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非金属基板上に成膜した R-Fe-B 系厚膜磁石の開発

3.1 シリコン基板上に作成したNd-Fe-B系磁石膜の破壊現象

表3.1 物質の線膨張係数

物質 線膨張係数(10-6/K)

Nd 9.6

Pr 6.7

シリコン 2.6 テンパックスガラス

(TEMPAX Float, Schott AG)

3.3

中野らはMEMSデバイスへの希土類系厚膜磁石の応用を鑑み,エッチング等 の微細加工が容易なシリコン(Si)基板上へ PLD 法を用いた磁石膜の作製を検討 してきた[1]。シリコン基板上にNd-Fe-B系磁石膜を成膜した際,Ndの含有量が

15 at.%以下の領域において,数 µm程度の薄い膜厚領域においても熱処理後に

磁石膜がシリコン基板から剥離,もしくはシリコン基板の破壊といった破壊現 象を観察している。基板の破壊は表3.1に示すようにNd-Fe-B系厚膜磁石とシ リコン基板の線膨張係数の差によって生じる熱応力により破損が生じと考えら れる。また,密着性向上には基板と膜の間に十分な酸素の存在が重要であるこ とが確認された[2]

3.2 非金属基板上に作成したPr-Fe-B系磁石膜

本研究ではNdと同様,シリコンと2-14-1 系厚膜磁石の間の線膨張係数であ るPr元素(表3.1参照)に着目した。Pr2Fe14B相は,室温での飽和磁化値は1.56 Tであり,Nd2Fe14B相の値(1.61 T)に比べ低いものの,結晶磁気異方性定数(Ku

=6.8 MJ/m3)は,Nd2Fe14B相(Ku =4.5 MJ/m3)に比べ1.5倍程度の値を有する事 で知られている[3]。更にPrが粒界層や三重点,シリコン基板と磁石膜の界面に 形成された際,Prの線膨張係数がNdに比べシリコン基板に近い値であるため,

機械的破壊現象の抑制にあたり,希土類含有量の低減に有利であると考えられ る。

加えて,デバイス応用を考えた際,厚膜磁石を効率的に使用するために微細 着磁が有効であることが知られている。図3.1にレーザを用いた微細着磁プロセ

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スの例を示す。微細着磁をする際,基板の熱伝導率が着磁幅に影響することが 知られており[4],シリコン基板(168 W/(m/K))に比べて熱伝導率が低いテンパッ クスガラス基板(TEMPAX Float, Schott AG:1.2 W/(m/K))への成膜を試みた。

本研究において取り扱うテンパックスガラス基板においては,シリコン基板と 比べて,熱膨張係数は近い値をとるものの,結晶質のシリコンに対し,ガラス がアモルファス構造を有することから,異なる破壊現象が予想され,更にテン パックスガラスの 80 %以上は SiO2であることから界面に十分な酸素が存在す るため,密着性は強く,剥離は生じないことが予測される。

図3.1 レーザを用いた微細着磁プロセス

3.2.1 シリコン基板上へのPr-Fe-B系厚膜磁石の成膜

表3.2 成膜条件

図 3.2 に示すように,シリコン基板上に Pr-Fe-B 系磁石膜を作製し,希土類 含有量を変化させることで,既報のシリコン基板上に作製した試料との破壊現 象を比較検討した。成膜条件を表3.2に示す。シリコン基板上に成膜したPr-Fe-B 系磁石膜は,既報のNd-Fe-B系磁石膜と同様に,希土類含有量を増加させるこ とで,試料の破壊が抑制できることを確認した。上述したPrの線膨張係数を利 用したことによる,より低い希土類含有量での試料の破壊現象の抑制は,現状 では困難であることがわかった。図3.3に膜厚,希土類含有量がほぼ同じ各磁石

Target PrxFe14B(X=1.8, 2.0, 2.2, 2.4)

Substrate Si

Substrate-Target Distance 10 mm

Deposition time 60~150 min

Laser power 4 W

DF rate 0.3

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膜のヒステリシスループを示す。Nd-Fe-B系磁石膜に比べPr-Fe-B系磁石膜の 残留磁気分極ならびに(BH)maxの値は同程度のものの,保磁力が約400 kA/mほ ど高い値が得られた。これはNd2Fe14B相に比べてPr2Fe14B相の結晶磁気異方 性定数が高いことが一つの要因であると考えられる。

図3.2 シリコン基板上に成膜したPr-Fe-B or Nd-Fe-B膜の 希土類含有量と磁石膜の厚みによる破壊の関係

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図3.3 Si基板上のR (Pr or Nd)-Fe-B系磁石膜のJ-Hループ

3.2.2 ガラス基板上へのR(Nd or Pr)-Fe-B系磁石膜の成膜と破壊現象

テンパックスガラス基板上にNd-Fe-BまたはPr-Fe-B系磁石膜を作製し,希 土類含有量を変化させることで,前節で述べたシリコン基板上に作製した試料 との破壊現象を比較検討した。成膜条件を表3.3に示す。

図3.4にガラス基板上に作製した,Nd-Fe-B系磁石膜と Pr-Fe-B系磁石膜の 機械的特性を示す。シリコン基板上では希土類含有量が15 at.%以下になると,

基板の破壊が生じたのに対し,ガラス基板上では15 at.%以下に減少させても破 壊現象は確認されず,希土類含有量が12.5 at.%以上であれば基板の破壊が抑制 できることが了解される。ガラス基板に成膜したNd-Fe-B系磁石膜とPr-Fe-B 系磁石膜を比較すると,両者とも膜厚70 µmまでは,希土類含有量12.5 at.%

以上で破壊減少を抑制できるが,それ以上の膜厚では異なる破壊現象が確認さ れた。

図3.5にTa基板上に作製したPr-Fe-B系磁石膜と本研究で作製したガラス基 板上に作製したPr-Fe-B系磁石膜のX線回折パターン図を示す。両者を比較し ても,金属基板,非金属基板のどちらにおいても,Pr2Fe14B相の作製が可能で あることが確認された。

ガラス基板上に作製した磁石膜の磁気特性について評価したものを図 3.6 に 示す。両者ともに希土類含有量の減少に伴い,保磁力は減少し,残留磁気分極 は増加する。Pr2Fe14B 相は Nd2Fe14B 相と比較し異方性定数が高いため,

Pr-Fe-B系磁石膜の保磁力の平均値がNd-Fe-B系のものに対し約300 kA/m程

-1000 1000

-1 -0.5 0.5 1

0

Magnetic polarization [T]

Applied field [kA/m]

Pr content : 18.3 at.%

Jr : 0.55 T Hc : 1635 kA/m (BH)max : 48 kJ/m3

Thickness (Pr-Fe-B) : 39 m

-1000 1000

-1 -0.5 0.5 1

0

Magnetic polarization [T]

Applied field [kA/m]

Nd content : 18.4 at.%

Jr : 0.58 T Hc : 1247 kA/m (BH)max : 48 kJ/m3

Thickness (Nd-Fe-B) : 42 m

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高い。残留磁気分極の値は,多少ばらつきがあるものの,両者とも同程度の値 を示した。図3.7に本研究で最も厚膜化できたR-Fe-B系磁石膜のヒステリシス ループを示す。残留磁気分極の値は同程度であるものの,Pr-Fe-B系磁石膜の試

料は Nd-Fe-B 系磁石膜に比べて保磁力が高く,(BH)maxも向上する結果となっ

た。

表3.3 成膜条件

図3.4 ガラス基板上に成膜したPr-Fe-B or Nd-Fe-B膜の 希土類含有量と磁石膜の厚みによる破壊の関係

Target NdxFe14B(X=1.8, 2.0, 2.2, 2.4, 2.6) PrxFe14B(X=1.6, 1.8, 2.0, 2.2, 2.4) Substrate Tempax glass (厚み : 695 μm)

Substrate-Target distance 10 mm

Deposition time 60~150 min

Laser power 4 W

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図3.5 Ta,ガラス基板上に成膜したPr-Fe-B膜のX線回折パターン

(a)保磁力

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(b)残留磁気分極

図3.6 ガラス基板上に成膜したR-Fe-B膜の希土類含有量変化による磁気特性

図3.7 ガラス基板上に成膜したR-Fe-B膜のJ-Hループ

-1000 1000

-0.5 0.5

0 Magnetic field [kA/m]

Magnetic polarization [T]

――― Pr-Fe-B Jr : 0.65[T]

Hc : 976[kA/m]

(BH)max:64[kJ/m3] Pr content : 13.9 [at.%]

Thickness : 107 [m]

--- Nd-Fe-B Jr : 0.66[T]

Hc : 536[kA/m]

(BH)max:52[kJ/m3] Nd content : 13.1 [at.%]

Thickness : 89 [m]

Applied field [kA/m]

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3.3 デバイス応用に向けた磁石膜の微細加工ならびに微細着磁に関する検討

前節にて,ガラス基板上に成膜することで,破壊現象なくPr含有量13 at.%

付近にて(BH)max:約70 kJ/m3を有する膜厚100 µm程度の磁石膜を作製できる ことを確認したので,試料に対して,デバイス応用を鑑みた磁石膜の微細加工,

微細着磁を行った。本研究では MEMS 型の電磁式アクチュエータへの応用(図 3.8 参照)を検討しており,電磁式は定電圧駆動のためスマートフォンのカメラ 等の電池駆動デバイスへの組み込みが可能である。既存のスマートフォンのカ メラモジュール内において,手振れ補正を行うレンズ駆動アクチュエータの磁 石部やコイル部の組み立ては機械加工で単一的に行われているため,大型化や コスト増の要因となっている。そのため,これをMEMS化することができれば,

小型化,コストダウンを実現することができる。しかしこれを実現するために

は,厚み100 µm以上が望まれ,磁石膜の微細加工が必要である。厚みの点に関

してはすでに100 µmを超える試料の作製を実現している。微細加工に関しては,

他の研究者も報告されており,ウエットケミカルエッチングと Ar/Cl2複合ガス を用いた高出力プラズマエッチング法が報告されている[5][6]。しかし,20 µm程 度の大きなサイドエッチングを引き起こすため,ウエットエッチング法による 微細パターンニング加工の実現は困難である。本研究においても同様にウエッ トエッチングを試みたが,サイドエッチングが起こり,幅500 µm以下の微細化 が困難であった(図3.9参照)。Ar/Cl2複合ガスを用いた高出力プラズマエッチン グ法は,基板と磁石膜との界面でのエッチングを正確に止めることは技術的な 課題である。そこで本研究では,ガラス鋳型基板への磁石膜成膜を検討した。

Yonggang らはシリコン基板をフォトレジストで加工しその上から磁石膜をス

パッタリング法で12 µm成膜している[7]。シリコン基板のエッチング幅が50 µm の際は磁石膜の充填が確認できているが,10 µm 未満の際はクラックが発生す る。スパッタリング法では20 µm以上の膜厚を成膜することが困難であるため,

アスペクト比を1.0に近づけることが難しい。反磁界を小さくし,外部への供給 磁界を大きくするためにはアスペクト比は1.0に近くなければならない。

本研究では,基板に幅100 µm,深さ50 µmの溝加工を施し,その上から磁 石膜を成膜する。その後,研磨を行うことで磁石余剰部を排除し,溝内に磁石 を充填させた(図3.9参照)。更に,レーザアシスト微細着磁を検討した。他のグ ループは,フォトマスクを介してパルスレーザ照射し膜厚4 µmのスパッタ法に よる磁石膜磁化パターンニングを検討しているが,磁化された膜の厚みは 1.1~1.2 µmである[8]。本研究の微細着磁のプロセス(図3.1参照)は一方向に着磁 した磁石膜に,完全に反転しない程度の逆磁界を印加する。その後,反転させ たい部分に局所的にレーザで加熱することで,その部分の保磁力を下げ逆向き

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に着磁させるというプロセスである。この際,基板の熱伝導率の大きな基板を 用いると,目標加熱部以外に熱が伝導し,着磁幅が大きくなることが予想され る。そこで,本研究はテンパックスガラス基板を用いた。テンパックスガラス はシリコンと比較して熱伝導率が著しく小さい特性を有する。

図3.8 レンズ駆動アクチュエータのイメージ図

図3.9 磁石膜の加工プロセス

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