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ILO 26 による派遣労働者の処遇に対する改善勧告

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第 3 章  日本における派遣労働者に対する諸問題

第 1 節  ILO 26 による派遣労働者の処遇に対する改善勧告

(1)ILO100・111号条約の概要

  世界中の労働に関する問題を取り扱っている機関にILOがある。ILOの主な役割は、世 界中の労働者の労働環境に関する情報を収集したり、労働環境に対する勧告や要求等を政 府を通じて行ったりしていることである。また、条約という形で各国が講ずべき指針等を 条文化し、加盟各国に対して批准し労働者に対する待遇や労働環境が改善されるよう活動 しているのである。

  日本における派遣労働者に対する問題点としてまず挙げられるのが、正規雇用者との所 得の格差である。詳しい説明は後に取り上げることとするが、同じ仕事をしているにもか かわらず、雇用形態が派遣労働であるという理由のみで、正規雇用者との格差が歴然と生 じてしまうことが根本的な問題である。つまり、日本はこれまで例に挙げてきたドイツや フランスのように「単一労働単一賃金」の原則が守られておらず、暗黙の了解として雇用 差別が行われているのである。

  それでは、ILO はこの単一労働単一賃金の原則に関して、どのような取り決めが制定さ れているのであろうか。これに関する条約として 1951年に制定された「100 号条約」と、

1958年に制定された111号条約という2つの条約がある。100号条約は、第2次世界大戦 後、労働力が世界的に不足する中において、女性の社会進出とそれに伴う男女平等社会を 望む運動の中で生まれてきたものであり、男女雇用の機会の均等を定めた条約である。当 時「ウーマンリヴ(Woman Live)」という言葉が社会的なスローガンとなり、日本におい ても女性の社会進出が積極的に謳われてきた時代であり、またテレビの中では女性アイド ルが多く登場し、ファッションにおいてもミニスカートや欧米の生活スタイルなどが急速 に日本の中に入ってくることとなった時代である。そのような動きの中、国連の諮問機関 である「女性の地位委員会」の要請を受けて制定されたのが、この100号条約なのである。

  100 号条約とは、ILO が男女雇用機会の平等に関して採択された最初の条約として有名 であるが、その内容として最も取り上げるべき事項は、「男女が従事する職務の内容が異な っている場合でも、それらの職務が同一の価値を持つ場合には同一の報酬を保障する」と いうことが明記しているという点である。それはつまり、たとえ男性と女性とが異なる仕 事をしていたとしても同じ価値を持つ仕事であれば、同じ給料を支払わなければならない、

ということであり、このことはまさに単一労働単一賃金に関する重要な規定であると位置 づけることができるのである。

26 International Labour Organization. 国際労働機関。

「派遣労働者の労働環境に関する国際比較と日本における課題」

国際学部  国際社会学科  020155H  4年  水粉  孝慎

  また 111 号条約とは、雇用と職業上の差別を撤廃することを目的として制定されたもの で、職業上の身分や雇用形態の違いなどによる客観的根拠の無い待遇差別を禁止している ものである。つまり、職業上の身分の違いがあったとしても同様の仕事をしているのであ れば同水準の報酬となるべきであり、また例え正規雇用と派遣労働という雇用形態の違い があった場合でも同様である、ということが明記されている条約である。

(2)日本における労働環境改善の消極性に関する分析

  以上、単一労働単一賃金に関する ILOの方針とその概要を述べてきた。しかしながら、

日本においては、大多数の派遣労働者が女性であるという現状、並びに女性に対する雇用 差別が未だ根強く残っている点を考慮するに、日本において100号条約と111号条約を批 准しつつ、それを実施していくことは彼らの労働環境を整備する上で特に重要だと思われ るのである。

  しかし、日本ではそれを実施するに大きな問題がある。それは、日本は 100 号条約には 批准しているが、職業身分による待遇差別を禁止した 111 号条約には批准していないので ある。つまり、日本は派遣労働者における職業差別を黙認しており、派遣労働者の待遇が 改善されない大きな理由のひとつがこの111号条約未批准なのである。

  それでは、どうして日本において 111 号条約への批准が見送られ続けているのであろう か。それには大きく 2つ理由が挙げられるだろう。まず、第1点目は、基本的に日本政府 は労働者に関する人権問題に対して無関心であるということだ。例えば、男女雇用機会均 等法が公布されたのは1972年であり、これはほかの諸外国に比べ極端に遅い。しかも、こ の法律が施行されたのは、それから10年以上経った1985年であり、すぐ思考するに至ら なかった。それは、あくまでこの法律の制定の理由は、ILO からの男女差別撤廃に関する 再三の要求を受け、100号条約を批准するためにしぶしぶ作った法律であるからだ。そのた めに、公布してから試行するまでの期間が極端に長くなっている。さらには、この法律施 行後も、その内容の不十分さと法の不徹底により、さらにILOからの勧告を受けることに なる。この男女雇用機会均等法が本格的に効力を発揮するようになったのは、公布から 27 年も経った 1999年の改正均等法以後であるといわれている。日本政府は外圧がなければ、

自国の労働環境の積極的な改善に動き出さないということが言えるだろう。

  第 2 点目に挙げられるのは、日本は企業による連合体である団体の力が強く、その圧力 によって 111 号条約に対する批准が見送られている可能性があるということだ。日本は特 徴として企業が強い権力を持っており、その企業連合体などの団体が日本の経済のみなら ず、教育や外交問題などに口を出すということが提言という形で公然と行われている。日 本経団連がその大きな団体のひとつであるが、それらの国政に対する影響力は非常に大き く、日米関係や日中関係などの極めてナイーブな外交問題に対してまでも、自企業らの利 益誘導のために助言を行うことは多々ある。例えば、内閣総理大臣などによる靖国神社参

「派遣労働者の労働環境に関する国際比較と日本における課題」

国際学部  国際社会学科  020155H  4年  水粉  孝慎

拝や、中国などの反日問題、しいてはイラク戦争に至ることまで取り扱うニュースの中で は、必ずといっていいほど日本経団連の会長がそれらに対してコメントをしているシーン が挿入されている。それだけ、彼らの発言力は大きいということであろう。

  111号条約の批准は、企業にとっては非常に厄介な問題であるといえる。日本企業の強み は、その企業が持つ強力な権力と資本である。彼らは正規雇用者でなく派遣労働者を使用 することで、労働組合を弱体化させ、また人件費削減によって内部留保を増加させること で権力と資本を蓄えようと画策している可能性がある。このような意識の中、111号条約の 批准は直接企業資本の低下につながるために、導入を見送らせるように日本政府に対して 圧力を加えているのではないだろうか。

  つまり、日本が労働者の改善環境に対して消極的な傾向であるということである。その ような状況の中、ILO は日本に向けて改善勧告と要求を繰り返してきている。つまり、日 本は現状としても、労働者に対しての環境の改善は図られていないということになるだろ う。批准すること自体がそのまま問題の解決になるわけではないが、日本はそのような条 約にしなくても国内の自主努力で労働環境を整備できるという姿勢すらも見せずに、ILO からの忠告を受けるという形でしか動くことができないという現状を早急に改善すべきだ ろう。

(3)派遣労働者等に処遇に関するILOによる改善要求

  それでは、具体的にどのような改善要求が日本にされているのであろうか。ILO 条約勧 告適用専門委員会が2003年に日本に対して行った改善要求から特に派遣労働者に関する勧 告を一部要約し、その問題点について取り上げてみようと思う。

  ①労働力に男女が占める割合、および報酬水準の動向を評価できるような統計情報、並 びに非正規雇用の男女労働者の所得を計算に入れた、また平均時間給によって分類された 完全な統計情報を提出すること。②100号条約の下では、報酬は労働者の性別あるいは雇用 上の身分に基づいて決められるのではなく、遂行する職務に基づく客観的な職務評価によ って比較されなければならない。政府がパート労働者の賃金平等等を促進するためにとっ ている措置について情報を提供するとともに、どの程度男女労働省がパート雇用者で雇用 され、時間給換算での正規労働者との報酬比較についての情報を提供すること。③公務お よび民間部門で使用されている賃金職員を含む臨時雇用の様々な形態・使用の範囲・男女雇 用などに関する完全な情報を提供する、という主に 3 点である。また、ここにある要求の ほとんどは 100 号条約の履行に関する改善要求であるために、ほとんどの要求では主に男 女雇用に関することが言及されている。

  それでは各個別の要求に関して説明を加えていきたい。①に挙げられることは、現在の 日本の平均給与に関する統計において、非正規雇用者を入れずに計算していることを示し ているということであり、また時間給によって計算されたデータを加えるよう要求してい

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