Ⅱ 各論
1.1.1. OJT
上述の調査によると、計画的なOJTを実施した企業の割合は、正社員に対しては45.6%、
非正社員については18.3%となっている。前年度の同調査結果である正社員53.9%、非正 社員32.9%と比較すると、雇用形態に関わらずOJTの機会が減少している。その原因とし て、団塊世代の大量定年退職やプレイングマネージャーの増加に伴い、OJTの推進者不足 の問題が関与していると考えられる。この解決に当たり、社団法人日本経済団体連合会の
「経営労働政策委員会報告」(2009 年版)では、計画的なOJTシステムの構築と共に、
OJTを効果的に実践できる人材育成体制を整備することにより、現場力の向上や匠の技の 伝承、後継者育成、リスク対応力の強化を図る必要性を唱えている。こういったことから OJTを活性化する際、インターンシップやコーチング、メンタリング等を導入する傾向が みられる。
1.1.2. Off‐JT
Off‐JTに関しては、正社員を対象に実施している企業は 77.2%、非正社員については 40.9%である。前年度調査の正社員72.2%、非正社員37.9%と比べ、いずれもやや上回っ ている。一方正社員に対してOff‐JTを実施している企業のうち、労働生産性が高いと認識 している企業の割合は88.7%、非正社員に関しては52.5%となっている。
Off‐JTの代表格である研修に関しては、階層別・課題別・職能別のものが一般的である が、近年においては能力開発への従業員の自発性を促す意味で、多様な研修プログラムの 中から従業員各自が関心のある研修を選ぶことができる選択型研修が増加している。他方、
企業の将来を担う期待される人材を創造するために、人事部門や上司による推薦・公募か らの選出による従業員のみが対象となった、少数精鋭で進められる選抜型研修の実施も特
徴として挙げられる。
なお研修以外に、通信教育、eラーニング、インターンシップ、留学、大学・研究所へ の派遣等、Off‐JTの選択肢は広がっている。その中で企業がeラーニングを導入している 割合は、正社員に関しては29.6%、非正社員に対しては24.3%となっている。上述の計画 的なOJTやOff‐JT全体の実施状況については、正社員と非正社員の間には歴然とした格差 があるが、eラーニングに関してはその差は小さい。
1.1.3. その他の企業内教育
前述のOJTやOff‐JT以外の企業内教育では、広義の解釈として小集団活動や外部の教育 訓練に関する情報提供、また人事制度の一環としての配置転換、自己啓発支援、資格取得 支援、更にはキャリア形成支援制度やFA制度の導入等が挙げられる。
企業が自己啓発支援を行っている割合は、正社員については79.9%、非正社員に関して は48.4%という結果である。正社員への自己啓発の支援内容(複数回答)として、(1)「受 講料等の金銭的援助」73.1%、(2)「教育訓練機関、通信教育等に関する情報提供」40.1%、
(3)「就業時間の配慮」38.7%、(4)「社内での自主的な勉強会等に対する援助」37.5%の順 となっている。他方、非正社員に対する自己啓発の支援内容(複数回答)では、(1)「受講 料等の金銭的援助」48.9%、(2)「就業時間の配慮」41.0%、(3)「社内での自主的な勉強会 等に対する援助」37.4%、(4)「教育訓練機関、通信教育等に関する情報提供」32.6%とい う結果である。金銭的援助によって、個々の従業員が自己啓発の方法を自己決定し自発的 に取り組むことについて、企業側が正社員・非正社員を問わず期待している点が伺われる。
しかし、その援助の格差が正社員と非正社員の間で明確に表れている。
一方、キャリア形成支援制度の一端である、2001 年より厚生労働省が推進しだしたキ ャリア・コンサルティングを導入している企業は、7.9%に留まっている。企業規模で比較 すると、5,000人以上では32.6%、1,000〜4,999人の場合は24.9%、500人〜999人では 14.5%といった導入状況である。企業規模の大きさに対して導入率が比例している。
1.2. 企業内教育研修の実施状況
1976年以来、民間企業を対象に「教育研修費用の実態調査」を実施している株式会社 産労総合研究所の調査によると、2008年度教育研修費用予算による教育研修の実施状況
(複数回答)については下記に示すとおりである。
1.2.1. 正社員対象の企業内教育研修
正社員対象の階層別研修実施の中で多いものは、(1)「新入社員教育」92.1%、(2)「初級 管理者教育」68.4%、(3)「新入社員フォロー教育」67.1%の順位となっている。「新入社 員教育」に関しては、大半の企業で実施されている。「新入社員教育」「新入社員フォロー 教育」が研修実施の上位に挙がっているのは、昨今指摘されている入社3年までの離職率 問題が関わっており、その回避への対応策のひとつとして実施されていると考えられる。
一方、階層別研修を企業規模別で比較した場合、中小企業(999 人以下の従業員数)よ りも大企業(1,000人以上の従業員数)の実施率が高い教育には、(1)「初級管理者教育」
33.8%、(2)「内定者教育」25.7%、(3)「経営幹部教育」23.9%がある。初級管理者はプレ
イングマネージャーとして奔走しているため、卓越した管理者としてのプロフェッショナ ル養成が急がれているとの見方ができる。
一方、産業別で比較した場合に際立った差異はみられないが、唯一非製造業が製造業を 上回っているものとして、「新入社員フォロー教育」(7.8ポイント差)が挙げられる。
次に、正社員対象の職種・目的別教育研修実施の中では、(1)「CSR・コンプライアンス 教育」48.7%、(2)「コミュニケーションスキル教育」47.4%、(3)「技術・技能者教育」43.4%
という順位である。「CSR・コンプライアンス教育」に関しては、ISO 9000s・PL法等と 関わる品質管理や、ISO 14000s等の遵守による環境への配慮、ISO 27000s・個人情報保 護法・不正競争防止法・公益通報者保護法等が関与する情報管理の徹底は避けられない。
そのため「CSR・コンプライアンス教育」は、リスクマネジメントとして重要である。
企業規模別では、規模間格差が大きいもので大企業の実施率が高い教育には、(1)「語学 教育」(45.9ポイント差)、(2)「目標管理・評価者教育」(31.7ポイント差)、(3)「生涯設 計教育」(31.6ポイント差)の順となっている。「語学教育」については、グローバル市場 への事業拡大により大企業では必須教育として求められていることが推測できる。
一方わずかな差異ではあるが、唯一中小企業の実施率が大企業を上回るものとして、「教 育スタッフ・トレーナー教育」(3.8ポイント差)がある。中小企業では大企業と比較して、
教育予算が少ないため、社内スタッフによって教育を推進していく必要性が伺える。
他方産業別では、製造業が上回る格差の大きい教育は、(1)「語学教育」(43.9 ポイント 差)、(2)「早期選抜型幹部候補者育成教育」(36.8ポイント差)、(3)「グローバル人材教育」
(24.5 ポイント差)の順となっている。「語学教育」や「グローバル人材教育」に関して は、製造業の場合海外拠点で戦力となるための能力開発といえる。同時に国内での外国人 登用により、組織目標を外国人と共有し成果を上げるために、意思疎通として必要視され る点も考えられる。いずれにしても単に語学力のみならず、異文化理解、価値観の異なる 相手理解や相互尊重といった観点が不可欠であるとみなされる。この点に関しては、前述 の正社員対象の職種・目的別教育研修の中で2番目に実施率が高かった「コミュニケーショ ンスキル教育」とも連関していると考えられる。
1.2.2. 非正社員対象の企業内教育研修
次に非正社員を対象とした職種・目的別教育研修を実施した中で最も多い割合は、
「CSR・コンプライアンス教育」(69.2%)となっている。この「CSR・コンプライアン ス教育」は、正社員・非正社員共に最も高い割合を占めている。これに関しては、2008 年の金融商品取引法の改正に伴い、企業にとって内部統制システムの導入が不可避となっ たため、CSRに根ざしたコンプライアンス経営のあり方については、雇用形態に関係なく 全従業員に周知徹底することが企業に求められているといえる。
更に、企業規模別での格差が大きいもので大企業の実施率が高いものとして、「コミュニ ケーションスキル教育」(30.9 ポイント差)が挙がっている。これに関しては、従業員数 が多い中での非正社員と正社員との意思疎通の問題が、組織上の問題へと広がることを大 企業では懸念しているため、実施率の高さに表れていると考えられる。
一方、中小企業の実施率が大企業をやや上回るものには、「技術・技能者教育」(11.5ポ イント差)がある。産業別では製造業が上回る格差の大きい教育として、「コミュニケーシ
ョンスキル教育」(21.2ポイント差)である。
他方産業別として、格差が大きい非製造業の実施率が高いものには、「営業社員・販売員 教育」(22.2ポイント差)が挙がっている。
1.3. 企業内教育研修費用総額の実態
先述の株式会社産労総合研究所による2007年度実績と2008年度予算における、1社当 たりの教育研修費総額と従業員1人当たりの教育研修費は以下のとおりである。なお、こ の教育研修費用総額の内訳は、正社員を対象とした自社主催研修の会場費・宿泊費・飲食 費、外部講師費、教材費、外部教育機関への研修委託費、セミナー・講座参加費、eラー ニング・通信教育講座費、公的資格取得援助費、研修受講者・社内講師の日当・手当・交 通費・事務局費、その他これら以外の教育研修に必要な費用(但し、研修受講者・教育ス タッフ人件費である給与は含まない)となっている。
(1) 2007年度教育研修費用総額の実績
・1社当たり平均:2億342万円(大企業は3億2,843万円、中小企業は1,340万円)。
・従業員1人当たり平均:43,524円(大企業は48,658円、中小企業は35,720円)。
(2) 2008年度教育研修費用総額の予算
・1社当たり平均:2億1,929万円(大企業は3億5,459万円、中小企業は1,364万円)。
・従業員1人当たり平均:47,365円(大企業は54,290円、中小企業は36,840円)。
2003年から2007年の5年間の従業員1人当たりの教育研修費に関しては、毎年上昇し ている。2007 年度実績の 43,524円と 2000年度実績の 31,384円を比較すると、従業員 1人当たりの教育研修費は12,140円上昇し、約1.4倍となっている。
しかし、2008年後半からの世界経済の低迷による国内経済の未曾有の悪化に伴い、企業 の経営難から人事予算が削減されることによって、従業員1人当たりの教育研修費につい ては、景気や業績の回復の目途が立つまで今後減少傾向が予測される。
1.4. 企業内教育の成果の把握と活用
企業内教育の成果の把握とその活用方法、更には必要な対応法に関して、先に述べた厚 生労働省の「平成19年度の能力開発基本調査」の結果に基づいて次に明らかにしていく。
まず企業内教育の成果について把握している企業の割合は、62.9%である。その把握方 法(複数回答)に関しては、(1)「従業員よりレポート等を提出させて成果を把握する」55.1%、
(2)「カリキュラムに修了テスト等を組み込んで成果を把握する」32.6%、(3)「上司が成果 について従業員より聞き取り・試験等を行って把握する」23.1%、(4)「社内検定等により 改めて成果を把握する」15.1%の順位となっている。
企業内教育の成果を把握している企業の中で、成果の活用を行っている企業は、94.9%
を占めており、概ね企業では把握している成果を活かしているという結果となっている。
その活用方法(複数回答)は、(1)「従業員本人に伝えて、キャリア形成の参考とさせる」
42.4%、(2)「成果を上司に伝えて、上司が行う評価の参考とする」40.6%、(3)「教育訓練 担当者に伝えて、以降の教育訓練計画に役立てる」37.1%、(4)「社内の人材評価基準に当 てはめて、従業員の評価に役立てる」32.9%という結果である。企業内教育の成果をキャ