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AP 13〔移転価格関連の文書化の再検討 と CbC Reporting〕

移転価格税制に関しては、〔AP13 移転価格関連の文書化の再検討〕でも取り上げられており、

これは、OECD移転価格ガイドラインの「第5章 文書化」の改訂を意図したものである。

2014年1月30日に公表された「移転価格文書化とCbC Reporting に関するディスカッショ ン・ドラフト(Discussion Draft on Transfer Pricing Documentation and CbC Reporting;以 下「文書化とCbC Reportingドラフト」という。)」は、移転価格文書化の様式として「マスター ファイル」と「ローカルファイル」を規定し、マスターファイルの一部として「Country-by-Country

Reporting(以下「CbC Reporting」という。)」を位置づけることで、世の中に初めて「CbC

Reporting」を移転価格文書化に組み込む内容として公表がなされた。

この「CbC Reporting」の移転価格文書化への導入とその様式案の公表は、ビジネス界に対し て大きなインパクトを与え、我が国においては経団連がこの導入に対しかなり否定的な意見書の 提出を行ったところである。

その後、OECDは4月2日にインターネットで行った「OECD Live Webcast」で、このドラ フトの様式案等に対する修正事項の公表を行い、ビジネス界からの意見に一定の理解を示したう えで、6月の租税委員会本会合では、その修正事項に沿ったOECD移転価格ガイドライン第5章 の改訂案について、まだ継続的な検討の必要性があるとしながら承認が行われ、9月16日に〔2014

Deliverable〕の報告書として公表がなされた。以下に、文書化と CbC Reportingドラフトから

の主な変更点を確認したうえで、本報告書の内容について確認を行う。

1.文書化とCbC Reportingドラフトからの主な変更点 (1) 移転価格文書化のアプローチの三層構造化

ドラフトでは、移転価格文書化のアプローチとして、①企業グループ全体に共通する基本情 報を含む「マスターファイル」及び②ローカル企業の重要な取引に特化して記載される「ロー カルファイル」の「二層構造」が示され、③国ごとの所得配分、税額及び経済活動指標に関す る情報などを含む「CbC Reporting」は、マスターファイルの一部として位置づけられ、独立 した個別の文書としては取り扱われていなかった。

本報告書では、「CbC Reporting」をマスターファイルから独立させ、「三層構造」が採用さ れることとされた。

(2) CbC Reportingの記載項目の大幅な変更

ビジネス界に多大なるインパクトを与えたCbC Reporting への記載項目については、前述 したとおり「OECD Live Webcast」でその修正事項が公表されていた。

本報告書のCbC Reportingの様式では、「OECD Live Webcast」でその修正事項に沿って、

記載単位が、国ごとの「構成事業体」単位から「国」単位に改められ、かつ、記載項目もかな り限定され、多国籍企業への負担をかなり抑えたものとされた。

(3) CbC Reportingへの「構成事業体リスト」の新規追加

「構成事業体」単位での CbC Reportingの作成は見送られたが、多国籍企業グループ内の

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構成事業体に係る情報については、新たに「CbC Reportingの集計に含まれる多国籍企業グル ープの構成事業体リスト」を作成し追加添付することとされた。

2.本報告書のOECD移転価格ガイドライン第5章の概要 (1) 第5章の構成

本報告書での OECD移転価格ガイドライン第 5章の構成は、ドラフトとほぼ同様であり、

以下のA~Eの節に、「マスターファイル」、「ローカルファイル」及び「CbC Reporting」の3 つの様式を添付書類とする構成が取られた。

本報告書の内容をこの構成に基づいて、以下に示す。なお、ドラフトからの変更部分にはア ンダーラインを付記する(項目の前後入替は含めず。)。

〔本報告書のOECD移転価格ガイドライン第5章の構成〕

 A. イントロダクション

 B. 移転価格文書化の目的

 B. 1. 独立企業原則に係るコンプライアンスについての納税者による評価

 B. 2. 移転価格のリスク評価

 B. 3. 移転価格調査

 C. 移転価格文書化の三層構造アプローチ

 C. 1. マスターファイル

 C. 2. ローカルファイル

 C. 3. CbC Reporting

 D. コンプライアンスに関する論点

 D. 1. 同時文書化

 D. 2. 文書の作成・申告時期

 D. 3. 重要性

 D. 4. 文書の保存期間

 D. 5. 文書の更新頻度

 D. 6. 使用言語

 D. 7. 罰則

 D. 8. 守秘

 D. 9. その他

 E. 執行及び再検討

 別添1:マスターファイル

 別添2:ローカルファイル

 別添3:CbC Reporting ‐ 納税地別の所得・税額・事業活動の配分の概況

CbC Reporting ‐ 納税 地別の国籍企業グループの構成事業体のリスト

74 (2) 「B. 移転価格文書化の目的」の内容

移転価格文書化の目的として、以下の3つが挙げられている。

① 関連者間取引に係る価格やその他の条件を設定するときや、そのような取引からの所得 を税務申告で報告するときに、納税者が適切に移転価格に必要な検討をすることを確かな ものとすること

② 移転価格に係るリスクの評価を実行するために必要な情報を税務当局に与えること

③ 税務当局がその法的管轄における税制に従って適切に完全な移転価格調査を実行するた めに必要となる情報を、税務当局に与えること

(3)「D. コンプライアンスに関する論点」の内容

コンプライアンスに関する論点として、以下の事項について解説がなされている。

 同時文書化

納税者は、移転価格の設定前にその価格が適切であるか検討をすべきであり、税務申告書 を提出するときにその取引結果から独立企業原則について確認すべきである。

納税者は文書化で、過大なコストや負担を強いられるべきではなく、税務当局は納税者の コストや負担についてバランスを取ることを要請される。

 文書の作成・申告時期

移転価格文書の提出時期は各国で異なるが、ローカルファイルは、対象事業年度の税務申 告時までに作成されていることが望ましい。

マスターファイルは、グループの「究極の親会社(ultimate parent)」の申告期限までに 再検討され、必要に応じて更新されることが望ましい。

CbC Reportingの作成時期は、構成事業体からの財務情報等の入手のタイミングに鑑みて、

「究極の親会社(ultimate parent)」の事業年度終了日から1年間期限が延長され得る。

 重要性

すべての国外関連者取引に、完全な文書化を要求するほどの重要性があるわけではない。

移転価格文書化においては、明確な重要性の閾値(threshold)の設定が求められる。

重要性基準は、商業上の実務において一般的に理解され受け入れられる客観的な基準とさ れるべきである。中小企業の文書化については、大企業に比して軽減されることが、コス トと負担のバランスから必要である。

CbC Reportingについては、多国籍企業グループが事業を行う納税地での企業活動の規模

に関係なく、税務上の納税地のすべてが記載されるべきである。

 文書の保存期間

納税者はその所在地国の国内法で求められる法定期間を超えて文書を保存する義務を課 されるわけではない。税務当局は、法定期間の経過年分の文書の情報については、入手が 制限されることに留意すべきである。

 文書の更新頻度

原則として、マスターファイル及びローカルファイルは、毎年更新されなければならない。

しかし、負担軽減の観点から、ローカルファイルの一部は 3 年ごとの更新が認められるこ ととされた。

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 使用言語

移転価格文書に使用される言語は、各国の国内法に拠ることとする。各国は、文書化の有 用性を損ねないのであれば、汎用的な言語での提出を認めることが推奨される。

なお、税務当局は、納税者の負担を考慮しつつ、マスターファイルの必要部分の翻訳を依 頼できる。

 罰則

各国はこれまでに移転価格文書化の効果的な運用を確保するため、その不遵守のコストが 高くつくように罰則を設定している。しかし、多国籍企業が入手できない情報の不提出に 対して、罰則を課さない配慮が必要である。

他のグループメンバーが、移転価格に関する責任を有しているという主張は、文書不作成 の理由とはならず、文書不作成に関する罰則を回避できる理由にもならない。

移転価格文書化に合理的な努力を行った納税者に過大な罰則を科すことは不公平である。

また、十分な文書化を行っている納税者に対して、罰則減免や税務当局側に立証責任を転 換するというインセンティブを与える国もある。

 守秘

税務当局は、営業上の秘密、技術上の秘密、その他の秘密について、情報の不開示を保証 しなければならない。訴訟手続きにおいてそれらの開示が求められた場合にも、守秘を保 証すべきであり、必要な部分に限り開示をするに留めるべきである。

OECDの「Keeping it safe」が、情報交換により交換された情報の守秘を確保するための ルールや実務に関する指針を提供している。

(4) 「E. 執行及び再検討」について

提出方法及び税務当局間の情報の共有方法に関して、ローカルファイルについては現地の税 務当局に提出することで見解の一致をみているが、マスターファイル及びCbC Reporting に ついては、いくつかの提出方法等の見解が存在しており、現段階では一致に至ってはいない。

WP6では、この問題に対し、以下のことを考慮に入れて分析を進めることを予定している。

 商業上センシティブな情報の守秘の重要性

 税務当局のための透明性に資する適時に利用できる情報入手の重要性

 すべての関係国に情報が継続的に報告される重要性

 多国籍企業についてすべての関係国が共通の理解を有することを担保する重要性、等 また、WP6 では、本報告書の第 5 章の文書化のメカニズムが新規の施策であり、検証はな されていないことから、再検討が必要になると考えており、2020年末までにBEPSプロジェ クト加盟国で再検討の実施を予定している。このなかで、構成事業体ベースでの報告やグルー プ内取引(利子・ロイヤルティ・役務提供)情報の必要性についても再検討が予定されている。

3.マスターファイル・ローカルファイル・CbC Reportingの様式

以下に、本報告書の「マスターファイル」、「ローカルファイル」及び「CbC Reporting」の 様式を示す。「CbC Reporting」は、2つの様式に分割されたものとなっており、比較参考のた め、ドラフトで公表されたCbC Reportingの様式を最後に付記しておく。

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