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MTF と音環境

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 37-41)

2.2 変調伝達関数

2.2.2 MTF と音環境

ここでは,MTFと音環境の関係性について述べる.MTFの特性が雑音・残響 環境においてどのように表現でき,どのような特性を有しているのかについて述 べる.

まず,雑音環境でのMTFの特性について述べる.雑音には,式 (2.10) の定常 加法性雑音n(t)を考え,入力信号と出力信号の関係は,次式となる.

yN(t) = x(t) +n(t), (2.15)

ここで,x(t)と yN(t)は,原音声と観測信号( 雑音音声)である.二乗集合平均 を適用することで,次式が求まる.

hy2N(t)i = hx2(t)i+hn2(t)i, e2yN(t) = e2x(t) +e2n(t)

= e2x(1 + cos(2πfmt)) +e2n

= (

e2x+e2n

){1 +mN(fm) cos(2πfmt)},

ただし,e2n= (1/T)∫T

0 e2n(t)dtである.T は,信号継続時間である.ここで,e2n(t) は時間領域において変化が一定( 定常)であると仮定することで,雑音環境にお けるMTFは次式で表現できる.

mN(fm) = e2x

e2x+e2n = 1

1 + 10SNR10 , (2.16) ここで, dB表記の信号対雑音比(SNR)は,SNR = 10 log10(e2x/e2n)となる.雑音 環境のMTFの特性を図2.5に示す.MTFの特性は,SNRの変数によって決まる.

例えば,SNR = 10 dBの場合,全変調周波数帯域において変調度は0.909である,

0 5 10 15 20 0

0.2 0.4 0.6 0.8 1

SNR = 100 dB SNR = 20 dB SNR = 10 dB SNR = 5 dB

SNR = 0 dB

SNR = -5 dB

Modulation Frequency, fm (Hz)

Modulation Index

0.909

図 2.5: 雑音環境でのMTFの特性:実線は SNR = 10 dBのMTF [144].

次に,残響環境における残響信号 yR(t)は,原信号 x(t)h(t)の畳み込みに よって表現される.

yR(t) =

t 0

h(τ)x(t−τ)dτ. (2.17)

この式は二乗集合平均により次式で表現される.

hy2R(t)i = e2yR(t) = e2x(t)∗e2h(t)

= e2x α

( 1 + β

αcos(2πfmt) )

, (2.18)

ただし,α=∫

0 h2(t)dt と β =∫

0 h2(t) exp(−jωmt)dtである.ここで,式(2.7) と (2.18)から,m(fm) =β/αであることがわかる.そして,複素表現のMTFは 次式で表現される.

mR(ω) =

0 h2(t) exp(−jωt)dt

0 h2(t)dt . (2.19)

これは,h2(t)のFourier変換である.式 (2.19)のh2(t)を式(2.9)で置き換えるこ

0 5 10 15 20 0

0.2 0.4 0.6 0.8 1

TR = 0.1 s

TR = 0.3 s

TR = 0.5 s

TR = 1 s TR = 2 s

Modulation Frequency, fm (Hz)

Modulation Index

0.402

図 2.6: 残響環境でのMTFの特性:実線の TR = 0.5 sのMTF [144].

とにより,残響環境におけるMTFは次式として書き換えられる.

mR(fm) =|mR(ω)|= 1

√ 1 +(

2πfm TR

13.8

)2. (2.20)

残響環境におけるMTFの特性を図2.6に示す.残響環境におけるMTFの特性は,

TRによって決定される一種の低域通過特性を有している.図からもわかる通り,

TRが長くなるにつれて,変調度が小さくなる.例えば,TR = 0.5 sの時の変調周波 数 fm = 10 Hzにおける変調度は,0.402であり,約0.6低下していることになる.

最後に雑音残響環境でのMTFについて考える.雑音残響環境におけるMTFの 特性は,変調周波数領域での残響環境のMTFと雑音環境のMTFとの掛け合わ せで表現される.式 (2.11)を用いて,入力信号と出力信号の関係は次式で表現さ れる.

y(t) =

t 0

h(τ)x(t−τ)dτ +n(t),

e2y(t) = e2x(t)∗e2h(t) +e2n(t) (2.21)

= e2x α

[ 1 + β

αcos(2πfmt) ]

+e2n(t). (2.22)

0 5 10 15 20 0

0.2 0.4 0.6 0.8 1

TR = 0.5 s SNR = 10 dB

TR = 0.5 s & SNR = 10 dB

Modulation Frequency, fm (Hz)

Modulation Index

0.365

図 2.7: 雑音残響環境環境でのMTFの特性:太線はTR=0.5 sかつSNR = 10 dB 条件下のMTF [144].

雑音残響環境のMTFは,式 (2.20)と 式 (2.16)から次式のように表現される.

m(fm) = mR(fm)·mN(fm)

= 1

√ 1 +(

2πfm TR

13.8

)2(

1 + 10SNR10

). (2.23)

ここで,雑音残響環境のMTFの特性を図 2.7に示す.雑音残響環境の特性は,雑 音環境と残響環境の両方の特性を有する.例えば,雑音残響環境のMTFの特性で ある図 2.7は,図 2.6と図 2.5の掛け合わせであり,TR = 0.5 s,SNR = 10 dB,

fm = 10 Hzでの変調度は,0.365(= 0.402×0.909)となる.

このように雑音には定常雑音を仮定し ,残響環境には拡散音場を仮定している という制約条件はあるものの,従来のアプローチでは雑音と残響を同時に扱うこ とが出来なかった雑音残響環境を,MTFにより同時に扱うことができる.しかも,

雑音残響環境をSNRとTRのたった二つのパラメータで表現できることは,音環 境バリアフリーを実現する上でも非常に有効と考える.雑音除去と残響除去をは じめから個別の問題として考える従来のアプローチによる雑音残響除去では,雑

音除去と残響除去(雑音に関するパラメータと残響に関するパラメータ)が連動し ていないために過少・過剰回復につながっていた.MTFを用いることにより雑音 に関するパラメータであるSNRと残響に関するパラメータであるTRの二つのパ ラメータをMTF上で同時に扱うことができる.雑音残響環境においてMTFを用 いた二つのパラメータによるパワーエンベロープ処理体系を実現することが,音 環境バリアフリーにおいて効果的であることを,次節で示す.

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