第 4 章 T3 チェンバー宇宙線測定の実験結果
4.2 T3 チェンバーでの P10 ガスによる宇宙線を信号とした測定
図4.10: P10ガスでの直線でないアノード信号(P10はガスの粒子が大きいために電子など が衝突してジグザグな軌道を描く)
図4.11: 信号が折れ曲がる原因
4.2.2 宇宙線トリガーカウンターによる信号
図3.11のセットアップで2つのシンチレーターのコインシデンスレートは0.15Hzであり、
宇宙線の天頂角の計算ではこのセットアップの場合は0.19Hzとなり概ね計算通りの値となっ ている。以下に信号例を示す。
図3.11のセットアップではワイヤー番号が小さいほどアノードワイヤーに近い場所でガス が電離されることがわかる。その電離された位置によって電離電子がアノードワイヤーへ到 達する時間が異なるため図4.12のようにワイヤーによって信号が検出される時間がずれる。
この時間座標を用いることでトラックを確認したりドリフト速度を算出することができる。
ドリフト時間の時間座標を横軸、ワイヤー番号を縦軸にとったプロットを以下に示す。図4.13 は1本の宇宙線を捉えた信号と考えられ、図4.14は直線を延長すると上方向に交わる点が あるため電磁シャワーを捉えた信号であると考えられる。
図 4.13: P10ガスでのトリガーカウンターを 用いた宇宙線信号と見られるアノード信号
図 4.14: P10ガスでのトリガーカウンターを 用いた2本の電磁シャワーと見られるアノード 信号
図 4.13、図 4.14は横軸がドリフト時間なので、飛跡再構成をする際は空間座標に直す必 要がある。ドリフト速度を測定することで、「ドリフト時間×ドリフト速度」から空間座標 を求めることが可能なので次にドリフト速度を測定する。
4.2.3 電場とドリフト速度
宇宙線トリガーカウンターを用いた測定でカソードワイヤーの電圧を変化させることによ り電場を変え、ドリフト速度の変化を測定することができる。同じ電圧設定で1時間測定し 図4.13や図4.14のような得られた直線プロットを、全てのイベントで重ね合わせたプロッ トを図4.15に示す。見るとわかるように信号がある時間間隔(横軸)の中に収まっているこ
とがわかる。宇宙線トリガーカウンターのセットアップではT3チェンバーの信号読み出し をしている有感領域のみを通るようにしてあるので、この領域をチェンバーの有感領域とし て考えることができ、アノード面とカソード面を明確に示していることがわかる。
したがって、アノード面とカソード面の距離はチェンバーの設計で42mmと決まっている ので、この空間を0.875µsでドリフトしたこことからドリフト速度は48mm/µsと算出でき る。このときの電場は電磁気の計算[14]で求めることができ、167.77V/cmと計算できる。
図4.15: anode:1700V,pickup:0V,cathode:-510Vのときの宇宙線トリガーカウンターを用い た測定で得られた直線プロットを486イベント重ね合わせたプロット(ch32,ch56は常にノ イズを出していたので非表示)
図 4.15において0ch∼31chにノイズが多い原因について、FADCボードが32chごとにス ロットが分かれており、ケーブルやコネクタ、スロットの個体差によるものだと考えられる。
なお、図4.15は数百イベントを重ね合わせているため多く見えるが、1イベントあたりのノ イズは少量であり測定には問題ない。
さらに、カソード電圧を変えて測定した結果を図 4.16に示す。
図4.16: anode:1700V,pickup:0Vでcathodeを-510V,-700V,-900V,-1100V,-1300V,-1500Vと 変化させたときの宇宙線トリガーカウンターを用いた測定で得られた直線プロットをそれぞ れで全イベント重ね合わせたプロット(ch32,ch56は常にノイズを出していたので非表示)
図 4.16をみるとわかるようにカソード電圧を深くしていくにつれてドリフト時間が伸び ていくことがわかる。すなわち、ドリフト速度が電場を大きくすると遅くなっているという ことがわかる。このデータを図4.17(赤)にまとめた。また、Sauliの実験[15]から図4.17
(黒)のような結果が得られており、今回の実験と一致する。したがってP10ガスにおいて はT3チェンバーは計算と同じ一様電場を形成することができ、またチェンバー内に空気や 水分が混入することなく正常に動作することが確認できた。
図 4.16において-1100Vから全体にノイズが目立つ。これは6個のデータ全てを連続して 測定しているため、時間経過でFADCボードが発熱し、ある特定のbitが立ってしまうこと によるノイズであり、現状では一定時間測定したら熱が冷めるまで電源を切ることで解消す る。今後、長時間の連続稼働のために冷却機構を搭載することを予定している。
図4.17: P10ガスのドリフト速度の測定値(黒はSauliの実験によるプロット[15]、赤は本 研究のプロット)
図4.17において、電場を強くするにつれてドリフト速度が遅くなるという、直感とは逆の 結果となっている。これは、ガス分子固有のものであり、P10ガスではメタンガスが影響し ている。ドリフト電子のエネルギーは電場を強くするにつれて大きくなり、あるエネルギー を超えるとガス分子と非弾性散乱を起こし、分子の回転や振動励起を引き起こす。この相互 作用により、ドリフト電子のエネルギーが急速に下がりドリフト速度が遅くなってゆく。一 方、ArやHeなどの不活性気体は、回転や振動励起状態が存在しないので、この効果は見ら れない。[16]
4.2.4 宇宙線の電荷量
図4.18: anode:1700V,pickup:0Vでcathodeを-510V,-700V,-900V,-1100V,-1300V,-1500Vと 変化させたときのP10ガスで宇宙線トリガーカウンターを用いた測定で得られた信号の電荷 量分布(横軸:電荷量[ADCカウント]、縦軸:イベント数)
P10ガスで測定された電荷量の分布を図4.18に示す。セットアップについては図 3.11の セットアップで、図 4.16で測定したデータの電荷量をヒストグラムにしたものである。カ ソードワイヤーの電圧は増幅率に影響を及ぼさないため全てのヒストグラムで同様の結果と なっている。全ての場合でランダウ分布に従う分布になっており、測定した信号が宇宙線の ものであることがわかる。またヒストグラムのピーク電荷量は全体的に平均して55カウント 程度であり、4.1節で求めたP10ガスでの測定で期待されるカウント数46カウントとほぼ一 致するため、T3チェンバーと読み出しエレクトロニクスは期待通り動作していると言える。
4.2.5 anode-pickup信号の大きさ
図4.19: anode:1700V,pickup:0V,cathode:-510VでP10ガス中で宇宙線トリガーカウンター を用いた測定で得られたアノードワイヤー信号(左)とピックアップワイヤー信号(右)の 比較(横軸:電荷量[ADCカウント]、縦軸:イベント数)
P10ガスでのアノードワイヤー信号の電荷量とピックアップ信号の電荷量それぞれの分布 を図4.19に示す。アノードワイヤー信号の平均値は約116、ピックアップワイヤー信号の平 均値は約52であり、ピックアップワイヤー信号はアノードワイヤ信号のおおよそ半分の信号 量となることがわかった。