第 4 章 常温における炭素材料の水素吸蔵
4.1 SWNTs 以外の新しい炭素材料の水素吸蔵
第3章で述べたとおり,SWNTsでは常温でDOE目標を達成出来るほど多くの水素を物理吸着 することは難しいことが分かった.そこで本節では吸着材料の幾何学構造が変化すると常温での 水素吸着量どう変化するのか確かめるため,SWNTs 同様新しい炭素材料として知られている Double-Walled Carbon Nanotubes(DWNTs)とSingle-Walled Carbon Nanohorns(SWNHs)に焦点を 当ててみることにする.
4.1.1 DWNTによる水素吸着
Fig. 4.1に示すように,DWNTはSWNTを同心円状に2枚重ねた幾何学構造を持っている.そ
の幾何学構造の違いから,SWNTsよりもDWNTsの方が水素分子との相互作用が強いことが十分 考えられ,常温でも水素分子を多く吸着するのではないかと考えた.ところが現時点でその存在 が確認されているDWNTsは内側と外側のSWNTの面間距離が4 Å未満のものだけであり,この 場合内側と外側のSWNTの間に水素分子が入り込むことが出来ず吸着しないため,DWNTの表面 積が有効に使われておらず大きな吸着量は得られないと考えられる.そこで,将来的にSWNT面 間距離が大きいDWNTsを作ることが出来るようになると想定し,(10,10)と(20,20)のSWNTが重 なって出来た1本のDWNTの常温における水素吸着の性質を調べた.
温度300 K,圧力10 MPaで吸着した水素のポテンシャルエネルギーを(16,16)のSWNTと比べた
ところ,DWNTではSWNT面間で非常にポテンシャルが低くなった(Fig. 4.2).しかし,炭素重 量あたりの水素吸蔵量を計算したところ,(16,16)のSWNTが1.05 wt%(Fig. 4.3(a)),DWNTは1.1
wt%(Fig. 4.3(b))で,僅かに(16,16)のSWNTよりは大きくなったが大きな差は見られなかった.
SWNT層間距離の最適化や,3枚以上のSWNTを重ねた多層炭素ナノチューブ(MWNT)を用い
Fig. 4.1 Structure of DWNT.
ることであるいは高い水素吸着量が得られるかも知れないが,それでも重量あたりの水素吸着量 が5倍や6倍に増えるとは考えにくく,従ってMWNTsを用いても常温でDOE目標を達成する水 素吸着量を得ることは難しいと言えるであろう.
(a) 1.05 wt% on (16,16) SWNT (b) 1.1 wt% on (10,10) and (16,16) DWNT Fig. 4.3 Snapshots of hydrogen adsorption on SWNT and DWNT.
0 20 40
–60 –40 –20 0
Distance [Å]
Pot ent ial Ener gy [ m eV ]
MWNT
(16,16) SWNT
Fig. 4.2 Comparison of one-dimensional potential energy distributions of hydrogen adsorption between (16,16) SWNT and DWNT.
4.1.2 SWNHによる水素吸着
SWNHは,Fig. 4.4に示すように,グラフェンを巻いて円錐状にした幾何学構造をしている.円
錐構造であるSWNHの内部は円柱構造であるSWNTやDWNTとは異なるポテンシャル分布をし ており(Fig. 4.5),そのため水素吸着の性質も異なるのではないかと考えた.
温度300 K,圧力10 MPaで1本のSWNHの水素吸着量を計算したところ1.0 wt%となり,前節
で求めた(16,16)のSWNTやDWNTよりも吸着量が小さいという結果に終わった.しかしながら,
Fig. 4.5に示したように,SWNH内部の先端付近は非常にポテンシャルエネルギーが低いことから,
実験で非常に大きな水素吸着量が報告されている,SWNHが重なったようなヘリングボーン構造 の炭素材料であればあるいは大きな水素吸着量が得られるかも知れない.本研究では計算するに は至らなかったが,ヘリングボーン構造の水素吸蔵については今後の研究に期待する.
Fig. 4.4 Structure of SWNH.
-70.000 0.000
[meV]
-70.000 0.000
[meV]
Fig. 4.5 Potential energy distribution of hydrogen molecules adsorbed on SWNH.