(1) 君
マッチョなあなた
たまごボーロが世界一似あわない とっくりセーターが世界一似あわない お花畑が世界一世界一似あわない 立てた小指が似あわない
そんなそんなマッチョなあなた
駒形
(2) 伊賀
小学校の時
つねに半そで半ズボンの男子がいた 伊賀くん
変な名前の彼は 寒い冬の日
いつも言っていた
「さみー」
君、何か着なさい
駒形
(3) 月の光
おや そこのだんな よそのおかたですな
ずいぶん帰りがおせえんですなあ つかれた顔なすって
ささ、こっちであっしと一杯やりましょうや 酒は百薬の長ってね
疲れなんざどっか吹っ飛んじまう え、家内が心配するから帰るって?
そんな水くせえこといわずに とっておきの話もあるんですから ここいらは桜の名所でしてね
春になるとそれはそれはきれいなんですわ よく一人で晩酌しましたよ
昼間は花見客がうるさくてかなわねえから まんまるいお月さんがお空の真ん中に来るとね もう何十年も前の話になりますか
いつものようにここで酒を飲んでると
はらはら舞う桜にまみれて女が 立っていたんですわ それはそれはべっぴんな女でしてなあ
ひとめぼれしちまったんです 不思議な女でしてなあ
ふわふわしててあぶなっかしくてしょうがねえ
どこに住んでいるのか何をしているのかまったく話そうとしねえ でもやさしい いい女でしてなあ
情細かく付き合っとったんですわ
加藤 雅依子
(4) 月の光(続)
お恥ずかしい話 あっしその女にべたボレでし てなあ
今までちゃらんぽらんだった仕事もちゃんとやるようになったし 結婚して子供の数まで考えていたんですわ
この女はあっしが一生守りぬくって そうおもっとったんですわ また桜の季節が来ましてなぁ
あっし ぷろぽーずしようと出会った場所に呼び出したんですわ 緊張して 手がふるえっちまって
・・・ でもこれが女の答えでした 人間じゃないの
好いた男に捨てられて ここで命を絶った 男を憎んで死んだけど
あんたに会うまで死ぬんじゃなかったって そう言いましたわ 女って残酷ですなあ
一途な男には気づかないで
変な男に口説かれて泣くんですから
でもそんな女がかわいそうでいとおしくもある
だから男は いつまでも女の尻を追いかけまわすんでしょうかね 今夜は闇夜でしたな
実は あの女との出会いと別れも こんな闇夜の晩でしてね こんな日は 不思議な出来事が起こりやすいんですよ
修羅の世界に引きずり込もうと 魔物がうようよしてるんでね だんな お気をつけて帰りなせえ
あんたはここに迷い込むようなお人じゃねぇけど 人間何が起こるかわからねえ
ろくでなしの あっしと同じようにね
加藤 雅依子
(5) 新月の光
おや・・・
ずいぶんと帰りが遅いんですねぇ 疲れた顔なさって
それになんだか・・・ 寂しそうな瞳をしてなさいます 何かおありになったんですか
・・・・・ そうですね
こんな行きずりの得体の知れない女には お話になりたくないでしょ うねぇ
ほほほ いいんですよ
では私の戯言でも聞いていただきましょうか 見てください 見事な桜でしょう
桜はこの妖しいまでの美しさを 人の血を吸うことで保っているとい います
あまりにも有名なお話ですが・・・
ではこれはご存知で?
桜の木は その一つ一つに妖精がすみついているんですよ その妖精たちは闇夜になると 人恋しさに姿をあらわすんです その美しさは 時として人の心を惑わすといいます
そうたとえば あなた様のように影を持ったお方をね あらいやだ 怖がっていらっしゃいます?
今日は闇夜じゃないかって?
違いますわ よーくお空をごらんください 月の光がかすかに残っているでしょう 闇夜は二日後
あなた様 お気を付けてお帰りください 人は一度影を背負うと
なかなかそこから這い出すことができないのです あなた様の瞳に宿った黒い影・・・
私の思い過ごしならよろしいのですが