Water O-H streching vibration
図3.2-10 大気酸化した未照射のPNC1520、SUS304からのラマンスペクトラム
(ここでは、OH 伸縮振動付近でのラマンスペクトラムを示しており、参照データとして、
純水からのラマンスペクトラムを併せて示した。)
3.2-16
図3.2-11 大気酸化したPNC1520におけるUV照射後の暗所保持中のOH伸縮振動からの ラマンバンドスペクトラムの変化
(これらのスペクトラムは 609 cm-1で確認された酸化相の Fe2O3バンドで規格化しており、
図中には、“Liquid water”と“Ice-like water”からのラマンバンドのピーク位置をそ れぞれ示した。)
図3.2-12 材料表面に存在する吸着水中の“Liquid water”と“Ice-like water”の存在 状態の模式図
(材料の表面近傍の1〜3層の水分子は“Ice-like water”であり、それよりも上側に存在 するものが“Liquid water”である。)
3.2-17
図3.2-13 大気酸化したPNC1520とSUS304におけるUV 照射後の暗所保持中の(a)“Ice-like water”と“Liquid water”のラマンバンド強度の暗所保持時間依存性 と(b)“Ice-like water”と“Liquid water”との強度比の関係
図3.2-14 Fe2O3への2種類のOH配位ネットワークの模式図
(Type 1とType 2はそれぞれ、6配位と4配位のFeにおけるFeとOHとの結合状態を示 している。)
3.2-18
0 2 4 6 8 10
0 10 20 30 40 50
T hi ckn es s o f H
2O ( nm )
Holding in darkness (h)
Error bar length indicates standard deviation.
//
//
Unirr.
MAX
AVE PNC1520
図3.2-15 大気酸化したPNC1520におけるUV照射後の吸着水膜厚の暗所保持時間依存性
(膜厚はSPMにおけるF-Dカーブのジャンプイン反応から評価した。また、エラーバーの長さ は標準偏差を意味し、白抜き、黒塗りのプロットはそれぞれ、平均値、最大値を意味する。)
図3.2-16 大気酸化したPNC1520におけるUV照射後、暗所下において66時間保持試料 の(a)吸着力の二次元マッピングと、(b)Region1-3におけるF-D曲線
(図(a)において吸着力の濃淡が確認されており、これらの代表的箇所(Region 1-3)に おけるF-D曲線を図(b)にまとめて示しており、F-D曲線から評価された吸着水の膜厚を 両矢印で示した。)
3.2-19
0 5 10
0 5 10 15 20
Raw data Hydrophilic Hydrophobic
P er cen tag e ( % )
Adhesion force, F
ad
(nN)
PNC1520
T = 66 hr ( θ : ~49
o)
図3.2-17 大気酸化したPNC1520におけるUV照射後、暗所下において66時間保持試料 での吸着力分布
(当該試料における静的接触角は約 49°であり、親水性、疎水性成分のピーク形状を青、
赤色の破線でそれぞれ示した。)
図3.2-18 大気酸化したPNC1520におけるUV照射直後、66時間暗所保持、未照射試料で の(a)吸着力分布と、(b)親水性、疎水性成分からの代表的なF-D曲線
3.2-20
図3.2-19 大気酸化したPNC1520におけるUV照射後の親水性成分と疎水性成分の積分値 の暗所保持時間依存性
(親水性成分と疎水性成分の積分値はSPMにおける吸着力分布のピーク分離にから評価さ れた値である。)
4) 濡れ性と微細組織との相関
大気酸化した PNC1520 における UV 照射後に暗所保持中の親水性成分と疎水性成分 の積分値の静的接触角との関係を図 3.2-20 に示す。ここで、親水性成分と疎水性成 分の積分値は図 3.2-19 に示した SPM における吸着力の分布解析から求められた実験 値であり、一方で、静的接触角は図 3.2-9の実験値である。また、同図には、未照射 材の試験結果も併せて図示した。これらより、接触角が 30°以下の領域では、親水 性成分の積分値が接触角の増加に伴い線形的に低下し、~30°では 4 nN の値を示し、
その後、接触角に依存しなかった。一方で、疎水性成分は、30°以下の領域では、接 触角に概ね依存せず、~2nN の値を示したが、30-90°範囲では、保持時間の増加に 伴い直線的な増加傾向を示した。これまでに、炭化水素(ハイドロカーボン等)のよ うな疎水性成分の試料表面への吸着と脱着反応によって濡れ性が変化することが報告 されているが [3.2.30]、この有無を評価するため、大気酸化した PNC1520 に対し、
オゾン洗浄による濡れ性変化を評価した。オゾン(O3)による表面洗浄化作用につい ては、工学的にも幅広く利用された手法であり [3.2.31]、酸化作用の高い O3を材料 にフローすることで、試料表面に存在する有機物系のコンタミを分解、除去できる。
本研究では、1時間当たりに7000 appmのO3を材料に吹き付けた際の材料の静的濡れ 性変化を評価した。その結果を図 3.2-21 に示す。オゾン洗浄前の試料の濡れ性は~
3.2-21
80°であったが、その後、洗浄時間の増加に伴い接触角が低下し、~1.5 時間保持で
は、接触角が~40°に達し、その後、オゾン洗浄時間に依存しなかった。また、図 3.2-22 には、大気酸化した PNC1520 の(a)UV 未照射、(b)照射材における XPS分析 結果をまとめて示す。ここでは、結合エネルギーが281-292 eVのC-1sピークを示し ており、288、286、285 eV に確認されるピークは C=O、C (or Cl)、C (or
C-H)からのXPSスペクトラムである。これらより、C=Oピークについては、UV照射の有
無に依存せず、概ね同程度であったのに対し、UV 照射した試料では、C-C ないし C-H のハイドロカーボンに由来したピーク強度が著しく減少することがわかった。なお、
図3.2-23に大気酸化したPNC1520に対し、XPSチャンバー内でArスパッタリングを 実施し、Ar スパッタリング時間を変化させた際の(a)C-1s ピークの XPS スペクトラ ムと(b) 285 eVのピーク強度のArスパッタリング時間依存性を示す。Arスパッタリ ング前の試料表面のC濃度は8x103 cpsであり、Arスパッタリングすることで、C濃 度が減少し、5.5x10-3 hr(20 s)のスパッタリングによって、C 濃度が 2x103 cps ま で減少した。なお、UV照射材における C濃度は~3x103 cps程度であったことから、
UV照射での表面のハイドロカーボンの除去効果としては、XPSにおける~4.2x10-3 hr
(~15 s)のArスパッタリングと概ね同程度であることがわかった。
このように、UV ならびにγ線照射下では、空気中の酸素への放射線照射により O3
が形成し、これによる表面洗浄効果が生じる。先行研究で実施されているγ線照射に よるジルコニア及びクロミアにおいても類似機構による接触角の変化が報告されてい る [3.2.32]。これらより、RISA 効果による酸化オーステナイト系ステンレス鋼の表 面濡れ性は、試料表面への親水性ならびに疎水性成分の吸着/脱離の速度論によって 説明出来た。すなわち、RISA 効果によって試料表面上に OH 基が形成するが、これら は、暗所保持よって徐々に脱離する。この脱離反応は主に 30°以下における濡れ性 を制御する主要因子であるが、一方で、90-30°の範囲内では、ハイドロカーボンの ような疎水性成分の材料表面への吸着に依存した変化と考察される。このように、
RISA 効果によって生じた表面濡れ性の変化は親水性と疎水性成分の吸着、脱着反応 から機構論的に説明されることを実験的に明らかにした。
3.2-22
図3.2-20 大気酸化したPNC1520におけるUV照射後に暗所保持中の親水性成分と疎水性 成分の積分値の静的接触角との関係
(ここで、親水性成分と疎水性成分の積分値は図3.2-19に示したSPMにおける吸着力の 分布解析結果であり、一方で、静的接触角は図3.2-9 の実験値である。なお図中の破線は、
親水性成分と疎水性成分の実験結果の傾向を指し示したものである。)
SUS304
図3.2-21 大気酸化したPNC1520、SUS304における静的接触角のオゾン洗浄時間依存性
(O3発生器より7000 appmO3/hrガスを試料に吹き付け、静的接触角の変化を評価し た。)
3.2-23
図3.2-22 (a)UV照射前ならびに、(b)UV照射後の大気酸化したPNC1520におけるC-1s からのXPSスペクトラム
(図中には、C=O、C-O、C-Cl、C-C、C-HからのXPSスペクトラム位置を示した。)
図3.2-23 大気酸化した未照射のPNC1520におけるArスパッタリングによる(a)XPSスペ クトラムの変化と、(b)285 eV付近のハイドロカーボン由来のピーク強度の Arスパッタリング時間依存性
(Arガススパッタリングは最大で60 s実施し、図(b)中にはUV照射した試料におけるハ イドロカーボンからのピーク強度を赤色の破線で示した。)
3.2-24
②表面親水化成分のSCW中での安定性
上述の評価結果より、RISA 効果による表面濡れ性変化は、材料への OH 基等の親水 性成分の吸着(親水化効果)と、ハイドロカーボン等の疎水性成分の吸着反応(疎水 化効果)によって説明できることを実験的に確認した。そこで、SCW 炉環境下におけ る RISA 効果の発現の有無を評価するため、UV 照射によって RISA 効果が発現した試 料を対象に、SCW環境下におけるOH基の安定性を評価した。
SCW 酸化した未照射の PNC1520 を対象とし、SCW 前後における(a) FT-IR スペクト ラムと(b) 吸着水の吸光度の測定結果を図3.2-24
にまとめて示す。ここでは、3000-3500 cm-1で確認される OH の伸縮振動ピークを用い、試料表面の吸着水の状態を評価
した。FT-IR の分析箇所ならびに試料に依存した結果の違いはあるものの、SCW 酸化 処理後では、SCW 酸化処理前に比べ吸着水からの高いシグナルが検出されており、そ の差は、~0.014 であった。また、図 3.2-25 は、SCW 酸化した未照射の PNC1520 に 対し、SCW酸化試験後の暗所保持中の(a)FT-IR スペクトラムと(b) 吸着水の吸光度 の結果である。ここでも結果のバラつきが大きく、その定量的な変化を捉え難いが、
暗所保持を実施することで、ピーク強度が減少する傾向が確認された。このように、
FT-IR分析では、分析箇所ならびに分析試料に応じ、OHの伸縮振動ピークが大きく変
化することがわかった。そこで、本研究では、図 3.2-26 に示した実験フローにより、
同一試験片の逐次評価を実施することで、SCW 酸化処理後の OH 基の安定性を評価し た。ここで、図(a)の実験フローにおける星印は FT-IR の分析箇所を意味しており、
また、図(b)には、SCW酸化における試料の熱処理履歴を示した。SCW酸化処理におい ては、設定温度を510℃と設定し、510℃, 32 MPaの条件下で3.6 ks保持しており、
当該条件では、昇温と冷却中の熱履歴考慮した SCW 条件への滞在時間は大よそ 7.2 ksと見積もられた。
SCW酸化したPNC1520に対し、UV照射後、ならびにSCW酸化試験後の(a) FT-IRス ペクトラムと、(b) 吸着水における“Ice-like water”と“Liquid water”のピーク 強度の暗所保持時間依存性を図 3.2-27 にまとめて示す。ここで、図 3.2-27(a)に示
した B.G.はガラス基板に金蒸着した試料からの FT-IR スペクトラムであり、また、
“Ice-like water”と“Liquid water”のピークをそれぞれ破線で示した。これらよ り、UV 照射により、OH 伸縮振動のピーク強度の増加が確認された。これは、図 3.2-18 – 3.2-20 に示した結果と同様に、RISA 効果による試料表面への OH 基の形成に依 存した変化と考えられる。また、当該材料に SCW酸化を実施することで、若干の強度 低下が減少されたが、その後、さらに暗所保持を実施することでピーク強度は放物線 上に減少した。これらより、未照射材と SCW 材における差は、図 3.2-24 に示した未 照射材のける SCW 酸化処理前後での OH 濃度差の範囲内であり、また、その後の暗所 保持におけるOH強度低下についても、概ね、図3.2-25に示した結果に従う傾向を示 した。このように、図 3.2-27 に示した結果については、UV 照射による RISA 効果で 形成したOH基は、SCW中に晒すことで、その多くが消失したと判断される。