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魚介類の優良家系に関するアンケート調査結果について

原 素之

(独立行政法人水産総合研究センター 養殖研究所)

Report on Breeding Families of Fish and Shellfish in Japan Motoyuki HARA

National Research Institute of Aquaculture, Fisheries Research Agency

水産生物遺伝資源が今後の水産業の発展を支えるた めに重要であると考えられることから、藻類・微細藻 類並びに微生物を探索・収集し、原種またはそれらの うちで特性が有用と評価された株について、独立行政 法人水産総合研究センターでは継代飼育による保存を 行っている。それらのうち、配布が可能な状態にある 株については養殖研究所のホームページのジーンバン ク(http://nria.fra.affrc.go.jp/bank/list.pdf)にリスト アップされている。一方、魚介類については、その重 要性が認識されながらも施設や維持費の確保、人手な どさまざまな問題から未着手であったが、平成15年度 から試験研究機関等で作出され飼育保存されている優 良家系を中心に、将来有用な DNA 情報を得るための 一手段として、エタノール固定標本や抽出 DNA の保 存を行っている。しかしながら、現在の科学技術レベ ルでは魚介類の個体再生には継代飼育が前提であるこ とから、優良家系を継代飼育し保存することへの要望 も少なくない。

そこで、今後の魚介類における継代飼育保存の可 能性を検討するためには、各試験研究機関等で飼育保 存されている優良家系等の現状をできるだけ正確に把 握することが重要と考えて、平成15年11月に水産養殖 関係試験研究推進会議「育種部会」(当時)参加機関 等を対象に「水産生物の優良群および優良家系等に関 するアンケート」を実施した。その集計結果について は、既に同会議での報告や養殖研究所のホームページ

(http://nria.fra.affrc.go.jp/bank/dna-bank1.pdf)を通し

て公表された。

近年の漁業生産量の低位停滞や食の安全・安心へ の関心の高まりから養殖の重要性が見直されているな か、育種による新たな付加価値を有する品種の作出や 生産の安定化が期待されている。このような水産業を 取り巻く情勢の変化に伴い優良家系の重要性も増して いるにもかかわらず、平成15年以降、優良家系等の保 存状況を調べた報告はない。前回のアンケート調査取 り纏めから6年が経過し、すでにリアルタイムな情報 とは言い難いが、水産育種研究会から育種の基盤とな る情報として発信させたいとの要望もあることから、

その機関誌である「水産育種」に掲載することにした。

ここで、本誌に掲載の機会を与えて頂いた水産育種 研究会岡本信明会長、またアンケート調査にご協力頂 いた水産試験研究機関、種苗生産機関および水産系大 学の皆様に心から感謝する。

1 . アンケートの調査項目

魚介類の作出家系等に関するアンケート調査は、以 下の項目で実施された。

(1)作出された魚介類の家系について

①種類 ②特性 ③特性評価の方法とその結果

(2)家系の保存状況について

① 保存方法 ② 保存継続年数、③ 今後の保存計画

④保存を継続する上での問題点

連絡先: 〒516‑0193 三重県度会郡南伊勢町中津浜浦422‑1 養殖研究所 原 素之     Tel: 0599-66-1830  Fax: 0599-66-1962  E-mail: [email protected]

(3)過去に保有した(作出し廃棄した)家系

① 種類 ② 特性 ③ 特性評価の方法とその結果

④ 保存を中止した主な理由

(4)今後の育種研究への要望および意見について

2 . アンケート調査結果の概要

(1)アンケート回収率と作出家系を保有していた機関 調査は87の公立水産試験研究機関、23の種苗生産 機関および22の水産系大学の合計132機関を対象に実 施された。全体の55%にあたる73機関から回答が得ら れ、そのうち家系を保存している機関が35(調査機関 全体の27%)、保存していない機関が38(29%)であっ た。無回答が59機関(47%)あったが、その殆どは作 出された家系を保有しないと思われた。

(2)保存されている種類と家系数

保 有 さ れ て い た 家 系 は、 海 産 魚 介 類 が32家 系 で

36%、淡水産魚類が58家系で64%であった。(表1)

海産魚介類では6種類が作出家系として保存されて

いた。その内訳はヒラメが12家系、クロソイが1家系、

エゾアワビが8家系、アコヤガイが7家系、マガキが 3家系、トリガイが1家系の合計32家系であった。こ のように保存されている種類および家系数は多くはな く、さらに、ヒラメが全体の39%、アワビ類が26%、

アコヤガイが23%と3種でほぼ9割を占めていた。

淡水産魚類では19種が報告されており、その内訳は 養殖業が盛んなサケマス類を中心にニジマス19家系、

アマゴ9家系、ヤマメ5家系、イワナ3家系、ギンザ ケ1家系、アユ5家系で、上位の4種類で66%を占め た。その他、原種保存として試験研究機関においてコ イ類が3家系およびキンギョとニシキゴイの観賞魚が それぞれ1家系、大学においてグッピーやフナなどの 実験用魚の7種類で10家系が保存家系として報告され た。

(3)育種目標となっている形質

家系を作出するための対象となっている形質(育 種目標)としては、成長や耐病性などの生産性に関わ る形質が48%と多く、表現形質として判別しやすいア ルビノなど色変異に関する形質も21%程を占めた。ま た、地域特性を重視した地方品種の保存(原種保存)

的意図のために収集された家系および形質評価が不十 分なため不記載の家系もみられた(表2)。

海産魚介類と淡水産魚類とでは、共に成長の改善

(22%と19%)や色変異(26%と19%)に関した形質 が上位を占めた。海産魚介類ではヒラメのリンフォシ スチス耐性家系などの耐病性に関する形質(22%)が 多かったのに対して、淡水産魚類ではニジマスの晩成 熟性やアマゴの高スモルト化などの成熟に関する形質

(12%)が多い傾向がみられた。その他、アコヤガイ での真珠質、アユの飼育しやすさ、ニジマスの高温耐 性や可食部の割合が高い特性などが育種目標形質とし て報告された。

1 継代飼育によって保存されている種類と家系数

家系数 (割合%)

海産魚介類

ヒラメ 12 (38%)

クロソイ 13%)

アワビ類 8 (25%)

アコヤガイ 7 (22%)

マガキ 39%)

トリガイ 1 (3%)

小計 32

淡水産魚類

ニジマス 19 (33%)

アマゴ 916%)

ヤマメ 5 (9%)

イワナ 35%)

ギンザケ 1 (2%)

アユ 59%)

コレゴヌス 1 (2%)

ヤマトゴイ 12%)

インドネシアゴイ 1 (2%)

中国ゴイ 12%)

キンギョ 2 (3%)

ニシキゴイ 12%)

グッピー 3 (5%)

イトウ 12%)

ドジョウ 1 (2%)

フナ 12%)

ギンブナ 1 (2%)

カワチブナ 12%)

テツギョ 1 (2%)

小計 58

合計 90

2 育種目標となっている形質

全体 海産魚介類 淡水産魚類 家系数(割合%) 家系数(割合%) 家系数(割合%)

成長  18 20 7 22 11 19 成熟  8 9 1 3 7 12 耐病性 10 11 7 22 3 5 耐性  4 4 2 6 2 3 形態  4 4 2 6 2 3 色   19 21 8 26 11 19 不明  15 17 1 3 14 24 原種  9 10 2 6 7 12 他   4 4 2 6 2 3

計   90 32 58

(4)魚介種類別の育種目標とされた主な形質

①海産魚介類

a .ヒラメ:高成長、耐病性、高白化性 b . エゾアワビ:高成長、色変異、低温耐性

c . アコヤガイ:耐病性、 真珠質、 アルビノ、 高温耐性

d . マガキ:高成長、高生残、地方品種特性(原種保存)

e . トリガイ:色変異

②淡水産魚類

a . ニジマス: 高成長、耐病性、産卵期、

高可食部生産性、高温耐性

b . ヤマメ: 高成長、高スモルト化性、高パー化性、

アルビノ、無班紋

c . イワナ:ニッコウ系(原種)、ヤマト系(原種)

d . アユ:高成長、耐病性、飼育のしやすさ e . キンギョ:アルビノ

f . ニシキゴイ:色変異

g . コイ:ヤマトゴイ(原種)、中国ゴイ(原種)、

インドネシアゴイ(原種)

h . その他グッピー(成長、色変異)、フナ(色変異)、

ギンブナ(原種)カワチブナ(原種)、

イトウ(アルビノ)、テツギョ(原種)

(5)保存尾数、飼育年数について

保存尾数についての記載は少なく、保存90家系のう ち、20家系(22%)の情報しか得られなかった。この 中で、保存尾数は2尾から4000尾と大きな幅があった が、殆どは100〜1000尾の範囲での継代飼育による保 存が行われていた。

飼育世代数については、50家系(56%)の情報が得 られた。1〜33世代とかなりの幅があり、保存が始め られたばかりの初代家系も9家系(18%)あり、2世 代目の15家系を含めるとこれらでほぼ半数を占めた。

飼育世代数が多かったものとしては、飼育しやすい 形質を狙ったアユの33世代、高温耐性ニジマスの18世 代、高スモルト化アマゴの14世代、色変異トリガイの

14世代、ビブリオ病耐性アユの8世代、晩成熟ニジマ

スの7世代、高パー化アマゴの7世代、高生残マガキ の6世代、高成長エゾアワビの6世代飼育家系が報告 された。

飼育年数については53家系(59%)の回答があり、

飼育世代数と同様に2〜47年間と大きな幅がみられ た。その中には、飼育年数が3年以下と比較的短い9 家系(17%)もみられたが、平均飼育年数としては13 年程であった。飼育世代数が長い家系として、アルビ ノニジマスの47年、低スモルト化ヤマメの42年、高温 耐性ニジマスの37年、飼育しやすい形質を狙ったアユ

の33年、無斑紋ニジマスの28年、晩成熟ニジマスの27 年、高成長・早産卵アユの26年などあげられた。全体 的には育種の歴史が長い淡水産魚類の飼育年数が長い 傾向がみられた。

(6)継代飼育上の問題点

継代飼育を行っている殆どの場所において、飼育の ための経費、飼育労力(人手)、飼育場所(スペース)

等施設の問題があげられた。また、優良家系作出のた めの育種技術の情報が不足していること、特性を評価 するための基準が未確立であること、有用形質の素材 となる原種の保存体制がないこと、優良家系作出後の 普及方法が未確立であることなどが指摘された。

(7)作出され、その後廃棄された家系とその理由 この項目については、6機関からの回答があり、廃 棄された家系としてニジマス、ヒラメ、マダイ、アユ、

コイ類、テラピアなどがあげられた。廃棄の理由とし ては、それぞれの場所や事例によって異なっており、

近交弱勢等と思われる現象により家系の維持が困難に なったこと、形質が分離し特性が失われたこと、実験 的作出で研究目的が達成され不要になったことなどが あげられた。

(8)育種研究への要望および意見など

この項目では「継代飼育上の問題点」と関わりが強 く、予算、労力、施設の問題を解決するためのいくつ かの要望が出された。現状では、各県独自に育種関連 事業を実行することが極めて困難であることから、① 国レベルでの育種関連のプロジェクト研究や事業の確 保、②作出された家系等の権利を保障・保護するため の登録制度の確立、③有用家系や実験用家系を作出・

維持するための補助金の制度化、④精子凍結保存技術、

雄性発生技術、成長・耐病などに関連する遺伝マーカー の開発等の育種関連基礎研究の推進、⑤産・官・学共 同研究体制の確立、⑥最新の育種技術情報等を取り入 れるための指導・研修体制の確立、⑦家系飼育の危険 分散体制の確立などが要望・意見としてあげられた。

3 .今後の対応

魚介類の優良家系等に関するアンケート調査は初 めての試みで、調査対象機関の吟味も不十分であった ことから、回収率が55%と決して高い値とは言えない 結果となった。しかし、一部の大学、個人的な小規模 漁家や企業で保有する優良家系を除いては、大部分の 作出・保存されている家系情報を把握できたと思って いる。今回のアンケート調査では、育種の歴史の浅い