古池 博
(A)植物誌
石川植物の会(編)『石川県植物誌』(1983年 227頁+26 図版 石川県)が唯一のものである。記載された維管束植物数 は1,908種であるが,現在,確認できる種数は2,188種なので,
内容はやや旧い。図鑑には,小牧 旌『加賀能登の植物図譜』
(1987年 273頁+8図版 加賀能登の植物図譜刊行会)があ る。2,200図(種類)が掲載されている。木本植物では,里見 信生(編)『石 川 県 樹 木 誌』(1977年 322頁+9図 版 石 川 県林業試験場)と,里見信生・小牧 旌『石川県樹木誌図譜』
(1987年 48頁+483頁 石川県林業試験場)がある。また,
石川県地域植物研究会(編)『石川県樹木分布図集』(1994年 7頁+489頁+10環境要因分布図 石川県林業試験場)は,
自生種447種の水平・垂直分布図を掲載している。末尾には,
石川県の植物地理区分に関する到達点を,叙述している。草本 植物についても,石川県地域植物研究会により,1994年度よ り二十年計画で,共同研究「石川県における草本植物の分布の 研究」が進行中で,単子葉植物については,完成に近づいてい る。
蘚苔植物は,若干の地域についての目録がある。輪藻植物は,
今堀宏三「石川県産輪藻類の沿革及び特異性(1),(2)」(1953 年『北陸の植物』2 : 43,57頁)の報文がある。海藻類では,
能登自然史調査研究会(編)『石川県の浅海域の生物』(1998年 90頁+8図版 石川県環境安全部自然保護 課)掲載の目録が最新のもので309種を掲載している。菌類は,石川きのこ会(編)『石川県のキノコ』(1999 年 189頁 石川県環境安全部自然保護課)が最新のもので,1,105種類が記録され,図鑑には,池田良幸『石 川のきのこ図鑑』(1996年 255頁+80図版 北国新聞社出版局)がある。
地域の植物誌では白山には研究・調査の歴史があり豊富な資料がある。総説では,白山総合学術書編集委員 会(編)『白山−自然と文化−』(1992年 514頁(12図版を含む)+14付図 北国新聞社)の第2編白山 の生物の「植物と植生」(白山植物目録を含む)があり,文献目録も備わっている。維管束植物目録は,追補 が作成されている。石川県白山自然保護センター『白山高等植物インベントリー調査報告書』(1995年 200 頁 白山自然保護センター)は,高山帯を中心とした調査報告書である。他の地域や市町村の地域植物誌は多 数あるが,最近のものでは,金沢みどりの調査(編)『金沢市植物調査報告書(丘陵および市街地)』(2002年 56頁 金沢市)がある。各市町村などの地域植物誌については,『石川県植生誌』の末尾に文献目録がある。
秋山博之他『金沢大学丸の内キャンパス(金沢城址)の植物』(1993年『金沢大学教育開放センター紀要』13)
は,1950,1977,1992年に行われた維管束植物の種類数の変遷を,検討している。
石川県の植物相の特徴をまとめた総説には,古池 博「石川県の植物相」(1996年 石川の生物編集委員会
(編)『石川の生物』17―31頁)がある。普及・解説を目的に書かれた単行本は少ないが,石川植物の会『石川 県の植物』(1991年 112頁 橋本確文堂)はその一つである。動植物を網羅したものでは,新版石川の動植 物編集委員会『新版石川の動植物』(1999年 108頁 石川県環境部自然保護課)や,石川の生物編集委員会
『石川の生物』(1990年 304頁 石川県高等学校教育研究会生物部会)が,概要を知るには役立つ。石川県 の自然史を主な対象とした雑誌に『自然人』(「いしかわ人は自然人」)があり,現在,第59号(2002年4月)
まで出ている(橋本確文堂)。白山自然保護センター(編)『白山の人と自然「植物篇」』(1992年 145頁)は 白山自然保護センター発行の普及誌『はくさん』所載の植物分野の論文・解説文のうち初期のものを編纂した ものである。
図77.石川県植物誌
(B)研究機関 i)大学
金沢大学理学部・大学院の植物自然史関係は組織上複雑なので,総称して植物自然史教室(研究室)と呼ぶ ことにする。金沢大学発足ともに,前身の植物地理分類教室(第一講座)が置かれ,北陸や日本海側の植物相
・植生相の研究に大きな役割を果たしてきた。近年はいわゆる「白山プロジェクト」(白山山系における高山 植物の多様性の解明と遺伝子資源の保全法の確立に関する研究)のような大規模な総合的研究や,分子データ による分類群の系統・分布の解明などの,研究活動が活発におこなわれている。本誌(『植物地理・分類研究』) は,教室の誕生とほぼ同時に「北陸の植物」の名称で,正宗嚴敬教授によって創刊,発展してきたものである が,現在は事務局が富山大学理学部に移転している。学内共同研究施設の自然計測応用研究センター臨海実験 施設(もとの附属能登臨海実験所)は富山湾内浦の九十九湾にある。石川県農業短期大学の農業資源研究所遺 伝資源部門は,白山の高山植物など野生植物の増殖・保全に関する研究をすすめている。金沢美術工芸大学デ ザイン科には環境デザイン専攻がおかれている。
ii)県立の植物自然史関連機関
石川県林業試験場は森林についての唯一の専門的試験研究機関であり,石川県産の木本植物の分類・分布・
群落の研究著作物を系統的に発行してきた。石川県白山自然保護センターは,白山国立公園・県立自然公園の 自然保護行政と調査研究を目的とする機関である。普及誌に『はくさん』のほか『白山の自然誌』シリーズが あり,研究・調査の成果は逐次刊行物『白山自然保護センター研究報告』に発表されている。また,各分野の 研究者を組織した「白山自然保護調査研究会」の事務局がおかれている。国土交通省白山砂防科学館は,白山 砂防の普及教育施設であるが,植生などに関する展示もおこなっている。のと海洋ふれあいセンターは海洋に 関する普及活動と調査研究をおこなう施設で,海藻類の自然史研究を中心的にすすめてきた。石川県自然史資 料整備室は,石川県教育委員会生涯学習課の施設である。これを拡充整備し,2005年に開館が予定されてい る自然史資料館(仮称)は,自然史博物館への発展を展望したもので,さまざまな研究団体の活動と共同・協 力の拠点として大きな役割を果たすことが期待されている。
iii)植物園など
石川県林業試験場(石川郡鶴来町三宮)には,樹木園・展示館がある。面積は試験林などを加えて42 ha 余りで,サクラ属・ツバキ属のコレクションは,全国的水準のものである。金沢大学自然計測応用研究センタ ー植物園(もとの理学部附属植物園)(金沢市角間町)は,主に実験植物園として機能しているが,キャンパ スそれ自体が金沢市郊外の広大な里山地域=角間区域にあるので,植物園の役割をも果たしている。移転以前 の同キャンパスに生育していた維管束植物数は465種であった(里見信生他『金沢大学移転地(角間)の調 査報告書』(1984年 84頁+4図版 金沢大学理学部)が,最近の調査では576種が確認されている金沢大 学総合移転実施特別委員会・理学部附属植物園『金沢大学総合移転第!期計画地内植物調査報告書』(1996年 73頁+1図版)。金沢大学理学部附属植物園では『金沢大学附属植物園年報』が第25号まで発行されており,
地域の植物に関わる論文が多い。金沢大学薬学部(金沢市宝町)には,附属薬用植物園(石川県産の植物種約
1,000種)があり,近く角間へ移転する。北陸大学薬学部(金沢市金川町)にも附属薬用植物園(保有植物種
数約1,000種)がある。なお,旧金沢大学丸の内キャンパス(金沢市丸の内)は,金沢大学の移転とともに金
沢城公園となった。理学部附属植物園があった東丸・本丸は,そのまま保全されることになった。本多の森・
兼六園・金沢城公園は,金沢市街中心部の都市緑地である。従来から,河岸段丘崖の「緑の回廊」によって山 地と結合した,「緑の心臓」として機能してきたが,生物多様性の保全のために,今後,ますます重要な役割 を果たすことが期待されている。
iv)研究団体・普及団体
「石川県地域植物研究会」は,石川県をフィールドとしている研究団体で,会員の情報交換のほかに調査研 究活動における相互協力,長期・短期の共同研究を実施している。データ処理はすべて電子化して実施してい るので,結果的に主要な標本庫のデータベース化を進めていることになる。ほかに,1997年1月に発生した ナホトカ号の重油汚染による,石川県沿岸の植物種/植物群落の影響調査を継続するなど,特別な分野や短期 間の調査を実施している。「石川植物の会」は,教職員の自主的研修を目的とする団体である。石川県植物誌 改訂版の発行をめざして,標本・データを蓄積している。「金沢みどりの調査会」は,金沢市のインベントリ ー研究の共同実施を目的とする団体である。一般市民が身近な植物の調査・標本採集をおこなうことと,研究 者の正確な同定・データ解析を結合して,環境保全と生涯学習・社会教育への寄与をはかったもので,県内地 方公共団体の取組みの前例になると思われる。同好者団体では,「金沢植物同好会」が最も歴史が古く,正宗