4. わが国において ABC が普及しない理由
4.2 ABC の賛否
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つまり、組織的な取り組みが必要なのである。関連部門から多く参加させ、教育訓 練を施し、全社的な協力を集めなくてはならないのである[坂口, 2000, p.69]。しかし、
わが国において、ABC は計算が複雑であり、理解が不足している。全部原価の計算 精度を上げる必要性が薄いといった指摘もある[浅田, 1998]。また、『原価計算基準』
にない
ABC
は、財務諸表作成のために利用することに手間がかかることも理由の一 つである[鶴日, 2008, p.8]。他にも、業務改善への
TQC、方針管理への高い信頼、現場重視や源流管理への自
信、機能別管理方式によるインフォーマルなコミュニケーションの重視、現場での原 価計算では細かい集計単位の採用、原価を細分化してもCIM
システムの役には立た ない、といった理由もあるだろう[浅田, 1998, p.29]。39 ているため、歪んだ製品原価を計算してしまう。
第三に、製品原価は長期的な期間を視野にいれ、それぞれの製品が固定的な経営資源 に対して有する需要、つまり利用度の違いを反映したものでなければならない。しかし、
製品が固定的な経営資源に対して有する利用度を調べるということは、間接費がなぜ生 じるのかという解明につながる。間接費を生じさせるコスト・ドライバーは取引であり、
間接費は取引基準で配賦されるべきである。
直接原価計算への批判も
ABC
への肯定に関連している。製品の意思決定に直接原価 計算を使うべきか、全部原価計算を使うべきかという問題があった。直接原価計算を推 進する論者は、1か月、3か月といった短期的な見地から考えるべきという立場をとっ ている。機械の減価償却費などといった固定費は、短期的な操業度の変化によって増減 しない。そのため、意思決定から無視し、直接材料費といった変動費のみで計算した製 品原価を用いて意思決定すべきと考えている。一方、全部原価計算を推進する論者は、意思決定を長期的な見地から考えるべきという立場をとっている。固定費も含めて製品 原価を計算し、それをもとに意思決定すべきであると考えている。長期的には固定費を 回収しなければならない。ゆえに、固定費を無視した意思決定には問題があると考えて いるのである[浅田, 1998]。ABCが生まれた背景には、直接原価計算との対比もあった のである。
志村[1993, p.119]は、
ABCアプローチが意思決定に与える影響を二つ指摘している。
一つは、従来意思決定においては無関連とされてきた共通固定費に焦点を当てていると いうことである。もう一つは、ABC による収益性分析の結果、直ちに採択の基準とし て利用するのではない。これを長期的・戦略的視点から、収益の改善や原価改善を促進 するといった役割がある。
4.2.2 ABC
に対する批判小林[1992]は、次の
5
つの点についてABC
への批判が存在すると指摘する。①ABC の提唱者のより正確な製品原価の主張には、回収計算の視点が抜け落 ちている。
②ABC による製品原価情報は戦略的意思決定に有用であると主張されている が、ABCの提唱者には戦略的視点が欠けている。
③最近の
Cooper
らの主張によれば製品の単位原価は製造費用のうち一部でしか計算されないため、製品原価と価格決定との関係が不明確になっている。
④日米企業の間には、基本的考え方に相違がみられるようであり、それが
ABC
に対する態度の違いとなって表れてきているものと思われる。40
⑤企業をより良く経営、管理していくためには、基本的思考、価値観を含め、
目的に照らして様々なシステムがバランスよく設置、運用されていることが 望まれる。あるシステムだけ取り出して議論しても、それだけでそのシステ ムがよいか否かは判断できない[p.73]。
以上のように
ABC
は批判がなされてきた。これらがわが国企業にとってどれほどの 意味があるのか。小林[1992, p.74]は、次の三点を指摘している。第一に、新しいパラダイムへの転換はわが国企業では必要ではない。ABC の「新し いパラダイム」とは、わが国企業の多くが持っているパラダイムに他ならないからであ る。
第二に、継続的改善活動や原価の低減活動はわが国企業が
TQC、VE、TPM
を通じ て実行してきたものである。ABCにこだわる必要性は薄い。第三に、改善活動に関して
ABC
の会計情報が必要な理由として、①ABCによる会計 情報に現場の人間と管理者をつなぐコミュニケーションの用具としての役割期待があ ること、②会計主導の伝統があること、がある。しかしながら、現場との距離が近いわ が国企業の場合は、ABC にコミュニケーションの用具としての役割期待をしなくても よい。さらに、わが国の場合は、源流志向や本質志向との関係もあり、原価発生源泉そ のものへの働きかけの方が重視され会計主導ではない。ABC そのものには、このよう に多くの批判がなされてきたのである。意思決定への役立ちにも疑問がある。プロダクト・ミックスの決定は戦略的意思決定 である。「ABCによる製品原価の計算がより正確な製品原価を提供する者であってもそ の情報だけでは不十分であるし、ABC による製品原価だけに基づいた決定をすれば、
長期的に見た場合、戦略的に大きな過ちを犯す恐れもある」
[小林,1992, p.71]といえる。
ABC
の仮定についても疑義がある。一般に大量生産品の直接作業時間は少量生産品 に比べて相対的に少ないし、逆に少量生産品の直接作業時間は大量生産に比べて相対的 に多いと思われる[小林, 1992, p.70]。ゆえに、伝統的原価計算によるゆがみがあったと しても、それほど大きくないのではないか。ABC
は固定費を変動費化した点に特徴があると議論された。しかしながら、現実の 複雑なコストビヘイビアの正確な把握につながらず、間接費の直接費化、固定費の変動 費化はできなかったと批判されてきた。清水[2010, pp.49-50]は、
ABC
そのものがもつ問題点について以下の2
つを指摘して いる。第一に、活動の数が多すぎて、それに対して原価を集計したり、コスト・ドライ バーを設定して測定したりすることが煩雑である。第二に、ABC の計算構造そのもの の問題点である。清水[2010]は以下のように指摘する。補助部門の中には動力部門、保守部門および工程管理部門のように、明らかに
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製品ではなく製造部門に対して用役を提供している部門がある(動力部門費は、
製造部門に提供しているものだけを考えれば製品単位レベルの活動原価と考 えることもできる)。このような補助部門費まで製品に対して単一基準で配賦 することは、かえって原価発生態様と原価計算の関連を崩してしまうのではな いか。伝統的原価計算と活動基準原価計算の最大の相違は、バッチレベルの活 動原価と製品支援活動原価の配賦方法にある。そうであるとすれば、これらの 原価だけを製品に配賦するので十分なのではないか[p.50]。
以上のように、ABC自体への疑義が持たれているのである。