第 3 章 我が国の裁判例
第 4 節 我が国の裁判例と主要目的基準
2. IFRS9 における会計処理およびその論拠
IFRS(2014)では,特定の金融資産の管理に関する企業のビジネスモデルおよび金融 資産の契約上のキャッシュ・フローの特性に該当しない場合,金融資産は純損益を通じて 公正価値(Fair.ValueThroughProfitorLoss:以下,FVPL という)で測定しなければ ならない(IFRS9,par.4.1.4)。ただし,特定の資本性金融商品については,当初認識時に,
〔研究ノート〕
この FVPL による測定ではなく,事後の公正価値の変動をその他の包括利益に表示する
(FairValueThroughOtherComprehensiveIncome:以下,FVOCI という)という取 消 不 能 の 選 択(以 下,FVOCI オ プ シ ョ ン と い う) を 行 う こ と が で き る(IFRS9, par.4.1.4)。ここで,特定の資本性金融商品とは,売買目的保有でも IFRS 第 3 号が適用さ れる企業結合における取得企業の条件付対価でもない資本性金融商品である(IFRS9, par.5.7.5)。
当該 FVOCI オプションは,金融商品ごと(すなわち株式ごと)に選択することができ るが,FVOCI オプションが選択された場合には,その他の包括利益に表示された金額を 事後的に純損益に振り替えること(すなわち,リサイクリング)は禁止されている(IFRS9, par.B5.7.1)(1)。この場合,公正価値の変動はその他の包括利益で認識されるが,当該資本 性金融商品を売却したとしても純損益へのリサイクリングが行われず,また減損という手 続自体が不要となる(2)。
IASB は,基本的に資本性金融商品についてはキャッシュ・フローが元本及び利息のみ の支払ではないため,当該金融商品を保有するビジネスモデルを問わず,FVPL による測 定が目的適合的であると考えている(IFRS9,BCE.67)。しかし,特定の資本性金融商品 について,FVOCI オプションを認める理由を IASB は次のように説明している。
「一部の資本性金融商品については,公正価値に関する情報が純損益に関連性がない と考えられる可能性がある場合があること(金融商品が戦略目的で保有される場合な ど)を承知している。したがって,IFRS 第 9 号は,投資を売買目的で保有していな い限り,企業が資本性金融商品に係る公正価値変動をその他の包括利益に表示するこ とを選択することを認めている。」(IFRS9,BCE.67)
資本性金融商品には,契約上のキャッシュ・フローの回収や売却などの目的で保有する というビジネスモデル以外に,他の企業と長期的な関係を作り出す,またはそれを維持す る戦略投資を目的として保有するビジネスモデルがあることを認め,当該目的で保有する 場合には FVOCI を適用すべき(公正価値の変動を純損益に認識するべきではない)とい うことである。
一方で,FVOCI が適用された資本性金融商品についてリサイクリングを認めない理由 については,次のように説明している。
「主な理由の 1 つは,リサイクリングを行うとこれらの持分投資について減損の検討 を行う必要が生じることである。IAS 第 39 号における資本性金融商品についての減 損の要求事項は非常に主観的であり,国際的な金融危機の間に最も批判を受けた会計 処理の要求事項の 1 つであった。これと対照的に,IFRS 第 9 号には,資本性金融商
(1) ただし,利得または損失の累計額を資本の中で振り替えることはでき,資本性金融商品に対する配当は,配 当が明らかに投資原価の一部回収である場合を除き,純損益に認識される(IFRS9,par.B5.7.1)。
(2) 一方で,ビジネスモデルとキャッシュ・フローの特性により,FVOCI で測定される金融資産については,
減損が適用される(IFRS9,par.5.2.2)。
品に対する投資についての減損の要求事項は含まれていない。」(IFRS9,BC4.153(a))
「それ(資本性金融商品の減損―筆者)は金融資産に関する財務報告を大幅に改善す ることにも,複雑性を減少させることにもならない。したがって IASB は,資本性金 融商品の認識の中止を行う際の利得及び損失の純損益へのリサイクリングを禁止する ことを決定した。」(IFRS9,BC5.25)
すなわち,主観的かつ複雑性をもたらす減損の会計処理を避けるために,FVOCI オプ ションが適用された資本性金融商品にリサイクリングを行わないということである。ここ で言及されている IAS 第 39 号「金融商品:認識および測定」(以下,IAS39 という)お よび IFRS9 における資本性金融商品の会計処理方法をまとめると図表 1 のとおりである。
IAS39 においては,資本性金融商品について「減損しているという客観的な証拠
(objectiveevidence)」が存在するときに減損が認識される(IAS39,par.58)。特に,
FVOCI で測定される資本性金融商品は,「公正価値の著しいまたは長期にわたる下落
(significantorprolongeddecline)」 が 減 損 の 客 観 的 な 証 拠 と さ れ て い る(IAS39, par.61)。これらの減損の認識に係る要件が主観的または複雑な会計処理をもたらしてい たため,IFRS9 ではリサイクリングを採用しなかったのである。
図表 1 資本性金融商品の会計処理方法
分類 測定 評価差額 減損
IFRS9
原則(下記以外) FVPL 純損益に認識 N/A FVOCI を指定 FVOCI OCI に認識
ノンリサイクリング N/A
IAS39
売買目的で保有
FVPL を指定または FVPL 純損益に認識 N/A
売却可能金融資産 FVOCI OCI に認識 リサイクリング
公正価値が著しくまたは長期に わたって下落している時に認識
(ただし,戻入れは禁止)
公表価格がない
資本性金融商品 取得原価 N/A 減損の客観的な証拠(3)が存在す る時に認識
(ただし,戻入れは禁止)
IFRS9,pars.4.1.4and5.4.4 および IAS39,pars.9,58,61,66,67and69 より筆者作成
(3) 具体的には,資本性金融商品の発行体に係る技術的,市場的,経済的又は法律的な環境に生じた,不利な影 響を伴う重大な変化に関する情報で,当該投資の取得原価が回収できないかもしれないことを示す証拠であ る(IAS39,par.61)。