Iref:安全限界曲線中に示す左手-両足経路の電流 Ih:心臓電流係数表に対する人体電流
F:心臓電流係数
図B.1.1-8 心臓電流係数
(8) IEC479-1の安全限界曲線
IEC の TS60479-1(2005)における,左手から両足への感電電流と通電時間,安全限界に関する曲
線を示す。IECの安全保護の考え方,各国の法令,また安全保護装置メーカーはこの成果を基本に据え ていると言って過言ではない。
図B.1.1-9 AC15~100Hzの安全限界曲線 図B.1.1-10 AC15~100Hzの安全限界曲線
表B.1.1-2 AC15~100Hzの安全限界
領域 生理学的影響
AC-1 通常無反応
AC-2 通常有害な生理学的影響なし。
AC-3 電流が二秒以上継続して流れると痙攣性の筋収縮や呼吸困難の可能性がある。
AC-4
心停止,呼吸停止または重度のやけどといった病理生理学上の危険な症状が引き起こされることがある。
AC-4-1:心室細動確率約5%以下 AC-4-2:約50%以下
AC-4-3:約50%以上
187
図B.1.1-11 DCの安全限界曲線 図B.1.1-12 DCの安全限界曲線
表B.1.1-3 DCの安全限界
領域 生理学的影響
DC-1 通常無反応,わずかに刺すような痛み
DC-2 通常有害な生理学的影響なし。
DC-3 心臓に回復可能な障害と伝達障害が起きる可能性がある。
DC-4
危険な病理生理学上の症状が引き起こされることがある。
DC-4-1:心室細動確率約5%以下
DC-4-2:約50%以下 DC-4-3:約50%以上
(9) 交流と直流の違い
過去多く研究されてきたのは,交流感電である。しかし本文書が扱うのは太陽光発電の直流電気であ る。従って,交流と直流の違いに注意を払う必要がある。そのような観点でIEC479の記述を原文に齟 齬がないように注意深く整理した結果を以下に示す。
・ 交流と心臓周期
正弦波交流の(50/60Hz)の場合,電流が1心臓周期を超えると細動の閾値は大幅に低下する。
・ 直流の知覚,反応の閾値
交流と違って電流の投入時遮断時にしか感覚がない。通電中はなんの感覚もない。
・ 直流の心室細動閾値と電流方向との関係
下向き電流(足が負極)の閾値は上向き電流(足が正極)の2倍になる。
・ 直流の安全限界曲線
曲線C1以下での感電死報告は知られていないことからC1は全ての人に対して,おそらく安全側で あることを示す。
また,交流と直流の影響の違いを評価するのに直流/交流等価係数(d.c./a.c. equivalence factor)とい う考え方も提示されている。一例として心室細動が50%確率の10秒間の等価係数を次に示す。
188
75 . 80 3
300
. .
.
.
mA
mA I
k I
c a
c d
細動 細動
参考文献1:BENDER: Renewable energy Reliable and efficient use of the power of nature
参 考 文 献 2:CoSTR 翻 訳 グ ル ー プ (2007):2005 INTERNATIONAL CONSENSUS ON CARDIOPULMONARY RESUSCITATION (CPR) AND EMERGENCY CARDIOVASCULAR CARE (ECC) SCIENCE WITH TREATMENT RECOMMENDATIONS: Part 10.9: Electric Shock and Lightning Strikes
参考文献3:高橋健彦(2007):日本における感電保護の現状と実態
参考文献4:竹谷是幸(1974):漏電しゃ断器の基礎と実務知識
189
付録B.2 太陽光発電に関する火災危険
太陽光発電設備の火災要因となる部位および事象は,太陽電池モジュール(太陽電池セルの逆電圧・
逆電流動作,モジュール回路内での直並列アーク)と,アレイ回路(直列アーク,並列アーク,地絡ア ーク)とに大別される。本文書では、これまでの事故要因分析の研究等から「太陽電池モジュールの火 災危険)」と「直流アークの火災危険」に分けて火災の起点を示し,起点から火災発生までの間に事故 を抑止する対策装置に不備があったために被害拡大した米国の要因分析について紹介する。また、米国 で発生した事故と同様なことが国内システムについても起きうるかについて述べる。最後に消防活動時 における消火・残火処理リスクの問題について説明する。
付録B.2.1 太陽電池モジュールの火災危険
(1) 太陽電池モジュールの電気回路構成
図 B.2.1-1 は太陽電池モジュールの電気回路を模式的に示したものである.数枚~二十数枚の太陽電
池セル(以下「セル」)を直列に接続してセルストリングが構成され,それにバイパス回路(Bypass Route,
以下「BPR」)を並列に接続している。このセルストリングとBPRで構成される単位を本ガイドイラン では,太陽電池クラスタ(以下「クラスタ」)と呼ぶ。BPR はセルストリングの出力電圧によって逆バ イアス方向に電圧が印加されるように接続されたバイパス・ダイオード(Bypass Diode.以下「BPD」)
を主たる構成要素として,BPDとセルストリングをつなぐ導体端子,さらにそれらの節点とで構成され る.そして,1枚の太陽電池モジュールは,クラスタ1個あるいは複数のクラスタを直列に接続するこ とにより構成される.クラスタの出力端子は太陽電池モジュールの裏面に装着された端子箱(Junction
Box。以下「JB」)内に引き込まれ,JB内の導体端子を介してBPDや太陽電池モジュールの出力ケーブ
ルに接続されている。
190
図B.2.1-1 太陽電池モジュールの模式図(3クラスタ型)
(2) 太陽電池の電流-電圧特性とBPRの役割
図 B.2.1-2 は,太陽電池モジュールを構成するセルの電流-電圧特性曲線を概念的に示したものであ
る。この図において,セルが発電素子として動作する正常域は,電流と電圧とがともに正の値をとる「発 電象限」のみである。
一方,電圧が負となる「逆電圧象限」や電流が負となる「逆電流象限」でセルが動作する場合には,
セルは発電素子から負荷に転じ,電力を消費する。そして,モジュール内で数十枚,モジュールストリ ングで数百枚もが直列に接続されている個々のセルは,パワーコンディショナが制御するアレイの電流、
電圧動作点の影響を受け,これらの三つの象限のいずれかの動作することとなる。
個々のセルがすべて発電象限で動作している場合には問題とならない。しかし,逆電圧象限や逆電流 象限で動作するセルは発熱をともない,しかも,その様相は同等ではなく,逆電流象限ではセルは面的 かつ穏やかに発熱するが,雪崩降伏限界点を超えた逆電圧象限では局所的かつ激しく発熱する。したが って,危険度の観点からは,逆電圧象限で動作するセルが問題となる。
BPRはこのような危険性を回避する保護回路の役割を果たしている。図B.2.1-3はBPRが装備された モジュールの電流-電圧特性曲線の概念図である。クラスタ両端の逆電圧が BPD の動作電圧に達する と BPRに電流が迂回(バイパス)しはじめる。BPRに流れる電流とセル回路に流れる電流の和が動作 電流に達したところでクラスタ両端の電圧が固定され,クラスタ内のセルが雪崩降伏限界点を超えるこ とを回避させている。つまり,BPRはクラスタ内のセルに印加される電圧をクラスタ分程度に抑え,逆 電圧象限での電力消費(発熱)を限定する「保護回路」の役割を担っている。
発電象限
(PGQ)
逆電圧象限
(RVQ)
逆電流象限
(RCQ)
雪崩降伏限界
(BV)
短絡
(SC)
開放
(OC)
最大出力
(PM)
順方向消費限界
(PD)
電圧崖
(CV)
電流棚
(CC)
許容逆電流
(TRC)
致命的逆電流
(FRC)
致命的逆電圧
(FRV)
許容逆電圧
(TRV)
発電象限(PGQ)の反対は消費象限(PCQ).
消費象限PCQには,逆電圧象限(RVQ)と 逆電流象限(RCQ)がある.
逆電圧象限(RVQ)における動作には,
Tolerableな状態(TRV)とFatalな状態(FRV)がある.
逆電流象限(RCQ)における動作も同様.
図B.2.1-2 セルのI-V特性の概念図
191 消費
発電象限
(PGQ)
逆電圧象限
(RVQ)
外部電流 普通は,BPDがある.
BPDは,クラスタ電圧&クラスタ電力にクランプする.
BPDが開放故障すると,
低Iphセルは,外部電流によってのみ動作点が定まる.
このときセルは,致命的逆電圧&致命的電力消費.
図B.2.1-3 モジュールのI-V特性の概念図
(3) BPR開放故障の事例
現在の太陽電池モジュールの国際・国内規格では,保護回路であるBPRの品質に関する規定や耐久性 試験が未整備であるため,長期にわたる太陽電池モジュールの運用期間において,常にBPRの信頼性が 確保されているとはいえない。図B.2.1-4は,10年使用したモジュール内のBPRの断面の一例である。
この例では,BPD自身はなお機能を保持していたが,電気的節点となるはんだにクラックが形成された ため,BPRが開放状態にあった。
また,図 B.2.1-5 は(独)産業技術総合研究所(産総研)において 10 年運用されているモジュール(3
クラスタ構成)の裏面の一例である.このモジュールは影の影響を頻繁にうける場所に設置されている が,BPR が開放故障しているため当該クラスタのセルの発熱により裏面シートが「熱やけ」している。
なお,産総研にはこれと同型式のモジュールが1272枚設置されているが,そのうちの約850枚にBPR の開放故障が発見されている。
図B.2.1-4 BPRが開放故障となっている端子箱内の断面
192
図B.2.1-5 BPRが開放故障している故障したクラスタに頻繁に陰がかかるモジュールの裏面の様子
(4) 太陽電池モジュールの発電回路不良からBPR開放に至った事例
図B.2.1-6は,産総研で発生している太陽電池モジュールの不具合の事例である。
このモジュールでは,まず,同図(a)に示すように,中央クラスタにおいて何らかの原因でセルを相互に つなぐ2本のインターコネクタの片方(図中「×」印で示した部分)が導通不良となり,その反対側の セルへの電流集中によって発熱が発生した。やがて,残りのインターコネクタも導通不良となり,同図
(b)にように中央クラスタでは動作電流がBPRに迂回するようになった。本モジュールはこの状態を5
年程度維持していたが,やはりBPRの節点であるはんだにクラックが形成され,当該接点が剥離、電気 的には開放状態となった。しかし,当然のことながらこの太陽電池モジュールの各セルは発電機能を保 持し,また,接続されている他のモジュールからの電流が通電する。BPRが開放故障となり機能を喪失 しているため,この通電電流は導通不良となっている発電回路を流れざるを得ず,その結果,導通不良 部分が局所的に激しく発熱し,裏面シートを焼損させ,かつ表面ガラスが粉々に割れてしまった(同図 (c)および(d))。さらに,この状態に至っても日中における通電が続いたため,モジュール内には局所的 に摂氏500度を超える部分が発生し(同図(e)),それは約半年にわたって継続した。
太陽電池モジュールを構成する部材は難燃性であるため,太陽電池モジュールが高温になってもそれ 自身が発火するリスクは低いと考えられるが,住宅屋根など構造物上に設置された太陽電池モジュール では,その裏面と屋根の間の狭い空間に,枯葉が堆積している場合や鳥やリスなどの小動物が営巣して いる場合も珍しくない。
これまでのわが国の太陽光発電システムは,点検の法的義務がなくかつモジュールに接近しての目視 点検が困難な住宅分野を中心に普及が進んできたため,モジュールの不具合の実態が十分には明らかに なっていないが,モジュール内のBPR開放故障は太陽光発電設備の火災要因として正しく認識される必 要がある。