第 6 章 教育現場での利用
6.3 AES 支援システムによる教育改善の取り組み ―教員の利用事例―
6.3.1 実践した授業概要と科目の位置づけ
本システムは,一般教養科目やリテラシー系などの基礎教育科目のレポートを対象として おり,専門用語が多用される授業課題を対象としない.ここでは,2016年度に担当した情報 基礎教育の授業で提出されたレポートを,構築したシステムで採点し,出力された情報を分 析するなど,教育改善につながる効果的な利用を目指した.
取り組みを行った授業は,表6.3.1授業概要 に示す『現代情報処理B』(1年次2期開講2単 位)である.現代国際学部では1年次の情報基礎科目として『現代情報処理A』(Word,Web ブラウザ,Power Pointを中心としたPC基礎とドキュメント処理)および『現代情報処理B』
(Excelによる情報の整理・分析)を開講している .情報基礎科目群全体を通して,大学での
学びや卒業後の業務にICTをツールとして活用できる能力を身につけることが狙いである.
表やグラフはレポートで論拠を示すのに利用されることから,1年次の基礎教育として重要な 役割を担う.
表 6.3.1: 授業概要
科目名とテーマ 『現代情報処理B』:スプレッドシートを用いた「データ分析基礎ス キル」の習得
開講期,単位など 1年次2期,演習2単位
学習目標 「データ収集・整理・分析」のプロセスを通じて次に掲げる学習目 標の達成を目指す:
(1) スプレッドシートの基本操作能力を習得する
(2) 習得した技術を実データに適用しながら問題解決力を身につけ る
(3) 収集したデータから得た知見をレポートに集約できる 目標達成度の評価
方法
第11回・第15回に表計算ソフトのスキル確認問題とレポート提出 取り組みを行った A(43名),B(40名),C(42名)
クラス(仮称)と ※レポート提出者の人数.A・Bクラスは2015年度,Cクラスは 受講者数 2016年度開講
6.3.2 授業運営上の問題点と改善内容
ここ数年当該授業を担当することにより,レポートを書くことが苦手,あるいは気が進ま ない学生が多いことがわかった.また外国語大学に所属する学生の多くは外国語教育に興味 がある一方で,情報教育への関心が薄い,あるいはPCに対する苦手意識が高く,モチベー ションが低い.さらに大学あるいは学部全体の共通科目としての位置づけから,他の専門科 目のレポート作成やゼミナールでの研究活動との連携が困難で,情報基礎スキルの習得に留 まりがちである.しかしながら本科目は,大学1年次に習得すべきアカデミックスキルとし て重要であることから,理解度やモチベーションを高める必要がある.これまで授業改善の
ための工夫として,LMS(具体的にはMoodle)を学生とのコミュニケーションの基盤として 位置づけ,教材や授業スライドの事前提示,授業評価アンケート,授業内作業ファイルの提出 などを行ってきた.また随時授業所感の収集を行い,学生の理解の状況および授業の進行度 やモチベーションなどを把握することで,対面コミュニケーションに代わる一人一人の状況 把握を行ってきた.教材としては,政府が公開しているオープンデータを利用し,観光局の データによる動機づけ,および自らが知識発見をできるような課題づくりに取り組んできた.
しかしながら受講人数が多く,採点の正確性を高めるためにチェックリストを作成するなど 時間的負担が大きく,授業実施期間内に学生の目標到達度の確認や,作文スキル改善に向け た情報をまとめ,フィードバックするような十分な時間が得られなかった.また授業所感を 見るとクラスによる違いが漠然とわかるものの,具体的にどのような指導が必要かは,明確 に捉えられなかった.
そこで本システムでレポートを採点することで,作文スキルに関する部分の採点の正確性 を保ち,短時間で作業を終えることができた.また,以降の学生指導に役立つ情報をまとめ,
フィードバックを試みた.
6.3.3 教育実践による効果測定
6.3.3.1 実践内容
2016年度に実施したクラスCのレポート1および2を自動採点した.レポート1の結果を クラス全体にフィードバックし,授業最終回にレポート2の課題を提示し,変化を確認した.
また前年度(2015年度)に実施した授業で提出されたクラスAおよびクラスBのレポート 1を自動採点し,クラスCの同テーマのレポート1とともに,クラスの傾向などを分析した.
対象となるクラスの文書数や平均文字数を表6.3.2に示す.
表6.3.2: 採点したレポート
授業実施年度 クラス 文書数 平均文字数(標準偏差) 採点対象レポート
2015 A 43 427.6 (216.0) レポート1
2015 B 40 325.5 (171.7) レポート1
2016 C 42 443.0 (166.3) レポート1
2016 C 42 438.1 (134.5) レポート2
図6.3.1は採点の過程で表示される作文技術基礎統計情報の画面のキャプチャである.
図6.3.1: 採点時に表示される作文技術基礎統計情報
レポート1の自由記述文のテーマは次のとおりである.レポート2は課題提示としては同 じであるが,データを自由に探す問題に変更してある.
「本シートの表は日本政府のデータカタログサイトで公開されている国土交通 省 観光庁のオープンデータである.この表から『外国人旅行客に関する調査報告 書』を作成することになった.どの部分をどのように利用してもよいので,ここか らわかることを1つ自分なりに発見し,表とグラフを作成せよ.作成した表やグ ラフから言えることなど自分の見解を,少なくとも200文字以上記述すること.」
6.3.3.2 効果の確認
(1) 採点負担の軽減
本システムの利用により,文章作法や作文スキル等の添削および評価の時間的負担や評 価のバラツキの軽減が可能となった.例えば40名の自動採点では,Style・Skillの採点及 び総合成績レベル予測結果を得るまで数分足らずで行うことができる.アクティブ・ラー ニングでは,授業実践に加え,厳正な評価と授業改善の取り組みが重要である.本採点 システムを利用して時間を短縮することで,レポートの質向上に向けての論点やテーマ を明らかにして議論するなど,教員と学生は双方向に意義ある内容に時間を費やすこと ができる.
(2) クラス毎の傾向の把握
同じテーマのレポート1をクラス別に処理し3クラスで比較したところ,作文スキルや 漢字の利用などに違いがあることがわかった.例えば6.3.2は漢字の使用率をクラス別に グラフ化したものである.クラスBはA,Cよりも漢字資料率が高い学生が多い.
図6.3.2: クラス別漢字使用率
また図6.3.3のレポートのエラー数の状況は,学生毎の文章校正エラーの数をプロットし
たものである.
図6.3.3: レポート1のエラー数の状況
ここでもやはり,クラスBは全般にエラーが少ない.授業内での説明や,レポートの課 題提示の際,A,Cクラスに対しては,文章校正に関する話を詳しく伝える必要がある.
(3) 作文スキルの向上
図6.3.3より,クラスAやクラスCは,▲や〇の外れ値があり,個別指導が必要である
ことがわかる.そこで図6.3.4のように,該当学生にのみMoodleでコメントを返し,改 善指導を行った.
図6.3.4: 個別指導コメントの例
次にクラスCについて,個別指導が必要であった学生(図6.3.3の〇で示した4名)の レポート1とレポート2を採点し,統計情報を確認すると,表6.3.3のとおりエラーの個 数が「誤字脱字」と「冗長さ」(下線付き)を除き,すべて減少していた.
表6.3.3: 学生の個別指導後のエラー数の変化
ID 文体 誤字 構文 主述 冗長さ 表記 レポート1 レポート2 文字数
統一 脱字 関係 ゆれ 文字数 文字数 増減
84 1 -1 -2 -6 3 -1 487 576 89
90 0 -1 -1 -9 0 0 324 347 23
102 0 0 0 4 -15 0 495 471 -24
112 0 -4 -4 -13 -1 -2 1112 433 -679
また,表6.3.4のクラスCの語彙力の変化のとおり,漢字使用率や,語彙力,語彙の豊富 さ(トークン比)が僅かに上がり,標準偏差が下がっており,改善が確認できた.これら は本授業での取り組みが直接の要因とは特定できないが,レポート2の提出まで1か月 足らずであることから,ある程度の影響があったと推測できる.
表6.3.4: クラスCの語彙力の変化
レポート 平均文字数 漢字使用率 語彙水準 語彙の豊富さ
(授業回) (標準偏差) (適正値35%以上) (最高点6.0) (最高点1.0)
レポート1 443.0
34.0% 2.79 0.61
(10回) (166.3)
レポート2 438.1 37.0%* 2.95* 0.62
(15回) (134.5) (+3%) (+0.16) (+0.01)
※ウィルコクソンの順位和検定による. n=42, *:p<0.05
(4) 学生のモチベーション
随時行う授業評価では,授業の満足度のクラス平均は4.5以上,学生のやる気度は5.0前 後の数値を獲得している(何れも0-6段階評価).
6.4 レポート作成時の校正 ―学生の利用事例―
6.4.1 実践した授業概要と科目の位置づけ
学生へのフィードバックに関する検証を行うために,2017年度に担当した授業で,システ ムを試用した結果を報告する.取り組みを行った授業は,『ICTとグローバルコミュニティ』
(2〜4年次対象1期開講2単位,受講者26名)である.国際教養学科の専門科目ではあるが,
学部・学科を問わず受講でき,一般の教養科目と同等に位置づけられる.
6.4.2 実践内容と効果
第12回授業で,次のようなレポートの課題を提示した.
「ICTの発展がもたらす社会問題を一つ取り上げ,原因や対策など2000字以上で論じな さい」
第14回授業までにテーマを決め,400字以上で「概要」をまとめるよう指示し,この「概 要」を文書校正の練習に用いた.学生は授業内で,システムにレポートの「概要」をアップ