表5.1 2次元9/7ウェーブレット順変換演算量(HPF部)
演算位置 加算 乗算
HH (1 + 1/2 + 1/2)N ×M (1/4 + 1/4 + 1/4)N ×M
HL1 1/2N ×M 1/4N ×M
LH1 1/2N ×M 1/4N ×M
合計 3N ×M 5/4N ×M
なる.
したがって,導出した2次元9/7ウェーブレット順変換の演算量は,加算12N ×M,乗 算5.5N×M となる.これは,基とした1次元9/7ウェーブレット順変換で2次元分の順変 換を行った時の演算量(加算8N ×M,乗算6N ×M)と比較すると,加算は1.5倍となっ たが乗算に関しては8%程度減少した.導出した2次元9/7ウェーブレット順変換をLSIで 実現する際,加算器より乗算器の方がハードウェアコストが大きいため,乗算回数を減らせ るのは非常に大きな意味がある.
メモリに関しても,一度に2次元の変換を行うため不要であることは明白である.
5.2 SN 比による検証 · 評価
今回導出した2次元9/7ウェーブレット変換は順変換フィルタのみである.これはデコー
ダは JPEG2000 part1に準拠したデコーダをそのまま使用することを念頭に置いたからで
ある.また,導出したアルゴリズムは LSIで実装することを目的としている.そこで,係 数を将来LSIの演算bit数として標準となるであろう16bit固定小数点で近似し,この近似 した値から見ればほぼ無限に等しい精度を持つ64bit浮動小数点演算を行ったものとの間で SN比を測定し,係数感度がどの程度影響するかを検証し,導出アルゴリズムの評価を行う.
表5.2がその結果を示す表である.使用した画像は付録Aに掲載している.測定条件は以 下に示すとおりである.
5.2 SN比による検証·評価
表5.2 複数の画像に対するSN比
画像名 SN比(1) [dB] SN比(2) [dB]
Aerial 66.5723 74.4050
Airplane 67.4732 74.4050
Girl 67.2905 74.6963
Mandrill 67.6271 72.1978
Pepper 67.3687 73.3895
• 画像は縦256pixel,横256pixelのモノクロ画像とする
• 順変換を1回,逆変換を1回行う
• 順変換フィルタとして導出アルゴリズムの係数は全て16bit固定小数点として近似表現 したものを定数として与える
• 比較用の順変換フィルタとしてX-Y分離型9/7ウェーブレット変換の係数は全て64bit 浮動小数点での近似値を与える
• 入力信号は符号無し整数8bitを64bit浮動小数点表現し,128減算したものとする
• 演算は全て64bit浮動小数点演算で行う
• 逆変換フィルタは比較用の順変換フィルタの逆変換フィルタを共通して用いる
• 逆変換の係数は全て64bit浮動小数点での近似値を与えたもので行う
• 順変換フィルタが導出アルゴリズムのものの結果を S0,比較用の X-Y 分離型 9/7 ウェーブレット変換のものの結果をS とする
• 比較用順変換フィルタと逆変換フィルタの係数を16bit固定小数点として近似表現した ものを定数として与えたものの結果をS00 とする
• 逆変換後の画像S とS0の差分を取ったものをN とする
• 逆変換後の画像S とS00の差分を取ったものをN0とする
• SN比(1)は10log10(S2/N2)で求めた
5.2 SN比による検証·評価
• SN比(2)は10log10(S2/N02)で求めた
5種類のテスト画像の平均SN比は約67 [dB]となり,比較用のフィルタが64bit浮動小 数点であることから約11bitの精度で出力されていることが判明した.また,SN比(2)で 表される比較用のX-Y分離型で順変換と逆変換を16bit固定小数点で近似した係数で行っ た場合と比較して,平均7 [dB]程度劣化している.以上2点から,16bit固定小数点の係数 を与えたにも関わらず,それ以下の精度まで画質が劣化した原因は1次元の順変換では発生 しない係数同士を乗じて演算する部分にあると考えられる.
第 6 章
結論
本論文ではウェーブレット変換をLSI化する際に大きなハードウェアコストとなるメモリ を削減するため,メモリを必要としない直接的な2次元ウェーブレット順変換について検討 した.[2]で導出された2次元5/3ウェーブレット順変換上で2次元9/7ウェーブレット順 変換を行った場合,リフティングを行う回数が少ないため1演算ごとのフィルタ次数が大き くなり,NをX方向の要素数,MをY方向の要素数とすると,加算数32N ×M,乗算数 10N ×M とX-Y分離型9/7ウェーブレット変換と比較して加算で4倍以上,乗算で1.67 倍以上演算量が増加していた.この問題を解決するため,新たに1 次元9/7リフティング 構造を基にして2次元9/7ウェーブレット順変換を導出したところ,加算数12N ×M,乗 算数5.5N ×M となり,X-Y分離型9/7ウェーブレット変換と比較して加算は50%増しと なったが,乗算については約8%の削減となった.また導出された方式は適切な係数を与え,
多段に組み合わせることでよりタップ数の多いフィルタを構成することが可能であり,1次 元リフティング構造を基にした2次元ウェーブレット順変換の一般形となっている.
導出したアルゴリズムをLSIで実現することを考え,16bit固定小数点化した係数を与え てシミュレーションを行った.64bit浮動小数点の比較用1次元リフティングウェーブレッ ト変換による 2次元変換の出力をSとし,シミュレーション結果との誤差をNとして比較 したところ,約67 [dB]という平均SN比を得た.
今後は導出されたアルゴリズムの誤差解析を含めて検討し,演算語長の短いALUで実装 する方式や,SN比の減少が2次元ウェーブレット変換特有のものなのかを検証したい.
謝辞
本研究を行うにあたり基礎から応用,また文書作成の部分に関してまで幅広く御意見,御 指導いただいた西谷隆夫教授に心より感謝いたします.
また副査をお引き受けいただき,論文としての不足部分などの指摘をいただいた木村義政 教授,福本昌弘助教授の御二人に心より感謝いたします.
研究について行き詰った時,自身が多忙にも関わらず快く異なる視点から解決法の提案な どを提示してくれた西谷研究室4回生佐藤寿洋氏,鈴木宏史氏,田岡佑一氏,高橋幸太郎氏 に感謝いたします.
参考文献
[1] 小野定康,鈴木純司,“ わかりやすいJPEG2000の技術,”オーム社,2003.
[2] 鈴木宏史,千葉晃弘,西谷隆夫,“ リフティング構造を用いた二次元直接離散ウェーブ レット変換,”第20回電子情報通信学会信号処理シンポジウム,11月2005.
[3] Akihiro CHIBA,Hiroshi SUZUKI and Takao NISHITANI,“Consideration on the Direct Two-dimensional Wavelet Transform,”電気関係学会四国支部連合大会 (SJ-CIEE),9月 2005.
[4] 中野宏毅,山本鎭男,吉田靖夫,“ ウェーブレットによる信号処理と画像処理,”共立出 版株式会社,1999.
[5] Ingrid DAUBECHIES and Wim SWELDENS,“FACTORING WAVELET TRANSFORMS INTO LIFTING STEPS,”Journal of Fourier Analysis,vol.4, Nr.3,pp.247—269, 1998.
付録 A
実験使用画像
図A.1 参照画像1:Aerial 図A.2 参照画像2:Airplane