。また,紙幣などにする良質のリネン紙もアマ から生まれています。合成繊維があふれている中 でも,天然の麻繊維が夏の暑さから,われわれの 身体を保護してくれているのも忘れられません。
日本語の不完全さを考える
前回(Vol.22 No.5),江戸時代の人々でその 職業性別等により,言い廻しが微妙に変わる例を あげたが,欧米語が主語を省きにくいのと対照的 に,日本語では主語を用いない例が多い。
「今日は天気が好いので,僕は散歩に出た」と 言えば小学生の作文じみるが,「天気が好いので 散歩に出た」で充分であろう。勿論,今日とか僕 とかを強調すべく,敢えて用いることもあり,用 法としての選択肢は広い。
短歌の様な短詩型に於ける表現では省略の過不 足が作品の成否を左右することが多い。
主語の省略だけでなく,「何をどうする」の
「何を」が抜けていたり,主語だと思った言葉が 一番下にすわった名詞の修飾語だったりすること がある。
「猫がきらいな犬」と言ったら,「猫をきらっ ている犬」と言うことなのか,「猫が犬をきらっ ている」のか,どちらにも意味が取れる点,表現 として不正確だと言うものの前後の文章により,
限定された内容を与えることが出来る面白さもあ ろうと言うものだ。
古来「ことだま」などと,言葉を神聖視したの も,そうした融通ゆうずう無碍む げな言葉故であったことによ るかも知れず,事実戦前の国学者の中に,吾が国 の言葉が神国なればこそ,と大真面目の説を立て た人もいた。
又,簡潔にして格調高き名文家の志賀直哉が日 本語の不完全さをあげつらって,終戦後の一時期
「吾が国は日本語を廃してフランス語を以て国語 とせよ」などと主張したことがあったと聞いてい
る。この人の文章は明快な口語を駆使して活字に なったその字面さえ美しいと言われるが,されば こそ日本語の不確さに苛立ち失望したのかも知れ ない。
国語改造の考えは,戦後のGHQにあり,日本 人に民主主義の教育を施すに当り,特に漢字のむ ずかしさからさぞかし文盲者が多かろうと考え,
漢字を全廃して仮名か,ローマ字による表記にし て識学率を高めようと考えた。しかし予備調査の 結果は予想に反し,その識学率が以外に高いこと を知り,又意識調査に於て,大衆の中で学歴が低 いと考えられる人々すら漢字にそれ程強い拒否感 を持たぬことがわかった。しかも一般教養に於て も文字習得の困難さが,学習を妨げているという 確証はなかった。
従って,この計画は不発に終ったが,このむず かしい漢字と言うもの,唯の難物ではないのだ。
象形・指事から出発した漢字はそれぞれが固有の 情報を有しており,音声による言語をそのまま文 字に表現する欧米の言語とはその性格を異にして 居り,一字一字が持つ固有の情報を複合させれば 更に固有の情報が作り出せる。この漢字の一字一 字の意味を知る者がこれを見れば,一連の漢字を 絵を見る如く瞬時に読み取ってその意を掴むこと が出来る。又この漢字に,中国語の発音に似せた 音読みと日本語本来の読みの2つの読み方を与え て,その用に応じて使いわけることを考え出した ことである。漢字を複合させ音読みにすることに より,外国語の翻訳を初めとして,いくらでも新 しい概念や事物を表現することが出来る様になっ た。ただ此の様に無限の表現方法を持つ言葉の使 い方を誤ると,徒らに文章を複雑にして読者にそ の意を通じさせぬものになるおそれもありこれを 悪文と言う。料理の材料が豊富だからと言って,
これを闇雲に用いてよかろう筈はない。日本語は 更に貪欲に言葉を呑み込む手段として片仮名を駆 使する。適確な訳語が得難い外国の言葉を取入れ る手段ではあるのだが,……。