8 双線形形式の不変量
8.2 Linking 型式
M をn次元向き付き閉多様体とする.
まず準備として, 交叉形式を復習しよう. ポアンカレ双対P.D.:Hk(N;Z)∼=Hn−k(N;Z)と する. この時, 交叉形式とは次の双線形型式で定義された
⟨•,•⟩:Hk(N;Z)×Hn−k(N;Z)−→Z, (p, q)7→P.D.−1(P.D.(p)⌣P.D.(q)).
これは次の様な幾何的意味がある. つまりpをk-cycleとしqを(n−k)-cycleとし, それが二 つに横断的に交わっていたとすると, 交叉形式はその交点数の和と一致する.
次に, アーベル群P に対して, 捩れ部分群を次の様に書こう:
T P :={p∈P | ∃a∈Z ap= 0}.
19ついでながら,歪対称的な場合を言及すると, [MH, 1章]にある通り,シンプレクティック型式ですぐ分類されやすい.その為,多くの 場合,対称的な場合を考える.
20ψを⊗Rした後, Sylvesterの慣性則により,正の固有値が全て
すると交叉形式とは, ホモロジーの捩れ部分からQ/Zに値を持つ双線形型式 LN :T Hℓ(N;Z)×T Hn−ℓ−1(N;Z)−→Q/Z
として定義される(次数に注意). その定義は以下の様:[x]∈T Hℓ(N;Z)と[y]∈T Hn−ℓ−1(N;Z) を代表するようなサイクルx ∈ Cℓ(N;Z)とy ∈ Cn−ℓ−1(N,Z)に対して, w ∈ Cn−ℓ(N;Z)を
∃s∈Zで∂w =syとなるものを取る.
LN(x, y) := ⟨x, w⟩/s∈Q/Z.
定義から気づきたい事に, もしNとN′がホモトピー同値のとき,LN は一致する.
命題 8.5. この定義が, x, y, w, sの取り方によらない. さらに双線形であり, 非退化である.
Proof. まずwelldefinedと双線形を示す. 単完全系列
0→Z→Q→Q/Z→0
のボクシュタイン作用素を考えよう: B : Hk+1(N;Q/Z) → Hk(N;Z). そのB の像は, Hk(N;Z)→Hk(M;Q)の核に等しい. つまり,T Hk(N;Z)に一致し, さらに定義より
LN(x, y) =B−1(x)• y,
となる. ここで•:Hk+1(N;Q/Z)⊗Hk(N;Z)→Q/Zは交叉形式とする. したがって, xのB による代表元u, u′に対して, (u−u′)•y= 0を示せばよい. しかし, u−u′がv ∈H2(N;Q) からとするv•y= 0 (∵ y∈Hk(N;Q)の像は自明)という事実に気づけばよい.
次に非退化性を示そう。次の可換図式に気づこう:
Hk+1(N;Q/Z) Poincar´e双対 //
B
Hn−k−1(N;Q/Z) evaluation //Hom(Hn−k−1(N),Q/Z)
制限
TorHk(N;Z) λˆ //Hom(TorHn−k−1(N;Q/Z)
ここでλˆはx7→LN(x,−)という随伴写像とする. ここでλˆは全射なので, よって, 全単射で ある. よって, この同型性から, 非退化を意味する.
演習 8.6. 対称性LN(y, x)(−1)n(n−k)LN(x, y)が知られている. それを示せ. 1つ計算例を出した後に, 色々な知られている性質を見ていこう:
例 8.7. L(p, q)を3次元レンズ空間とする. T H1(L(p, q);Z) = H1(L(p, q);Z) = Z/pを思い 起こし,その生成元をθとする. するとリンキング型式は次となる.
LN(θ, θ) = −q/p.
Proof. S1 ={
z ∈C |z|= 1}
, D2 ={
z ∈C |z| ≤1}
とし, 整数p, q, r, sがpr−qs= 1を満 たすとする. 次の同相写像を考える.
f :S1×S1 −→S1×S1, (z, w)7−→(zqwp, zswr).
加えて,U1 :=D2×S1, U2 :=S1×D2とする. 境界∂UiをS1×S1とみなし,同値関係 x1 ∼x2 ⇐⇒def x2 =f(x1) xi ∈∂Ui.
を考える. すると,この商空間U1⊔U2/∼はレンズ空間L(p, q)と同相である(演習とする21).
H1(U1)∼=ZとH1(U2)∼=Zの生成元を夫々µとKとおく. 次の完全列に気づく: 0−→Zµ−→p H1(U1)−→H1(L(p, q))−→0.
他方で, レンズ空間内で見た類[K]∈H1(L(p, q))をとると, pKはU1 =D2×S1の2-core(な いしザイフェルト膜に)張られる(例えばMayer-Vietoris完全列を見よ). 特に,次を得る:
lk([K],[µ]) = 1/p.
ここで気づきたい事に, [µ]がH1(L(p, q)) ∼= Z/pの生成元なので, あるx ∈ Z/pがあり, [K] =x[µ]と書ける. xを調べよう. まずfの誘導射f∗ :H∗(∂U1)→H∗(∂U1)∼=Z⟨µ, λ⟩の行 列表示は, ( p r
q s )
に気づこう. 特に, この行列表示から次の対応が見れる:
µ7→pµ+qλ, K 7−→rµ+sλ∈H1(∂U1).
λ∈H1(U1)はゼロなので, [K] =s[µ]である. s=−q−1 mod pZより,次の式が得られ, それ にq倍する事で, 結論を得る:
LN(−q−1µ, µ) = 1/p.
注意 8.8. • 単連結でH2(M;Z) =T H2(M;Z)となる閉5次元多様体M に対して, リンキン グ型式で全てが分類されている事が知られている.
•有限アーベル群Tに対し,非退化な双線形型式b :T×T →Q/Zを考える. b(x, y) =b(y, x) のとき対称といい,b(x, y) =−b(y, x)のとき歪対称という. 対称の場合[Wall]も,歪対称の場 合[Kawauchi-Kojima]も完全にbが分類されている.
• 3次元多様体の場合,ヒーガード図式からリンキング型式を決定する方法がある[?].
また3次元に関して, リンキング型式の性質なり定理を紹介しよう. まずライデマイスター トーションから, リンキング型式が(ほぼ)書ける事が知られている:
定理 8.9 ([Tu4]). Mが閉3次元多様体とし, ベッチ数がβ1(M) = 0とする. また有限アーベ ル群H :=H1(M;Z)とする. この時, 次が成立する:
∀g, g′ ∈H, τ(M)·(g−1)(g′−1) =−λM(g, g′)·ΣH ∈Q[H]/Z[H], ここで右辺のΣH は∑
h∈Hhと定義される.
最後に, リンキング型式の強さについて言及しておく. その為に, 二つ用語を準備する. 一 つ目は,r ∈Zに対して,
H1(M;Z/r)−−−−→•⌣•⌣• H3(M;Z/r)−−−−→•∩[M] Z/r.
ここで一つ目の写像はカップ積であり, 2つ目のは基本類[M]とのキャップ積である. この3 重線形型式をトリプルカップ積とか言ったりする. λ(r)と書こう.
次に, アーベル化α : π1(M) → H1(M;Z) =: Γを考える. すると群のホモロジー22の押 だし
α∗ :Hk(M;Z)−→Hkgr(π1(M))−→Hkgr(Γ)
が考えられる. このk = 3で基本類[M]をevaluateしよう:α∗([M])∈H3gr(Γ).
21Dehn手術を知っている人向け:レンズ空間は(p/q)-手術したものと見做せる
22すみません、群のホモロジーの知識を前提とします. 定義は昨年度の授業のプリント参照.
定理 8.10 (Cochran-Gerges-Orr). M, M′ が閉3次元多様体とする. 同型ψ : H1(M;Z) → H1(M′;Z)があってψ(α∗([M])) = α∗([M′])となる事との必要十分条件は, MとM′のリンキ ング型式が同値であり, ∀r ∈Zでλ(r)と(λ(r))′が同値である事である.