誘電体 1 層基板の
4.3 SPDT スイッチを用いた直交円偏波
切り替え平面機能アレーアンテナ
4.3.1 基本構成
本節では,直交励振平面アレーアンテナのさらなる展開である直交円偏波切り替え平 面機能アレーアンテナについて述べる (図3-3).
図 4-8に,SPDTスイッチを用いた直交円偏波切り替え平面機能アレーアンテナの基 本構成を改めて示すと共に,その実現例を示す.同図 (a) において,本アレーアンテナ は,直交円偏波共用平面アレーアンテナ (第 3 章) と SPDTスイッチ (第 4章) を誘電 体1層基板で一体複合化した構成である.この構成により,ダイオードの制御印加電圧 を切り替えすることで,2 種類の円偏波 (RHCP,LHCP) を切り替えることができる.
これは,円偏波切り替えアレーアンテナとして初めて実現したものであり,その構造は 極めて簡易である.
4.3.2 基本動作
図4-9 (a) と (b) に,本アレーアンテナの基本動作を示す.例えば,本アレーアンテ
ナの入力ポートPort 1よりRF信号を入力し,SPDTスイッチの出力ポートをPort 2と する.Port 2より出力された信号は,/2ハイブリッド回路を伝搬し,Port 4とPort 5に 信号が出力される.この時,Port 4の出力信号の位相はPort 5に対して/2だけ進む.
その後,位相差/2の2つの信号はアレーアンテナ給電回路の直列・並列分岐回路を伝 搬し,各アンテナ素子へ給電される.この時,各アンテナ素子上には2つの信号が存在 する.これらの信号は,円偏波励振の必要条件である直交かつ位相差/2 を持つ.その 結果,右旋円偏波 (RHCP) が励振される.同様に,SPDTスイッチの出力ポートがPort
3の場合,Port 4の出力信号の位相はPort 5に対して/2だけ遅れる.この場合,左旋円
偏波 (LHCP) が励振される.
59 (b) 実現例 [80×120×0.8 mm]
図4-8 10 GHzのSPDTスイッチを用いた直交円偏波切り替え平面機能アレーアンテナ
第4章 マイクロ波複合技術による直交偏波切り替え平面機能アレーアンテナ
60 (a) 右旋円偏波 (RHCP) (b) 左旋円偏波 (LHCP)
図4-9 SPDTスイッチを用いた直交円偏波切り替え平面機能アレーアンテナ
の基本動作
61 ナ,SPDTスイッチ) の特性は第3章,第4章より確認済みのため,ここでは一体複合 化した全体の特性について述べる.使用する基板やダイオードは前節と同じものである.
解析と測定の周波数範囲を9.0~11.0 GHzとした.
図4-10 (a) と (b) に,本アレーアンテナの軸比特性と反射係数特性の測定値をそれぞ
れ示す.同図 (a) より,10.2~10.6 GHzで軸比3 dB以下を実現し,2種類の円偏波 (RHCP,
LHCP) 励振を確認した.この場合の3 dB軸比帯域は約3.8%という結果を得た.直交円
偏波共用平面アレーアンテナと比較し,3 dB軸比帯域は狭帯域である.これは,/2ハ イブリッド回路の特性を最大限に活かせてないことによるものである.円偏波共用の場 合は,/2ハイブリッド回路のアイソレーションポートを50 で終端する.これに対し て,円偏波切り替えの場合は,アイソレーションポートをSPDTスイッチと接続してい るため,そこで反射が起こり,/2ハイブリッド回路の特性劣化を引き起こしている.
これにより,軸比特性が直交円偏波共用よりも狭くなっている.同図 (b) より,S11が
9.25~10.75 GHzにおいて-10 dB以下を実現した.さらに,図4-11 (a) と (b) に,2種
類の円偏波 (RHCP,LHCP) の測定の放射パターンを示す.2 種類の円偏波の xz 面と yz面の放射パターンは,非常によく一致している.しかし,xz面の= 120度方向に放 射がある.これは,xz面とyz面の地板のサイズの違いによるものなので,地板サイズ を変更すれば改善できる.
以上より,本直交円偏波切り替え平面機能アレーアンテナは,ダイオードの制御印加 電圧の切り替えにより,直交する2種類の円偏波を自在に切り替えることができること を実証した.
第4章 マイクロ波複合技術による直交偏波切り替え平面機能アレーアンテナ
62
(a) 軸比特性 (b) 反射係数特性
図4-10 SPDTスイッチを用いた直交円偏波切り替え平面機能アレーアンテナの測定値
(a) 右旋円偏波 (RHCP) (b) 左旋円偏波 (LHCP)
図4-11 SPDTスイッチを用いた直交円偏波切り替え平面機能アレーアンテナ
の放射パターンの解析・測定値
63 4.4.1 基本構成
前節では,SPDT スイッチや/2 ハイブリッド回路を直交励振平面アレーアンテナと 一体複合化した平面機能アレーアンテナを実証した.しかし,本SPDTスイッチは,測
定で10 GHzで挿入損失3 dBであり,信号がアレーアンテナへ入力されるまでに大きく
損していた.その結果,アレーアンテナの特性劣化を引き起こしていた.そこで本節で は,低挿入損失・高アイソレーション特性を合わせ持つRF-MEMSスイッチに着目し,
そのスイッチを用いた偏波制御可能な平面機能アレーアンテナについて述べる.
RF-MEMSスイッチを用いた機能アンテナは,すでにいくつか報告されている[29,30,41] .
しかし,そのスイッチを用いた偏波制御可能な平面アレーアンテナの特性の報告は無く,
明らかにされていない.
図4-12 に,直交励振平面アレーアンテナとRF-MEMS スイッチを一体複合化した直 交直線偏波切り替え平面機能アレーアンテナの基本構成を改めて示す.そして,図4-13 に,その実現例を示す.図4-13 (a) に示す黒いチップがRF-MEMSスイッチである.本 アレーアンテナは,RF-MEMS スイッチの駆動電圧を切り替えることによる偏波角 =
+45/-45 度の直線偏波を自在に切り替えることができるアレーアンテナである.アレー
アンテナ部には,多層構造の直交励振スロットリングアレーアンテナ[57]を使用する.こ のアレーアンテナの基本構成や基本動作はパッチアレーアンテナの場合と同様であり,
多素子化も容易に実現できるという特徴も有する (図3-2).さらに,本直交励振スロッ トリングアレーアンテナは,高周波機能回路や半導体チップ等を同一基板上で一体複合 化できるという特徴も有する.そのため,RF-MEMSスイッチとの一体複合化は容易に 実現できる.
第4章 マイクロ波複合技術による直交偏波切り替え平面機能アレーアンテナ
64
図4-12 RF-MEMSスイッチを用いた直交直線偏波切り替え平面機能アレーアンテナの
基本構成
65 (a) 表面
(b) 裏面
図4-13 7.5 GHzのRF-MEMSスイッチを用いた直交直線偏波切り替え平面機能アレー
アンテナの実現例 [80×110×1.6 mm]
RF-MEMS switch
第4章 マイクロ波複合技術による直交偏波切り替え平面機能アレーアンテナ
66 4.4.2 基本動作
図4-14に,本アレーアンテナの基本動作を示す.例えば,RF-MEMSスイッチの出力
ポートをPort 2とする.Port 1より入力されたRF信号は,RF-MEMSスイッチを通過し,
Layer-1のPort 2に出力され,伝搬される.そして,信号はアレーアンテナ給電回路の
直列・並列分岐回路を伝搬し,各スロットリングアンテナ素子へ給電される.この時,
偏波角 = -45度の直線偏波が励振される.同様に,RF-MEMSスイッチの出力ポートが
Port 3の場合,Port 1からの入力RF信号はPort 3側,即ちLayer-3のマイクロストリッ
プ線路を伝搬する.その後,信号はアレーアンテナ給電回路を伝搬し,各スロットリン グアンテナ素子へ給電される.この時,偏波角 = +45度の直線偏波が励振される.
(a) 偏波角 = -45度の直線偏波 (b) 偏波角 = +45度の直線偏波
図4-14 RF-MEMSスイッチを用いた直交直線偏波切り替え平面機能アレーアンテナ
の基本動作
67 工性などの優れた特徴から,光通信分野や医療分野をはじめ多岐にわたる分野への研究 がなされ,この技術を高周波帯に応用したのが RF-MEMS 技術である.MEMS 技術の 一般的な特徴は,(1) 大量生産が可能なデバイス製作法,(2) 微小な 3 次元構造の製作 が可能,(3) 製作されたMEMSデバイスはリニアに動作する,(4) Si (シリコン) 系回路 との整合が良い.特に (3) において,MEMS 技術を応用したメカニズムなスイッチ
(RF-MEMSスイッチ) では,機械的に完全なON/OFFが行われるため,低挿入損失・高
アイソレーションを実現する.RF-MEMS スイッチは,多くの研究機関で低駆動電圧,
かつ小型化なRF-MEMSスイッチの研究開発されている[58-61].
本節のアンテナでは,OMRON製2SMES-01 のRF-MEMSスイッチを使用した[60,61]. 図4-15と4-16に,その概略図とポート配置,そして基本動作をそれぞれ示す.使用す
るRF-MEMSスイッチは,入力ポート1個 (Port 1),出力ポート2個 (Port 2,Port 3),
駆動回路2個 (#1,#2) を有し,駆動電圧34 Vで動作するSPDTスイッチ回路である.
スイッチを正常に動作させるためには,先に駆動回路 (#1,#2) に電圧を印加し,入力
ポートPort 1へRF信号を入力する必要がある.これは,スイッチ動作の前にRF信号
を入力すると,RF 信号レベル次第ではスイッチが損傷し,動作不良を起こす可能性が あるためである.図4-16 (a) より,駆動回路#1 に電圧を印加すると,パッケージ内の 可動電極が固定電極と結合する.そして,入力ポートPort 1から出力ポートPort 2への 信号線が構成され, Port 1より入力された信号はPort 2へと出力される.この時,Port 3 はアイソレーションポートとなる.同様に,駆動回路#2 に電圧を印加すると信号は
Port 3へ出力される.この時,Port 2はアイソレーションポートとなる.従って,RF-MEMS
スイッチは機械的に完全なON/OFFが行われ,低挿入損失・高アイソレーションを実現 している.
図4-17 に,基板に装荷した時のRF-MEMSスイッチの回路構成と実現例をそれぞれ 示す.基板には,前節と同じものを使用した.RF-MEMS SPDT スイッチ (OMRON製
2SMES-01) は,入出力ポートがコプレーナ線路 (CPW) である.そのため,アレーアン
テナと一体複合化するためには出力ポートをマイクロスロリップ線路 (MSL) へ変換 する必要がある.そこで,ビア・ホール (Via-hole) を用いたCPW-MSL変換により,伝 送線路変換を行う[49].本スイッチは,静電駆動方式を採用しているため,放電抵抗とし