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Ti-35Nb-7Al と Ti-25Nb-7Al 合金の時効硬化 に及ぼす溶体化温度の影響

ドキュメント内 博 士 論 文 (ページ 76-89)

7-1. 諸言

第6章において,Ti-xNb-7Al合金の450 ℃時効硬化挙動では25 %Nb以下になると急激な硬化 までの潜伏期間が短くなる.硬化の原因であるα”の組織は,Nb量が少なくなるに伴い,無拡散に 近い状態での変態になる.

近年の報告では溶体化処理条件における凍結空孔が時効析出および時効硬化挙動に重大な影響 を及ぼすと示唆されている.例えば,飛田ら(1)は Ti-20Mo を用いて,焼入れで凍結される空孔の 存在が時効特性に影響を及ぼすと報告されている.また藤井ら(2)もTi-15V-3Cr-3Sn-3Al合金を用い て,β トランザス以上の高温域からの様々な溶体化処理条件で作製した場合,粒界で無析出物帯

(PFZ)が形成,β粒内では著しく均質で微細な析出物が促進などの特徴が報告されている.これ らの組織は焼入れで凍結される空孔の影響と考えられている.

本章は溶体化温度の影響を調査するために,Ti-35Nb-7Al(35NbA)とTi-25Nb-7Al(25NbA)を 用いて,β トランザス以上で種々の溶体化焼入れ材を作製し,U 字曲げ材の形状変化挙動,およ び450 ℃焼戻しにおける時効硬化と微細組織について調査した.

7-2. 実験方法

実験に用いた35NbA合金は第2章と同じ化学組成の合金を用いた.25NbAの化学組成はTable 7-1に示す.Thermo-Calcによるβ-transus(Tβ)は35NbA合金が764 ℃,25NbA合金が808 ℃で あった.溶体化処理条件はFig. 7-1に示した2通りで行った.1つ目は真空中でβ域の1050 ℃-30 min後,氷水中にて水冷した(1050 ℃WQ).2つ目は1050 ℃-20 min後,950~800 ℃まで炉冷し,

氷水中にて水冷した(T ℃WQ).この高温域の溶体化温度は侵入型元素や粒径の粗大化の影響を 受けやすいため,1050 ℃-30 minの焼入れ材とできるだけ近い条件に合わせた.等温時効処理は

450℃で塩浴中にて1 枚の試料(10×10×2 mm3)で行った.硬さ試験やXRD測定,TEM観察は第

2章と同じ方法を用いた.TEM試料の作製には第2章の電解研磨法とFIB(Forced ion beam)法を 用いた.焼戻しに伴う形状変化の調査には,約0.20 mm厚の焼入れ材を室温にて8 mmφの丸棒に 巻き付けU字曲げしたものをホットプレート(昇温速度は約0.4 ℃/s)上で420 ℃まで昇温し,

10 ℃毎に写真撮影を行った.

 73 

7-3. 実験結果

7-3-1. U 字曲げ材( Ti-35Nb-7Al )の加熱における形状変化

Fig. 7-2 は 800 ℃WQ 材の U 字曲げ材をホットプレートで昇温したときの形状変化を示す.

380 ℃付近から,わずかにSAが現れた.SA開始温度(TSA)はFig. 2-3 (d)の1050 ℃WQ材(320 ℃ 付近)より遅く,SA の変形量は少なかったため,ホットプレート上で 420 ℃まで昇温した後,

420 ℃で1 h保持を行った.1 h保持後の800 ℃WQ材のSAは1050 ℃WQ材が420 ℃に到達し たときの変化量と同じくらい進展した.

Fig. 7-3は溶体化温度を変化させたU字曲げ材を用いてホットプレートで420 ℃まで加熱した

ときの TSAを示す.850 ℃以下の試料は TSAが増加したことから,溶体化温度が低いほど,β→α”

変態が遅れると思われる.

Fig. 7-1 Patterns of solution treatment used in the experiment. (a) 1-step solution treatment (1050C,

30min,water quenching). (b) 2-step solution treatment (1050C,20min,furnace cooling from 950C to 800C,water quenching).

Table 7-1 Chemical composition of Ti-25Nb-7Al alloy.

 74 

Fig. 7-2 Shape evolution of U-shaped specimens with heating to 420C. Solution treatment condition of this specimen were performed in 2-step of furnace cooling to 800C (800CWQ). (a) Room temperature, (b) heating until 420C, (c) 420C holding for 1h. The dashed lines express the initial shapes of specimens at room temperature.

Fig. 7-3 Influence of the solution temperature on the SA starting temperature. Solution treatment temperatures were performed in 1-step (1050CWQ) and 2-step of furnace cooling from 950C to 800C.

 75 

7-3-2. Ti-35Nb-7Al 合金の等温時効処理に及ぼす溶体化温度の影響

Fig. 7-4は(a)1050 ℃WQ材と(b)800 ℃WQ材の光顕組織を示す.各WQ材ではβ粒のみが観察

された.またこのβ粒径は両WQ材でほぼ同じ大きさを示した.

Fig. 7-5は800 ℃WQ材のSAD図形を示す.Fig. 2-9で示した35NbAのSADはB2のような電 解研磨におけるアーテファクトが確認されており,正常な組織を確認するためにFIBでTEM試料 を作製し,TEM観察を行った.観察方位は<110>βとした.800 ℃WQ材ではβ相の基本反射のみ が観察され,1050 ℃WQ材(Fig. 2-9)と比較してもほとんど変化が認められなかった.

Fig. 7-6は1050 ℃WQ材と800 ℃WQ材を450 ℃で焼戻したときの硬さ変化を示す.800 ℃

WQ材の硬さは233 Hvであり,1050 ℃WQ材の硬さ(263 Hv)より減少した.このWQ材の硬 さの減少において,β 粒径や焼入れω相にほとんど変化が見られなかったのでこの硬さの原因は 分からなかった.800 ℃WQ材を450 ℃焼戻しすると30 minまでほとんど硬化しないが,2 hで 最大硬さ(391 Hv)を示した後,硬さの変化が見られなかった.その結果,溶体化温度が低い試 料は硬化が開始するまでの潜伏期間が伸びることがわかった.

Fig. 7-7は800 ℃WQ材で急激な硬化を示した450 ℃-1 h時効材のTEM組織を示す.このDF

像はSADの○で囲ったα”反射から観察した.1050 ℃WQ材(Fig. 4-4)の時効材と同様に微細な 針状-α”が確認された.また針状組織の他にβ粒も多く観察された.

Fig. 7-8はこの針状-α”について,STEM-EDS分析を行った結果を示す.TiとAlについてはほと

んど組成分配は確認できなかったが,Nbはα”粒子内で明らかに希薄になっており,原子拡散が生 じていることがわかった.

Fig. 7-4 Optical micrographs of the solution treated specimens. Solution treatments were performed in (a) 1050CWQ and (b) 800CWQ.

 76 

Fig. 7-5 SAD patterns of the TEM foil prepared by FIB sampling from the solution treated specimen.

Solution treatment was performed in 800CWQ. Beam // [110].

Fig. 7-6 Age hardening behaviors of the 1050CWQ and 800CWQ. Aging temperature is 450C.

 77 

Fig. 7-7 TEM micrograph of the solution treated specimen aged at 450C for 1h. Solution treatment was performed in 800CWQ. DF image obtained from the marked spot in the SAD. Beam //

[110].

Fig. 7-8 STEM image and EDS element maps of 800CWQ after aged at 450C for 1h.

 78 

7-3-3. U 字曲げ材( Ti-25Nb-7Al )の加熱における形状変化

Fig. 7-9は(a) 1050 ℃WQ材と(b) 950 ℃WQ材のU字曲げ材をホットプレートで昇温したとき

の形状変化を示す.1050 ℃WQ材では40 ℃からSRが始まり150 ℃付近まで回復した.その後,

200 ℃付近から420 ℃までSAが発現した.950 WQ材では40 ℃からSRが始まり160 ℃付近ま で回復した.その後,190 ℃付近から420 ℃までSAが発現した.

Fig. 7-10はFig. 7-9で示した試料の形状変化の挙動を曲げ半径比(加熱中の曲率半径)/(曲げ

直後の半径)で表したものを示す.曲げ半径比の増加は SR,減少は SA の開始を意味する.SR やSA挙動において,1050 ℃WQ材は950 ℃WQ材より変化量が少なかった.恐らく950 ℃WQ 材では U 字に曲げたときに生成される加工誘起M の量が1050 ℃WQ 材より多く存在したため,

SRやSAの変化量が多かったと思われる.

Fig. 7-9 Shape change with heating of plastic bent specimen of (a) 1050CWQ, (b) 950CWQ. The dashed lines express the shape of the specimen before reheating.

 79 

7-3-4. Ti-25Nb-7Al 合金の等温時効処理に及ぼす溶体化温度の影響

Fig. 7-11は各WQ材の光顕組織を示す.1050 ℃WQ材(a, b)では主にβ粒が観察され,粒界

付近にわずかに針状組織が観察された.950 ℃WQ材(c)はβ粒と針状組織が確認され,1050 ℃ WQ 材より多くの針状組織が観察された.どちらのWQ 材も,β粒の大きさがほぼ同じ粒径を示 した.

Fig. 7-12 は 1050 ℃WQ 材と 950 ℃WQ 材を 450 ℃で焼戻したときの硬さの変化を示す.

1050 ℃WQ材の硬さは242 Hv,950 ℃WQ材の硬さは239 Hvであった.各WQ材の硬さにはほ

とんど違いが見られなかった.1050 ℃WQ材では1 minまでほとんど硬化しないが,3 min後に は+106 Hvもの著しい硬化が見られ,16 h後,まだ硬化が続いていた.950 ℃WQ材では,7 s までほとんど硬化しないが,15 s後には+46 Hv硬化が見られ,その後,4 hで最大硬さ(439 Hv)

に到達した後,緩やかに軟化した.硬化が開始するまでの潜伏期間は950 ℃WQ材の方が短いこ とがわかった.

Fig. 7-13は450 ℃時効で硬化が見られた各WQ材のTEM組織を示す.このDF像はSADの○

で囲ったα”反射から観察した.どちらの組織も微細な針状-α”が確認された.

この針状-α”について,STEM-EDS分析を行った結果をFig. 7-14,7-15に示す.どの元素マップ においても針状組織内に組成分配が見られなかった.

Fig. 7-10 Change in the ratio of radius of curvature of U-shaped specimen with heating.

 80 

Fig. 7-11 Optical micrographs of the solution treated specimens. Solution treatment were performed in (a, b) 1050CWQ and (c) 950CWQ. (a) β-grain was observed in this specimen mainly. (b) An acicular structure was partially observed in the specimen.

Fig. 7-12 Age hardening behaviors of the 1050CWQ and 950CWQ. Aging temperature is 450C.

 81 

Fig. 7-13 TEM micrograph of the solution treated specimen aged at 450C for (a) 3min, (b) 15s.

Solution treatments were performed in (a) 1050CWQ and (b) 800CWQ. DF images obtained from the marked spot in the SAD. Beam // [110].

Fig. 7-14 STEM image and EDS element maps of 1050CWQ after aged at 450C for 3min.

 82 

7-4. 考察

通常,二元系Ti-Nb合金の焼入れマルテンサイト(α’,α’’)のMsは,Nb量の増加に伴って減 少する.しかし,第6章で示したxNbAの焼戻しで形成されるα”のSA開始温度はNb量の増加に 伴って逆のセンスで増加するのは興味深い.焼入れα”と焼戻しで形成されるα”はどちらも同じ構 造であることからMsとSA開始温度(Fig. 6-2)は1つの曲線でつながっていると考えられる.そ

うするとMsMfFig. 7-16に示すように400 ℃付近で張り出したこぶ状の曲線となるであろ

う.ここで高温の右下がりのMsを上部Ms,低温の右上がりのMsを下部Msと呼ぶことにする.

例えば,20NbAの焼入れ組織がfull-α”であるのは,冷却中にMsMfを通過するためであり,20NbA

よりNbが多い合金ではMfを横切らないためβ相が残留する.また冷却中に下部Msから抜け出 したとしても,温度が低く極短時間であるため,上部 Msで形成された焼入れα”はβに逆変態で きない.しかし23NbAのWQ材を下部Ms以下の200 ℃付近に加熱すると,焼入れα”は不安定

となりFig. 6-7で示したようにβに逆変態する.また焼入れ組織がα”+βを示す合金を室温で加工

すると加工誘起α”が形成され,200 ℃付近の焼戻しによってSRが発現するが,これも同様に説 明できる.

焼入れα”が形成される臨界組成は25NbAで,それよりNbが多いとβ単相となるが,合金の不 純物(特に酸素)によって組織は大きな影響を受ける.つまり Ms を支配する因子として合金組

Fig. 7-15 STEM image and EDS element maps of 950CWQ after aged at 450C for 15s.

 83 

成の持つ化学自由エネルギーが第1 に重要であるが,マルテンサイト変態は無拡散でせん断変形 によって行われるため,変態に必要なせん断応力を高める因子は必然的に Ms を低下させる.し たがって,酸素やAlはα安定化元素であるにも関わらずMsを低下させるのは,これら元素の固 溶強化によるためである.しかし,元素だけでなく空孔もまたせん断応力を増加させると考えら れる.我々はこの種の合金の特異現象は,空孔にβ 安定化能があるとして考えてきたが,空孔に よるせん断応力の増加が,見かけ上 Ms を引き下げていると捉えることもできる.そこで境界組

成である25NbAを用いて,焼戻し硬化挙動に及ぼす溶体化処理温度の(凍結空孔量)の影響を調

査した.Fig. 7-12で示した1050 ℃WQ材では,90 s後に硬化したのに対し,950 ℃WQ材では15 s後に硬化した.つまり凍結空孔はβ→α”変態を抑制しており,これが見かけ上β→α"変態がβ相 を安定させていると考えられる.

一方,高Nb合金では多少異なった変態メカニズムが作動していると考えられる.つまりFig.7-16 で示したMs線図に従えば,例えば,35NbA合金を450 ℃まで焼戻ししてもMs曲線内側には入 らないため特異現象は現れないことになる.しかし,450 ℃でしばらく保持すると,空孔メカニ ズムによる原子拡散が行われ組成分配が生じることも予想される.これにより 25NbAより低 Nb 濃度となった局所領域ではMs曲線の内側に入りβ→α”変態が生じることになる.従って,高組成 の Nb 合金の焼戻しで硬化開始までの潜伏期間が現れるのは,組成分配のための時間と考えるこ とができる.この仮説に基づけば35NbAの潜伏期間は凍結空孔量が影響すると予想される.そこ

で35NbAについても溶体化温度を変えた試料を作製し,450 ℃の焼戻し時効における潜伏期間を

調査した.Fig. 7-6 で示した凍結空孔量の少ない800 ℃WQ 材の方が明らかに潜伏期間は長く,

25NbAの時効硬化曲線とは空孔の効果が逆転した.従って,高組成の35NbA合金の変態挙動は前

述したようにいったん原子拡散による組成分配が生じた後,25NbAより低組成となった局所領域 でα”変態が起こると思われる.

Fig. 7-16 Schematic Ms and Mf curves with Nb content in Ti-xNb-7Al system.

ドキュメント内 博 士 論 文 (ページ 76-89)

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