第 6 章 まとめと今後の課題 49
6.3 今後の展望
6.3.1 DRIP システムとの連携
本節ではディスカッションリマインダシステムの応用として本研究室で先行的に 研究されているDRIPシステム[7]との連携について述べる。DRIPシステムでは
個人の研究活動といった知識活動を以下の4つのフェーズから構成されるDRIPサ イクルと定義し、各フェーズにおいて個人の研究活動を支援するシステムである。
• 議論(Discussion)フェーズ
アイディアや知識を他者に発表し、議論を通じて多角的な視点によるコメン トやアドバイスを獲得する
• 再認(Reflection)フェーズ
議論フェーズで行われた議論の内容を整理し、その後の活動方針を見定める
• 探究(Investigation)フェーズ
過去の議論内容を踏まえつつ、調査や実験、検証といった様々な作業を行い、
新たなアイディアや知識を創出する
• 集約(Preparation)フェーズ
創出したアイディアや知識を公表し、他者から新たなコメントやアドバイス を獲得したい事柄を明確にし、次の議論フェーズにつなげる
議論フェーズではこれまでの研究活動から生まれた知識やアイディアを発表す る。そして自分だけでは解決できなかった、もしくは他者の意見を参考にしたい 点などについて、議論を通じ参加者からの多角的な意見やアイディアを獲得する。
その際、ディスカッションマイニングによって議論の内容が詳細に記録されるが、
そこには「自分にとって有益な議論かどうか、そしてその議論はなぜ有益なのか」
といった人間の解釈が含まれていない。そのため目的の議論を探し当てることが 困難になる。そこで次の再認フェーズでは議事録の中から重要な議論を取り出し、
再利用をしやすくするために人間の解釈を加える作業を行う。議論フェーズにお いて記録された議論の中で、自分自身にとって有益な議論はどれか、どのような 観点からその議論が有益なのか、といった解釈の付与を行う。続く探究フェーズで は、解釈の付与が行われた議論をもとに情報不足を補うために調査を行ったり、重 要なアドバイスに基づいて、実験を行ったりするなど、適切なプロセスを行う。そ してそのプロセスを通じて新たなアイディアや知識を生み出す。最後の集約フェー ズでは研究活動を行っている人間が自身の活動内容を把握し、発表資料として探 究フェーズの結果をまとめることが求められる。そして作成された発表資料を用 いて議論フェーズにて発表を行うことで新たな議論が生まれ、さらなるフィード バックを獲得することができる。以上の4つのフェーズは図6.1のように繰り返し 行われることで、個人の研究活動における生産性を向上させる。
図 6.1: DRIPサイクルの図
DRIPサイクルにおいて議論を行う議論フェーズに大きく影響を及ぼすと考えら れるフェーズは、議論フェーズにて用いる発表資料を作成する集約フェーズであ る。そのため活発な議論を行うためには集約フェーズにおいて十分な準備が求め られる。加えて活発な議論を行うには第2章で述べたように議論を行うために必 要な知識を共有する必要がある。
そこで本システムではこのDRIPシステムと連携し柔軟な知識の共有化を目指 す。本システムは過去の議事録を回顧することによって自分自身が参加していな いような発表の知識も会議中に共有できるシステムである。しかし共有すること のできる知識はこれだけではない。例えば探究フェーズにおける、調査によって 獲得した情報や、実験の詳細な経緯や結果、あるいは作成したインタフェースの ソースコードなどさまざまである。これらのような探究フェーズの結果としての 知識は集約フェーズによってまとめられ発表資料として集約されるが、その過程 で発表資料に組み込まれない知識もやはり存在する。そのような知識を臨機応変 に参加者へ提示し、共有することで活発な議論展開が期待できる。
具体的な手法としてはサブディスプレイを用いての臨機応変な情報提示が考え られる。上述したとおり本来発表資料としては取り入れにくい探究フェーズの成 果物が存在する。そのような成果物は本来は発表資料としては冗長な情報である。
しかし実際の議論では臨機応変な対応が求められる。ときとしてそのような情報
(例えば参考にした論文内容など)を提示することで議論参加者の理解を促すこと
もある。あるいは単に提示するだけでなく、本来のスライドと並行し、補足とし て情報を提示することで議論参加者の理解を促すこともある。
このような情報はDRIPシステムによって半自動的に関連付けがなされる。発 表者はDRIPシステムを使用し、発表のパワーポイントを作成するだけで、探究 フェーズでの成果物とパワーポイント間にリンク情報が付与される。そして本シ ステムにおいては副次的な資料としてそれらを準備することなく利用可能にする。
発表者はサブディスプレイ上に議論の状況に応じて任意に関連付けされた情報を 提示することで、臨機応変な知識共有を行い、結果として活発な議論を展開でき るだろう。
参考文献
[1] Nagao, K., Kaji, K., Yamamoto, D. and Tomobe, H.. Discussion Mining:
Annotation-Based Knowledge Discovery from Real World Activities. Proc. of the Fifth Pacific-Rim Conference on Multimedia (PCM 2004). pp.522-531. 2004.
[2] 友部博教,土田貴裕,大平茂輝,長尾確.ディスカッションメディア:会議コンテ ンツの構造化と効率的な閲覧システム.第21回人工知能学会全国大会論文集,人 工知能学会,2F3-5. 2007.
[3] 倉本到,野田潤,藤本典幸,荻原兼一. 会合における健忘録をもとに一次記録 を検索参照する会合情報記録検索システム ReSPoM. 情報処理学会論文誌.
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[5] 松村 真宏,加藤 優,大澤 幸生,石塚 満. 議論構造の可視化による論点の発見と 理解. 日本知能情報ファジィ学会誌, Vol.15, No.5, pp.554-564. 2003.
[6] 八村大輔,森幹彦,喜多一. 議事録の構造化に基づくリフレクション支援. 進学 技報,KBSE2006-53. 2007
[7] 土田 貴裕,友部 博教, 大平 茂輝, 長尾 確. 議事録に基づく知識活動サイクルの 活性化. 第20回人工知能学会全国大会論文集,人工知能学会,3B3-1. 2006.