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高性能化とCDの追求による市場拡大

図6.1 X線CT装置価格推移(概略)

高性能化の追求

6.1

6-1-1 スキャン速度と分解能の向上

最初のR-R方式では5秒/スキャン前後であったが、

高速連続回転スキャン登場前には高性能機で2秒/スキ ャンまで速くなっていたが、如何せん、時計方向と反 時計方向との交互に反転スキャンするため、複数スキ ャンを要する検査には限界があった。

R-R方式の弱点を回避して、スキャン速度や分解能の 向上を目論んでX線管だけが回転するS-R方式も登場し たが、R-R方式の成功によって、陰が薄れた。スキャン 時間の短縮は、患者固定等の患者負担の軽減と共に、

被写体の動きによる偽像(アーチファク)やボケが軽 減され、画質向上が齎された。単位時間当たりのX線 照射線量を増やすこと、ファンビームを用いて、検出 器のチャンネル数を増やし、1ビュー当たりの投影デー タサンプル数を増やすこと、スキャン当たりの投影デ ータ数を増やすこと、などで、良好な画質を得るため の仕様向上も図られた。特に検出器は結晶と光センサ

(ホトマル)の組み合わせから、不活性ガス封入のイオ ンチェンバー方式が主流となって、投影データ収集効 率が飛躍的に向上したことによる影響は大きい。

6-1-2 R-R方式CTの進化を支えた主要構成機器の進化 第二世代までは固定陽極X線管で連続X線が用いら れていたが、第三世代になると回転陽極X線管でパル スX線が用いられるようになった。スキャン速度の高 速化にともなって、X線照射位置での投影データ品質 確保と共に、X線パルス間のX線非照射時に補正用に オフセットデータを収集するためにパルスX線が用い られた。検出器系ほかが安定してきてため、パルス間 補正も不要となり、再度連続X線が使われるようにな った。X線だけとっても、R-R方式の進化に伴って、連 続、パルス、連続と変遷してきている。CT固有のX線 管、高電圧発生装置、検出器についてその進化、発展 について概説する。

(1)X線管

既述の様に熱電子が焦点に衝突して発生し、陽極全 体に蓄熱された熱は陽極からの熱伝達か熱放射でしか 取り出せないため、大出力化に伴い、冷却問題が大き なテーマとなる。T-R方式では数十秒から数分もX線が 照射されるので、冷却器を使って陽極を冷却すること でオーバーヒートを防いでいる。初期の装置では絶縁 油を満たしたX線シールドを兼ねた容器内にX線管を 密閉し、さらに固定陽極軸の内側にも絶縁油を流し、

冷却器に循環させて冷却がされた。冷却器は水道水を 用いた水冷式で、架台のX線管とはオイルホースで結 ばれていた。

後年連続回転スキャンに切り替わると、短いスキャ ン時間の間に十分な投影データを得るために、再び連 続X線に戻ることになるが、それまではパルスX線が 主流となり、スキャン時間の短縮もあり、良好な画像 を得るために、安定なパルスX線を出すX線管の改良 が進められた。

スキャン時間を短くすると、単位時間当たりのX線 出力を増やす必要があり、必然的に単位時間当たり発 熱も増加するため、出力によっては固定陽極だとター ゲットが溶融してしまうことになるので、熱電子が衝 突するターゲットの場所が固定されない回転陽極X線 管が採用されることになる。すなわち、陽極であるタ ーゲットは円盤状になっており、高速で回転させるこ とで電子が衝突する面積が実効的に大きくできる、よ り小さな焦点でより多くの電子線を浴びせることが可 能となる。回転陽極X線管だとターゲットが溶ける心 配は減るが、陽極には熱が蓄積されることになるので、

やはり冷却は必要である。固定陽極では陽極近くを絶 縁油で冷却できたが、回転陽極ではベアリング等を経 ての熱伝達のため、効率は良くないが、冷却器をX線 管球近くに配置し、冷却効率を高めている。回転陽極 の場合は陽極自体の熱容量を大きくし、相当の熱を蓄 積できるようになっているが、自然冷却では時間が掛 かり過ぎるため、オイルクーラとセットで回転架台部

図6.2 固定陽極X線管構造(1)

図6.3 回転陽極X線管構造(1)

に取り付けられる。絶縁油で陽極を冷却するのは同じ だが、高温となった絶縁油の冷却はファンによる空冷 方式である。

そこで陽極最大蓄積熱容量と冷却効率が回転陽極X 線管の重要な性能となり、X線管によって実際のスキ ャンが制約されることになり、スキャン条件によって、

発 熱 量 を 予 測 し 、 ス キ ャ ン 走 査 を 支 援 す る 、 O L P

(Over  Load  Protection:オーバーロードプロテクショ ン)管理ソフトが実装されるようになった。OLP管理 はその都度のスキャン管理上オペレータの便益に寄与 するだけでなく、消耗品としてのX線管の寿命管理、

品質管理上も重要である。

図6.5はX線管の冷却曲線を例示しており、①は最大 蓄積陽極熱容量を100%として、ここまで蓄積された 熱が、時間と共に冷却していく様子(イメージ)を表 している。やじるし②の直線はX線管に電圧120KV印 加してX線管に100mA流した場合(撮影条件とて一般 的に、120KV,100mAと表現する)は3回続けてX線を 照射すると、OLP100%に到達してしまって、冷却を 待たないと、次のX線照射は出来ない。矢印③の直線 は撮影条件を変えて、X線管電流を②の時の半分、

50mAとした時で、②の時の倍の6回続けてX線を照射

できることになる。④はスキャン毎に冷却しながらス キャンをすることで、一回のX線照射毎に右肩上がり で増え、次のX線照射まで少し時間を置くと、この間 に少し冷却して行き、これを繰り返すことで、冷却待 ちによる長時間の制約を受けない例である。患者ごと、

検査ごとに、スキャン条件を設定することになるが、

設定条件で即SCANが可能か、途中での冷却待ち発生 の有無、などを事前に把握するためにもOLP管理は重 要である。

ヒートユニット(HU)は、DC波形の場合  HU=1.41×X線管電圧×管電流×時間

で定義されるX線管特有の熱単位であり、1.41で除し た値がジュール(J)となる。

「図6.6CT用X線管の進化発展の歩み」に示すように、

初期の最大蓄積陽極熱容量は750KHU程度であった が、年々大きくなり、最近では10倍程度になっている。

陽極蓄積熱容量を大きくしてもOLPが一杯になると冷 却率でスキャンが制約されるため、冷却効率を高める 改良も同時に進められた。

装置の性能として、高コントラスト分解能(空間分 解能)と低コントラスト分解能(密度分解能)が代表 的であり、共にX線の焦点寸法や線質、線量、ほか、

X線が直接影響する。検出器性能、機構部振動、電磁 的雑音等々、この2つの性能に影響する要因は多々あ るが、これらと独立してX線は性能を左右することに なる。陽極容量を大きくするには、単純に直径と容積 は大きくすることになり、必然的に重量が増え、回転 する陽極を支える回転軸の負担が増えることになるた め、金属の塊であった陽極をグラファイトと金属を張 り合わせて軽量化することや、軸受け材料や構造が研 究され、回転の安定化や寿命延長が図られ、液体金属 を用いた流体軸受けや磁気軸受け等も研究された。ま た、冷却効率を良くするため、メタル化やセラミック 図6.4 回転陽極X線管例(外観)(1)

図6.5 X線管冷却曲線(OLPチャート)

図6.6 CT用X線管の進化発展の歩み

化が耐熱性、耐電圧性、寿命といった観点からも進め られた。心血管造影用としてセラミック絶縁で陽極軸 両支持のX線管(SRC管)がフィリップスから1979年 に出され、長時間の連続照射用としてCTにも搭載さ れた。

X線管は高額な消耗品で保証寿命はスライス数か曝 射時間で決められており、保証寿命以前に故障した場 合は、寿命に対しての未使用分の比率で値段を値引く とか、特別の計算方法で清算するなど、特異なルール が存在する。これは、初期に品質が十分でなかった名 残でもある。

装置性能の進歩は目覚しく、X線使用も増えたが、

X線管球寿命も年々長くなり、かつ品質も安定するよ うになった。管内放電、異常振動(ベアリング)が寿 命の主たる兆候で、共に、品質不良も含み、特に管内 放電には異物、真空度低下などを来たす品質不良要因 が多々あり、継続的で地道な努力を要した。

(2)X線発生制御装置

また、R-R方式では検出器には数百チャンネルのX線 検出素子からなる検出器アレイが用いられるため、T-R方式とは比較にならない程の単位時間当たり投影デ ータが増え、データ処理装置への取り込み時間も相応 に増加するため、波高値の高いX線パルス(数百mA)

を数ミリ秒程度のパルス幅で照射し、照射ごとに投影 データをデータ処理装置に取り組むシーケンスが一般 的となった。X線オン期間の投影データをコンピュー タに取り込み、X線オフのデータもオフセットデータ として収集され、補正処理に用いられ、測定精度の向 上が図られた。

初期の装置は商用電源を昇圧し整流する3相全波整 流方式が一般的あったが、大出力化にともなって大型 化することを避けることから、後年、積極的に小型化 を追求され、急速にインバータ方式に切り替わった。

下図は連続X線用の一般的高電圧発生器に固定陽極管 を接続したT-R方式で用いられた例である。

長時間安定して管電圧、管電流出力を得ることが求 められ、特に脈動率を抑える工夫、出力変動に対する 保護が施された。図6.9にパルスX線用発生装置の例を 示す。

高耐圧のスイッチング用真空管であるテトロードチ ューブで高電圧を開閉制御してX線管を通じて放電さ せることでパルス状にX線を発生させている。テトロ ードチューブを用いる代わりに三極X線管(図6.11)

が用いられたこともあった。

図6.7 X線管技術デマンドと改良

表6.1 X線高電圧装置(1)

図6.8 連続X線発生回路例(2)

図6.9 パルスX線用発生器例(1)

図6.10 パルスX線(1)出力シーケンス

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