3.1 基本骨格
まずはレスポンスやダイレクト感を実現するために重要 な部品で,エンジン出力を直接ファイナルドライブユニッ トまで伝えるプロペラシャフトとマツダスポーツカーの DNAを支えるパワープラントフレーム(PPF)の仕様を決 定した。PPFはエンジン・トランスミッションとファイナ ルドライブユニットをつなぐことで,ドライバのアクセル 操作をダイレクトに後輪に伝えることができる部品である。
検討方法としては,実車のクランクシャフトに一定のト ルクを与え総ねじれ角を計測し(Fig.3),与えたトルクに 対してねじれ角の小さい仕様ほど,剛性が高くファイナル ドライブユニットにしっかり出力が伝わるものと判断した。
その結果,プロペラシャフトは外径φ60.5→φ65にアッ プしねじり剛性(34,900Nm/rad)をあげ伝達力を高めた。
しかし,PPFは2代目ロードスターの仕様でもかなりの剛 性を確保できており,これ以上剛性をアップしてもフィー
リングに表れないことから,前後両端を閉断面構造とし必 要な個所のみ剛性を高め全体の重量アップを抑えた。
今回,スペック決定において,むやみに剛性を上げるの ではなく,Livelyを実現するための最適仕様を決定した。
3.2 レスポンス
∏ レスポンスの定義
レスポンスとは,「アクセルを踏み込んだ瞬間発生する,
加速度の応答性の良さ」と定義している。これを表す指標 として,Fig.4に示すTG(アクセルを踏み込んだ瞬間から,
Gが発生するまでの応答時間)/ΔG/G̲Aveの3つの要素 に分類される。
レスポンスを向上させる上で重要な要素は,アクセルを 踏んでから加速度(G)が立ち上がるまでの応答時間の短 縮と,立ち上がった加速度を一気に上昇させることである。
これらの実現は,アクセルの踏み込み瞬間から路面に駆 動力が伝わるまでの現象を詳細に解析し,最適なレスポン スの実現を目指した。
π 応答時間の解析
まずは伝達経路の応答時間を明確にし,目標を定めた。
アクセル踏み込み瞬間から車両が反応し,加速度が立ち上 がるTGまでの時間を4つに分け解析した(Fig.5)。
No.24(2006)
新型ロードスターの走り感/レスポンス性能
Fig.2 Performance Feel High-Priority Engineering Item
Mazda
Fig.3 Examination of Twist Angle Measurement
Fig.4 Definition
O r i g i n a l
Fig.5 Road Load Response Attribution Analysis
A スロットルの応答時間
(アクセルを踏んで,スロットルが反応するまで)
B エンジン回転への反応時間
(スロットルが反応して,回転が上昇するまで)
C 車体伝達系の反応時間
(回転が上昇して,タイヤに駆動力が伝わるまで)
D 加速度の発生時間
(タイヤに駆動力が伝わって,Gに立ち上がるまで)
新型ロードスターでは,Good Responseを実現するため には応答時間の短縮は不可欠である。今回エレキスロット ルの採用により,Aの応答時間はモータの反応速度の影響 分も考慮する必要があったが,市場で最速応答時間となる 開度10%点20msという応答性能を活かし,好評である初 代ロードスターの応答時間138msを目標に,各部のパーツ の最適化に取り組んだ。
B,C,Dの領域それぞれ大幅な改善を実現できたが,
C,Dについては他でも述べる,PPF,ドライブシャフト,
エンジンマウントなどに関係するため,ここでは,エンジ ン領域のBに関する改善について説明する。
∫ 達成手段−フライホイールの軽量化
まずは,加速度を作り出す元であるエンジンのイナーシ ャーダウンによるレスポンス向上に取り組んだ。手段とし ては,フライホイールの軽量化に取り組み,ロードスター として最適なレスポンスが得られる仕様を決定した。最終 的には,他機種搭載のMZRエンジン比,約6%の軽量化を 行い,レスポンスを向上するとともに,スポーツカーにと って必要不可欠な,無負荷レーシングやヒール・アンド・
トー時の回転の吹き上がり感も大きく改善した。
Fig.6の性能データから,応答時間TGとΔG,maxGが向 上したことが確認できる。
また,ロードスターのレスポンスの良さは,Fig.6の管 理指標のようなアクセル全開だけで感じられるのではな く,日常の生活シーンで感じられることが重要と考えてお り,Performance Feel評価で設定している,交差点を左折 してから加速するモードでも,ΔGの加速度に明確な性能
差があることが確認できた(Fig.7)。
3.3 ダイレクト感
∏ ダイレクト感の定義と狙い
ダイレクト感とは,「加速度の収束の良さ」と定義して いる。Fig.8のように,加速瞬間の車の挙動を加速度でみ ると,アクセルを踏み込むと加速度が大きく上昇し,その 後,加速度が振幅しながら収束していき,加速へとつなが っていく。この加速度が早く立ち上がり,前後波形の収束 が早く小さいほど,軽快でダイレクトな加速を実現できる。
π ダイレクト感のメカニズム
加速度の変動は,ドライバがアクセルを踏み込むと,最 初にエンジンが反応し,発生したトルクがトランスミッシ ョン,プロペラシャフト,デファレンシャル,ドライブシ ャフト,タイヤといった部品を伝達して路面に伝わる。こ の伝わった加速度が大きいほどレスポンス向上につながる が,伝達された加速度が大きいほど,伝達中部品にねじれ と戻りが発生し,トルクとバランスするまで,加速度が変 動する。
それを抑える方法として,部品の強度や剛性を上げる必 要がある。しかし,単純に強度や剛性を上げると部品は大 きく重たくなる。また,加速ショックや過敏な反応を招く 要因となってしまう。新型ロードスターでは,敏感すぎな いGood Responseを実現するため,エンジンから駆動系に いたる伝達系に関連するスペックの最適化を行った。
∫ CAE解析
新型ロードスターでは,開発の初期段階からCAE解析に よる最適設計仕様の造り込みに取り組んだ。その中から寄 与度の高い部品,ドライブシャフト,パワープラントフレ ーム,エンジンマウントについて,更に実車評価によって,
特性の最適化を図った(Fig.9)。
Fig.8 Direct Feel Definition
Cruising〜WOT Acceleration
Fig.6 Comparison of Flywheel
Acceleration
Fig.7 Comparison of Flywheel-Performance Feel Mord
ª 達成手段−ドライブシャフトの剛性
ドライブシャフトの剛性アップは,レスポンス領域と加 速度の収束性に最も有効であることが明確にできた。Fig.10 は,剛性値とダイレクト感の官能評価結果を表したもので,
新型ロードスターでは,加速度の収束の良さをしっかり体 感できるレベルにするため,中空構造を採用することで,
10,390Nm/radの高いねじり剛性と軽量化をバランスさせ ることによって,伝達力を向上させた。
Fig.11の加速度波形でも確認できるように,ねじり剛性 向上によってMaxGが高くなり,振動の収束性(黒線)を 向上させることができた。
º 達成手段−エンジンマウントの剛性
エンジンマウントの硬度UPにより,加減速の初期応答 性が改善される(Fig.12)。これは,過渡条件下でのパワ ートレイン系の振れが抑制されることにより,駆動力伝達 の応答性が改善されるためと推察される。
フィーリング評価(Fig.13)では硬度UPにより軽開度 の加減速応答が改善され,シフトチェンジ時のパワートレ イン系の振れ(ブルブル感)が少なく,一般走行において も,軽快な加速をダイレクトに感じ,スムーズさの向上に も大きく寄与することを確認した。
ただし,エンジンマウントはレイアウトをはじめ,アイ ドル振動・操縦安定・乗り心地など,他性能との両立が必 要であったため,ダイレクト感Bestではなく,全体最適化 の観点から,特性値を決定した。
3.4 パワートレイン制御の詳細マッチング
∏ 狙い
新型ロードスターでは,初代ロードスターの軽快な走行 フィールはそのままに,一クラス上の質感をプラスさせる ことを目標に開発を行った。
PCM(パワートレイン・コントロール・ユニット)に よるエンジンのセッティングは,燃料,点火,空気=エレ
No.24(2006)
新型ロードスターの走り感/レスポンス性能
Fig.9 CAE Analysis Data
Fig.10 Drive Shaft Contribution Rate
Fig.11 Comparison of Drive Shaft
Cruising〜WOT Acceleration
Fig.12 Comparison of Engine Mount
Fig.13 Comparison of Engine Mount
キスロットルの3要素をいかにコントロールするかが重要 であり,加速,減速といった過渡時には様々な制御が 1,000分の1秒単位で作動している。これらをドライバの運 転状況に応じ,最適なセッティングをすることで,市街地 での扱いやすさとハード走行時の軽快さを兼ね備えた,絶 妙なバランスに仕上げている。
π 加速レスポンス
アクセルを踏み込んだ瞬間,いかにストレスなくエンジ ントルクを発生させるかがチューニングのポイントで,各 シリンダの1燃焼毎のレスポンスが重要である。ただし,
瞬間的にトルクの発生を常に最大限まで立ち上げると反応 が過敏すぎて加速ショックと感じてしまうため,ギヤ段毎 にアクセルの踏み込み量やスピードに応じたチューニング を行い,軽快に反応する狙いのレスポンスを実現した。
新型ロードスターでは,更にレスポンスを向上させるセ ッティングも可能であったが,コーナリング中のアクセル コントロール性など含め,一般走行からスポーツ走行まで,
あくまでもトータルバランスにこだわった。
∫ 減速レスポンス
スポーツカーでは,加速のみならずアクセルを戻した瞬 間の応答性も,車との一体感を保つ重要な性能である。
減速時にはアクセル全閉にした場合,通常燃料カット状 態に入るが,エンジントルクが発生した状態からトルクゼ ロへ移行するため,制御を停止させると急激に大きなショ ックが発生する。過度なショックを回避しつつトルクゼロ へ向け,どのような傾きでトルクを低下させていくかが減 速レスポンスチューニングのポイントである。ドライバの トルク低下傾き要求は複雑で常に変化する。新型ロードス ターではドライバの運転状態に応じた減速度を絶妙のセッ ティングにより実現している。
ハード面での対応のみならず,PCMによるソフト面で のチューニングも同じ方向性を持って合わせることで,ア クセル操作に対して,期待通りの加速度が得られ,楽しく 気持ちの良いパフォーマンスフィールを実現し,「人馬一 体」感を更に高めている。