6 Yang-Mills 場(非アーベル的なゲージ場)
6.1 QCD 型の理論
量子電磁力学(これはAbel的なゲージ場理論と呼ばれる)の素直な非Abel 的な群への一般化であるQCD(Quantum Chromodynamics、量子色力学) と同じ形をした理論の構成の説明から始めたい。この理論のLagrangianは L= ¯ψ(iD̸ −m)ψ+LY M (6.22) のように書かれる。ここでのDirac行列の規約は、γ0 行列はエルミート的で 空間的な成分γkは反エルミート的で、空間の計量をgµν = (1,−1,−1,−1) として
γµγν +γνγµ = 2gµν (6.23) が成立し、
γ5 = iγ0γ1γ2γ3 = γ5†, (γ5)2 = 1 (6.24) を満たすγ5はエルミート的である。共変微分Dµは
̸
D ≡γµDµ = γµ(∂µ−∑
a
igAaµTa) ≡ γµ(∂µ−igAµ) (6.25) のようには非Abel的な群の生成演算子Taを用いて定義される。非Abel的 なゲージ場は生成演算子の数と同じ数の成分を持つ。ただし、今後は同じ 添え字が2回現れるときには、断らない限りその添え字について和をとる
ものとする。あるいは最後の表式のようにAµ = AaµTaと書かれる場合も多 い。ゲージ場の場の強さのテンソルFµνa (電場E⃗ と磁場B⃗ の一般化)は
[Dµ, Dν] = −ig(∂µAaν −∂νAaµ +gfabcAbµAcν)Ta ≡ −igFµν (6.26) で定義される。LY M は非Abel的なゲージ場(Yang-Mills場と呼ばれる)
に対して
LY M = −1 4
∑ µ,ν,a
Fµνa Faµν
= −1
4(∂µAaν −∂νAaµ+ gfabcAbµAcν)2 (6.27)
であり、Maxwellの電磁場理論の作用の一般化である。
ここで、非Abel的な群の復習をしておく。一般のコンパクトで連結な 群は単純群とAbel的な群の直積に分解される。単純な非Abel的な群の生 成演算子Taはエルミート的な行列で与えられ、
[Ta, Tb] = TaTb −TbTa = ifabcTc (6.28) の関係を満たす。添え字a, b, cに関して完全反対称なfabcは構造定数
(structure constant) と呼ばれる。ただし、生成演算子の規格化は trTaTb = 1
2δab (6.29)
で与えられるものとする。具体的には、角運動量でもおなじみの群SU(2) の場合には、生成演算子(の基本表現)は次の3個のPauli行列を用いた式 で与えられ
T1 = 1 2
0 1 1 0
, T2 = 1 2
0 −i i 0
, T3 = 1 2
1 0 0 −1
(6.30)
代数関係
[Ta, Tb] = iϵabcTc (6.31) を満たす。ただし、ϵabcは3個の添え字に関して完全反対称なϵ123 = 1を満 たすシンボルである。
群SU(3)の場合には、Gell-Mann行列と呼ばれるPauli行列を3行3列 に一般化した8個の{λa, a= 1 ∼ 8}を用いて
Ta = 1
2λa, a = 1∼ 8 (6.32)
で与えられる。一般に、n行n列で行列式が1のユニタリーな行列が作る 群SU(n)は、n2 − 1個の生成演算子で定義され、したがってゲージ場も n2 −1個現れる。この講義ではSU(n)型の群のみを考えることにする。
さて、上記の経路積分に現われるDirac場は、群SU(2)の場合には詳し く書くと
ψ(x) =
ψ1(x) ψ2(x)
, (6.33)
のように、通常の4成分のDirac場ψ1(x), ψ2(x)を二つ含んでいる。した がって、Dirac行列も通常の4行4列のγ行列を対角線に沿って2個並べた 8行8列の行列で表示するのが正しいが、上記のように略記しても誤解は ないので、通常は上記のように書かれる。現実の強い相互作用を記述する QCDのようにゲージ群がSU(3)の場合には3個のDirac場を一つの組にし て考えることになる。
例えば、ゲージ群がSU(2)の場合を考えると、群SU(2)に値を持つ任 意の関数はωa(x)を実の関数として
g(x) = exp[i
∑3 a=1
ωa(x)Ta] ∈ SU(2) (6.34) のように、上記のPauli行列で表わした群SU(2)の生成演算子Ta を用い て書くことができる。このとき、非Abel的な(局所)ゲージ変換と呼ば れるものは
ψ(x) →ψ(x)′ = g(x)ψ(x), ψ(x)¯ →ψ¯′ = ¯ψ(x)g(x)† (6.35) Aµ(x) ≡ ∑
a
Aµ(x)aTa → A′µ(x) = g(x)Aµ(x)g†(x) + 1
ig(∂µg(x))g†(x) という置き換えで定義される。すなわち、ゲージ変換とは物質場ψ(x)に関 しては時空間の各点において(すなわち局所的な)g(x)で指定される内部 自由度の空間内の回転に対応し、ゲージ場Aµに関しては回転(第一項)と 併進(第2項)の組み合わせで表現される。このときは共変微分Dµは
D′µ = ∂µ −igA′µ(x) =g(x)(∂µ−igAµ(x))g†(x) =g(x)Dµg†(x) (6.36) のように変換することが確かめられ、したがってDµψ(x)は
D′µψ′(x) = (∂µ−igA′µ(x))ψ′(x) = g(x)(∂µ−igAµ(x))ψ(x) = g(x)Dµψ(x) (6.37)
のように、場の変数ψ(x)と同じゲージ変換則を持ち、この理由でDµは共 変微分(covariant derivative)と呼ばれる。また場の強さのテンソルは共 変微分の変換則から
[Dµ′, D′ν] = −igFµν′ = g(x)[Dµ, Dν]g†(x) = g(x) (−igFµν)g†(x) (6.38) のように変換される。
したがって、g(x)g†(x) = 1に注意すると上記のLagrangianはゲージ変 換に関して
L = ¯ψ(iD̸ −m)ψ− 1
4Fµνa Faµν
= ¯ψ(iD̸ −m)ψ − 1
2trFµνFµν
= ¯ψ′(iD̸ ′ −m)ψ′ − 1
2trFµν′ F′µν (6.39) のように形を変えない、すなわちゲージ不変であることがわかる。ただし trTaTb = (1/2)δabを用いた。ここで重要なことは、質量項ψmψ¯ もゲージ 不変なことである。関数g(x)自身もゲージ変換と呼ばれることが多い。
非アーベル的なゲージ理論の量子化は、経路積分で
∫
dµexp[i
¯ h
∫
d4xLef f] (6.40)
で与えられる。ここで、有効Lagrangian Lef f は Lef f = ψ(i¯ D̸ −m)ψ− 1
4Fµνa Faµν +Ba(x)∂µAaµ
−i¯ca(x)∂µ[∂µca(x) +gfabcAbµ(x)cc(x)] (6.41) で定義され、経路積分の測度は
dµ= Dψ¯DψDAaµDBaD¯caDca (6.42) で定義される。ただし、ここではLorentz(あるいはLandau)ゲージと呼 ばれるゲージ条件
∂µAaµ(x) = 0 (6.43)
を採用した。スカラー場Ba(x)は上記のゲージ条件を定義するための補助 場であり、フェルミ粒子的なスカラー場ca(x)はFaddeev-Popovのゴー スト場であり¯ca(x)は反ゴースト場である。
6.2 カイラルなゲージ理論
Weinberg-Salam理論と呼ばれる弱い相互作用と電磁相互作用の統一理論
は、カイラルなゲージ群あるいはカイラルなゲージ場を用いて構成される。
現実的な理論で重要なのは群SU(2)Lなので、この構成の概要を説明した
い。群SU(2)の生成演算子を用いて、カイラルな群の生成演算子を
TLa ≡ Ta(1−γ5
2 ) (6.44)
で定義する。ここで、γ5はエルミートなDirac行列で (γ5)2 = 1,
{γ5, γµ}+ = γ5γµ +γµγ5 = 0 (6.45) の関係を満たす。したがって、(1−2γ5)は
(1−γ5
2 )(1−γ5
2 ) = (1−γ5
2 ) (6.46)
の関係を満たし、射影演算子を与える。この射影演算子の性質を用いると、
上の(6.44)で定義したTLaは
[TLa, TLb] = iϵabcTLc (6.47) の関係を満たすことが示される。このTLaで生成されるゲージ群がSU(2)L である。
カイラルなゲージ場とDirac粒子の結合は L = ψi¯ D(̸ 1−γ5
2 )ψ − 1
4Fµνa Faµν
= ψiγ¯ µ(∂µ−igAaµTLa)(1−γ5
2 )ψ − 1
4Fµνa Faµν
= ψ¯Liγµ(∂µ−igAaµTLa)ψL − 1
4Fµνa Faµν (6.48) で定義され、このLagrangainはゲージ変換のパラメターを
gL(x) = exp[iωa(x)TLa] (6.49) で定義するとき
ψL(x) →ψL(x)′ = gL(x)ψL(x), ψ¯L(x) → ψ¯′L = ¯ψL(x)gR(x)† (6.50) Aµ(x) ≡ ∑
a
Aµ(x)aTLa → A′µ(x) = gL(x)Aµ(x)gL†(x) + 1
ig(∂µgL(x))gL†(x)
̸
DL = γµ(∂µ−igAµ(x))(1−γ5
2 ) ↛D′L = gR(x)D̸ LgL†(x) (6.51)