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ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 34-48)

図 10 SHH シ グ ナ ル 経 路 の 阻 害 時 の bcl-2 お よ び bax の 発 現 量 の 検 討 real-time PCRにより検討を行った結果、bcl-2の発現量は減少を認め、baxの発現 量は増加していた(図10A、10B)。

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考 察

エナメル上皮腫は良性腫瘍に分類されながらも局所的に浸潤し再発傾向を示 すことから、症例や施設によっては顎骨切除といった悪性腫瘍に準じた治療が 選択され、顔貌の変形、咬合の異常などの障害をきたして患者の QOL が著し く低下することもある。そのため、エナメル上皮腫の増殖のメカニズムを解明 し、標的遺伝子に対する治療法の開発が望まれている。この標的遺伝子の1つ となりうる分子として近年腫瘍の増殖に深く関与しているとされる SHH シグ ナル経路がある。SHH シグナル経路は、歯の発生を含む胎生期の器官形成に おいて重要な因子として同定された(5, 12-17)。その後、SHH シグナル分子 の1つである PTCHまたは SMOの変異で基底細胞癌、髄芽腫が発生すること が明らかになった(35, 36)。近年では、様々な癌でリガンド依存性に SHHシ グナル経路が活性化し、癌の増殖やアポトーシスの抑制に関与していることが 明らかにされつつある(22, 24, 25)。そこで本研究では、エナメル上皮腫が歯 原性上皮由来の腫瘍であること、そして歯の発生の際の歯胚の形成に SHH シ グナル経路が関与していることから、エナメル上皮腫の増殖およびアポトーシ スにおけるSHHシグナル経路の関与について検討を行った。

SHHシグナル分子の発現に関しては、今までに KumamotoらやZhang らが エナメル上皮腫を含む歯原性腫瘍での SHH、PTCHおよび GLI1の発現を検討 している(6, 8)。エナメル上皮腫において全症例でSHH、PTCH、GLI1の発 現を認め、腫瘍外側にある立方細胞は腫瘍中心部の多角細胞と比較して強く発 現していたと報告しており、本研究においても同様の結果を得た。また、SHH シグナル経路では、リガンドである SHHが受容体のPTCH に結合することで

PTCHの SMOへの抑制がはずれ、SMOが活性化することで、さらにその下流 にある転写因子であるGLI 群はGLIAとなり核内へ移行し転写が促進する。よ って、SHH シグナル経路の活性化にはSHHの PTCHへの結合もしくは SHH シグナル分子の変異が必要であり、GLIA となる GLI1 および GLI2 の核内で の発現を認めることはSHH シグナル経路が活性化されている証拠となる(36, 37)。本研究において、GLI1、GLI2 は核内で強く発現しており、エナメル上 皮腫における SHHシグナル経路の活性化が示された。

このSHH シグナル経路と腫瘍との関連は、まず1987 年に髄芽腫における PTCHの変異によるものが報告され、次いで 1996 年に基底細胞癌や角化嚢胞 性歯原性腫瘍に対する高危険群である Gorlin症候群の原因遺伝子変異として PTCHの変異が同定された(38)。その後、2003年に肺小細胞癌で遺伝子変異 によらないSHH発現増強を原因とする SHHシグナル経路の活性化と、これ に依存した癌細胞の増殖が報告され、これに続き食道癌、胃癌、膵癌、乳癌と いった多種の癌で SHHの過剰発現とオートクラインによる癌細胞の増殖が明 らかとなってきている(20, 21, 30, 39)。そこで本研究では、SHH中和抗体お よびSHH シグナル分子の1つであるSMOの阻害剤である cyclopamineを添 加し、SHH シグナル経路を異なった部位で阻害した時の増殖への影響を検討 した。その結果、SHH中和抗体添加群および cyclopamine添加群ともに対照 群と比較して AM-1細胞の増殖率が有意に抑制されており、さらに BrdUによ る検討において両群は対照群と比較して増殖活性が有意に低下していた。この ことからSHHシグナル経路がエナメル上皮腫の細胞増殖に関与していること が示唆された。さらに、cyclopamine添加時だけでなく、中和抗体によりリガ ンドであるSHHを阻害した場合にもAM-1細胞の増殖が抑制されることから、

上記で述べたような PTCHや SMOの変異が原因ではなく、SHHシグナル経 路と関連が示唆されている多くの腫瘍と同様に、リガンド依存性のオートクラ インによるSHHシグナル経路の活性化による増殖と推察できる。また、転写 因子であるGLI群はヒトでは GLI1、GLI2および GLI3が同定されており、

GLI1およびGLI2はactivator としての役割を果たしているが、GLI1はより 強力なactivatorであることが知られている(18, 37)。本研究において SHH 中和抗体添加群におけるGLI群の発現を対照群と比較したところGLI1および GLI2は、対照群においてはほとんど核内に発現しているが、一方SHH中和抗 体添加群は細胞質に多く発現を認めた。この結果は、上述してきたことと矛盾 せず、SHH 経路が阻害されていることを示唆している。

さらに、SHH はモルフォゲンとして作用する際に、細胞増殖を促進する一 方で、アポトーシスを制御することで形態形成を行うことが知られている。ま た癌においても SHH シグナル経路を阻害するとアポトーシスが誘導されると の報告がある(23, 30, 40)。これまでにエナメル上皮腫においては、BCL2、

BAX、FAS、caspase-3 などのアポトーシス関連分子に関して発現を認めてい

るが、SHH シグナル経路と関連づけた検討はされていない(32-34)。そこで エナメル上皮腫における SHH シグナル経路とアポトーシスの関連を検討した。

研究2 においてSHH中和抗体または cyclopamineを用いて、SHHシグナル経 路を阻害すると増殖が抑制されるのみならず0日目と9日目を比較すると9日 目では生細胞数は減少し、核が凝集した死細胞を多く認め、アポトーシスの誘 導が推測された。SHH シグナル経路を阻害することでアポトーシスが誘導さ れたAM-1 細胞は有意に多く、また、抗アポトーシス分子である BCL2の発現 の減弱とアポトーシス促進分子である BAX の発現の増強を認めた。以上のこ

とより、エナメル上皮腫において SHH シグナル経路がアポトーシスを介して 増殖に関連していることが示された。

エナメル上皮腫における増殖に関するわれわれの今までの研究で、AM-1 細 胞が FGF およびその受容体である FGFR を発現していることがわかっている

(未発表)。FGF は SHH と同様に器官形成時にモルフォゲンとして作用し、

歯の発生においては、口腔上皮の肥厚が始まるときに最初に間葉細胞から分泌 され上皮細胞に作用し、SHH の発現を促進するとともに、細胞増殖に関与し ていることが知られている(5, 12, 13, 40)。よって、研究 1によりエナメル上 皮腫が SHH のオートクラインによる SHH シグナル経路の活性化が示唆され たが、さらに FGFによるSHHシグナル経路の促進も考えられ、今後さらに検 討する必要がある。

SHH シグナル経路とアポトーシスに関しては、乳癌、大腸癌、神経膠芽腫 などの多くの腫瘍において抗アポトーシス作用を持つ PI3K-AKT経路が、腎細 胞癌や食道癌において SHH シグナル経路の阻害により活性が抑制されること が報告されている(41, 42)。エナメル上皮腫においても同様にSHHシグナル 経路の活性化による PI3K-AKT 経路およびアポトーシスへの影響が考えられ、

今後検索が必要である。

以上のことから、SHH シグナル経路がエナメル上皮腫における増殖に関与 する一方で、アポトーシスの制御にも関与していることが本研究では示唆され た。しかし、他の腫瘍と同様にエナメル上皮腫においても腫瘍形成には多様な 因子が関与していることも明らかである。今後は本研究で得られた結果をもと

に特にFGF またはPI3K-AKT 経路を含めた他の因子との関連も検索し腫瘍形

成のメカニズムを解明することが必要である。さらにはより効果的な治療法の

開発への足がかりと出来れば、患者の QOLの改善につながるであろう。

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GLI1, SHH, PTCH, Cyclin D, Cyclin E, VEGF, IGF!

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謝 辞

稿を終えるにあたり、このような研究の機会を与えて頂きましたとともに終 始御懇篤なる御指導、御校閲を賜りました九州大学大学院歯学研究院口腔顎顔 面病態学講座顎顔面腫瘍制御学分野中村誠司教授に深甚なる謝意を表します。

さらに、直接御指導、御校閲を頂きました九州大学大学院歯学研究院口腔顎顔 面病態学講座顎顔面腫瘍制御学分野光安岳志助教ならびに九州大学大学院歯学 研究院口腔顎顔面病態学講座顎顔面腫瘍制御学分野川野真太郎助教に謹んで感 謝の意を表します。研究を進めるにあたって、懇切なる御指導を頂きました九 州大学大学院歯学研究院口腔顎顔面病態学講座顎顔面腫瘍制御学分野中尾祐先 生に謹んで感謝の意を表します。また、常に研究の協力ならびに励ましの言葉 を頂きました九州大学大学院歯学研究院口腔顎顔面病態学講座顎顔面腫瘍制御 学分野の教室員の皆様に深く感謝いたします。

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