(1)世界初の教育関係者専門チャンネル NHK や BBC も含めて,これまで学校向け 放送に携わってきた各国の放送機関では,近 年,インターネット利用も含めて,教師向け サービスに力を入れている。こうした中,
2005年2月にスタートした,24時間デジタル
テレビ放送とウェブサイトによる学校教育関 係者向け専門サービスのTeachers TV(TTV)は,世界初の試みとして,その動向が注目さ れる。
TTV は,子どものニーズに応じたきめ細か い指導ができる教師の育成・研修を中心に,
初等・中等教育に携わるメンバーの専門能力 やプロ意識の向上を図り,教育の質全体を高 めることを目的としている。教育技能省の主 導によるもので,公的資金が導入されている が,番組・ウェブサイトの制作や編成は政府
から完全に独立した組織が運営するしくみに なっている。
(2)TTVが提供する番組の特徴
TTV の番組は,ウェブサイトを通して,無 料で,オンデマンド視聴,ダウンロード可能 であり,その数はすでに2,500を超えている。
TTV は,ほとんどすべての番組をオンライン で放送するサービスをイギリスで最も早く始 めたチャンネルでもある。
番組内容は,大きく3つに分類することが できる。いずれについてもウェブサイトを通 して,番組に関連する資料や授業プランなど が詳細に準備されている。
①授業支援,クラス・学校経営支援:TTVの 番組の中核を占めるのは,実際に行われてい る様々な教科の具体的な授業を取り上げて,
専門家が分析・アドバイスする番組や,モデ ル授業の紹介,授業で利用できるテレビ番組 やウェブサイト等教材の分析等を取り上げる 番組である。これまでに,2,000校,5,000人 を超える教師と1,600名を超える教育専門家・
アドバイザー・研究者が番組に登場してき た。
教師たちは,他の教師の授業に高い関心を もっているものの,実際に授業参観する機会 は極めて限られており,こうした番組の果た す役割は大きい。経験の浅い教師が,様々な 授業例を視聴して学び,その方法が自分にと って有効であったかどうかをウェブサイトに 投稿して,他の教師からアドバイスを得たり,
ベテラン教師が,最近の新しい授業法を知る 機会とすることもできる。日本,フィンラン ドを含む海外の学校の授業を取り上げた番組 も提供されており,国を超えて優れた教授法 Teachers TV のサービス概況
放送:毎日24時間,365日放送。
デジタル衛星Sky 880,
デジタルケーブルVirgin TV 240/ Tiscali TV 845, Freeview 88(16:00〜18:00)
ウェブサイト:www.teachers.tv 登録利用者11万人
運営:Education Digital 2 Limited(ドキュメン タリー制作会社のBrook Lapping/TenAlps Plc とニュース専門商業テレビ局の ITN によるコ ンソーシアム)が,2008年からの5年間を担 当。最初の3年間は,Brook Lapping,商業テ レビ,ロンドン大学教育研究所によるコンソ ーシアム(Education Digital)が担当していた。
を共有できる点も注目される。
個別の授業とは別に,新任教師向けの授業 設計アドバイス番組,学校経営者が抱える具 体的な課題を取り上げる番組,特別な指導を 要する児童生徒への対応,学校への ICT 導 入・活用に関する番組なども提供されてい る。
②教育界の話題:教育関連ニュースを解説す る番組や,争点となっている話題を掘り下げ て討論する番組,学校や教育をテーマにした ドラマなど,より広範囲の教育関係者や一般 視聴者も視野に入れた番組も放送されてい る。TTVの運営にITNが参加することになり,
2008
年秋には,テレビとウェブサイト双方で,教育ニュース提供の充実が始まっている。
③児童生徒向け番組(InClassTV):教師が 授業で利用するための番組も提供されている
(2008年
9
月現在400
を超える番組)。これら の番組もウェブサイトを通してダウンロード 可能で,学校ではホワイトボードに接続して 大画面で子どもたちに視聴させることもでき る。近年,BBCやチャンネル4で学校放送番組 の新規制作が減少してきたこともあって,
TTVでは,この分野にも力を入れ始めている。
当初は,チャンネル4や BBC から購入した 学校放送番組の放送が中心であったが,TTV オリジナル制作を増やしている。また,エス プレッソ・エデュケーションやチャンネル4 ラーニングとの提携を通して, テレビ・ウェ ブサイトによる学校向け教材の提供の充実を 図ることも計画されており,今後の展開が大 いに注目されるところである。
(3)高い評価を受けるTTVのサービス TTV 開始当初はどの程度サービスが浸透す るかを危ぶむ声もあったが,3年経った段階 で,イギリス国内でも,また国際的にも高い 評価を得るまでに発展したといえる。
TTV 開始3年目(2006/
07)の実績によ
ると,TTV が主要対象者としているイングラ ンドの学校教育関係者が年間に視聴した番組 数はのべ940
万で,前年の550
万に比べて70%増,親や教員を目指す学生なども含めた
すべての人が視聴した番組数は2,300
万と推 定されている19)。また,イングランドの学校 教育関係者の8割が,デジタルテレビ,ウェ ブサイトのいずれかの方法でTTVの番組を視 聴していたことなどからも,普及度,浸透度 は評価されている。(TTV が提供する内容は,広く英国全体や他の国でも有益なものが多い が,教育カリキュラム準拠という面では,イ ングランドを対象としている。)
限られた予算の中で質の高い番組の制作や 調達を行うための運営上の工夫や,番組内容 の充実のための教育関連団体や専門家との連 携,視聴者ニーズ把握のための各種調査など ティーチャーズ TV の番組収録風景
(Teachers TV提供)
を積み重ねてきた成果といえよう。論争を呼 ぶ話題も積極的に取り上げるなど,番組内容 面での政府(教育省)から独立の姿勢を明示 したことも,評価につながったといえる。
ウェブサイトで,随時番組視聴が可能なこ とは,TTV のサービスの重要な特徴だが,そ のウェブサイトの検索機能が優れていて,必 要とする番組や情報にアクセスし易いこと,
ウェブ上で教員同士が情報やアイデアを交流 できるコミュニティーが形成されていること,
また,ポッドキャストはじめ新しいコミュニ ケーション技術の導入に積極的で,視聴者の 多様なニーズに応えようとしていることなど も,TTVの活性化に貢献してきたといえよう。
TTVは,2007年の「日本賞」コンクールで,
ウェブ部門の最優秀賞を受賞したが,ここで も,各国の審査委員から,質の高い豊富な内 容が,上記のような様々な工夫により,シン プルで使い易い形で提供されている点が高く 評価された。
(4)世界のモデルとなり始めたTTV TTVは,BBCのサービスとは違って,イギ リス国外でもウェブサイトを通して自由に番 組視聴が可能なこともあって,海外の教育関 係者や放送関係者たちのアクセスも多く,世 界に向けても様々なヒントを提供する結果と なっている。教育放送サービスで定評のある フィンランドの公共放送YLEやオランダの教 育番組専門放送機関TELEAC/NOTが,TTV をモデルにした教師向けサービスの開発を進 めてきた他,ヨーロッパとは異なる公共放送 のもとで教育サービスを実施しているアメリ カを含む世界各国から,TTV の試みは注目を 集めている。
イギリスの学校教育向けサービスをみる と,BBCやチャンネル4といった既存の放送 局が,教育カリキュラムに対応するサービス の中心を,放送からオンラインに大きくシフ トさせている中,新しく登場したティーチャ ーズTV(TTV)は,これまでイギリスの学 校教育番組やデジタルコンテンツの制作で実 績ある制作会社,ニュース専門放送局との連 携を拡大しつつ,「テレビ番組」を重視しな がらウェブサイトを連動させている点が注目 される。TTV は「日本賞」コンクールにおい て,ウェブサイトだけでなく,テレビ番組で も,2007年,2008年連続して受賞している
(いずれの番組も,内戦等の困難な状況下で行われて いる学校教育,教師たちを取り上げた番組であった)
。フィンランドのティーチャーズTV:Opettaja.tv フィンランドの公共放送 YLE では,デジタル チャンネル時代に入って,学校向けサービスは YLE Teemaという文化・科学・教育専門デジタル チャンネルで提供されている。YLE では,イギ リスの TTV の考え方をモデルにして,2007年,
テレビとオンラインで教師向けサービスを提供 する「Opettaja.tv(フィンランド版 TTV)」を,
Teemaのチャンネルの一部として開始した。
午前中は授業で利用する教育番組(これまで 学校放送番組として放送してきたもの),午後は,
授業の質の向上をはじめとする教師の専門能力 を高める目的の番組が放送されている(1日あ たり2〜3時間,週5日放送)。ほとんどの番組 は放送終了後,ウェブサイトでも視聴可能であ る。ウェブサイトは,それぞれの番組に関連す る資料を多数提供する他,教師間のディスカッ ションの場や,教材交換のプラットフォームと して,重要な役割も果たしている。
クジャーラ(Tapio Kujala) YLE学習科学局長 によれば,テクノロジーの活用も含めた新しい 教育方法を広く教師に普及させる必要もあり,
教師向けサービスの充実は現在最も重要なテー マであるという。