R3-10Aは,R2-2と同様に,Mo添加によって細粒化した他,粒内TCP相が減
少した.さらに, R3-10Aでは,BMおよびR2-2 と比較して粒界析出物が微細 化した.こらは,化学的組成の違いに起因している.R3-10Aには,CrおよびFe の代わりに,Niが多く添加されている.そのため,CrおよびFe添加量の減少に
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よって粒界析出物 Cr23C6が減少し,粒界析出物が微細化したと考えられる.な お,CrおよびFe添加量の減少によって粒内TCP相の減少が助長され,R2-2よ りも減少していた.
R2-2と同様に,R3-10AはMo添加によって細粒化し,BMと比較してクリー プおよび疲労,引張強度特性が向上した(参照: 5.1節および5.2節).
加えて,特定条件では,R2-2よりも優れた機械的特性を示した.R3-10Aにお ける粒界析出物の微細化(参照: 図 4-4)が影響していると考えられる.まずクリ ープ強度特性に関して,R2-2は高温/高応力の条件でBMと逆転して寿命低下し たが,R3-10A は,温度条件を問わず,安定して優れた寿命を示した.しかし,
クリープ伸びの向上は,R2-2ほど期待できなかった(参照: 図 4-7および図 4-9).
これは,R3-10Aが外れ値として粗粒も有していた(参照: 図 4-1)ことに起因する
と考えられる.つまり,結晶粒の変形に伴う局所的なひずみが粗粒に蓄積し,緩 和することができなかったので,あまり伸びなかった.次に疲労強度特性に関し ては,高温/低応力の700˚C/550MPaの条件において,R2-2と比較してR3-10Aは 明らかに疲労強度特性が優れていた(参照: 図 4-18).同条件の V 字形切欠では BMおよびR2-2と同等の寿命であったので,R3-10Aは,き裂発生に対する抵抗 性に優れていたと考えられる.以上のクリープおよび疲労強度特性の向上には,
細粒化に加えて,粒界析出物の微細化もまた強く寄与していると考えられる.し かし,本研究では,そのメカニズムを解明することができなかった.
最後に,参考として,図 5-7 に R3-10A の 700˚C における疲労限度線図を示 す.700˚C/550MPa条件のとき,106 cyclesの時点で未破断であったため,これを 疲労限度と仮定して作成した.
図 5-7 R3-10Aの疲労限度線図(700 ˚C)
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6 結 言
本研究では,Mo 添加量の異なる 3 種類の𝛾ʹ析出強化型 Ni 基超合金に対して クリープおよび高温疲労試験を実施し,考察を加えることで,クリープおよび疲 労強度特性と,低延性温度域での延性向上に対する Mo 添加の影響について調 べた.これによって得られた結果を以下のように要約する.
(1) BMと比較してR2-2では,Moを添加することで細粒化し,クリープおよび 高温疲労強度特性が向上した.そのメカニズムには,粒界析出や,応力集中 の分散,き裂開閉効果およびき裂鈍化が関与している.しかし,これらの効 果が十分に得られない特定の条件では,機械的特性の向上は期待できない.
むしろ低下することもあるので注意が必要である.
(2) 低延性温度域での延性向上に関しても,Mo添加による細粒化と粒界析出が 強く関与していたと考えられる.細粒化することによって,結晶粒変形に伴 う局所的なひずみを緩和するので比較的よく伸びる.また,粒界析出物は,
粒界すべりの抑制に寄与する.
(3) R3-10Aでもまた,R2-2と同様にMo添加による細粒化と粒界析出が,機械
的特性の向上に寄与した.また,R2-2と比較してもR3-10Aの方がクリープ 強度特性に関して優位であった他,高温疲労強度特性に関しても,特定条件 で優位であった.これは,BMおよびR2-2と比較してR3-10Aの方が,粒界 析出物が微細化していたことに起因していると考えられる.粒界析出物の微 細化による機械的特性への影響の解明は今後の課題であるが,優れた機械的 特性を有しており,R3-10Aは実用に期待できる.
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謝 辞
本論文の終わりに臨み,本研究の遂行にあたり懇篤なる御指導および御鞭撻 を賜った筧幸次教授,本論文を審査していただいた若山修一教授ならびに高橋 智准教授に深甚なる感謝の意を表する.また,本研究で用いた供試材は,株式会 社不二越のご厚意により提供していただいた.疲労試験機のメンテナンスおよ び運用にあたっては,インストロンジャパン カンパニイリミテッドの小池靖宏 氏に協力していただいた.ここに深く謝意を表する.最後に,筧研究室の各位に は日頃より有益な討論および助言を戴いた.ここに感謝の意を表する.
修士論文発表会 質疑応答の回答 16883314 佐藤祥平
高橋先生
Q1 粒界析出物について定量的な評価はどうなっているのか.
微視組織のSEM画像を用いた定性的評価では,図 1に示すように,0% Mo材BMおよ
び 1.0% Mo 材 R2-2 の粒界析出物の形態において大きな差異はありませんでした.一方,
2.5% Mo材R3-10Aの粒界析出物は,他の2つの合金と比較して微細化していることが確認
されました.
図 1 (a) 0% Mo材BMおよび(b) 1.0% Mo材R2-2,(c) 2.5% Mo材R3-10Aにおける粒界析出物
今回,ご指摘を受けて,新たに粒界析出物の定量的評価を試みました.具体的には,粒界 10mあたりの粒界析出物面積の比較を行いました.分析手順を簡単に紹介します(図 2).ま ず,粒界析出物のSEM画像から,粒界を水平に含むように10m×10mのサンプル画像を 切り出します.次に,画像に対し二値化処理を施すことによって,粒界析出物を白,その他 を黒にしました.この白と黒の二値画像を,Image Jという画像解析ソフトを用いて分析す ることによって,粒界10mあたりの粒界析出物の面積を求めました.
図 2 粒界析出物の分析方法
結果を,図 3 にボックスプロットにて示します.縦軸は,粒界 10m あたりの粒界析出 物の面積です.各材料のサンプル数は10個ずつです.図より,2.5% Mo材R3-10Aの粒界 析出物に関して,明らかに微細化していることが確認できます.これは,定性的評価の結果 と一致しています.しかし,0% Mo材BMと1.0% Mo材R2-2では中央値がほぼ等しい一 方で,前者と比較して後者の方がデータの分布範囲が広く,平均値が比較的大きくなってい ることが確認できます.つまり,1.0% Mo材R2-2の主要な粒界は0% Mo材BMと似てい る一方で,析出量の比較的多い粒界もまた多数有しています.これは,定性的評価では断定 できなかった結果です.
今回の定量的評価におけるサンプル数は10個ずつでしたが,これを増やすことによって,
結果の信頼性を上げることができます.
以上の結果を踏まえて,本論文を修正しました.
図 3 粒界10mあたりの粒界析出物の面積
Q2 析出物の考察における元素偏析に関して,根拠となるデータはあるのか.
5.1.1項では,Mo添加による細粒化と粒内TCP相の減少について考察を行いました.
Moの粒界偏析によるドラッグ効果が粒成長を抑制し,Mo添加材を細粒化しました.ま た,この細粒化に伴って粒界析出物であるCr23C6炭化物の面積率が増加し,Crを粒界で多 く消費しました.これによって,粒内のCrが減少し,FeCrから成る粒内TCP相もまた減 少したと考えました.
この考察ではMoとCrの粒界偏析を取り上げておりますが,根拠となる元素分布のデー タが不足しておりました.そこで,図 4に,Mo添加材におけるEDSによる元素分析の結 果を示します.この図より,MoとCrが粒界に偏析している様子が確認できます.先行研
究[1,2]では詳細に元素分析が行われており,同様の結果が得られております.
図 4 Mo添加材(R2-2)の粒界近傍のSEM画像(上段)と,元素分析結果(下段 左: Cr,右:Mo )