第 4 章 音程スケールと群の生成系 55
4.6 音程スケールの選択方法
る.このように,音程スケールからの群の生成は,インターバル・サイクルの生成系の要素数 を複数化したさらなる拡張と見なせる.そして,この拡張によって,音階からピッチの自由に 選択できるのと同じように音程スケールを使用することが可能になる.つまり,どの音程をど の順に積み重ねていくかを自由に選択できるようになり,その結果,様々な旋律を作り出すこ とができるようになる.
4.6 音程スケールの選択方法 65
gcd(y1, y2,· · ·, yk)をDとおくと,gcd(y1, y2,· · ·, yk, yk+1) = gcd(D, yk+1) =dである.し たがってk= 2のときの命題により,AD+Byk+1=dとなる整数の組A, Bが存在する.ま た,i=kのとき命題が成り立つので,(a1y1+a2y2+· · ·+akyk) =Dとなるa1, a2,· · · , akが とれる.左辺をAD+Byk+1=dのDに代入すると,A(a1y1+a2y2+· · ·+akyk)+Byk+1=d となる.ここでのyiの係数をみれば,i=k+ 1のとき命題が成り立っていることがわかる.
以上,数学的帰納法により,任意のi≥1に対して命題が証明された.
補題を用いて二つの重要な定理を示す.また,第二の定理から導かれる系として,< In >
がクロマティックになる条件に関わる実用上重要な帰結を示す.
定理 1 (最大公約数による巡回群). 0 ≤ xk ≤ n −1(1 ≤ k ≤ i, i > 0, xk ∈ Z), In={x¯1,x¯2,· · ·,x¯i}のとき,< In >は {x1, x2,· · ·, xi}の最大公約数dのクラスd¯によっ て生成される巡回群<d >¯ に一致する.
証明. {x1, x2,· · ·, xi}の全ての元はdの倍数だから< ISn>⊆<d >¯ であることはすぐわか る.次に< In>⊇<d >¯ であることを示す.そのためにはd¯∈< In>であることを示せば良 いが,Inの元x1, x2,· · ·, xiの最大公約数をdとすると,補題2よりa1x1+a2x2+· · ·+aixi=d となる整数の組a1, a2,· · · , aiがとれる.よってa1x¯1+a2x¯2+· · ·+aix¯i= ¯dとなり,左辺 は< In >の構成的な表示式で表現できるからd¯∈< ISn>が成り立つ.
この定理は,< In > が d¯によって定まり,分類できることを示す.例えば Z14 にお いて,{¯0,¯8,10¯} および {¯6,¯8} という両音程スケールは最大公約数 2 を持つため,同じ
<¯2>={¯0,¯2,¯4,¯6,¯8,10,¯ 12}¯ という部分群の生成系であることがわかる.
定理 2 (位数公式). < In>(=<d >)¯ の位数は gcd(d,n)n である.
証明. xdが nの倍数になる最小の x(≥ 1)が d¯の位数である.そこで,xd = kn とおく (k≥0).d̸= 0のとき,d=d1gcd(d, n), n=n1gcd(d, n)とおくと,x= knd1
1 である(ただ しd1とn1は互いに素である).xが整数であり,d1とn1は互いに素であることから,kは d1の倍数でなければならないが,xの最小性よりk=d1でなければならない.したがって, x=n1= gcd(d,n)n .d= 0のときはk= 0であり,xd=knを満たす最小のx(≥1)は1であ る.またgcd(0, n) =nだから公式が成り立つ.
この定理から,部分群がクロマティックになる条件に関する次の二つの系が導かれる.
系 1 (クロマティックになる条件). < In >がクロマティックになる必要十分条件はdがnと 互いに素であることである.
証明. 定理2より,Inがクロマティック⇐⇒ gcd(d, n) = 1 ⇐⇒ dがnと互いに素.
この系より,特にnが素数でd >0のときは,dとnが互いに素なので< In >が常にクロ マティックになることがわかる.
系 2 (連続する2元を含む場合). Inが連続する二つの元x, x¯ + 1(x= 0,1,· · · , n−1)を含む とき,< In>はクロマティックになる.
証明. xとx+ 1は互いに素だからd = 1.よって定理2から< In >の位数はnとなり,
< In >はZnに一致する.
この系は,先に挙げたLigetiとBergの例のように,連続する音程を含むIn が常にクロマ ティックな群を生成することを示している.
これら二つの系は,In が全てのピッチクラスを使用する無調音楽を生成できるかどうかを 判定するための目安として用いることができる.
系1の帰結であるnが素数でd > 0のとき< In >が常にクロマティックになることは極 めて示唆的である.なぜなら通常の調律システムの音数である12という数は素数ではないが,
両隣が11と13という素数であり,あたかも素数になることを避けているかのようだからであ る.さらに,素数とは対照的に12という数はdの取り方によって生成されうる部分群のバリ エーションが多いという特徴をもつ(定理2から位数が1,2,3,4,6,12の6通りであることがわ かる).これは12が約数を多く持つことに起因する.実際24より小さい自然数で約数の個数 が最も多いのは12であることを考えると,調律システムの音数に12が選ばれるのは偶然では ないのではないかという仮説を立てることができる.この考えに基づくならば,一オクターブ n音の調律システムZnにおけるnの値を決定するための1つの指針が得られる.すなわち,
nの約数の個数をあるnの範囲内で最大にするnを選択することで,良い調律システムが選 択できるという考え方をとることができる.
また,系2からは次のことがいえる.音程スケールの要素数が少ないことは,響きの特徴や 調性感を明確化するのに役立つ一方で,最大公約数が1になりにくいために生成する群がクロ マティックになりにくいことを意味する(定理1参照)が,系2における連続性を導入する ことで無調性を保証することができる.したがって,連続な音程スケールを用いたLigetiと Bergの選択は,無調性と少ない要素数を両立させる効率的な戦略だったのだと解釈すること ができる.
最後に参考までに,得られた定理を用いて,12平均律の場合の音程スケールの生成する群 をdで分類してみる.系1より,dがnと共通因数を持たないとき,すなわちd= 1,5,7,11 のとき音程スケールはクロマティックである.残るd= 2,3,4,6,8,9,10,12のときはクロマ ティックにならない.それぞれの場合の位数は定理2の公式より6,4,3,2,3,4,6,1である.
また定理1より,音程スケールの生成する群I12は次のように分類される:
• d= 1,5,7,11: クロマティックな音程スケールZ12.
• d= 2,10: 全音音程スケール {¯0,¯2,¯4,¯6,¯8,10}¯ .
• d= 3,9: 短三度音程スケール {¯0,¯3,¯6,¯9}.