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9.7 注)表の 3 段目以下の数字は百分率を示す。出所:村松・伊藤(1986:82)

しかし、このような見解は大きな問題を抱えてもいる。それは、もしこの説明が妥当 であれば、無所属議員比率の時系列的な変化が多党化と逆の関係にあることが示されなけ ればならないにもかかわらず、多党化による影響と政党化の推移を比較してみると、次の 図

2-1

のように、予想に反する結果が得られるからである。この図

2-1

は無所属議員 の議席率と、「社会党/民主党」および「革新・中道/非自民」政党の相対得票率を示し たものである。1991 年選挙までの「革新+中道」は、社会党と共産党、労働者農民党

(1955 年選挙)、民社党(1963 年選挙~)、公明党(1963 年選挙~)、社会民主連合

(1979年選挙~)の相対得票率を合計したものであり、1995年選挙以降の「非自民」は、

自民党を除いた全ての国政政党の相対得票率を合計したものである。

2-1 多党化の進展と政党化の推移:1947~2015

注)1955 年選挙の社会党には、左右両派社会党と労働者農民党が含まれている。1947

~1951年の選挙結果は、(自治省選挙局

1956)より、その後の選挙結果は、各都道府県

選挙管理委員会の選挙資料より筆者作成。

ここで、1960 年代から

1970

年代までの「革新+中道」の相対得票率を「多党化」を表 すものとみなし、「都道府県議会選挙における政党間競争が、同議会議員の政党化を促す おもな要因である」と仮説を立てれば、次のようなことが指摘できる。

「革新・中道」の相対得票率の推移は、共産党が復活し、民主社会党(69 年に民社党 に改称)が結成され、公明党が登場する

1963

年選挙以降に顕著となり、1975 年選挙で 頭打ちとなっている。これに対して、都道府県議会の政党化は、55 年体制の成立直後と、

1990

年代の政界再編期に大きく変化しているものの、1963 年選挙から

1991

年選挙にか けては、ほぼ横ばいになっている。つまり、都道府県議会の政党化は、多党化が顕著な時 期はもちろん、55 年体制の全期間にわたってほとんど進んでおらず、微増ではあるが、

むしろ無所属議員の割合が増加する傾向すら認められるのである。

かかる結果は、都道府県議会の政党化に対する政党間競争の影響を考えるとき、いか に説明できるだろうか。

第一に指摘されるべきは、従来の研究の主眼が、政党化に対する政党間競争の影響を 明らかにすることよりも、むしろ都市化という社会経済的変化が地域社会の多元化をもた らすとの議論を正当化することに置かれていたという点である。それゆえに、この議論で は、1960 年代以降の多党化以外に、政党間競争に影響を及ぼし得る他の契機に目が向け られず、また政党化における多党化の影響に関する検証も、大都市=多党化=政党化とい う図式のもとで、一時点におけるクロスセクショナル・データにのみ依拠して行われたの である。

第二に、しかし他方で、多党化の進展状況が政党化の推移と一致していないからとい って、それが必ずしも政党間競争と政党化の関係を否定しているわけではないということ を指摘する必要がある。政党間競争は、図

2-1

に示すように、多党化の進展にかぎらず、

1959

年選挙における政党化の進展のように、保守と革新の対決構図が鮮明になったこと によって促進されたと考えられる。また

1995

年選挙以降、無所属比率が増加したように、

政界再編によっても影響されたと考えることができる。

第三に、新たな課題として浮上するのは、多党化はなぜ政党化を進展させなかったの か、そして多党化はどのような政党間競争をもたらしたのかを明らかにすることである。

ここで一つの手掛かりとして考えられるのは、多党化がおもに都市部を中心に進展し、そ のために政党間競争が極めて限定された範囲内で展開した可能性である。そして、この課 題を解決するためには、政党間競争の測定方法を検討する必要がある。

2.研究課題

以上の議論から、本論文の立場と本章の課題を次のようにまとめることができる。

都道府県議会の政党化に関する本論文の立場は、政党間競争に着目している点では従 来の研究と同じであるが、必ずしも都市化や多党化を前提としていない点において、それ とは異なる。このような立場に立ち、本章では次のように課題を設定し、本論文の立場の 妥当性について検討する。まず政党間競争を測定する方法に関するこれまでの議論を概観 したうえで、都道府県議会議員選挙を分析するのに適した方法を検討する。そのさい、政 党間の競争性の分析は次の二通りの方法で行う。第一に、次節で検討する政党間の競争性 を表す諸指標を用いて、時系列的変化が政党化の推移と連動しているか否かを検証する。

第二に、前章で検討した「準競争状況」下にある選挙区(以下、「非競争区」とする)26 を設定し、選挙区レヴェルにおける政党間競争の有無が政党化に与える影響を確認する。

第二節 分析の枠組み

本章の第一の課題は、政党間競争が政党化に対して与えた影響を明らかにすることに あり、まずもって問われるべきは、政党間競争はいかにして測定できるかである。本節で は、「政治の全国化

nationalization of politics」という概念から導かれる諸指標と、政党

間の競争が行われていない「非競争区」とを取り上げ、それぞれの有用性と限界、ならび に改善手法を検討する。

1.政党間競争の測定方法

政 治 の 全 国 化 に 関 す る 最 初 の 操 作 的 定 義 は 、 シ ャ ッ ト シ ュ ナ イ ダ ー が

The Semisovereign People (1960)

で 提 示 し た 、 政 治 シ ス テ ム に お け る 「 競 争 性

(competitiveness)」という概念から導かれた。彼によれば、1896 年以前のアメリカ大 統領選挙では、多くの州で主要政党が対等に競い合うがゆえに、有権者分布は全国化され

26 ここで、「準競争状況」という用語について補足しておきたい。サルトーリ(

2000

)の「準

競争状況

subcompetitive situation」は、「競争」が許されていながら(つまり、競争選挙が

許されていない「非競争状況

noncompetitive situation」ではない状況にありながら)

、事実 上、政党間競争が行われておらず、「競争性」が潜在化しているという状況を指し示す概念で ある。しかし本論文は「競争」状況だけを問題にしているため、「非競争」と区分される「準 競争」なる概念は必要としない。サルトーリのいう「準競争」を、本論文では「非競争」と 呼ぶことにしたい。

ていた。しかし、このような競争性は

1896

年選挙を機に、北部の共和党と南部の民主党 という、得票において共和党に有利な地域独占状況へと変容し、その結果、20 世紀が始 まってからほぼ

30

年間にわたる共和党優位の政党システムがもたらされた。シャットシ ュナイダーはこの変化を、州を単位とした政党間の競争性の変化、具体的には

1892

年選 挙では

36

州で競争的であったのに対して、1904 年選挙では競争的な州がわずか

6

にと どまり、30 州ではもはや競争的とはいい難い状況となったことに見出している。ここで

「競争性」とは、有権者分布がどれほど全国化(地域的に均一化)されているのか、ある いは逆に地域的に偏っているのか(あるいは棲み分けされているのか)を示す指標である

(Schattschneider 1960:78-85;Caramani 2004:60)。

これまでの研究において、政党間競争を測定する方法は、政党候補の分布と政党得票 率の均一度(homogeneity of party support)のふたつに大別することができる。前者は 政党の選挙区対応(公認候補の擁立)の広がりを示し、後者は政党候補の得られた得票が 地域的にどれほど均一であるかを示す指標である(Caramani 2004)。このうち、政党候 補の分布の指標としては、コーンフォード(Conford 1970)の各政党における「当選確 実な議席

safe seats」と、ローズとアーウィン(Rose and Urwin 1975;Urwin 1982)

の競争候補の存在しない「無投票当選議席

uncontested seats」が代表的であるが、カラ

マーニ(Caramani 2004)はこれらをさらに拡張し、政党候補の存在する選挙区数の割 合(territorial coverage index、以下、選挙区対応)という指標を提案している。この指 標は、基本的に地域(または選挙区)全体に占める割合で示される。

他方、政党得票率の均一度についての指標は、そのほとんどが全体(全国)平均に対 する地域また は選挙区のバラツキの程度 を表すものである。シャ ットシュナイダー

(Schattschneider 1960:82-90)は、政党支持における全国化の度合、つまり得票率 の全国的均一度を、主要政党の得票差が僅差である州の合計や(民主党の)得票率偏差

(絶対値)から示している。ただし、近年においてより一般的に用いられるのは、分散

(S2)や標準偏差(SD)である。そのほかにも「平均絶対偏差

mean absolute deviation

」(以下、MAD)や

Lee index

などがあるが(Rose and Urwin 1975;Hearl et al. 1996

)、これらの指標は政党の大きさによって偏りが生じ、また標準化されていないために値 に上限がないという問題がある(Taylor and Johnston 1979:152-153)。