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音楽遺産 を巡るブックガイド

ドキュメント内 - 1 - (ページ 96-105)

矢尾板 俊平

(中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程) 

太下 義之

(UFJ総合研究所芸術・文化政策センター 主任研究員) 

■はじめに

 情報技術の進展に伴い、現代の経済社会システムは大きく変容しつつある。そのひとつ の現象が、ナップスターやグヌーテラと言った「ファイル交換ソフトウェア」の登場であ る。これまで音楽という「コンテンツ」は、レコードやCDなどの媒介物を通じて、財の供 給がなされてきた。つまり、音楽の創作者が自らの作品を世の中に公表し、人々の手に渡 るまでには、いくつかの段階を経なければならなかった。例えば、レコードやCDのような 媒介物を製造する過程があり、次にその媒介物を街の小売店に卸すというような流通過程 もある。また、そうした生産から流通、消費に関わる様々な権利関係(主に著作権)の整 理のための仲介者も存在している。これまでの音楽を取り巻く様々なシステムは、いくつ かの非効率性は含有しながらも、社会全体的に見れば効率的なシステムであったと言える かもしれない。

 しかしながら、インターネット時代において、音楽という「コンテンツ」は、レコード やCDのような媒介物を通さなくても、「コンテンツ」を「コンテンツ」のまま、流通させる ことが可能になった。レコード業界においても、この時代の変容は大きなビジネスチャン スであると捉えられ、多くのビジネスモデルを考え出してきた。しかしながら、そのモデ ルには、大きな落とし穴が存在していたのである。

 それは、インターネットというものは、各種のガバナンスを行うことが極めて難しいも のであるからだ。その顕著な例が、ナップスターやグヌーテラなどの問題であろう。

 レコード会社が優れたインターネット音楽配信のビジネスモデルを発案したとしても、

その競争相手が、無料で音楽の「コンテンツ」が供給される仕組みであるならば、それに 対抗していくことは、大きく困難であろう。

 このような背景から「音楽配信」もしくは「著作権」などに関わる議論に大きな注目が 集まってきている。「音楽配信」や「著作権」というキーワードで文献を整理すると、学術 的な議論からビジネスベースの実務的な議論まで、議論の裾野は広がりを見せている。

 そこで、現在どのような参考とすべき文献があるかということについて、執筆者が選ん だ文献を紹介することにしたい。

 音楽の文化的価値を再認識し、優れた音楽、文化を次世代に継承させていくことが私た ちの役割であるとするならば、その遺産を保持するために優れた法制度、また社会構造を 考察するに当たって、こうした文献から知見を得ることは重要なことであると考えるから である。

■IT・情報化に関するブックガイド

○総論

  IT・情報化に関する文献の対象範囲は大変に広いと言える。それは、IT・情報化というイ

ノベーションが、私たちを取り巻く経済や社会の様々な環境を大きく変化させうるもので あったからである。つまりこのイノベーションは、農業革命や産業革命と大きなインパク トを社会に与えたのである。

 インターネットを利用して何ができるようになったのか、ということを考えてみよう。

例えば、インターネットを通じて、「楽天」や「YAHOO!」のホームページを見れば、こ れまでテレビ番組やカタログを見ながら商品を購入してきたような通信販売が可能になっ たことがわかる。従来の通信販売との大きな差は、「amazon」のように海外のサイトであれ ば、海外の商品を直接購入することができるようになったということである。こうした商 取引慣行がインターネットの登場によって大きく変化してきているのである。「電子商取 引」の問題である。

 また、インターネットを使用している私たちが知らない間に直面している問題としては、

ドメインネームの問題がある。ドメインネームについての稀少性に関わる紛争の問題もIT・

情報化に関する問題にとっては大きな問題である。

 このようにIT・情報化は、私たちを取り巻く経済システムや社会環境をこれまでに想定も しないほどの大きな変化をもたらした。そのために、新たな法制度や社会構造、もしくは 慣行といったものを作っていく必要性がある。

 そこでこのような視点より下記のように必読文献・参考文献挙げてみた。

○必読文献

奥野正寛・池田信夫(2001),『情報化と経済システムの転換』,東洋経済新報社 

本書は、経済システムの情報化によって、どのような変化がもたらされるのか、また経 済活動はどのようなものであるか、ということを明らかにしようとするものである。とり わけ、「音楽遺産」という観点からは、「「情報財」の取引と権利保護-著作権をめぐる「法と 経済学」的アプローチ」(林紘一郎著)が、大変有益な文献であると言える。本章(第7章) では、「現在世界のあちこちで知的財産制度の綻びが問題になっているが、問題の根元は

「情報財」という触って確かめることのできない財貨が、取引のかなりの部分を占める「情 報化社会」が到来したことにある」と指摘をし、その問題について、経済学と法学の両側 面から「情報財」の特質を検討している。また、その検討から出たインプリケーションを 元に、具体的な著作権制度の提案をしている、というところに特色がある。

 情報化社会の著作権問題について、興味を持ち、また研究を行なっている者にとっては 必読であると思われる。

池田信夫・林紘一郎(2002),『ブロードバンド時代の制度設計』,東洋経済新報社  サポートページ(http://www.rieti.go.jp/bb/sd/) 

 本書は、ブロードバンド時代の放送通信の問題やそれに関する規制のあり方に関する現 状の問題や今後の政策の方向性を示したという意味で、非常に貢献度が高く有益な書物で あると言える。本書の特色は、2001年10月に独立行政法人経済産業研究所(RIETI)と経済産 業省の主催で開催された政策シンポジウム「ブロードバンド時代の制度設計」の記録と放 送・通信政策についての複数の論文によって構成されているところである。

まず、Lawrence Lessigも出演した「RIETI政策シンポジウムの要約」(澁川修一著:第9章)

及び「創造のためのアーキテクチャー」(第1章:Lawrence Lessig著(林紘一郎訳))は、シ ンポジウムの記録を文章化されたものであるが、非常に丁寧に繊細に翻訳・要約されたも のであり、インターネット時代(もしくは情報化社会)における著作権の問題について、

どのような問題があり、その問題についてどのような視点で考えられるのか、ということ の整理をすることができる。また、「インターネットと非規制政策」(第2章:林紘一郎著)、

「アメリカのインターネット規制」(第3章:城所岩生著)、「インターネットと相互接続・

アンバンドリング」(第4章:福家秀紀著)、「コモンズとしての電波」(第5章:池田信夫著)、

「ユニバーサル・サービスとデジタル・デバイド」(第6章:田川義博著)、「セルフ・ガバ ナンスの意義と変容」(第7章:土屋大洋著)、「次世代インターネットの基盤」(第8章:山 田肇・池田信夫著)は、それぞれ独立した論文として構成されているが、各論文はいずれ も理解しやすく、また問題点と政策の方向性が示されている点で、本書で示されている知 見は、ブロードバンド時代の電波・放送・通信の問題に関心を持つ方にとって、非常に有 益であると思える。

「音楽遺産」という観点で言えば、「音楽」のような情報財は、メディアを通じて、流通 する。それは、ピア・ツー・ピアのような方法もあるが、多くは放送や通信というような メディアを仲介して流通をするであろう。つまり「音楽遺産」の流通という意味で、情報 化社会において、その流通を促進するためのメディアである放送・通信に関する政策的な 課題は欠かせない議論であると言える。

《参考文献》

大橋正和(2003),『公共iDCc-社会 : 電子政府・電子自治体・電子社会の基本理念』,工学図書

木村順吾(2001IT時代の法と経済』東洋経済新報社 公文俊平(1994『情報文明論』NTT出版

公文俊平(2001『文明の進化と情報化』NTT出版 公文俊平(2003『リーディングス情報社会』NTT出版 佐藤恵太・松尾和子(2001『ドメインネーム紛争』弘文堂

シャピロ,K・バリアン,H.R1999『「ネットワーク経済」の法則』IDGコミュニケーションズ 政策分析ネットワーク編(2003),『政策学入門』東洋経済新報社(山内康英「インターネットと情報通信 政策の転換」

谷口洋志(2000『米国の電子商取引政策』創成社

土屋大洋(2001『情報とグローバル・ガバナンス』慶應義塾大学出版会 林紘一郎(1998『ネットワーキング−情報社会の経済学』NTT出版

John Seely Brown and Paul Duguid (宮本喜一訳)『なぜITは社会を変えないのか(原書名:The Social Life of Information,日本経済新聞社

■著作権・知的財産権に関するブックガイド

○総論

学術的な議論については、伝統的な法学の側面から著作権を考察されている文献、経済 学的な知見を加えている文献、またLawrence Lessigなどの米国の先行研究の流れに沿った議 論がある。日本の知的財産戦略は、「知的財産権強化」の方向性を向いているが、Lessigな どの議論や下記に紹介するような文献の多くは、それとは逆の方向性を示すものである。

その議論を概観すれば、知的財産権の強度は、バランスが重要で、強すぎても弱すぎても 良くないというところで一致するのではないか、と思われる。今後の発展性としては、そ のバランスをどのように決定し、いかに担保するのか、という問題があると思われる。

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