PIV (Particle Image Velocity)は粒子画像流速測定法とも呼ばれ,流れに多数の粒子を注入して流れを 可視化し,粒子の運動が局所の流体運動と同一であることを仮定して流体速度を計測する手法である.
主にシート光を発生させるレーザー光源,高性能カメラ,トレーサ粒子,画像処理を行う計算機によって構 成されており,近年の映像機器の高速,高画質化,計算機の高速・高性能化によってその精度や処理速 度は飛躍的に進化している.図 2.36 に風洞や回流水路における PIV 画像記録のための代表的な配置を 示す.PIV では流れに微細なトレーサ粒子が加えられ,流れの断面がシート光により 2 回照射される.トレ ーサ粒子は 2 回の照射時間に局所流速に従って移動すると仮定される.トレーサ粒子からの散乱光はレ ンズを介して単一写真ネガ,あるいはデジタルビデオカメラなどの CCD センサにより 2 つの別々のフレーム に記録される.写真記録による PIV 画像は現像後にスキャナーによってデジタル化され,CCD センサの出 力は計算機のメモリに実時間で直接蓄えられる.
図2.35 光学系概観図
数値化された PIV 画像は,処理のため“検査領域“と呼ばれる小さな領域に分割される.第 1 と第 2 の 照明によるトレーサ粒子像の局所変位ベクトルは,各検査領域について系統的な方法(自己相関と相互 相関)により求められる.検査領域内の全ての粒子は,2 回の照明の間一様に動くものと仮定される.局 所流速ベクトルの光シート面内成分,すなわち 2 成分速度ベクトルが 2 照明間の時間差と画像の倍率を 考慮して求められる.このプロセスが PIV 画像の全ての検査領域について繰り返される.
2.2.2.1 光散乱
PIV 法ではトレーサ粒子の光散乱を撮影している.レーザーの入射光の波長よりも大きな径の球状粒子 についてはミーの散乱理論が適応される.本研究で用いたレーザーの波長は 532nm,トレーサ粒子の径 は 1.4μm 程度であるため,ミーの散乱理論が適応される.図 2.37 に空気中のオイル粒子の,波長 532nm に対するミー理論に基づく散乱光角度分布の,粒子径による変化が示されている.
図 2.36 風洞における PIV の実験配置[6]
図2.37 空気中の光散乱(左)1μmオイル粒子,(右)10μmオイル粒子
ミー散乱は以下に定義される粒径パラメータ q によって特徴づけられる:
q =𝜋𝑑𝑝
𝜆
ただし,𝑑𝑝は粒子径,λは波長である.q が 1 より大きいとき,およそ q に比例して,0°から 180°にわたる 角度分布で複数の極大点が現れる.前方散乱の方が画像記録には有利であるが,領域の奥行方向の制 限から 90°が最も多く用いられる.図 2.27 に示すように粒径パラメータ q の増加と共に散乱強度も大きく なり,大きな粒子は散乱効率を増加させ,また粒子数密度も同様に散乱効率を増加させる.しかしこの効 果は 2 つの問題によって制限される.第 1 は背景ノイズが著しく増加することである.第 2 は大きな粒子の 像は明らかに PIV 処理を支配するため,効果的粒子サイズや,相当する速度遅れについての確実な推定 が困難になるからである.以上のように PIV 測定において適切なトレーサ粒子の選定は非常に重要であ る.
2.2.2.2 トレーサ粒子の追随性
PIV において使用するトレーサ粒子の流れへの追随性は,可視化の精度を左右する重要な因子の一つ である.そのため,対象とする流れの速度,流体の種類等を考慮して,トレーサの流れへの追随性を検討 しておく必要がある.追随性に影響する因子として,浮力,重力,遠心力及び加速などが挙げられるが,
本研究では燃焼室内の混合気流動を測定するため,粒子の流れへの追随性が重要となる.Hjelfelt らは,
流体の速度𝑢𝑓が角周波数ω(=2πf, f : 周波数)に対して,
𝑢𝑓= ∫ (𝜉 cos 𝜔𝑡 + 𝜆 sin 𝜔𝑡)𝑑𝜔
∞ 0
と変動するとき,球形粒子の速度𝑢𝑝を次のように与えている.
𝑢𝑝= ∫ [𝜂{𝜉 cos(𝜔𝑡 + 𝛽) + 𝜆 sin(𝜔𝑡 + 𝛽)]𝑑𝜔∞
0
ここでηは流体との振幅比,βは位相遅れであり,それぞれ次のように表せる.
𝜂 = √(1 + 𝑓1)2+ 𝑓22
𝛽 = tan−1( 𝑓2
1 + 𝑓1)
(2.14)
(2.15)
(2.16)
(2.17)
(2.18)
𝑓1=
[1 + 9
√2 (𝑠 +1 2)
𝑁𝑠] [1 − 𝑠 𝑠 +1 2 ] 81
(𝑠 +1 2)2
[2𝑁𝑠2+𝑁𝑠
√2]2+ [1 + 9
√2 (𝑠 +1 2)
𝑁𝑠]2
𝑓2=
9(1 − 𝑠) (𝑠 +1
2)
2[2𝑁𝑠2+𝑁𝑠
√2]
81 (𝑠 +1
2)2
[2𝑁𝑠2+𝑁𝑠
√2]2+ [1 + 9
√2 (𝑠 +1 2)
𝑁𝑠]
2
𝑠 = 𝜌𝑝/𝜌𝑓
𝑁𝑠= √ 𝜈 𝜔𝑑2
ここで𝜌𝑝はトレーサ密度,𝜌𝑓は流体物質の密度,𝜈は流体の粘度である.本研究で用いたトレーサ粒子 の仕様と 1kHz の速度変化に対する流体との振幅比を表 2.6 示す.表 2.6 に示すように空気 20℃における 振幅比は 99.9%以上あり,本トレーサによる流動計測は十分可能であると考えられる.
トレーサ粒子
ゴッドボール E-2C
(シリカ粒子 : SiO2)
粒子径 1.4μm
比表面積 350-500[m2/g]
振幅比(流体:空気,20℃) 0.99998
2.2.2.3 PIV 用光学系装置
図 2.38 図 2.39 に RCEM で用いた PIV 用光学装置の外観及び概要を示す.光源には平均出力 100W,
波長 532nm のパルスレーザーを用い,出力を 90%とした.粒子画像の撮影には高速度カメラ Phantom v1610 を用い,露光時間 24μs,1280×320pixel の解像度で撮影を行った.カメラレンズには焦点距離 105mm (NIKON macro 105mm)に加え,倍率 2 倍のテレコンバーターレンズを用い,絞り値を 2.8 とした.光 源から出たレーザー光はシリンドリカルレンズによって厚さ 2mm 以下のシート状にされた後,図 2.29 に示 す RCEM 側面に設置されたφ45mm の石英窓を通して,燃焼室内へと照射される.トレーサ粒子はモータリ ング直前に燃焼室壁面にあるメクラ部から注入し,できるだけ均一に分布するよう配慮した.レーザーの (2.19)
表2.6 トレーサ粒子の仕様と追随性
(2.22) (2.20)
(2.21)
発振周波数,カメラの撮影速度を共に 40kHz とし「多重フレーム/単一露光 PIV」を行った.
図 2.29 右図に示す黒線で示した領域が可視化可能な領域である.流動解析が行われた領域は横 26mm(y 軸),縦 103mm(x 軸)であり,この領域を解像度 1280×320pixel で撮影したため,0.08mm/pixel の分解能を有している.得られた粒子画像は市販の PIV 解析ソフトウェア(西華産業,KoncertⅡ)により 解析された.解析アルゴリズムには相互相関法を用い,検査領域を 16×16pixel とした.
図 2.39 PIV 計測領域 図 2.38 PIV 光学系
2.2.3 高速度カメラ
図 2.40 と図 2.41 に本実験で使用した高速度カメラの外観,また表 2.7,表 2.8 に仕様を示す.RCEM で のシャドウグラフ法による燃焼画像の撮影にはモノクロである Phantom v1610 を用い,撮影速度 40000fps,
解像度 512×512pixe に設定して撮影した.またレンズには焦点距離が 80-200mm の望遠レンズ(NIKON 80-200mm)に加え,倍率が 2 倍のテレコンバーター(TELEPLUS MC4 2×)を使用し,絞り値を 2.8 とした.
一方,直接撮影においてはカラーである Photoron FASTCAM SA-Z を使用し撮影速度 20000fps,解像度 1024×1024pixel に設定して撮影した.レンズには焦点距離が 105mm のもの(Micro NIKKOR 105mm)を使 用し,絞り値を 2.8 とした.TDC 付近のエンジン回転数がおよそ 300rpm である本実験においてはそれぞれ クランクアングルの 0.1deg. に対して Phantom v1610 では 2 枚,Photoron FASTCAM SA-Z では 1 枚の画 像の撮影が可能であることを意味する.
図 2.41 Photron FASTCAM SA-Z
図 2.42 Phamtom v1610
表 2.7 Photoron FASTCAM SA-Z 仕様
表 2.8 Phantom v1610 仕様
2.3 排ガス測定装置
排出ガス中の一酸化窒素 NO,一酸化炭素 CO,炭素水素 HC 濃度を測定するために,以下に示す排 気ガス測定装置を使用する. 図 2.42 に排気ガス測定装置の外観,また表 2.9 にそれぞれの排気ガス測 定に使用した装置のモデル名を示す.
2.3.1 一酸化窒素
本分析計は化学発光にもとづいて,試料ガス中の一酸化窒素(NO)濃度を連続測定する.この化学発 光法(CLD 法)は NO に対して極めて感度が良く,また他成分からの干渉影響を受けにくいためエンジン排 ガスの NO/NOx 測定法として広く採用されている.
2.3.1.1 化学発光法の原理
NO を含んだ試料ガスとオゾン(O3)ガスとを反応容器内で混合すると,NO が酸化されて NO2に変化す る.
2 2
3 NO O
O
NO (2.23)
このとき,生成する NO2の一部は,通常よりエネルギーの高い励起状態にある.
* 2
3 NO
O
NO *
NO 2 :励起状態のNO 2分子 (2.24)
排気ガス 測定装置モデル名
NO CLA-720MA
CO AIA-721
HC FIA-725A
図 2.42 排気ガス測定装置
表2.9 排気ガス測定モデル
堀場製作所製 MEXA-7100FS型自動車排気ガス測定装置
この励起状態の NO2分子が基底状態にもどる際,励起エネルギー分を光として放出する.
NO 2* NO 2 hν (2.25)
この放出される光は化学発光と呼ばれ,発光強度は反応前の NO 分子の量に比例する.すなわち,発光 の量を測定することにより,試料中の NO の濃度を測定することができる.
2.3.1.2 CO2干渉及び H2O 干渉に関して
励起された NO2分子の中には,発光して基底状態にもどる前に,他の分子と衝突し,発光せずにその 励起エネルギーを失うものがある(失活).この場合も NO2は基底状態に戻るが,化学発光は起こらない.
M NO M
NO2* 2 M :他の分子 (2.26)
エネルギー失活の確率は衝突の相手分子の種類により異なるため,共存するガス成分の種類と濃度によ っては,CLD の対 NO 感度に差が生じることがある.通常のエンジン排ガス成分中では CO2や H2O による エネルギー失活の確率が N2・O2によるものより大きく,試料中の CO2および H2O の濃度変化が NO 感度 変化の原因になりやすいことが知られている.この CO2干渉及び H2O 干渉を低減する方法として,反応容 器内部を減圧に保つことが一般的に行われるが,本分析計では分析計内部でサンプルガスを希釈するこ とにより,常圧タイプでありながら CO2及び H2O 干渉影響を減圧タイプの分析計とほぼ同等レベルに抑え ている.
2.3.1.3 NOx コンバータに関して
試料中に含まれる NO2 は化学発光を起こさないため,CLD では測定できない.そのため次式のように 還元剤(NOx コンバータ)を用いて NO に変換してから測定する手法をとっている.
CO NO C
NO 2 C :炭素 (2.27)
2
2 2
2NO C NO CO (2.28)
2.3.2 炭化水素
FIA-725A では,水素炎イオン化法(FID)を用いて試料中の全炭素水素を測定している.FID 法は水素炎 中で HC を燃焼させると炭素数に応じたイオンが生成されることを利用するもので,ほぼすべての HC に感 度を持つことから,エンジン排ガスの測定法として広く採用されている.
2.3.2.1 水素炎イオン化法の原理
図 2.43 に FID の構成を示す.バーナノズルには H2と空気が供給され,水素炎が作られる.この水素炎を はさむように,直流電圧が印加された電極が設置されている.試料ガスは H2と混合されて水素炎に導入さ れ,高温領域で熱かい離してイオンを生成する.反応は次式で表される.
O CHO e
CH * * (2.29)
CH ラジカル
CH * (2.30)
Oラジカル
O* (2.31)
生成するイオンは電極を経て電流として検出される.この方法は炭素数にほぼ比例した検出感度が得ら れるのが特徴で,炭化水素(THC)の測定に用いられる.ただし,HC 成分同士の分離は出来ない.
図 2.43 水素炎イオン化法(FID)検出器の構成