本章では、対象10案件の事業完了報告書等文献調査とCREATE、QUIS-ME、PAMMEの 現地調査の結果に基づき、教科書開発案件の実施プロセス及び各案件の効果検証調査の結 果をレビューする。本章で取り扱う項目は、1.1.当該国が目指す生徒の人材像、身につけさ せたい学力観、1.2.カリキュラム・教科書改訂にかかわる制度及び政策(カリキュラム・教 科書の改訂サイクルと教育省36の役割、学力評価との連動)、2.1.教科書執筆方針策定、2.2.
教科書執筆体制(C/Pに求められる能力レベル、C/Pの選定プロセス、日本人専門家(算数・
数学教育関連)の資質・能力、日本人専門家とC/Pの役割分担、教科書開発体制)、3.1.教 科書開発プロセス(教科書執筆、試行、教科書編集、教科書承認)、3.2.教科書印刷・配布
(教科書印刷・配布経費と開発パートナーとの連携、教科書配布のロジスティクス)、3.3.
教科書普及段階(導入研修やフォローアップ活動、環境整備、成果の検証)である。
表 16に、各案件の協議議事録に記載された調査対象10案件の学びのサイクルへのアプ ローチの概要を示す。学びのサイクルにおける「カリキュラム」とは系統性・持続性のある カリキュラムへの開発・改訂支援、「教科書・学習教材」はカリキュラムとの整合性を確保 した教科書及び子どもが基礎学力を身につけるための学習教材、「授業」は教員養成、現職 教員研修を通じた教員の職能開発及び指導書の開発・改訂の支援、「学力評価」はカリキュ ラム・教科書・授業と一貫性のあるアセスメントの改善の支援である(JICA, 2015a)。
表 16. 本調査対象案件の学びのサイクルへのアプローチ(概要)
プロジェクト 学びのサイクル
カリキュラム 教科書・学習教材 授業 学力評価
JSP2 〇 〇 〇 ×
CREATE ○ 〇 △ ○
ESMATE ○ 〇 ○ ×
PROMETAM3 ○ 〇 △ ×
iTEAM 〇 〇 〇 ×
QUIS-ME × 〇 △ ×
PAJEC × 〇 △ ×
GUATEMATICA CB □ 〇 △ ×
NICAMATE ○ 〇 △ ×
PAAME × 〇 〇 ×
凡例:○)プロジェクトのスコープ内、△)一部の活動がスコープ内、×)スコープ外、□)プロジェクト 開始前に貴機構の支援により実施予定であったが実施できなかった。
「カリキュラム」は教科別カリキュラムの開発・改訂への支援。
出所:各案件の協議議事録、JICA (2015a) に基づきKRC作成
調査対象10案件のうちPAAMEは、学習教材として計算ドリルを作成したものの、教科
36 バングラデシュでは「初等大衆教育省」が初等教育を、「教育省」が中等・高等教育を管轄する。ラオ スでは「教育スポーツ省」、パレスチナでは「教育・高等教育庁(現教育庁)」が初等・中等教育を管轄 する。本報告書では初等・中等教育を管轄する省庁を「教育省」という呼称で統一する。
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書の作成は当初より実施対象とされておらず、他の9案件と特徴を異にするため、一部項目 については分析の対象としていない(囲み2参照)。PAJEC も、パレスチナ自治政府によ りプロジェクト開始前にカリキュラム改訂・教科書開発が開始され、C/Pが執筆した教科書 原稿の一部への助言が日本人専門家の主な支援内容であり、他案件と特徴が異なることに 注意が必要である。
囲み2 PAAME概要
PAAME は、「パイロット州における優良事例のモデル化及びナショナルレベルでの共有を通じ、児
童の初等算数の学びが向上する」をプロジェクト目標とし、セネガルの先行2案件で構築した理数科教 員研修と学校運営の仕組みを発展させ、計画、実施されたプロジェクトである。同プロジェクトでは、
開始直後に実施した診断調査により、セネガルの授業で効果のある方策として、「算数ドリル(計算ド リル)」とAbaqueと呼ばれるセネガルの伝統的な大型算盤等の使用の有効性を確認した。そして、数と 計算領域の成績の向上のための計画をコミュニティと共有し、プロジェクトが開発した「算数ドリル(計 算ドリル)」や Abaque 等の教材を使用して授業で数と計算の基礎を固めるとともに、家庭学習や補習 で演習量を増やす戦略が取られた。教材開発による授業改善とともに、家庭・コミュニティからの支援 を得るための多くの活動を実施したことが、PAAMEの特徴である。
1. 教科書執筆開始前(案件の背景)
1.1.当該国が目指す生徒の人材像、身につけさせたい学力観
JICA(2015a)は、初等教育就学年齢の4割(2億5千万人)程度の子どもたちが基礎的
な読み書きや計算能力を身につけていないことを「学びの質」の問題と指摘する。また、知 識・技能だけではなく、それらを活用して課題に対応できる能力(コンピテンシー)の育成 を重視したカリキュラムを編成、実施する国が増えていることに言及する。各国が目指す生 徒の人材像もしくは身につけさせたい学力観を表 17に示す。
表 17. 各国が目指す生徒の人材像、身につけさせたい学力観 国(案件) 生徒の人材像、身につけさせたい学力観 バングラデシュ
(JSP2)
・教育は、人的価値(human value)を高め、国民のために、社会の発展に寄与する リーダーを育てる。宗教的排他主義(communalism)や迷信・盲信から脱却し、愛 国心を持った人材を育てると同時に、バングラデシュが国際社会と同水準の発展 を遂げられるよう、国民の資質と技能を高める。
・初等算数教育で主に育成を目指す能力は、①基礎的・基本的な知識の習得、②問 題解決に必要な技能(スキル)の向上、③積極的に学習活動へ参加し自ら答えを見 つけようとする態度の3つである。
ミャンマー (CREATE)
・新カリキュラムフレームワークは、すべてにおいて調和のとれた発達(五大能 力)、21世紀型スキル、すべての教科の同等な扱い、という3つの基本的な考え 方に基づく。
・すべてにおいて調和のとれた発達とは、①知的能力、②身体的能力、③道徳倫理 的能力、④社会的能力、⑤経済的能力、という5つの能力の発達を指す(分野横断 的なスキル及びコンピテンシー)。
・初等算数教育では、以下の4つが目標とされている。①数、数量、図形、データ
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国(案件) 生徒の人材像、身につけさせたい学力観
の表現に関する基礎的な算数の知識と技能を身につける。②問題解決の過程で、論 理的に推論、説明できる。③学習時と同様に、算数の知識・技能を日常生活の問題 に活用できる。④算数の考え方やアプローチの利便性に気づき、そのよさがわか る。
エルサルバドル (ESMATE)
・教育の主たる目標は、質の高い教育を青少年に提供することである。教育の質と は、学校の成績のみでなく、社会の進歩や変革に寄与するために市民の能力や生産 性をどれだけ効果的に高められるかを指す。
・初等算数・中等数学教育では、「問題解決」に焦点を当て、①数学的・論理的な 推論力、②数学言語を使ったコミュニケーション、③日常生活場面に数学を応用す る力を育成する。これらコンピテンシーの獲得を通じて、市民の能力や生産性を高 める。
ホンジュラス (PROMETAM3)
・教育を通じて国民が身につけるべき資質や人材像として、国民的及び普遍的な価 値に基づく人間、家族・地域・国家における個人的・社会的アイデンティティー、
勤勉で効率的な責任感のある質の高い生産者、科学的な知識や技術など15点が挙 げられている。
・数学教育全体としては、論理的思考、抽象的思考、演繹・帰納的な思考の育成な どを狙いとしている。
・基礎教育(初等教育・前期中等教育)における算数・数学教育の目的は、問題解 決に役立つ数学的・論理的な思考力の開発、日常生活のさまざまな活動に数学を結 びつけること、数式や記号を使ってさまざまな領域の情報を量的・質的に処理する ことである。
・後期中等教育(高等学校)における数学教育の目的は、技能(Conocimientos metodologicos)や記号、抽象的な知識を利用し、日常生活上の問題を数量化して解 決できるようにすることである。
ラオス (iTEAM)
・教育省が作成した教育・スポーツセクター開発計画(2016-2020)は、すべての 学習者が道徳的、知的、職業的、身体的及び芸術的発達を獲得し、社会経済開発に 貢献、また、同開発の恩恵を受けるために必要な認知・非認知スキルを身につける ため、5つの目標を掲げている。そのうち初等教育に関する目標は、すべての生徒 が労働市場または中等・高等教育進学に必要な基礎的な知識と技能(健康への適切 な配慮を含む)を習得することである。
・新初等算数カリキュラムでは、生徒が問題解決の過程において論理的思考がで き、指針を決め、分析的に思考し、意見を述べることができるようになることを、
算数を学ぶ目的としている。また、将来の学習のため、及び思考力を高めるために、
生徒が算数の活動を楽しみ、算数の学習を好きになり、日常生活の中で算数の知識 を活用することが重要であるとしている。
PNG
(QUIS-ME)
・国家カリキュラム基準フレームワークは、新カリキュラムの最終的な目的を「子 どもたちがキャリア、高等教育、市民となるための準備ができること」とする。そ のため、13 の目的を設定し、それぞれの目的には複数の目標が設定されている。
以下、初等教育に関連する主な項目を抜粋する。
- 目的1:生徒がキャリア、高等教育、市民となる準備のために必要な知識、技
能、価値観、態度を身につける。
・目標1:21 世紀における労働市場、学習、生活において必要で需要のある知