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第4章 自動運転の段階的実現に向けた法律上・運用上の課題の検討

第1節 SAE レベル3以上の自動運転システムの実用化を念頭に入れた交通法規等の

1 SAE レベル3以上の自動運転システムに関する我が国における動向

自動運転技術は、将来における我が国の交通事故の削減や渋滞の緩和等に不可 欠なものと考えられるところ、近年、国内外において完全自動運転を視野に入れ た技術開発が急速に進展しており、特に、自動運転の段階的実現に向けた課題等 に関するヒアリングの結果(第2章参照)のとおり、2020 年頃に SAE レベル3の 自動運転システムの販売を予定している国内メーカーが存在する。

このような中、「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」において、「2020 年までの 準自動パイロットの実現を踏まえて、その後、2020 年目途に自動パイロット、ま た、2025 年目途に高速道路での完全自動運転システム(SAE レベル4)の市場化を 見込む」とされ、また、「2020 年までに SAE レベル4の無人自動運転移動サービス

(完全自動運転による移動サービス)の実現を目指す」とされているところ、自 動運転と道路交通に関する条約(昭和 39 年条約第 17 号。以下「ジュネーブ条約」

という。)との整合性等に関する国際的議論を踏まえて、2020 年頃までに SAE レベ ル3以上の自動運転システムに係る走行環境の整備を図る必要がある。

2 SAE レベル3以上の自動運転システムに関する国際的議論の状況等

我が国が締約しているジュネーブ条約は、運転者の存在を前提としたものであ り、また、運転者に関する規定として、

 一単位として運行されている車両又は連結車両には、それぞれ運転者がいなけ ればならない。(第8条第1項)

 運転者は、常に、車両を適正に操縦し、又は動物を誘導することができなけれ ばならない。運転者は、他の道路使用者に接近するときは、当該他の道路使用 者の安全のために必要な注意を払わなければならない。(第8条第5項)

 車両の運転者は、常に車両の速度を制御していなければならず、また、適切か つ慎重な方法で運転しなければならない。運転者は、状況により必要とされる とき、特に見とおしがきかないときは、徐行し、又は停止しなければならない。

(第 10 条)

等が存在する。この点、UNECE の WP121や、その下に設置された IGEAD22において、自 動運転と国際条約との整合性等について議論が行われており、我が国からは警察 庁が積極的に参加しているところである。

第 74 回 WP1(平成 29 年3月開催)及び第 75 回 WP1(平成 29 年9月開催)の報 告書(いずれも抜粋・仮訳)のとおり、緊急時又は限定領域(Operational Design Domain。以下「ODD」という。)から出る際(以下「緊急時等」という。)に運転を 引き継ぐことが予定されている者が車両内に存在するものは両条約と整合的であ ることについて、コンセンサスが形成されつつある状況にある。

21 Global Forum for Road Traffic Safety(道路交通安全グローバルフォーラム)の通称

○ 第 74 回 WP1 報告書(平成 29 年5月 11 日付け公表)抜粋・仮訳

19 (略)車両のシステムにより車両が運転されている間、運転者が他の行為を 実施することができるかどうかについて議論が行われ、WP1 として、(ウィー ン条約)第8条第6項に関する次のプリンシプルについて合意した。

運転システムにより車両が運転され、当該システムが運転者に運転操作 を行うことを求めない場合は、運転者は次に適合する限り運転以外の行為 を行うことができる。

プリンシプル1: それらの行為が、運転者が車両システムによる運 転操作の引継ぎ要求に対応することを妨げるものではないこと プリンシプル2: それらの行為が、車両システムの定められた利用 方法、その定義された機能と整合的であること

○ 第 75 回 WP1 報告書(平成 29 年 10 月3日付け公表)抜粋・仮訳

17 改正に関する課題について、WP1 は、非公式文書 No.7(フランス及びオラン ダがウィーン条約改正の必要性について述べた文書)を考慮した上で、ウィ ーン条約第8条の改正は現時点必要ないことについて合意した23。これに関連 し、WP1 は、前回会合で合意された第8条第6項に関する次のプリンシプルに ついて再確認した。

運転システムにより車両が運転され、当該システムが運転者に運転操作 を行うことを求めない場合は、運転者は次に適合する限り運転以外の行為 を行うことができる。

プリンシプル1: それらの行為が、運転者が車両システムによる運 転操作の引継ぎ要求に対応することを妨げるものではないこと プリンシプル2: それらの行為が、車両システムの定められた利用 方法、その定義された機能と整合的であること

18 さらに、WP1 は、プリンシプルにおける「運転以外の行為」について、道路 安全を損なう又は道路利用者を危険にさらす可能性のある行為に関連して、

具体的に更に詳細な検討を行うべきであると合意した。WP1 はこの点に関する 一連のレコメンデーションについて詳細に検討する作業を開始することにつ いて合意した。

また、海外視察の結果(第3章参照)のとおり、ドイツでは、2017 年5月に、

レベル3以上の自動運転システムを導入した場合の責任の所在の明確化を目的と した法改正が行われたところである。

23 ウィーン条約第8条第6項には、“A driver of a vehicle shall at all times minimize any activity other than driving.”と定められている(ジュネーブ条約には同様の規定はない。)ところ、自動運転システムにより走行 している間に運転者が運転以外の行為を行うことができるかどうか及び運転以外の行為を行うことを可能にするため に条約の改正が必要かどうかについて議論が行われ、この点、現行条約上において、運転者は上記プリンシプルに適 合する限り運転以外の行為を行うことができると合意された。

3 SAE レベル3以上の自動運転システムの実用化を念頭に入れた交通法規等の在り 方についての検討

(1) 検討対象について

SAE レベル3以上の自動運転システムに関する国内の動向及び国際的議論の状 況等を踏まえ、調査検討委員会においては、SAE レベル3の自動運転システム及 び SAE レベル4の自動運転システムのうち ODD から出る際に運転を引き継ぐこと が予定されている者が車両内に存在するもの(以下「SAE レベル4の一部の自動 運転システム」という。)を検討対象とした。また、検討の前提として、WP1 に おける国際的議論を踏まえ、運転者席に乗車して自動運転システムを使用し、緊 急時等に運転を引き継ぐことが予定されている者をジュネーブ条約上の運転者で あると仮定した上で、現行法における運転者(本節においては、自動運転システ ムを使用し、緊急時等に運転を引き継ぐことが予定されている者を含む。)の義 務等について検討した。

(2) ユースケース

自動運転システムと運転者との運転の交代に関わる状況について、SAE J3016 を参考に、次のユースケースを検討した。ただし、調査検討委員会において、自 動車メーカーは、SAE レベル3の自動運転システムであっても、運転者が自動運 転システムからの運転交代要請に応答しない場合も想定し、自動運転システムに おいて何らかのリスク最小化対応24が行われるように設計することとなるとの指 摘があったことも踏まえ、今後、実用化が見込まれる自動運転システムの具体的 な機能に即して、更に議論を深めていく必要がある。

○ ユースケース1(SAE レベル3)

図7のとおり、SAE レベル3の自動運転システム25を使用して ODD 内を走行 中、緊急時には運転者による対応が必要となることから、運転者は、緊急時の 運転交代要請に対応できる状態であるべきと考えられる。

【図7】

○ ユースケース2(SAE レベル3)

図8のとおり、SAE レベル3の自動運転システムを使用して ODD 内を走行 中、ODD を出る際には運転者による対応が必要となることから、運転者は、

ODD を出る際の運転交代要請に対応できる状態であるべきと考えられる。

24 SAE J3016 に定義されている「Minimal Risk Condition」に移行することを指す。

【図8】

○ ユースケース3(SAE レベル4の一部)

図9のとおり、SAE レベル4の一部の自動運転システムを使用して ODD 内を 走行中、緊急時であっても、自動運転システムによるリスク最小化対応が行わ れるため、運転者が対応する必要はない(運転者の意思により運転の交代を行 うことは可能。)。ただし、自動運転システムによるリスク最小化対応が行われ た後、運転者には車両の再発進等の対応を行う必要があると考えられる。

【図9】

○ ユースケース4(SAE レベル4の一部)

図 10 のとおり、SAE レベル4の一部の自動運転システムを使用して ODD 内を 走行中、ODD を出る際には運転者による対応が必要となることから、運転者は、

ODD を出る際の運転交代要請に対応できる状態であるべきと考えられる。また、

運転者が対応しなかった場合には、自動運転システムによるリスク最小化対応 が行われることとなるが、その場合、運転者には車両の再発進等の対応を行う 必要があると考えられる。

【図 10】

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