表-4.5.2に、入浴によるTOCの原単位について、男子と女子の消毒剤、入 浴方法の違いで差異を示した。
a.塩素の場合
男子では TOC は、洗剤洗いが 0~212.8 ㎎/人、お湯洗いが 10.8~72.9mg/
人、洗わずが48.6~557.6mg/人の範囲となっている。女子ではTOCは、洗剤 洗いが1.6~144.0㎎/人、お湯洗いが8.1~87.8mg/人、洗わずが27.0~189.0mg/
人の範囲となっている。男女ともお湯洗<洗剤洗い<洗わずの順に TOC 濃度 が高くなっている。
b.二酸化塩素の場合
男子ではTOC濃度は、お湯洗いが0~301.1mg/人、洗わずが38.4~136.0mg/
人、また、女子ではTOCは、お湯洗いが8.0~64.0mg/人となり、洗わずが81.6
~171.2mg/人となった。TOC 濃度の傾向は男女とも入浴方法によって汚濁原 表-4.5.1 入浴による過マンガン酸カリウム消費量の汚濁量原単位
次亜臭素酸
(BCDMH)
洗剤洗い お湯洗い 洗わず お湯洗い 洗わず お湯洗い
平均値[mg/人] 160.0 174.3 260.0 107.9 123.2 120.6 最大値[mg/人] 432.0 241.6 436.0 275.2 208.0 213.9 最小値[mg/人] 16.0 74.1 75.5 35.2 60.8 7.9
試料数[人] 20 5 5 5 5 5
平均値[mg/人] 112.0 188.8 232.6 89.6 232.0 最大値[mg/人] 155.2 296.0 408.0 155.2 363.2 最小値[mg/人] 0.0 14.3 98.2 35.2 161.6
試料数[人] 20 5 5 5 5
塩 素
(次亜塩素酸ナトリウム) 二酸化塩素
男子
女子
表-4.5.2 入浴によるTOCの汚濁量原単位
次亜臭素酸
(BCDMH)
洗剤洗い お湯洗い 洗わず お湯洗い 洗わず お湯洗い
平均値[mg/人] 81.6 43.2 214.7 101.3 86.4 85.1 最大値[mg/人] 212.8 72.9 557.6 301.1 136.0 129.6 最小値[mg/人] 0.0 10.8 48.6 0.0 38.4 33.8
試料数[人] 20 5 5 5 5 5
平均値[mg/人] 54.4 43.2 214.7 101.3 86.4 最大値[mg/人] 144.0 72.9 557.6 301.1 136.0 最小値[mg/人] 1.6 10.8 48.6 0.0 38.4
試料数[人] 20 5 5 5 5
塩 素
(次亜塩素酸ナトリウム) 二酸化塩素
男子
女子
単位は、お湯洗い<洗剤洗い<洗わずの順にTOC濃度の傾向が現れている。
以上のことから、二酸化塩素の条件を除いてみると入浴方法による汚濁の程 度は男女とも洗剤洗い<お湯洗い<洗わずの順に汚濁の傾向が現われていると 考えられる。
(3) 濁度
表-4.5.3に、入浴による濁度の原単位について、男子と女子の消毒剤、入浴 方法の違いで差異を示した。
a.塩素の場合
男子では濁度は、洗剤洗いが0~155.2㎎/人、お湯洗いは19.2~42.0mg/人、
洗わずが9.0~29.5mg/人の範囲となっている。女子では濁度は、洗剤洗いが0
~214.4㎎/人、お湯洗いが4.8~54.4mg/人、洗わずが16.3~25.9mg/人の範囲 となっている。男子は、洗剤洗い<洗わず<お湯洗いの順、女子は洗わず<お 湯洗い<洗剤洗いの順に濁度が高くなっている。
b.二酸化塩素の場合
男子では濁度は、お湯洗いが0~0mg/人、洗わずが9.6~30.4mg/人の範囲と なっている。また、女子では濁度は、お湯洗いが0~30.4mg/人となり、洗わず
が0~20.8mg/人となった。男子ではお湯洗い<洗わず、女子ではお湯洗い>洗
わずの順となり、男女の濁度の傾向が逆になっている。
表-4.5.3 濁度の汚濁量原単位
次亜臭素酸
(BCDMH)
洗剤洗い お湯洗い 洗わず お湯洗い 洗わず お湯洗い
平均値[mg/人] 4.8 24.9 232.6 0.0 19.2 39.6 最大値[mg/人] 155.2 596.0 408.0 0.0 30.4 118.4 最小値[mg/人] 0.0 14.3 98.2 0.0 9.6 3.2
試料数[人] 20 5 5 5 5 5
平均値[mg/人] 32.0 27.4 22.4 12.8 8.0 最大値[mg/人] 214.4 54.4 35.9 30.4 20.8 最小値[mg/人] 0.0 4.8 16.3 0.0 0.0
試料数[人] 20 5 5 5 5
女子
塩 素
(次亜塩素酸ナトリウム) 二酸化塩素
男子
ここで、汚濁原単位に実測値の最大値を見ると、過マンガン酸カリウム消費 量の汚濁原単位は 500mg/人、濁度の汚濁原単は 200mg/人、TOC の汚濁原単 位は560 mg/人となる。
しかし、男女とも過マンガン酸カリウム消費量の汚濁原単位は 400mg/人の 汚濁量、濁度の原単位は50mg/人の汚濁量を提案する。なお、空気調和・衛生 工学便覧(第13版)では、浴場では0.1~0.5g/人(100~500mg/人)とし、
プールでは0.5~1.5g/人(500~1,500mg/人)としている。
今回の提案値は実験データが少ないために最大値と平均値から決定した。今 後、入浴による水質変化のデータ数を増やすことも重要である。これには実際 の施設での入浴前の身体の洗浄状況を把握しなければならない。また、年齢、
性別、季節、入浴前の活動量(代謝量・運動量)等の要因の影響も考慮し、実 験データを収集する必要がある。
5.3.2 TOC 増加量と消毒剤の減少率の関係 (1) 残留塩素減少率
表-4.4の通り、残留塩素減少率の平均値で比較すると、男女とも洗剤洗い<
お湯洗い<洗わずの順に残留塩素の減少率が多くなる。しかし、表-4.5.2の通 り TOC 増加量は、お湯洗い<洗剤洗い<洗わずの傾向が見られる。入浴条件 全体でみると残留塩素減少率はTOC濃度が150mg程度の増加量までは減少率 にばらつきがあるが、TOC濃度が150mgを超えるとすべて残留塩素の減少率 が100%近くまで減少している。
(2) 二酸化塩素減少率
二酸化塩素の減少率はTOC濃度増加量に関係しており、TOC濃度増加率 は関連が高いと考えられる。
5.3.3 各水質濃度と消毒剤の減少率の関係 (1) 残留塩素減少率
a.全体
全体の男女で検討するとTOC濃度との相関係数 0.48、過マンガン酸カリウ
ム消費量との相関係数が0.47、塩素イオン濃度との相関係数が0.40となった。
上記3測定項目と関連が高く、他の測定値との相関はこの相関係数に比べて 低い値であった。
b.実験条件ごと
相関係数が0.6以上に着目して数値を整理すると下記の通りである。
1) 洗剤洗いの男子のTOC濃度との相関係数が0.68であった。
2) お湯洗いの女子のみTOC 濃度との相関係数が 0.66、過マンガン酸カリ ウム消費量との相関係数が 0.80、塩素イオン濃度との相関係数が 0.87 であった。
3) お湯洗いの男女の過マンガン酸カリウム消費量の相関係数が 0.71 であ
った。
4) 洗わずの女子の相関は、TOC 濃度との相関係数が 0.66、色度との相関
係数が0.87、過マンガン酸カリウム消費量との相関係数が0.65、塩素イ オン濃度との相関係数が0.69であった。
(2) 二酸化塩素減少率
a.全体
男子の全体の相関では、色度との相関係数が0.85、女子の全体の相関では過 マンガン酸カリウム消費量との相関が 0.80、塩素イオンとの相関係数が 0.91 であった。
b.実験条件ごと
相関係数が0.6以上に着目して数値を整理すると下記の通りである。
1)お湯洗いの男子の電気伝導率との相関係数が 0.93、女子の濁度との相 関係数が 0.93、塩素イオン濃度との相関係数が 0.68 であった。濁度と の相関係数が0.64、男女の色度との相関係数が0.85であった。
2)お湯洗い男女の色度濃度の相関係数が0.64であった。
3)洗わずの男子の過マンガン酸カリウム消費量との相関係数が 0.76、女 子の電気伝導率との相関係数が0.88、色度との相関係数が0.99、塩素イ オン濃度との相関係数が0.83であった。
(3) 次亜臭素酸減少率
湯洗いのみであるが、過マンガン酸カリウム消費量との相関係数が0.77、塩 素イオンとの相関係数が0.63であった。
以上の結果をまとめると、相関係数0.6 以上の測定値の出現回数が多い順に 並べると、過マンガン酸カリウム消費量=塩素イオン>色度>TOC >濁度であっ た。したがって、総合的にみると消毒剤の減少率は過マンガン酸カリウム消費 量が指標として有効であり、さらに、身体から排出される塩分を検出する塩素 イオンも有効な指標であることが明らかとなった。
5.3.4 必要補給水量
浴槽水の水質基準項目があるものから、必要補給水量の予測を検討する。空 気調和設備では、室内空気質基準と外気の二酸化炭素含有率、人体からの二酸 化炭素吐き出し量から、取入外気量を算出している。同様の考え方によって、
以下の検討を進めた。
浴槽水の基準は、「公衆浴場における衛生等管理要領」(平成15年2月14日
健発第0214004号 厚生労働省健康局長通知)に規定されている。この中には、
浴槽水の水質基準として、濁度、過マンガン酸カリウム消費量、大腸菌群とレ ジオネラ属菌が規定されている。「公衆浴場における衛生等管理要領」には、原 湯と原水の水質基準も規定されている。
前述した実験で、入浴による過マンガン酸カリウム消費量の増加量として
400mg/人のデータがある。「公衆浴場における衛生等管理要領」の原湯、原水の
過マンガン酸カリウム消費量の水質基準10mg/Lと、浴槽水の水質基準25mg/L から、単純に1人当りの必要補給水量を算定する。ここで「単純に」というの は、塩素等の注入や温泉成分等により化学的に過マンガン酸カリウム消費量が 変化しないこと、吸着等により物理的に濾されないことや、生物的に微生物に よって浄化されないことなどを指す。
水道法第4 条による水質基準(水質基準に関する厚生労働省令 第 101 号、
平成16年4月1日から施行)では、有機物等は全有機炭素(TOC)5mg/L以 下となった。しかし平成 17 年 3 月 31 日までは過マンガン酸カリウム消費量
10mg/L 以下となっている。つまり浴槽水の原湯・原水の過マンガン酸カリウ
ム消費量10mg/Lの基準は、水道水の基準と同じである。
0 1 K K Q Km
= −
ここに Q:有効必要補給水量[L/人]
Km:過マンガン酸カリウム消費量の汚濁原単位 0.4[g/人]=400[mg/人]
K1:許容浴槽水の過マンガン酸カリウム消費量 25[mg/L]
K0:原湯・原水の過マンガン酸カリウム消費量 10[mg/L]
であることから、
7 . 10 26 25
400 =
= −
Q [L/人]
となり、希釈のみで過マンガン酸カリウム消費量の水質基準値を満足させる には、入浴者1名当りの有効必要補給水量は26.7 L/人となる。原湯・原水の過 マンガン酸カリウム消費量を5 mg/Lであっても、入浴者1名当りの有効必要 補給水量は20.0L/人となる。循環ろ過装置や塩素消毒装置のない掛け流しの浴 槽(一過式浴槽)では、化学的や物理的、生物的な水質改善は望めないことか ら、計算上の有効補給水量が必要となる。
実際には、補給水が既存の浴槽水と混合せずに置換するのではないため、安 全率(割増係数)を乗じる必要がある。補給水位置が浴槽水面上で、補給水温 が高温、さらに循環系のない場合、既存の浴槽水が残り、新たに補給された原 湯・原水が先に浴槽から排出されやすいために安全率(割増係数)は大きくな る。
これらの状況を鑑みて、空気調和・衛生工学会 浴場施設におけるレジオネラ 対策小委員会の『入浴による水質変化の実験,浴場施設におけるレジオネラ対策 指針のための調査・研究』2)では、循環ろ過装置がある場合の設計計画上の(実 務上の)必要補給水量を40.0 L/人を提案した。この値が、現時点での日本の基 準値になっている。しかし、計算に用いた許容浴槽水の過マンガン酸カリウム
消費量の 25[mg/L]は、厚生労働省の基準値であるが、高すぎるという意見も
多く、今後見直す予定である。