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全身投与された CWS-NP

脾臓内分布と CTL 活性の関係性

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【緒言】

第2章において静脈内投与したCWS-NPは脾臓内樹状細胞に効率的に取り込まれ、樹状 細胞の活性化マーカーの発現を亢進しCTLを活性化した。

しかしながら、静脈内投与されたCWS-NPは他のMHC-II+細胞にも取り込まれており、

樹状細胞以外の脾臓内細胞の寄与も考慮する必要がある。脾臓内の MHC-II+細胞は樹状細 胞以外にB 細胞も存在しており、マウス全脾臓細胞の約53%を占めている[43]。B 細胞は 獲得免疫に関与する細胞として知られており、樹状細胞による抗原提示を受けたヘルパーT 細胞によって活性化される。活性化したB 細胞は形質細胞に分化し、抗原特異的な抗体を 産生する。抗体はその抗原を持つ標的細胞に対して結合し、Fc 受容体を介して好中球やマ クロファージによる食作用を促進する(オプソニン化)。この他にも病原体に対して抗体を 結合し感染性を失活させる作用(中和作用)や補体系を活性化し標的細胞を破壊する作用も ある。

近年がん免疫反応においてB細胞及びB細胞から産生される抗体の関与が報告されてい る。マウスに同種異系の腫瘍を移植した場合(例:C57BL/6マウス由来のB16-F10メラノ ーマ細胞を 129S1 マウスに移植)、強力に拒絶される。Carmi らはこの反応がマウスの体 内で産生された腫瘍特異的IgG抗体が腫瘍に結合し、樹状細胞に内在化されT細胞が活性 化することで誘導されることを見出した[53]。その一方で、B細胞は活性化したがん免疫反 応を抑制する効果を持つことも報告されている。がん細胞から分泌されるTGF-βによって

IgA(+)B 細胞は腫瘍内に誘導され、がん免疫反応を抑制することで腫瘍の成長を促進さ

せる[54]。この細胞は制御性B細胞と呼ばれている。以上のように、B細胞はがん免疫反応 において活性化と抑制の2面性の性質が報告されており、今も議論が続けられている[55]。

第 3 章では、CWS-NP 全身投与による免疫活性化メカニズム解析の一環として、CWS-NPの脾臓内分布とCTL活性の関係性を明らかにすることを目的とし、第2章にて用いた CWS-NPの組成(POPC/chol/DOTAP/DSPE-PEG 2k=40/30/30/5)を基に脂質組成を変更 して脾臓内分布とCTL活性の変化から、CWS-NPを取り込んだ樹状細胞とB細胞のCTL 活性化への寄与を解析した。

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【実験結果】

3-1 DSPE-PEG 2k修飾量を変更した空リポソーム調製

CWS-NPの脾臓内分布に影響する要因の一つにDSPE-PEG 2kの修飾量がある。ナノ粒

子のPEG修飾により、樹状細胞以外の免疫細胞による取り込みを回避し、樹状細胞への選 択制を向上させることができる[56, 57]。この報告を基に、DSPE-PEG 2kの修飾量を変動 することで脾臓内分布の割合に変化が生じ、CTL活性に影響を及ぼすと考えた。

第2章で用いたCWS-NPの組成(POPC/chol/DOTAP/DSPE-PEG 2k=40/30/30/5)を

基にDSPE-PEG 2kの修飾量を変更し、大きく脾臓内分布に変化をもたらす組成の探索を

行うため、CWS-NPの代わりに同組成の空リポソームを単純水和法にて調製した。

単純水和法はリポソームの調製法として最も広く用いられている方法である。各脂質を ガラスチューブに予め設定した組成比になるよう添加し、溶媒を除去した。生成した脂質膜

に5 mM HEPESを添加し、室温でインキュベートして水和した。剥がれなかった脂質はボ

ルテックスミキサーで完全に剥がし、400 nmフィルターにて整粒した。調製した結果、全 組成においてカチオン性を示すリポソームが得られた。またDSPE-PEG 2kの修飾量の低 下とともにζ電位の上昇と粒子径の増大が観察された。(Table 3-1)。

Table 3-1 POPC/chol/DOTAP/DSPE-PEG 2k=40/30/30/5を基にDSPE-PEG 2kの修飾量を変更した空リ ポソームの物性

各脂質をガラスチューブに予め設定した組成比になるよう添加し、溶媒を除去した。生成した脂質膜に 5

mM HEPESを添加し、室温でインキュベートして水和した。剥がれなかった脂質はボルテックスミキサ

ーで完全に剥がし、400 nmフィルターにて整粒した。n=2

56 3-2 DSPE-PEG 2k修飾量と脾臓内分布の関係

DSPE-PEG 2k修飾量と脾臓内分布の関係を調べることを目的とし、DiD標識した3-1の

空リポソーム60 nmol/mouse(BCG-CWS 100 µg相当のCWS-NPと同量の脂質量)を尾 静脈内投与し、脾臓内分布をフローサイトメトリーにて解析した。本章では脾臓内分布を解 析する際、樹状細胞に加えてB細胞(B220+MHC-II+)も解析した。その結果、脾臓細胞全 体の取り込み量はDSPE-PEG 2k修飾量が 1 mol%の場合(PEG 1)に最も多く取り込ま れ、それ以降修飾量の減量に伴って脾臓細胞への取り込み量は減少した(Figure 3-1 A)。 樹状細胞への取り込み量はDSPE-PEG 2k修飾量の減少に従って徐々に減少し、PEG 0.5 やPEG 0.1では基準の組成(PEG 5)と比較して有意に減少した(Figure 3-1 B)。またB 細胞への取り込み量はPEG 1 において最も多く取り込まれた(Figure 3-1 C)。結果より

DSPE-PEG 2kの適度な減量により、B細胞への分布量が増加することが示唆された。

Figure 3-1 DSPE-PEG 2kの修飾量を変更した空リポソームの脾臓内分布。(A)全脾臓細胞のうちDiD+ 細胞の割合。(B)全樹状細胞のうちDiD+細胞の割合。(C)全B細胞のうちDiD+細胞の割合。DiD標識 した空リポソーム60 nmol/mouse(BCG-CWS 100 µg相当のCWS-NPと同量の脂質量)を尾静脈内投与 し、脾臓内分布をフローサイトメーターにて解析した。n=3 mean±SD *P<0.05 **P<0.01 ANOVA followed by the Tukey–Kramer test

A

B C

57 3-3 DSPE-PEG 2k修飾量とCTL活性の関係

3-2の結果より、B細胞への分布量増加とCTL活性の関係を調べるため、最も高いB細 胞への取り込みが見られたPEG 1(POPC/chol/DOTAP/DSPE-PEG 2k=40/30/30/1)と同 組成のCWS-NP(PEG 1 CWS-NP)を調製し、第2章で用いた組成(PEG 5 CWS-NP)

と CTL 活性を比較した(Figure 3-2-1 A)。結果は B 細胞への分布量が増加した PEG 1 CWS-NPにおいて高いCTL活性を示した(Figure 3-2-1 B)。この結果より、B細胞への 分布量増加によりCTL活性は増強することが示唆された(Figure 3-2-2)。

A B

Figure 3-2-1 DSPE-PEG 2kの修飾量を変更したCWS-NPCTL活性。(A)CTLアッセイの投与スケ ジュール(B)DSPE-PEG 2k修飾量とCTL活性。各CWS-NP(BCG-CWS 100 µg)とOVA-NP(OVA 50 µg)を尾静脈内投与し、7日後にCTL活性を測定した。n=3 mean + SD P*< 0.05 Student’s t test

Figure 3-2-2 DSPE-PEG 2kの修飾量とCTL活性の関係。DSPE-PEG 2kを減量することでB細胞への 分布は増加し、CTL活性も増強した。

58 3-4 DOTAP、STR-R8 CWS-NPの脾臓内分布

カチオン性を付与させる材料とCTL活性の関係を調べるため、膜透過性ペプチドである STR-R8 を修飾したCWS-NP(POPC/chol/STR-R8/DSPE-PEG 2k=70/30/2/1)(以下 R8

CWS-NP)を調製し、3-3にて高いCTL活性を示したPEG 1 CWS-NPと脾臓内分布を比

較した。その結果、全脾臓細胞のうちCWS-NPを取り込んだ細胞はほぼ同じ量であったの に対し(Figure 3-3 A)、DOTAPを用いたPEG 1 CWS-NPは樹状細胞に多く(Figure 3-3 B)、R8 CWS-NPはB細胞に多く分布した(Figure 3-3 C)。

A B

C

Figure 3-3 PEG 1 CWS-NPR8 CWS-NPの脾臓内分布。(A)全脾臓細胞のうちDiD+細胞の割合。(B)

全樹状細胞のうちDiD+細胞の割合。(C)全B細胞のうちDiD+細胞の割合。DiD標識 CWS-NP(BCG-CWS 100 µg)を尾静脈内投与し、1時間後の脾臓内分布をフローサイトメーターにて解析した。n=1, 3

59 3-5 DOTAP、STR-R8 CWS-NPのCTL活性

DOTAPを用いたPEG 1 CWS-NPとR8 CWS-NPでは脾臓内分布において、どちらも 脾臓細胞全体にはほぼ同じ分布量を示し、それぞれ異なる樹状細胞及び B 細胞への分布を 示した。これらのCTL活性を比較することで、樹状細胞とB細胞の寄与の程度を比較でき ると考えられた。この脾臓内分布の結果と各CWS-NPのCTL活性より脾臓内分布とCTL 活性の関係性を調べるため、各CWS-NPを週1回、合計2回投与し7日後にCTLアッセ イを行った(Figure 3-4-1 A)。結果として有意差は確認されなかったが、樹状細胞に分布が 偏ったPEG 1 CWS-NPにおいてR8 CWS-NPよりもCTL活性が高い傾向となった(Figure

3-4-1 B)。この結果より、CWS-NPは樹状細胞に取り込まれる方がCTLの活性化に優位に

働く可能性が示唆された(Figure 3-4-2)。

A B

Figure 3-4-1 DOTAP CWS-NPR8 CWS-NPCTL活性。(A)CWS-NPの投与スケジュール(B)

DOTAP CWS-NPR8 CWS-NPCTL活性 CWS-NP(BCG-CWS 100 µg)を週1回、合計2回投 与し7日後にCTLアッセイを行った n=3,4 mean + SD N.S. : not significant Student’s t test

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Figure 3-4-2 DOTAP CWS-NPR8 CWS-NPの脾臓内分布とCTL活性の関係性。DOTAPを用いた CWS-NPR8 CWS-NPはほぼ同じ量の脾臓細胞への分布を示したのに対し、DOTAPを用いた CWS-NPでは樹状細胞に、R8 CWS-NPB細胞に分布が偏った。CWS-NPは樹状細胞に取り込まれる方が CTLの活性化に優位に働く可能性が示唆された。

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【考察】

第3章ではCWS-NPの脾臓内分布とCTL活性の関係性について検証した。

本章では最初に DSPE-PEG 2k の修飾量と脾臓内分布及び CTL活性の関係性について 検証した。DSPE-PEG 2kを修飾することでナノ粒子表面に水和層を形成し、血中滞留性の 付与[58]や血中タンパク質との凝集を回避できる。脾臓を標的とするナノ粒子では脾臓内樹 状細胞への選択性を向上させるために用いられている[56, 57]。DSPE-PEG 2kの修飾量が 減少することで、樹状細胞への分布量は徐々に減少し、B細胞への分布量が増加した(Figure 3-1)。この分布の変化は DSPE-PEG 2kの修飾量が減少することで樹状細胞への選択性が 低下し、脾臓内に多く存在するB細胞への分布量が増加したためと考えられた。また DSPE-PEG 2k 0.5 mol%及び0.1 mol%においてはB細胞への分布量は低下した。これは

DSPE-PEG 2kによる血中滞留性が減少した結果、肝臓にトラップされやすくなり、脾臓へ移行す

る量が減少したためと考えられる。

次に膜透過性ペプチドであるSTR-R8を用いたCWS-NP(R8 CWS-NP)を用意し、前

述のPEG 1 CWS-NPと脾臓内分布を比較した。その結果、それぞれのCWS-NPの全脾臓

細胞のうち取り込まれた細胞数はほぼ同じであったが、PEG 1 CWS-NPは樹状細胞に、R8

CWS-NPはB細胞に分布が偏った(Figure 3-3)。この偏りの原因は、カチオン性を付与さ

せるために用いるDOTAP とSTR-R8 の特性の違いによるものと考えた。DOTAP はその カチオン性により、負電荷に帯電している細胞膜と相互作用して吸着することで細胞内に 取り込まれる。それに対してSTR-R8はカチオン性に加えてオクタアルギニン(R8)と細 胞表面に存在するプロテオグリカンとの水素結合によって DOTAP よりも容易に細胞に吸 着しやすくなると考えられており[59]、脾臓内に多く存在する B 細胞に容易に吸着し取り 込まれたと考えられる。

樹状細胞とB細胞はいずれも抗原提示細胞であるが、樹状細胞は唯一ナイーブT細胞を 活性化できると考えられている。活性化された T 細胞は標的とする抗原の情報を保存した メモリーT細胞となり体内で保存され、再度抗原の侵入を認識した場合、メモリーT細胞は 再度活性化する[60]。このとき樹状細胞だけではなく CD40 リガンドで活性化されたB 細 胞も抗原提示細胞として関与するが[61]、樹状細胞と同じくナイーブ T 細胞を活性化でき るという報告は確認されていない。それ故、樹状細胞と B 細胞は抗原提示細胞として機能 するが、T細胞への活性化能はB細胞よりも樹状細胞の方が高いことが推察される。今回、

樹状細胞に分布が偏ることでより強力な CTL 活性を示した理由はこの樹状細胞と B 細胞 のCTL活性化能の違いによるものであると考えられた。

また活性化した B 細胞は形質細胞に分化し、抗原特異的な抗体を産生することも知られ ている。がん免疫反応でも抗原特異的な形質細胞が産生する抗体によってCD8+T細胞の活

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