第1節 2008SNAへの対応によるGDP水準への影響の経路
4.1. 平成28年度実施のJSNAの平成23年基準改定においては、その時点で最新の国際
基準である2008SNAへの対応を行った。2008SNAにおいては、R&Dの資本化、兵器 システムの資本化を含め、国内総生産(GDP)の水準に影響を与える事項が含まれてお り、JSNAの計数もこれらの影響を受けている。ここでは、(1)R&Dの資本化、(2)特許 等サービスの取扱いの変更、(3)防衛装備品の資本化、(4)その他に分け、平成23年基準 改定における国際基準への対応が、主に、どのような経路で名目GDP水準に影響を与
GFSに対応した非金融フロー 所得支出勘定、資本勘定における対応
正味資産に影響を与える取引 収入
税 所:生産・輸入品に課される税、所得・富等に課される経常税(受取)
資:資本税(受取)
社会負担 所:純社会負担(受取)
交付金 所:経常国際協力、一般政府内の経常移転(受取)
資:資本移転(他の一般政府部門からのもの、海外からのもの)(受取)
その他の収入
所:財産所得(受取) ※利子はFISIM調整前
最終消費支出の算出過程における財貨・サービスの販売 非生命保険金、 他に分類されない経常移転(受取)
資:資本移転(居住者からのもの)(受取) ※資本税を除く 支出
雇用者報酬 所:最終消費支出の算出過程における雇用者報酬
財・サービスの使用 所:最終消費支出の算出過程における中間投入 ※FISIM調整前 固定資本減耗 所:最終消費支出の算出過程における固定資本減耗
利子 所:利子(支払) ※FISIM調整前 補助金 所:(控除)補助金(支払)
交付金 所:経常国際協力、一般政府内の経常移転(支払)
資:資本移転(他の一般政府部門に対するもの、海外に対するもの)(支払)
社会給付 所:現物社会移転以外の社会給付(支払)
現物社会移転(市場産出の購入)(支払)のうち現物の社会保障給付分
その他の支出
所:利子を除く財産所得(支払)
非生命純保険料、他に分類されない経常移転(支払)
最終消費支出の算出過程における生産・輸入品に課される税(支払)
現物社会移転(市場産出の購入)のうち教科書購入費等 資:資本移転(居住者に対するもの)(支払)
純業務収支(収入−支出) ※上記の収入−支出 非金融資産の取引
非金融資産の純取得 資:総固定資本形成(控除)固定資本減耗
在庫 資:在庫変動
貴重品 −
非生産資産 資:土地の購入(純)
純貸出(+)/借入(-) ※資:純貸出(+)/純借入(-)と一致
(備考)「所」は所得支出勘定を、「資」は資本勘定をそれぞれ表す。
えているのかを概観する。
R&Dの資本化
4.2. R&Dの資本化による名目GDP水準への影響の経路は、R&Dを実施する主体ごとに異 なる。具体的には、①市場生産者のうち研究開発を主業とする学術研究機関分、②市場 生産者のうち企業内研究開発分(各生産者が副次的に行う研究開発)、③非市場生産者 分(一般政府や対家計民間非営利団体に属する機関による研究開発)の 3 つに分かれ る。
市場生産者のうち学術研究機関分
4.3. 市場生産者のうち学術研究機関分については、2008SNA に対応する前の平成 17 年基
準以前より、R&Dに係るサービスの産出額を計測していた。また、そのサービスの需 要先としては中間投入(中間消費)に記録されていた。これに対し、平成23年基準以 降は、これらのR&Dサービスの需要先としては、中間投入(中間消費)ではなく、固 定資産の取得=総固定資本形成として扱われるようになっている。このため、GDPの 三つの側面から見ると、それぞれ以下のような経路で名目GDP水準に影響があること になる。
・ 生産面:研究機関により産出されるR&Dを購入する各生産者の中間投入がR&D分 減少することにより、GDP水準が増加
・ 分配面:上記の各生産者の営業余剰(総)がR&D分増加することにより、GDP水準が 増加
・ 支出面:総固定資本形成がR&D分増加することにより、GDP水準が増加
図表31 市場生産者の学術研究機関におけるR&D資本化に伴うGDPへの影響イメージ
(一国全体の産出額100、うち、市場生産者の学術研究機関のR&D産出額が5の場合)
市場生産者のうち企業内研究開発
4.4. 市場生産者のうち企業内研究開発分に関しては、平成17年基準以前には、各市場生産
者の生産費用(中間投入、雇用者報酬、固定資本減耗等)にはR&Dに要した費用が含 まれていた一方で、その費用に見合う形でR&Dというサービスの産出額は記録しては いなかった。これに対し、平成23年基準以降は、これら企業内研究開発によるR&D サービスの産出額を計測するとともに、その需要先は総固定資本形成として扱われる ようになっている。このため、GDPの三つの側面から見ると、それぞれ以下のような 経路で名目GDP水準に影響があることになる。
・ 生産面:副次的にR&Dを行う各生産者の産出額がR&D分増加することにより、GDP 水準が増加
・ 分配面:上記の各生産者の営業余剰(総)がR&D分増加することにより、GDP水準が 増加
・ 支出面:総固定資本形成がR&D分増加することにより、GDP水準が増加
一国全体 の産出額
支出面 総資本形成10 (うちR&D5) 総資本形成15
生産面
分配面 総営業余剰10 総営業余剰15
※:「雇用者報酬等」は、雇用者報酬、生産・輸入品に課される税、(控除)補助金
雇用者報酬等※ 40 雇用者報酬等 40
中間消費 50 最終消費40 中間消費45 最終消費40
中間投入 50 付加価値 50 中間投入45 付加価値 55
平成17年基準JSNA(1993SNA) 平成23年基準JSNA(2008SNA)
市場生産者の学術研究機関のR&D産出額(5)は、現行JSNA の産出額に含まれる
産出額 100 産出額 100
R&D産出額(5)の需要先は、「中間消費」
に含まれる。
R&D産出額(5)の需要先を、「中間消費」から
「総固定資本形成」に振り替え
市場生産者の学術研究機関のR&Dは、
各経済活動の中間投入に内包
各経済活動の中間投入から、市場生産者 の学術研究機関のR&Dを控除することによ り、付加価値増加
総営業余剰(R&D分の減耗 +純営業余剰 の増加
図表32 企業内研究開発におけるR&D資本化に伴うGDPへの影響イメージ (企業内研究開発分の産出額10の場合)
非市場生産者分
4.5. 一般政府や対家計民間非営利団体といった非市場生産者については、そもそもそのサ
ービス産出額は生産費用(中間投入、雇用者報酬、固定資本減耗等)の合計により計測 される。平成17年基準以前においては、研究開発に要した費用分もこれらに内包され る形で計測されていた。また、研究開発に相当するサービスの産出額については、需要 先としては非市場生産者の自己消費としての最終消費支出に含まれる形となっていた。
これに対して、平成23年基準以降は、まず非市場生産者によるR&Dサービスの産出 額が明示的に計測されるようになり、これが非市場生産者による自己勘定の総固定資 本形成として記録される扱いとなっている。
4.6. GDP水準への影響という点では、R&D産出分が最終消費支出から総固定資本形成に振
り替えられるだけでは何ら影響がないことになるが、実際には、過去に実施し固定資 産として蓄積されたR&D資産が存在しており、そこから各期に固定資本減耗が発生す ることになる。このR&D資産から発生する固定資本減耗は、他の固定資本減耗ととも に非市場生産者の生産費用を構成することになり、サービス産出額を増加させる。産 出額の増加分は、非市場生産者の自己消費としての最終消費支出に反映されることに なる。このため、非市場生産者によるR&Dの資本化に伴う名目GDP水準への影響と
一国全体 の産出額
R&D 産出額10
生産面
支出面 資本形成10 資本形成
10+10
分配面 総営業余剰10 総営業余剰20
※:「雇用者報酬等」は、雇用者報酬、生産・輸入品に課される税、(控除)補助金
平成17年基準JSNA(1993SNA) 平成23年基準JSNA(2008SNA)
産出額100 産出額100
中間投入50 付加価値50 中間投入50 付加価値 60
中間消費50 最終消費40 中間消費50 最終消費40
雇用者報酬等※40 雇用者報酬等※40
企業内研究開発分の産出額は対象外
「新たに、企業内研究開発のR&D産出額を計上
R&D産出額の増加分、付加価値が増加
R&D産出額の需要先は、「総固定資本形成」
総営業余剰(R&D分の減耗+純営業余剰)の増加
しては、同生産者のR&D固定資産から発生する固定資本減耗分の押上げということに なる。これを三面から見ると、以下のように整理される。
・ 分配面:固定資本減耗が、新たに計上されるR&D固定資産から発生する分だけ増加 し、GDP水準が増加
・ 生産面:R&D活動を行う非市場生産者の産出額が、R&D固定資産から発生する減耗 分増加し、GDP水準が増加
・ 支出面:総固定資本形成がR&D産出額分増加する一方、非市場生産者の自己消費と しての最終消費支出が同額分減少するが、これに加えて、後者(最終消費支出)は、
新たに計上されるR&D固定資産から発生する減耗分増加するため、結果として、GDP
水準は、R&D固定資産から発生する減耗分増加