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Ag, Eu を共添加したタンタル酸化物薄膜の作製・評価

4-1 はじめに

本章では、Ag及びEuを共添加したタンタル酸化物薄膜の作製とその特性の評価を行う。

第3章で述べたように当研究室では、Euを添加したタンタル酸化物(Eu: TaOx)から波長

620 nmの発光が確認されている。そして、スパッタリング法によって作製したEr: TaOx

薄膜に Ag を共添加することによって Er3+由来の発光が増強されることも確認できた。よ って、同じスパッタリング法で作製したEu: TaOx薄膜にAgを共添加することでEu由来 の発光が増強されるか確認した。

4-2 Euを添加したタンタル酸化物薄膜の作製

まず、Ag を添加した試料と比較をするために Eu のみを添加したタンタル酸化物(Eu:

TaOx)薄膜を第2章で述べたRFマグネトロンスパッタリングとアニールを用いて作製し

た。今回使用したEu2O3タブレットは3価のイオン(Eu3+)であり、図4-1のようなエネル ギー準位を有する。図4-1 より、Eu3+を添加することで TaOx 薄膜から赤色発光が期待で きる。当研究室の過去の研究では本研究と同様の方法で作製した Eu: TaOx 薄膜より 600

nm、620 nm、650 nm、700 nm付近を中心としたPLピークを持った赤色発光が確認され

ている。この中でも620 nm付近のPLピークは他のPLピークよりも群を抜いて強いピー クであった。

表 4-1 に薄膜の作製条件であるスパッタリング条件及びアニール条件を示す。Eu2O3タ ブレットの枚数は過去の研究で Eu: TaOx 薄膜を作製した際に最も強い発光が得られた枚 数を参考にした。Eu: TaOx成膜後、700℃、800℃、900℃、1000℃の4つの温度で20分 間空気中アニールを行い、各アニール温度でPL測定をした。アニール温度が薄膜の状態に 影響を与えているか調査するために透過率測定とXRD測定を行った。

33 図4-1 Eu3+のエネルギー準位図[4-1]

表4-1 スパッタリング条件及びアニール条件

スパッタリング条件

Eu2O3タブレット枚数 (枚) 2

RF電力 (W) 200 Arガス流量 (sccm) 15

アニール条件

温度 (℃)

700 800 900 1000

雰囲気 空気中

時間 (min) 20 膜厚 (µm) 1.58

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4-2-1 Euを添加したタンタル酸化物薄膜のPL測定結果

表4-1の条件で作製したEu: TaOx 薄膜の PL測定を行い、その結果を図 4-2にまとめ た。PL測定の結果より、全ての試料から600 nm、620 nm、650 nm、700 nm付近にピー クを確認できた。620 nm 付近のピークは他の波長のピークに比べ群を抜いて強度が強い。

1000℃でアニールした試料から最も強い PL ピークを確認でき、他の試料のピークよりも

鋭くなっている。肉眼では赤色の強い発光を確認することができた。

図4-2 PL測定結果

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4-2-2 Euを添加したタンタル酸化物薄膜の透過率測定結果

PL測定の結果よりアニール温度によって、発光特性に変化が生じていることがわかった。

次に、発光強度とは別の光学特性を調べるために透過率測定を行った。透過率測定の結果を 図4-3にまとめる。

図4-3より、700、800℃の試料と900、1000℃の試料で似たグラフとなっている。700、

800℃の試料は、可視光域になっても透過率は減少していないが、900、1000℃の試料は可 視光域になると減少しており、900℃の試料の方が少し低いことがわかる。このことから、

アニール温度が800℃と900℃を境にして薄膜の状態が変化していると考えられる。

図4-3 透過率測定結果

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4-2-3 Euを添加したタンタル酸化物薄膜のXRD測定結果

PL測定と透過率測定より、アニール温度によって光学特性が変化していることから、薄 膜の結晶状態が光学特性に関係していると考えた。Eu: TaOx薄膜のXRD測定を行い、結 晶構造の評価をした。その結果を図に示す。

700、800℃でアニールした試料からは目立ったピークが無く、非晶質であると考えられ

る。900、1000℃でアニールした試料からはピークが確認できたため、データベースにて照

合した。照合の結果、900、1000℃の両方に斜方晶のTa2O5の結晶が見つかった[3-2]。さら に、1000℃の試料からは Eu3TaO7の結晶ピークが確認できた[4-2]。PL 測定の結果より

900℃の試料より1000℃の試料のPL強度が大きいことから、この差はEu3TaO7の結晶に

よるものだと考えられる。

図4-4 XRD測定結果

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4-3 Ag, Euを共添加したタンタル酸化物薄膜の作製

AgとEuを共添加したタンタル酸化物(Ag, Eu: TaOx)薄膜の作製を行った。表4-2に試 料の作製条件をまとめる。第3章と同様に、Agの濃度によって特性にどのような変化が起 きるか比較をするため、使用するAgのタブレットを1/4×2~1/4×8枚と変えて合計7種 類の試料を作製した。Ag, Eu: TaOx薄膜を作製する際、使用するEu2O3のタブレット枚数 は2枚に統一した。また、タブレットの枚数でAgの添加量が変化しているか確認するため にEPMAを使用して濃度を測定した。試料の膜厚とAg濃度を表4-3にまとめ、タブレッ ト枚数とAg濃度との関係を図4-5にまとめた。

表4-2 試料の作製条件

スパッタリング条件

Eu2O5タブレット枚数 (枚) 2

Agタブレット枚数 (枚)

1/4×2 1/4×3 1/4×4 1/4×5 1/4×6 1/4×7 1/4×8 RF電力 (W) 200

Arガス流量 15

アニール条件

温度 (℃)

700 800 900 1000

雰囲気 空気中

時間 (min) 20

表4-3 試料の膜厚及びAg濃度

Agタブレット枚数 (枚) 1/4×2 1/4×3 1/4×4 1/4×5 1/4×6 1/4×7 1/4×8 膜厚 (µm) 1.57 1.52 1.58 1.61 1.57 1.62 1.63 Ag濃度 (mol%) 1.625 2.453 3.328 1.790 3.248 3.465 4.192

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図4-5 タブレット枚数とAg濃度

図4-5よりAg濃度が最も多いのはAgタブレットを1/4×8枚使用した試料である。タ ブレットの枚数を 1/4×5 枚にした試料はタブレットを増やしたにも関わらず、Ag 濃度が

約1.5 mol%も減少している。これは EPMA をする際にビームのピントがあってないこと

でピークを読み取ることができなかったことが原因だと思われる。

4-4 Ag, Euを共添加したタンタル酸化物薄膜のPL測定結果

Ag, Eu: TaOx薄膜のPL測定を行った。使用したAgタブレットの枚数毎にPL測定結果

をグラフにまとめ図に示す。

39 図4-6 Agタブレット1/4×2枚(1.625 mol%)

図4-7 Agタブレット1/4×3枚(2.453 mol%)

40 図4-8 Agタブレット1/4×4枚(3.328 mol%)

図4-9 Agタブレット1/4×5枚(1.790 mol%)

41 図4-10 Agタブレット1/4×6枚(3.248 mol%)

図4-11 Agタブレット1/4×7枚(3.465 mol%)

42 図4-12 Agタブレット1/4×8枚(4.192 mol%)

ほぼ全ての試料が1000℃でアニールした試料から最も強いPL強度が得られたが、Ag濃 度の一番低い試料は900℃でアニールした試料が最も強いPL強度となった。また、最も強 いPLピークが存在する波長が600 nmの試料と620 nmの試料の2種類ある。この2つの

ピークは4-2節のEu: TaOx薄膜のPL測定でも確認されており、Eu3+由来のピークである

と考えられる。この2つのピークに比べ、小さいがEu3+由来のピークと考えられる650 nm

付近と700 nm付近にもピークを確認できる。肉眼では赤色の強い発光が確認できた。

43 4-4-1 PL測定結果(Ag濃度)

PLスペクトルがAg濃度によってどのように変化しているか調べた。

Agを添加することによるPL強度の変化を調べるために、4-2節のEu: TaOx薄膜のPL 結果も使用して比較した。この試料はAgを添加していないため、Ag濃度を0.0 mol%とし た。PL測定結果より、620 nm付近のピークの値を使用して比較を行った。

図4-13より、アニール温度700、800℃の試料はAgを添加することでPL強度がほとん どの試料でPL強度が減少していることがわかる。アニール温度が1000℃でAg濃度1.8~

3.3 mol%の範囲で強い発光が得られる。

図4-13 Ag濃度とPL強度の関係

4-5 Ag, Euを共添加したタンタル酸化物薄膜の透過率測定結果

第3章と同様にAg, Eu: TaOxの透過率測定を行った。

Ag濃度が最も小さい試料としてAgタブレット1/4×2枚(1.625 mol%)、Ag濃度が最も 大きい試料としてAgタブレット1/4×8枚(4.192 mol%)、そしてPL強度の最も大きい試 料としてAgタブレット1/4×5枚(1.790 mol%)の3つの試料の透過率を図に示す。

44 図4-14 Agタブレット1/4×2枚(1.625 mol%)

図4-15 Agタブレット1/4×8枚(4.192 mol%)

45 図4-16 Agタブレット1/4×5枚(1.79 mol%)

Ag濃度の低い1.625 mol%の透過率はEu: TaOx薄膜の透過率と比較すると1000℃の透 過率が少し低くなっている。PL測定の結果を見ると1000℃でアニールしたAg濃度1.625

mol%の試料の方が1000℃でアニールしたEu: TaOx薄膜のPL強度よりも大きくなってい

る。Ag濃度4.192 mol%と1.79 mol%の透過率は700℃でアニールした試料の透過率が500

nm付近を中心として減少している。この現象は3-4節のAg, Eu: TaOx薄膜でも生じ、PL 強度には無関係であると考えられる。700℃でアニールした Ag 濃度4.192 mol%の試料は アニールをしたにも関わらず薄膜が黒色をしていた。Ag 濃度 1.79 mol%のアニール温度 700℃の試料はほぼ透明であったが紫色の部分が存在していた。

4-6 Ag, Euを共添加したタンタル酸化物薄膜のXRD測定結果

Ag, Eu: TaOx薄膜のXRD測定を行った。透過率測定と同様に、Ag, Eu: TaOxのAg濃

度が最も小さい試料としてAgタブレット1/4×2枚(1.625 mol%)、Ag濃度が最も大きい試 料としてAgタブレット1/4×8枚(4.192 mol%)、そしてPL強度の最も大きい試料として Agタブレット1/4×5枚(1.79 mol%)の3つの試料の比較を行う。その結果を図に示す。

46 図4-17 Agタブレット1/4×2枚(1.625 mol%)のXRD結果

図4-18 Agタブレット1/4×2枚(1.625 mol%)のXRD解析結果 1000℃

47 図4-19 Agタブレット1/4×8枚(4.192 mol%)のXRD結果

図4-20 Agタブレット1/4×8枚(4.192 mol%)のXRD解析結果 1000℃

48 図4-21 Agタブレット1/4×5枚(1.79 mol%)のXRD結果

図4-22 Agタブレット1/4×5枚(1.79 mol%)のXRD解析結果 1000℃

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Ag濃度1.625 mol%の試料は700、800℃でアニールした試料からはピークは確認できず、

非晶質であると考えられる。900℃の試料からδ-Ta2O5の結晶が確認でき[3-5]、1000℃の試 料からはEu3TaO7の結晶が確認できた[4-2]。

Ag 濃度4.192 mol%の試料は 700℃でアニールした試料からはピークが確認できず、非

晶質であると考えられる。800、900、1000℃の試料から Eu0.5TaO3、Ag2Ta8O21の結晶が 確認できた[3-4][4-3]。

Ag濃度1.79 mol%の試料は700、800℃でアニールした試料からはピークが確認できず、

非晶質であると考えられる。900、1000℃の試料からδ-Ta2Oの結晶が確認でき[3-5]、1000℃

の試料はさらにAg2Ta8O21の結晶が確認できた[3-4]。

この結果より、アニール温度によって結晶構造が変化することがわかった。Ag濃度の高 い試料からは 800℃の低温アニールでも Ag2Ta8O21の結晶が確認でき、ほかの試料では見 られないEu0.5TaO3の結晶が確認できた。アニール温度だけでなく、薄膜中の濃度によって も結晶構造に影響がでるのではないかと考えられる。

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