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3章

ドキュメント内 嶺壌 (ページ 42-50)

手の線画以外の視覚オブジェクトと視触覚相互作用

3.1 はじめに

 実験1では,ディスプレイ上に呈示された妨害光を手の線画とともに見ることで,

ゴム製の手(Famさet al.,2000;Pavani et al.,2000)や鏡に映った自分の手(Maravita・et・al.,

2002;Soto−Faraco et a1.,2004),手の影(Galfano&Pavani,2005;Pavani&Castiello,2004;

Pavani&Galfano,2007)を見た場合と同様に,触覚が影響を受けることが明らかとな った.ただし,これまでの先行研究で検討されてきた手という視覚情報には,実験参 加者自身の手に参照可能な情報が含まれていた(実験参加者は,鏡やモニターを通し て自身の投影像や自分のかざした手の影,実物に良く似せた作り物の手などを見てい た).そうした 手 を見ることで,自分の手が意識され,間接的に見た手の近くに 呈示された妨害光を,自分の手に呈示されている触覚経験と関連づけることで視触覚 相互作用が生じていた可能性が考えられる.しかし,本研究で呈示したのは,自分の 手に関わる情報や手のリアリティもない,白紙上に線で描かれた抽象的な手だったの

である.

 視触覚相互作用が生じるのは,見ている身体部位に自分の身体部位を帰属させるた めだという考えもある.Rorden, Heutink, Greenfield and Robertson(1999)は,手に呈 示される短いタップを検出する際に,自分の手(自分からは見えない)と並列に並べ たゴムの手に呈示されたフラッシュを見ることで,他者(実験者)の手に呈示された フラッシュを見る場合よりも,触覚刺激の検出が促進されたと報告している.ゴムの 手と他者の手の条件間で視触覚刺激間の距離は同じであったことから,Rordenらは,

触覚検出の促進効果は,ゴムの手を自分の身体に帰属させたために生じたのと結論づ

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けた(ただし,彼らの実験では,ゴムの手と他者の手で手の置き方も異なっていたた め,姿勢の違いにも帰属できる).しかし,実験1で呈示された手の絵には,自分の 身体の一部だと知覚される視覚的な要素はなく,実験後の実験参加者の感想にも,手 の絵を自分の手のように感じたといったものはなかった.むしろ,自分の手でもなく,

自分の手とも感じられない 手の絵 に重ねて妨害光を見ることで視触覚相互作用に 変化が生じたことは,視触覚相互作用現象が,自分の身体の周辺空間の視覚刺激に特 化した低次の知覚処理過程(e.g., bimodalニューロンの特性)や自己帰属感などに規 定されるものではなく,むしろ触覚刺激と視覚刺激配列間の空間的適合性を規定する ような高次の(認知的な)処理過程を反映したものであることを示唆する.

 視触覚相互作用が,認知的な過程を反映するものだとしたら,実験1の結果も,手 という視覚情報そのものよりも,他の認知的な手がかり,または処理によって生じた ものである可能性が考えられる.そこで3章では,手の絵以外にも様々な視覚オブジ ェクトを呈示し,手の絵の効果と比較することで,視触覚相互作用に関わる視覚情報 とそうでない視覚情報の境界について検討していく.

 手の絵を見ることで視触覚相互作用現象が生じるまでの過程を媒介しうる高次処 理過程としては,まず2つの可能性が考えられる.1つめとしては,手の絵(および 妨害光)と自分の手(および触覚ターゲット刺激)を 意味的 に参照して対応づけ た結果,視触覚相互作用に影響が生じたという解釈である.つまり,手の絵を見るこ

とによって意味的に関連する身体部分(指先と指の付け根)が想起され,実験参加者 が触覚ターゲット刺激(および自分の手)と妨害光(および手の絵)の配列を対応づ け,その結果視触覚相互作用に変化が生じたという解釈である.視触覚相互作用に,

このような 身体部位への意味的な参照効果 というものがあるとすると,これまで の先行研究(e.g., Tipper et al.,1998,2001)で報告されてきた直接・間接を問わず身体

部位を見ることで視触覚相互作用に影響が生じるという結果も,同じ意味的な参照効 果で解釈できるのかもしれない.しかしこれまでの所,身体部位への意味的な参照効 果と触覚弁別(検出)課題との関連について明確に検討した研究はない.2つめとし

ては,手の絵に含まれる方向の手がかり(指先がどちらを向いているのか)を参照す ることによって,触覚ターゲット刺激と妨害光の配列を対応づけたという解釈である.

もしそうならば,指先や付け根などの特定の身体部位を表す視覚手がかりがなくても,

手の先と後方といった方向を対応づけられる視覚手がかりを呈示するだけで視触覚 相互作用が生じる可能性が考えられる.

 そこで実験2では,これら2っの可能性を検討することで,視触覚相互作用に影 響を及ぼしうる要因について確認していく.方法としては,実験1と同様に,様々 な異種モダリティ間の空間的相互作用を検討するのに用いられている視触覚一致課

題(e.g., see Spence et a1.,2004b)を応用させた実験パラダイムを用いる.まず実験 2−1では,視覚画像によって与えられる意味的な参照の効果を検討するために,手を 表す 単語 を視覚的手がかりとして与え,手の絵の効果と比較する.身体部位を 表す特定の単語と,それに対応する身体部位の問の関連について,私たちは十分理 解していると考えられるため,手を表す単語を見た場合でも意味的に手を参照させ ることが可能だと考えられる.実験参加者の課題は,実験1と同様,ディスプレイ 上の視覚刺激を無視しながら,指先と付け根の2箇所に与えられる触覚ターゲット 刺激の位置を弁別することであった.妨害光は実験1−2と同様に,注視点の左右に ある2つの小さい小円から,触覚ターゲット刺激と同時にランダムに呈示された.

さらにこれらの妨害光に重ねて,手の絵か,手の部位を表す単語(右手または左手,

指先・付け根)を呈示した.手の絵によって生じる視触覚相互作用が,触覚ターゲ ット刺激と妨害光の位置を意味的に対応づけるといった認知的過程を経た結果のも のならば,触覚ターゲット刺激の位置(指先と指の付け根)と,手の中の 指先 と 付け根 という単語で表された妨害光の位置とが一致しない場合にも,触覚弁 別が妨害光によって妨害を受けるはずである.

 また実験2−1では,実験参加者の手と手の画像間の同一性によって,視触覚相互 作用が影響を受けるかどうかについてもあわせて検討する.刺激を受けている手と 見ている手の間の同一性は,視触覚相互作用に重要な役割を果たすことが示唆され

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ており(e.g., Austen et al.,2004;Pavani et al.,2000;Tsakiris&Haggard,2005),妨害光

の位置と自分の手における触覚ターゲットの位置とを関連づける際にも重要な役割 を果たす可能性が考えられるからである.

3.2 実験2−1 手の絵vs.単語の効果

3.2.1 方法

 実難:正常な視力(裸眼,矯正含む)の男女12名(男性6名,女性6名,

平均年齢23.6才)が実験に参加した.実験参加者全員が,閾上の触覚振動刺激を正 常に検出できた.Edingburgha handedness inventory(Oldfield,1971,付録参照)を和 訳した質問紙により利き手を調べた結果,全員右利きであった.実験参加者は,右 手に触覚ターゲット刺激を呈示し左手で反応する群(右手条件)と,左手に触覚刺 激を呈示し右手で反応する群(左手条件)に分けた.実験1−2の結果において,触 覚刺激を受けた手が右手か左手かによって視触覚干渉効果に質的な違いは見られな かったが,刺激を受ける手の違いによる影響を相殺するために,この2つの群から 得られたデータはまとめて分析した.

 H −p壮署・IIY:視覚刺激以外は,すべて実験1−2と同じものを用いた(図2−6 参照).左手もしくは右手を,振動子のついた箱の上に前方を指さしする姿勢で置 き,人差し指の指先と付け根のどちらか一方にランダムに振動刺激を呈示すること で,触覚ターゲット刺激を呈示した.

 妨害光は,実験1−2と同様に,ディスプレイ中央の注視点から左右1cm離れた場 所に表示した直径5mmの小円から呈示した.視覚刺激と触覚刺激配列を直交させ た(視覚刺激:水平方向,触覚刺激:垂直方向)のは,視触覚刺激配列を並列させ ることで生じる強い空間的適合性を抑制し,本研究の目的である視触覚相互作用に おける視覚オブジェクトの効果に焦点をあてて検討するためである(実験1−2参照)

1.妨害光に重ねて呈示する視覚オブジェクトとして,手の絵と単語の2種類を用意 した.手の絵条件では,実験1で用いたものと同じ6×4.5cmの人差し指をのばし た手の線画(図3−1の左図)を,指先と指の付け根にちょうど2つの妨害光がくる ように表示した.手の絵を左右反転させることで,左手と右手の絵を表現した.単 語条件では,ディスプレイ中央の注視点の上に「右手」か「左手」,左右2つの妨 害光の横にそれぞれ「指先」と「付け根」という単語を表示し,意味的に手の絵条 件と同様の手の配置を表現した(図3−1の右図)。これらの単語は,実験参加者の 目に自然に入るように,全て注視点から視角2.5°以内の中心視領域内に表示した,

視覚刺激(手の絵または単語,妨害光を生じる小円および注視点)は全て,黒い線 で描かれたもので,白い背景上に呈示した。

 圭続1ぎ:手続きおよび課題も,ほぼ実験1と同じであった.実験参加者の課題は,

ディスプレイ中心の注視点を見ながら,右手(左手)の指先と指の付け根のどちら に振動を感じたかを,左手(右手)の反応ボタンを押して答えるというものであっ

嬬害光

【手の繍 陣翻

鍾け撰

注視点

図3−1.実験2−1で呈示された視覚刺激の例.手の絵条件(左)では,

妨害光に重ねて手の線画が,単語条件(右)では,手と指の位置を示す 単語がそれぞれ呈示された.図では,どちらも左向きの左手を表現して

いる.

1ただし,2つの配列を直交させた場合でも,空間適合性の問題は生じうる(i.e.,直交型空間適 合性.実験1参照)

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