RBMのピークは共鳴ラマン散乱によるものな ので,現れるピークが励起光波長によって変化 する.斎藤理一郎氏は各カイラリティのチュー ブごとにどの励起光エネルギーで共鳴ラマン散 乱を起こすかを理論計算により求め,縦軸に励 起光エネルギー,横軸にラマンシフトをとりプ ロットした.これはKatauraプロット[23]と呼ば れており,一つのプロットが一つのカイラリテ ィに対応している.Kataura プロットを Fig.2.13 に示す.白丸は金属性単層カーボンナノチュー
ブ,黒丸は半導体性単層カーボンナノチューブを表している.Katauraプロットにより,RBM のピークがどのカイラリティ依存のものなのかある程度見積もることができる.参考とし て本実験で用いた488nmのレーザー光のエネルギーを青線で示した.
2.4 吸収分光分析法による測定
2.4.1 原理原子や分子はそれぞれの構造に応じた電子のエネルギー準位構造をもっている.固体は たくさんの原子が集まって出来ているが,特に結晶の場合には原子が規則正しく配置する.
その結果,それぞれの原子のエネルギー準位に加えて周期的に配置しているという事情か らバンド状に幅を持ったエネルギー準位の価電子帯,エネルギーバンドを生じる.それら のエネルギー準位構造は原子,分子,結晶の種類ごとにはっきりと決まっていて,原子や 分子,結晶が光を吸収するのはそれぞれのエネルギーの状態が変化することに起因してい る.すなわち,ある 2 つのエネルギー状態間のエネルギー差に光のエネルギーが一致した とき,物質の状態はその光を吸収してある状態から次の状態に遷移する.これが光の吸収 の基本的な仕組みである.従って,特定の波長の光を物質が吸収,放出することから,あ る物質はその物質に固有の色や吸収スペクトルを持つことになる.更に,上記の理由に加 えて,物質固有のスペクトルを決めるもう一つの要因がある.実際には電子はエネルギー 準位間ならどこからどこへでも遷移できるわけではなく,特定の規則を満たす準位間にの み遷移が起こる.この規則のことを遷移則と呼ぶ.これらをまとめると,構造と電子配置 でエネルギー準位が決まり,遷移則がエネルギー準位間の可能な遷移を決め,スペクトル が決まる,ということになる.これらの仕組みにより物質が固有の光吸収スペクトルを持 つことから物質に関する情報を得るのが光吸収分光法である.
Fig. 2.13 kataura plot
2.4.2 吸光分光光度計
光吸収分光における定量分析は,ランベルト=ベール(Lambert=Beer)の法則を基礎とし て行われる.ランベルト=ベールの法則によれば,濃度C(mol / l),厚さb(cm)の均一 な吸収層を単色光が通過するとき,入射光の強度I0と透過光の強度Iの間には
I Cb A = − I = ε
0
log
(2. 15)の関係がある.I / I0を透過率(transmittance),Aを吸光度(absorbance)という.ε(mol-1/cm-1) は物質に固有な定数でモル吸収係数(molar absorption coefficient)と呼ばれる.光吸収スペ クトルは,通常この吸光度 A を縦軸にとり,入射光波長もしくは入射光のエネルギーを横 軸にとってプロットされる.
Fig.2.14に本研究で用いる紫外,可視,近赤外吸収スペクトル測定用分光光度計の光学系
を示す.光源からの光はダブルモノクロメータによって単色光に分光され,分光された光 はチョッパミラーによって 2 つの光路に分けられた後それぞれ偏光板を通り,一方は試料 を,他方はリファレンスを通過して検出器に入射する.2つのセルを透過した光の強度比が 上記のI / I0であるからこれを計測しながらモノクロメータを走査して光の波長に対して検 出器からの信号を記録し吸収スペクトルを得る.
試料室 Sam W3 Ref
W3
W2
W2
M9
M10
M11
M12
M13
M6
M5
M4
M7
M6
M3
M2
S3
S2
S1
D2
G3
G1
G2
G5
G6
G4
WI
W1
F CH
PM Pbs
D2 :重水素ランプ WI :ハロゲンランプ F :フィルタ
G1~G3 :第1分光器回折格子 G4~G6 :第2分光器回折格子
S1 :入口スリット S2 :中間スリット S3 :出口スリット W1~W3 :窓板
CH :チョッパミラー
M1~M13 :ミラー(M1:光源切換えミラー、M11:検出器切換えミラー)
Ref :対照側セル Sam :試料側セル
PM :フォトマルチプライヤ Pbs :Pbsセル
試料室 Sam W3 Ref
W3
W2
W2
M9
M10
M11
M12
M13
M6
M5
M4
M7
M6
M3
M2
S3
S2
S1
D2
G3
G1
G2
G5
G6
G4
WI
W1
F CH
PM Pbs
D2 :重水素ランプ WI :ハロゲンランプ F :フィルタ
G1~G3 :第1分光器回折格子 G4~G6 :第2分光器回折格子
S1 :入口スリット S2 :中間スリット S3 :出口スリット W1~W3 :窓板
CH :チョッパミラー
M1~M13 :ミラー(M1:光源切換えミラー、M11:検出器切換えミラー)
Ref :対照側セル Sam :試料側セル
PM :フォトマルチプライヤ Pbs :Pbsセル
Fig.2.14 Schematic of absorption spectrophotometer
2.5 走査型電子顕微鏡 (SEM)による観察
電子線を試料に照射すると,その電子のエネルギーの大半は熱として失われてしまうが,
一部は試料構成原子を励起こしたり電離したり,また散乱されて試料から飛び出す.走査 型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)では,これらの発生信号のうち主にサンプル表 面付近(~10 nm)で発生した二次電子(通常50 eV以下程度)を用いる[24].二次電子の特徴と しては,
z 低加速電圧,低照射電流でも発生効率が高い.(サンプルへのダメージを抑えられる) z 焦点深度が深い.(立体的な構造の観察が可能)
z 空間分解能が高い.(高倍率を得ることが出来る)
Fig. 2.15にSEMの原理を示す.試料表面及び試料内部のごく浅い所で発生した二次電子
のみが真空中に飛び出し,検出器によって発生された電界によって集められ,像を作り出 す.SEMの像のコントラスト,つまり二次電子の発生量は,入射電子の入射角,表面形状(凹 凸)及び構成原子の平均原子番号の違いによって決まる.一般に平たい表面より,傾斜を持 ち尖った凸部分の方が発生量が大きく,また原子番号の大きい原子の方が二次電子を発生 しやすい.
Table 2.5
部品名 形式 製造元
自記分光光度計 UV-3150 島津製作所
electron gun filament
objective aperture aperture
scan coil
objective lens condenser lens
sample secondary
electron detector
electron gun filament
objective aperture aperture
scan coil
objective lens condenser lens
sample secondary
electron detector
Fig. 2.15 SEM principle.
加速電圧を上げていくと二次電子発生量は単調に増加していく.しかし,入射電子の進 入深度が深くなり,表面で検出される二次電子量が減り極大値を持つことがあり,更にサ ンプルへのダメージも大きくなる.また,サンプルへのダメージを減らす方法としては,
チャージアップしやすいサンプルに対しては真空度を悪くしてチャージアップを防いだり,
熱伝達率が低く昇温によってダメージを受けるサンプルに対しては照射電流量を下げたり する必要がある.
SEM 観察は物質の表面散乱した電子を検出しているため3次元構造が観察できる.また 作成した導電性のある試料であれば処理を施さなくても直接試料を観察できるので,作成 直後の状態を維持したまま物質構造が観察できるところが特徴である.