0.02C steel
0.021
(0.096at.%) 0.47 1.02 0.034 0.002 18.21 8.20 0.002 bal.
0.05C steel
0.051
(0.233at.%) 0.48 1.02 0.033 0.002 18.24 8.13 0.002 bal.
0.1C steel
0.100
(0.457at.%) 0.49 0.98 0.034 0.002 18.26 8.19 0.006 bal.
0.2C steel
0.199
(0.905at.%) 0.47 0.98 0.034 0.002 18.27 8.18 0.006 bal.
0.015N
steel 0.001 0.49 1.00 0.030 0.002 18.21 8.23 0.015
(0.059at.%) bal.
0.03N
steel 0.001 0.49 1.01 0.031 0.002 18.28 8.22 0.030
(0.118at.%) bal.
0.06N
steel 0.001 0.47 1.00 0.029 0.002 18.30 8.15 0.063
(0.247at.%) bal.
0.1N
steel 0.003 0.48 0.99 0.035 0.002 18.05 8.23 0.100
(0.392at.%) bal.
0.2N
steel 0.003 0.48 0.99 0.035 0.002 18.18 8.22 0.196
(0.766at.%) bal.
Mo: <0.01, Cu: <0.01, Nb: <0.001mass%
Tabel 2-1.Chemical composition of specimens used in this study (mass%) .
- 27 -
Fig. 2-1. Phase diagrams of Fe-18.3%Cr-8.2%Ni-1%Mn-0.5%Si-C alloy (a) and Fe-18.3%Cr-8.2%Ni-1%Mn-0.5%Si-N alloy (b).
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
Carbon content, [%C]/ mass%
(a) Fe-18.3%Cr-8.2%Ni-1%Mn-0.5%Si-C alloy
g
g+ M23C6
d+ g
d d+ Liquid d+ g+ Liquid Liquid
Liquid + g
g+ M7C3
g+ M23C6+ M7C3
g+ a+ M23C6
g+ a
800 1000 1200 1400 1600 1800
Temperature, T/ K
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
Nitrogen content, [%N]/ mass%
(b) Fe-18.3%Cr-8.2%Ni-1%Mn-0.5%Si-N alloy
g d+ g
d d+ Liquid
d+ g+ Liquid Liquid
g+ Cr2N
g+ a+ Cr2N g+ a
d+ g+ N2gas N2gas + Liquid
g+ N2gas
800 1000 1200 1400 1600 1800
Temperature, T/ K
- 28 -
Fig. 2-2. Stacking sequence of close packed planes in FCC stacking fault structures. (73) C
B A C B A C B A Normal FCC
stacking
A C B A C A C B A Stacking fault
hcp embryo partial dislocation
(111)g [101]g
(0001)e [1210]e (011)a’
V6
V5
[111]a’
[111]a’
V2
V1 V4 V3
(011)a’
(011)a’
Fig. 2-3. Schematic illustration showing the orientations of S-N, burgers and K-S relationship for a given plane parallelism (111)γ // (0001)ε // (011)α’.
- 29 -
Variant Plane parallel Direction parallel Rotation from Variant 1
No. [g] // [a’] Axis (indexed by a’-martensite) Angle [deg.]
V1
(111)g// (011)a’
[10-1] // [11-1] -
-V2 [10-1] // [1-11] [0.5774 -0.5774 0.5774] 60.00
V3 [0-11] // [11-1] [0.0000 -0.7071 -0.7071] 60.00
V4 [0-11] // [1-11] [0.0000 0.7071 0.7071] 10.53
V5 [-110] // [11-1] [0.0000 0.7071 0.7071] 60.00
V6 [-110] // [1-11] [0.0000 -0.7071 -0.7071] 49.47
V7
(1-11)g// (011)a’
[-101] // [11-1] [-0.5774 -0.5774 0.5774] 49.47
V8 [-101] // [1-11] [0.5774 -0.5774 0.5774] 10.53
V9 [110] // [11-1] [-0.1862 0.7666 0.6145] 50.51
V10 [110] // [1-11] [-0.4904 -0.4625 0.7387] 50.51
V11 [0-1-1] // [11-1] [0.3543 -0.9329 -0.0650] 14.88
V12 [0-1-1] // [1-11] [0.3568 -0.7136 0.6029] 57.21
V13
(-111)g// (011)a’
[01-1] // [11-1] [0.9329 0.3543 0.0650] 14.88
V14 [01-1] // [1-11] [-0.7387 0.4625 -0.4904] 50.51
V15 [101] // [11-1] [-0.2461 -0.6278 -0.7384] 57.21
V16 [101] // [1-11] [0.6589 0.6589 0.3628] 20.61
V17 [-1-10] // [11-1] [-0.6589 0.3628 -0.6589] 51.73
V18 [-1-10] // [1-11] [-0.3022 -0.6255 -0.7193] 47.11
V19
(11-1)g// (011)a’
[1-10] // [11-1] [-0.6145 0.1862 -0.7666] 50.51
V20 [1-10] // [1-11] [-0.3568 -0.6029 -0.7136] 57.21
V21 [011] // [11-1] [0.9551 0.0000 -0.2962] 20.61
V22 [011] // [1-11] [-0.7193 0.3022 -0.6255] 47.11
V23 [-10-1] // [11-1] [-0.7384 -0.2461 0.6278] 57.21
V24 [-10-1] // [1-11] [0.9121 0.4100 0.0000] 21.06
Table 2-2. 24 variants in K-S relationship.
- 30 - 2.3 実験結果および考察
2.3.1 固溶化処理後の組織
Fig. 2-4は固溶化材におけるγの格子定数を、炭素および窒素添加量の原子割合で整理し
た図である。炭素・窒素添加量の増加に伴いγの格子定数は直線的に増加していることから
(Begard’s law)、鋼中の炭素・窒素は全てγに固溶しており、析出物は生成していないと考え
られる。また、炭素・窒素が格子定数変化に及ぼす影響に差異は無い。この図より得られ た固溶炭素・窒素量とγの格子定数aγの関係式を(2-5)に示す。
aγ [nm] = 0.3588 + 0.0007 (C+N) (C+N: at.%) (2-5)
また、Dysonら(44)は、Fe-Cr-Ni系合金を用いてγの格子定数に及ぼす合金元素の影響を詳細
に調査しており、以下の(2-6)式を報告した。この式をもとに、本鋼種の格子定数を計算し
た結果をFig. 2-4に合わせて示している。Dysonらは炭素と窒素の効果にわずかに差がある
としているものの、その差は非常に小さく、計算値は本実験結果と非常に良く一致してい る。
aγ [nm] = 0.35780 (±0.00016) + 0.00330 (±0.00110) C + 0.000095 (±0.000015) Mn
– 0.00002 (±0.000004) Ni + 0.00006 (±0.00003) Cr + 0.00220 (±0.00034) N (2-6)
Fig. 2-5には各鋼種における固溶化材のX線回折パターンを示す。十分に電解研磨を施し
た試料を実験に供したにもかかわらず、0~0.05C鋼、0~0.06N鋼ではα’のピークが確認でき る。一方で、飽和磁化測定で固溶化材の α’体積率を求めた場合、Base鋼でさえ 2.5vol.%と ごく少量であった。これは、X線回折が試料表面の情報のみを捉えるのに対して、飽和磁化 測定では試料全体の情報が得られるという違いによるものであり、ここで検出された α’は 不安定な表層のみで生成していると考えられる。しかしながら、表面にこのような α’が生 成するとサブゼロや加工で意図的に生成させた α’との区別がつかない。光顕観察では、高 温で研磨・腐食させることで表面の α’を排除できるが(2.2.2 項参照)、室温で測定する必要 があるEBSD観察、TEM観察では、固溶化材のX線回折でα’のピークが出なかった試料を 用いて以降の実験を行った。Fig. 2-6には各鋼種における固溶化材の光顕組織と平均結晶粒 径を示す。いずれの試料も焼鈍双晶を含む等軸なγ単一組織を呈しており、各試料の平均γ
粒径は30~46μmとほぼ同程度であった。
- 31 -
Fig. 2-4. Changes in lattice parameter as a function of carbon and nitrogen contents in Fe-18.3%Cr-8.2%Ni-1%Mn-0.5%Si alloys with austenitic single structure.
0.3590
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0.3585 0 0.3595 0.3600
Carbon and nitrogen contents, (C+N)/ at.%
Lattice parameter of austenite, ag/ nm
0.05 0.1 0.15 0.2
0.05 0.1 0.15 0.2 0.25
Base steel
Carbon-added steel Nitrgoen-added steel
(i)
(ii)
In this study (i) Dyson et al.(44) (ii) Dyson et al.
: ag[nm] = 0.3588 + 0.0007(C+N) : ag[nm] = 0.3588 + 0.0007 C : ag[nm] = 0.3588 + 0.0006 N (mass%C)
(mass%N)
(C,N:at.%)
- 32 -
Base steel 0.02C steel
0.05C steel 0.1C steel
0.2C steel
0.015N steel 0.03N steel
0.06N steel 0.1N steel
0.2N steel
45 50 55 60 65 70 75 80 85
Diffraction angle, 2q/ deg.
Intensity
FCC (austenite) BCC (a’-martensite)
Fig. 2-5. X-ray diffraction patterns of solution-treated specimens.
- 33 -
Fig. 2-6. Optical micrographs and average grain size (dγ) of Base (a), carbon-added steels (b)~(e) and nitrogen-added steels (f)~(j) water-cooled after solution treatment.
(d) 0.1C steel
(e) 0.2C steel
(i) 0.1N steel
(j) 0.2N steel
Carbon-added steels Nitrogen-added steels
(b) 0.02C steel (a) Base steel
(c) 0.05C steel
(g) 0.03N steel
(h) 0.06N steel (f) 0.015N steel
100mm dg=30mm
dg=33mm dg=35mm
dg=35mm dg=46mm
dg=34mm
dg=36mm dg=33mm
dg=33mm dg=35mm
- 34 -
2.3.2 準安定オーステナイトの熱的安定度に及ぼす炭素・窒素の影響
Fig. 2-7には、1Tの磁場中で300Kから5Kまで冷却した各種試料におけるα’体積率変化
をSQUID磁束計により測定した結果を示す。Base鋼においては、300Kですでに検出され
ているα’が試料表面に生成したものであると考えられるため、Msα’以降の曲線を外挿するこ
とでα’体積率が0vol.%となる温度を求め、Msα’を決定した(図中の点線)。見積もられたBase
鋼のMsα’は297Kであり、それ以下の冷却に伴いα’量はS字状に増加している。その後120K 付近で増加が止まるが、5Kまでの冷却時には44vol.%のα’が生成している。それに対して、
炭素または窒素添加量の増加によってMsα’ならびにα’量は低下している。0.1C鋼ではMsα’
が189Kまで低下、α’量の増加率も低下しており、結果的に12vol.%のα’しか生成していな い。さらに、0.2C鋼になるとα’は全く検出されなくなる。窒素はMsα’点を低下させる効果 が炭素より大きく、0.1N鋼ですでにα’が検出されていない。Fig. 2-8にはFig. 2-7より求め たMsα’と炭素または窒素量の関係を示す。なお、実験装置の都合により、0.06N鋼に限って は熱膨張試験で Msα’を求めている。質量割合と原子割合のどちらで整理しても窒素のほう が炭素よりも熱的安定化効果が大きく、両者の差は添加量が増えるに従って顕著になって いる。ここで、Eichelman らの結果(4)と比較するために質量割合で整理したときの両者の曲 線を線形を仮定して定式化すると以下の(2-7),(2-8)式のようになった。ただし、これらは
Fe-18.3%Cr-8.2%Ni-1%Mn-0.5%Si合金において用いることのできる式であり、他の合金にお
ける炭素・窒素の影響については更なる調査が必要である。
Msα’ [K] = 297 – 1141[%C] (2-7)
Msα’ [K] = 297 – 1823[%N] (2-8)
Eichelman らの式(4)によれば[%(C+N)]の係数は-1667 であったが、炭素と窒素の影響を分離
した結果、炭素はEichelmanらの見積もりよりも熱的安定化効果は小さく、逆に窒素は大き いことが明らかとなった。したがって、従来のように炭素・窒素を同等の安定化能を有す る元素として扱うのではなく、両者を区別して評価することが重要といえる。ただし、Fe-C,N
合金やFe-12%Cr-C,N合金のMsα’は炭素と窒素で相違ないという報告(76-78)や、むしろ炭素が
より安定化させるという研究もあり(79)、合金系での違いがある可能性はある。Fig. 2-9は77K サブゼロ後の α’体積率に及ぼす炭素・窒素の影響を示す。傾向は Msα’と同じであり、例え
ばathermal α’変態を抑制したい場合には窒素を添加したほうが有効となる。以降では、熱的
安定度に及ぼす炭素・窒素の影響に相違が生じた原因について、組織および熱力学的観点 より考察を行う。
- 35 -
Fig. 2-7. Changes in volume fraction of athermal α’-martensite formed on cryogenic cooling.
Volume fraction of athermala’-martensite, Va’/ vol.%
10
0 20 50
100 200 300
0
Temperature, T/ K 30
40
Base steel
0.02C steel
0.05C steel
0.1C steel 0.015N steel 0.03N steel
0.1N, 0.2C, 0.2N steel
- 36 -
Fig. 2-8. Changes in Msα’temperature as a function of carbon or nitrogen content in Fe-18.3%Cr-8.2%Ni-1%Mn-0.5%Si alloy.
a’-martensite-start temperature, Msa’ / K 190
0.02 0.04 0.06 0.08
150 0 270 310
Carbon or nitrogen content, C or N / mass%
230
0.1 0.12
Base steel
Carbon-added steel Nitrgoen-added steel
Equation (1.1) by Eichelman et al.(4)
Fig. 2-9. Changes in volume fraction of athermal α’-martensite as a function of carbon or nitrogen content in 77 K subzero-treated specimens.
10
0 0 20 40
Carbon or nitrogen content, Cor N/ mass%
Volume fraction of athermala’-martensite, Va’/ vol.%
0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12
30
Base steel
Carbon-added steel Nitrgoen-added steel
- 37 -
2.3.3 athermal α’マルテンサイトの形態と形成過程
Fig. 2-10には77Kでサブゼロ処理した各鋼種(サブゼロ材)の光顕組織を示す。α’が生成し
ていない 0.1N鋼では組織の変化が全く見られないが、α’が生成している試料では線状の組 織が確認できる。低炭素・窒素鋼ほどその線状組織が多く、一つの結晶粒内で頻度高く交 差しているのに対して、0.06N鋼や 0.1C 鋼ではその数が明らかに減少し、一方向にのみ発 達している。この組織は、ブロックやパケットから構成されたラスマルテンサイトや、Msα’
が本鋼種と同等の Fe-30Ni 合金等で見られるレンズマルテンサイト(80)とは明らかに異なる 形態であり、SFEが低く、εが容易に生成するFe-18%Cr-8%Ni合金(10,11)やFe-Mn合金(81,82)
でγ→ε→α’という二段階変態が生じるときによく観察されるものである。
Fig. 2-11には0.05C鋼、0.06N鋼のサブゼロ材のPhaseマップと結晶方位マップを示す。
ここで、Phase マップでの灰色は γ、青色は ε、赤色は α’に対応しており、図中の黒線は γ 粒界を表している。どちらの鋼種にも幅が数μmの非常に微細なα’が密集した領域があり、
その領域は直線的な限られた部分にしか存在しない。さらに、その隙間にεが確認できるこ とから、まずγから板状のεが生成し、それを消費するようにしてα’が形成されるという二 段階の変態が生じた結果、このような線状組織が発達したことがよく分かる。興味深いこ とに、γ粒界やγ/ε界面からα’がγ中へ成長するということは全く起きておらず、炭素鋼・
窒素鋼にかかわらず ε 内部でのみ α’変態が生じている。さらに、光顕組織と合わせて線状 組織の幅や間隔に注目すると、低炭素・窒素鋼ほど薄く、間隔が狭くなっていた。これに 関して中津(45)は、SFEの異なるFe-Mn合金のεについて、SFEが低いほどε板の厚さが薄 くなり、かつ間隔も狭くなると報告している。これは、SFEが低いほどε変態に必要な積層 欠陥が多く存在し、核生成頻度が著しく上昇したためと考えられる。Fig. 2-12、Fig.2-13に はBase鋼、0.1C鋼、0.1N鋼におけるSFEの温度依存性および300KでのSFE(SFE300K)の炭 素・窒素濃度依存性を示す。温度低下に伴い SFE はどの鋼種も同じ傾きで低下しており、
300K での SFE 差はどの温度でも維持されているため、以降では各鋼種の SFE の比較に SFE300Kを用いる。そのSFE300Kは炭素・窒素量の増加に伴い上昇し、その効果は窒素のほう が大きい。この計算結果を踏まえると、低炭素・窒素鋼でεが多量かつ微細に生成している こと、窒素添加鋼でγ→ε変態が抑制されていることがSFE300Kの大きさにより説明できる。
冷却中のα’変態挙動とSFEの関係については次項で詳細に述べる。
次いで、α’の内部組織を透過EBSD法(a)ならびにTEM(b)により観察した結果をFig. 2-14 に示す。0.1C 鋼の77Kサブゼロ材に対して透過EBSD 法でα’を確認し、その場所をTEM で観察した結果、内部に多量の転位を含んでいることが分かる。ひとつひとつの α’晶が非 常に細かく、その内部にラスが確認できないため、ラスマルテンサイトとして明確に分類 することはできないが、少なくとも補足変形が双晶変形でなくすべり変形により起きてい ると思われ、過去の観察結果とも一致する(9,83)。一方で、α’の形態はMsα’に依存すると言わ
れ(22,23)、Fe-高Ni合金のように、Msα’が室温以下に存在するathermal α’ではレンズやバタフ
ライマルテンサイトといった双晶を含むものがしばしば生成する。本研究でのγ→ε→α’変態
- 38 -
で双晶が確認されないのは、εが多くの積層欠陥の積重ねで形成されているためすでに内部 に多量の転位が導入されており、わざわざ双晶を形成する必要がないからと考えられる。
以降では、本鋼種の α’の結晶学的特徴について説明を行うが、炭素鋼と窒素鋼で α’の形 態や形成過程に大きな差異はなかったため、各相の結晶学的特徴を0.05C鋼を例にとって説
明する。Fig. 2-15はFig. 2-11(b)中の四角で囲った部分を拡大し、εおよびα’に関する情報を
それぞれ抽出したものである。結晶方位を基本的には試料表面の法線方向からみた方位(Z 方向)で示しているが、Fig. 2-13(b)では異なるバリアントのα’が区別し難かったため、ここ でのみY方向からの方位で図示している。また、Fig. 2-16には各相の結晶方位を表す極点 図を示す。図中の破線で示す曲線は、(111)γ、(1-11)γ、(-111)γを晶帯軸とした大円である。
なお、α’はバリアント数が多かったため、領域 A で観察されたものだけを表示した。極点 図(c), (d)での白丸、三角は、計算で求めた各バリアントの理想的な結晶方位を示す。まずε に注目すると、3 つの領域ではそれぞれ異なるバリアントの ε が存在しており(ε-1、2、3)、
それぞれがγの(111)γ、(11_1)γ、(1_11)γを共通最密面、それぞれに対応する大円に重なる<011_>γ
方向を共通最密方向として S-N 関係を満たしていることがわかる。ここでは 4 種類目の ε は観察されていないが、2 次元観察で捉えられていないだけで生成している可能性もある。
ただし、Fig. 2-10, 11の観察結果を考慮すると、SFEが高くなるほどεの種類は減少する傾 向がある。また、ε-1はε-2,3と比べて幅が広いように見えるが、εの観察方向による違いで ある。ε は薄い板状の形態をしており、ε-1はそれを厚さ方向から、ε-2、3は幅方向から見 ている。次にα’について結果を述べる。ε-1上にあるα’は全てε-1とburgersの関係を満たし ている。これらに対して前述の方法でバリアント番号を同定した結果、計算値と実測値は 非常に良く一致しており、ひとつのεから生成し得る6種類全てのバリアント(V1~V6)が生 成している。同様に、ε-2, 3から生成したα’も全種類のバリアント(V7~V18)が確認でき、ε→α’
変態ではバリアント規制が小さいことがわかった。ただし、γ→ε→α’変態でのバリアント数 は生成するεの種類に応じて変化し、εの種類×6のバリアントが一つのγ粒から生成する。
εが1種類しか存在しない0.06N鋼や0.1C鋼では全体で6種類のバリアントしか確認でき なかった。
ここで各α’間の位置関係について見ると、V1/V2, V3/V4といった互いに双晶関係にある バリアント同士が隣接していることに気づく。Moritoら(75)やStormvinterら(84,85)はα’の隣接 傾向について調査しており、低炭素鋼のラスマルテンサイトは方位差の小さな V1/V4 が隣 接し易い傾向にあり、高炭素鋼になるとV1/V2のバリアント対が増加すると報告している。
低炭素鋼のようにMsα’が高く、α’変態時の変態ひずみを母相γの塑性変形で緩和できる場合
(塑性緩和)、バリアント境界の方位差が小さく界面エネルギーが低いこと(86)、α’の格子不変
変形を担う 2 種類のすべり系を共有すること(86,87)に起因して、同一ベイングループである
V1/V4が集団で生成することが多い。一方で、高炭素鋼では変態温度の低下、炭素濃度の増
加に伴い母相 γ の強度が増加し、塑性緩和ではなく α’のバリアントの組合せでひずみを緩 和するようになる(自己緩和)。このとき、ひとつのパケットグループに属する6種類すべて のバリアントが生成すると変態ひずみは大きく緩和されるため、自己緩和に有利である(75,88)。