3. クラウドサービス企業の事例研究
3.2. クラウドサービス企業を対象としたインタビュー
3.2.2. Microsoft Azure の事例
28 という.
他方,AWSでプレミアパートナーであり,Amazon Alexaが日本展開する前から準備をして いたパートナー企業や,自社サービス展開にスキル公開した延長で,他社のスキル開発支援 まで実施したパートナー企業とは,Amazon 内密に連携しスキル開発を進め,価値のあるス キル開発を支援している(付録A.1 発言要約#3).また,色々なお客さまやパートナー企業 から個別要件を受けることもあるが,Amazon Alexaのサービス提供を考慮すると,それら の個別要件を受けることは少ないし,どちらかというと,Amazon Alexaが提供する標準サ ービスに共感できるお客さまやパートナー企業と中心になり,サービス開発を進める傾向 にあるという(付録A.1 発言要約#8).また,Amazon Alexaに限った事ではないが,Amazon が提供するサービスでは利用者がどのような使い方をしているのか定量的なデータ取得や,
利用者からの問い合わせやアンケートによるサービスへのフィードバックを基に,継続的 なサービス改善に取り組んでいるという(付録A.1 発言要約#7).
29
# サービス名称 説明
各拠点のデータをMicrosoft Azureに転送した後にMicrosoft
Azure側で分析し,その結果を再度各拠点に転送するというア
ーキテクチャもあるが,応答性の更なる向上や通信断時も対 応する必要がある要件の場合,IoTデバイス上でそれらの分析 処理を利用する.
5 Azure Sphere 各IoT機器に埋め込むMicro Controller (MCU),MCU上で動
作するOperating System (OS),それらのMCUやOSを搭載す るデバイスに対してOSアップデートなどのセキュリティ施策 を適用するAzure Sphere Security Serviceの3つを提供し,
IoT環境のセキュリティを包括的に確保するサービス.
Microsoft AzureのIoT関連サービスの特徴としては,表 3-2 #3,#4に示したMicrosoft
AzureをベースとしたIoT基盤を構築するサービスだけでなく,表 3-2 #1,#2に示したよ
うな,リモート監視・予測メンテナンス・接続済みファクトリなどのソリューションを選択 すると,そのソリューションに必要なMicrosoft Azureのサービスを展開するAzure IoTソ リューションアクセラレータや,SaaS として IoT ソリューションを提供する Azure IoT
Centralなどのサービスを提供している点が,競合他社にはない特徴である.また,表 3-2
#5のように,IoT 時代の課題である IoTデバイスのセキュリティ確保を俯瞰的に実現する サービスである Azure Sphere というサービスも正式にリリース予定である.特に,Azure Sphereについては,Microsoftが提供するWindows製品のみではなく Linuxに対応してい る点や,MCUの設計をライセンス供与するなど,従来のMicrosoftですべてを独占するとい った発想ではなく,オープンなプラットフォームを提供し,そのプラットフォームに色々な パートナー企業を呼び込む戦略を取っている点も特徴的である.
本研究では,日本マイクロソフトで Microsoft AzureのIoT関連サービスの拡販・エコ システム拡大に関わられているIoTデバイス本部Azure担当部長に対して,2017年11月10 日(金)19:15-20:00にてインタビューを実施した.はじめに,MicrosoftがIoT関連サービ スの提供に着手したきっかけは,London Undergroundの案件を対応した8ことがきっかけで ある(付録A.2 発言要約#9).当時のLondon Undergroundは,地下鉄の駅や沿線などに設置 したセンサやカメラからデータを収集する仕組み自体はあったが,それらのデータをどの ように扱えばよいかLondon Underground自身もよく整理できておらず,それらのデータを 基にした監視や運用プロセスは手動によるケースが多かった.このような状況を London Undergroundから相談を受けたMicrosoftは,London Undergroundから相談を受けた内容 に基づいて,それらのデータを基にした地下鉄駅構内の監視・運用の自動化するシステムを 提供した.また,その際Microsoft1社のみで対応した訳ではなく,London Undergroundの 案件では,エンタープライズ向けテレコミュニケーションズ・ITサービス関連企業である,
telent社やCGI社というパートナー企業とも協業9し,London Undergroundの課題に対する
8 「ロンドン地下鉄を丸ごと可視化するIoTソリューション」,日本マイクロソフトWebサイト,(2018年6月5日取得,
https://enterprise.microsoft.com/ja-jp/articles/industries/discrete-manufacturing/201408-lodon/).
9 Microsoft Corporation, 2014, The Internet of Things is helping the London Underground run more smoothly」,Microsoft Web
30 ソリューションを提供した.
図 3-6 サービス構築時の関係
このLondon Undergroundでの経験を基に,MicrosoftはIoTのサービス化に着手し,2014 年に Microsoft Azure としてはじめての IoT サービス「Microsoft Azure Intelligent Systems Service」を提供した.さらに,従来は利用者がMicrosoft Azureの各サービスを 組み合わせて IoT 基盤を構築していたが,利用者のユースケースを基に必要な Microsoft
Azureのサービスをまとめてデプロイすることを可能にする,IoT Suiteというサービスの
提供を開始した.
インタビューを通して,Microsoft が新規サービスを立ち上げる際に,図 3-6 に示す関 係性を利用者・パートナー企業・コミュニティと築きながら,継続的にサービスの機能拡張 を実施していることが明らかになった.
はじめに,先進的な利用者が抱えている課題の相談を受け(図 3-6 ①),Microsoftは自 身が提供している技術・製品・サービス・人材などでソリューションを基にその課題の解決 を図ろうとする(図 3-6 ②).その際,Microsoft単独での解決が容易でない場合は,補完 的な関係を築くことが可能なパートナー企業と一緒にその解決に取り組み,依頼を受けた 先進的な利用者に対してエンジニアリングコード(アルファ版)を提供する.その後,今回開 発したエンジニアリングコードを採用する可能性がある他の先進利用者を複数見つけ,リ ミテッドプレビューとして提供する(図 3-6 ③).この過程で先進的な利用者からの要望を 開発中のサービスに取り込み,Microsoftだけでサービスのブラッシュアップが困難な場合 は,例えばOSS (Open Source Software)のコミュニティや(図 3-6 ③),その他パートナー 企業と連携し(図 3-6 ④),限定公開しているリミテッドプレビューに対して先進的な利用 者の要件を取り込むと共に,先進的な利用者とPoC (Proof of Concept)を通したバグ出し
Site, (Retrieved July 25, 2018, https://blogs.microsoft.com/firehose/2014/06/06/the-internet-of-things-is-helping-the-london-underground-run-more-smoothly/).
Microsoft コミュニティ
パートナー企業
先進的な利用者
他の先進的な 利用者
パートナー企業 一般的な利用者
①
②
③
④ ⑤
⑥
⑦
⑧
31
を実施し,サービス品質を向上する.その後パブリックプレビューで一部の一般的な利用者 に公開し(図 3-6 ⑤),正式にサービスを提供する.なお,正式サービスリリース後に個別 要件がある利用者や構築支援が必要な利用者については,Microsoftが直接利用者にサービ スを届けるのではなく,システムインテグレーションや ISV (Independent Software Vendor)関連のパートナー企業を通して,サービスを提供することもある(図 3-6 ⑦・⑧).
また,近年の Microsoft の傾向として,開発したサービスのコードは GitHub で公開し,
コミュニティ・パートナー企業・利用者とも協調してサービスを開発する傾向になる.特に IoT の場合は,データを収集するデバイスや分析する基盤やツールなども多岐に及ぶため,
Microsoftですべてを提供するのではなく,それらのコミュニティ形成を優先しているとの
事である(付録A.2 発言要約#2).加えて,エンジニアコード・リミテッドプレビュー・パ ブリックプレビュー・正式公開という段階的にサービス構築を進めるリズムに先進的な利 用者を取り込み,ITサービス提供者側であるMicrosoftと先進的な利用者が一緒になって 開発を進め,そのサービスがIoTの領域においてある程度の標準になるため,サービス提供 後の個別要件発生は多くない傾向になるとの事である(付録A.2 発言要約#3).さらに,IT サービスを提供した後は特に何もしないという訳ではなく,例えば評価期間中に利用者と ビジネスレビューを実施し,Microsoft としての改善策やサービスの教育を実施する(付録 A.2 発言要約#8)など,実際のIoT基盤をMicrosoft Azureで構築する前に概念設計の支援 をする場合もあるという.
また,Microsoftは自社内のリソースや,パートナー企業との関係性についても積極的に 戦略を立てて対応する.例えば,現在では3 カ月に 1 回実施しているというミッドイヤー レビューを Microsoft すべての部署が集まり実施し,現在対応しているビジネスで人的資 源・ビジネスの状況や方向性が正しいかを全社的に共有し,優先的に対応する必要がある案 件やサービス開発には,社内のリソースを積極的に投資する(付録A.2 発言要約#11).パー トナー企業との関係を構築する際にも,市場でインパクトを与えることが可能な企業を選 定すると同時に,Microsoftが持ち合わせていない得意分野を持っているパートナー企業を 見つけ,そのパートナー企業と協業することにより,提供するサービスや売上のインパクト はどのくらいになるのか,そのためにはどのようなリソースをどのぐらい確保すればよい かなどのビジネスプランを検討し,Microsoftとパートナー企業双方がWin-Winの関係を築 くことができるよう,ビジネスプランを事前に検討する(付録A.2 発言要約#12).ただ,エ コシステムの形成について Microsoft 社内で明確な基準やプロセスはなく,今回インタビ ューに応えていただいた日本マイクロソフトの Azure 担当部長のような役割の方が個人の 裁量により,エコシステムの形成に努めているのも現状である.
32