第 2 章 先進的取組の現地調査
5 静岡県浜松市
静岡県浜松市では、公民館が地域のコミュニティ活動 の中心であり、市も公民館を中心として、区役所や地域 自治センターと共に地域活動への支援を行ってきた。「コ ミュニティ担当職員」は、こうしたコミュニティ支援を 一層強化する目的で、平成 22 年度から全区に配置されて いる。現在は、公民館等を再編した「協働センター」等 の職員について、コミュニティ担当職員として位置付け ている。
(1)制度の背景・経緯
浜松市は、静岡県の西部、東京と大阪のほぼ中央にある、面積 1558.06km2、人口約 79 万 8,000 人の政令指定都市である。平成 17 年に 12 市町村を編入合併し、県内でも最大の面積を有する市 となった。合併に伴い地方自治法に基づく地域自治区を設置したが、その後平成 19 年に政令指定 都市となり、市内各区に区協議会が置かれたことから、地域自治の組織をよりシンプルにすべく、
後の平成 23 年度末に地域自治区を廃止した。
コミュニティ担当職員制度は、平成 22 年度に、当時の市長の意向によりスタートした。旧市町 村役場の再編や地域自治区の廃止に向けた流れの中、地域づくりの拠点をどのように確立してい くかという課題に対し、浜松市が出した回答が、施設においては協働センター、組織においては コミュニティ担当職員制度であった。
浜松市の旧市町村役場は、新市の区役所になったところもあるが、それ以外の拠点については 市が対策を検討した。その結果、平成 24年度にこうした旧役場、平成 25 年度に従来から地域活 動支援の中心となっていた公民館を発展的に再編し、協働センターを発足させた。旧役場で区役 所以外の拠点が第一種協働センター、旧公民館が第二種協働センターである。現在、地域活動の 支援はこれらの協働センターが主として担っている。
(2)制度の内容
①制度の内容
コミュニティ担当職員は、区長が指名し、市長が任命する。いわゆる「手挙げ方式」ではなく、
コミュニティや市民協働を担当する各部署内における指名制であり、通常業務の一環という位置 付けである。
現在、全市で 143名が任命されており、区役所及び第一種協働センターにおいては、おおむね 各部署のグループ員 3~6名程度、第二種協働センターにおいては所長、若手職員(以上正規職員)
に再任用職員を加えた計 3名からなる。職務として定められているのは、以下の各項である。
浜松市 Web サイトより
ⅰ 市民協働、コミュニティづくりについての啓発
ⅱ 地域活動やコミュニティづくりの相談・アドバイス
ⅲ 地域コミュニティ組織の設立・支援に関する支援
ⅳ その他、住民自治及び地域コミュニティ活動の促進
また、区役所のコミュニティ担当職員は、上記の他に協働センターのコミュニティ担当職員と の連携・調整等を行う。
②組織と配置
組織は、市役所本庁については担当課が、区役所等についてはコミュニティや市民協働を所管 する部署(※1)が分掌する。
コミュニティ担当職員の担当範囲は、区役所職員の場合は区内、協働センター職員の場合は協 働センター管轄内(おおむね中学校区)である。
※1 東区及び南区では区民生活課(制度試行中)
中区・西区・北区・浜北区・天竜区では区振興課
組織図(出典:浜松市資料)
③職制との関係
現在、コミュニティ担当職員には課長から一般職に至るまでの職員がおり、また協働センター 所長の場合は専門監、主幹、副主幹と幅がある。浜松市市民部 市民協働・地域政策課 地域政 策グループ長の杉田貴博氏によれば「特に幅広い職位から選任する狙いがあったわけではなく、
結果的に様々な役職の職員が集まった形です」とのことだ。基本的には、担当部署の職員の中か ら適宜選任される。
コミュニティ担当職員の中では、職位に応じた役割は特に定められていない。ただし、区役所 及び第一種協働センターのグループ長はグループ内の総括、第二種協働センターの所長はセンタ ー内の総括を役割としている。
④他組織との連携
現在、地域自治に関しては旧地域自治区に代わり区協議会が 担っている。ただし、区協議会は基本的に市の附属機関すなわ ち行政機関であり、住民の意見が反映されるのは、市からの諮 問に対する答申という公的な形になる。同じく地域政策グルー プの千葉一紀氏は「そのため、こうした公的な場には表れにく い、より住民に身近な領域の意見や要望――いわゆる「現場の 声」は、コミュニティ担当職員が窓口となって集めています」
と語る。
一方、浜松市は自治会の加入率が高く、おおむね各中学校区 に自治会連合会が組織されている。自治会や連合自治会は協働 における市の重要なパートナーとなっており、住民の声が直接 市に上がってくるルートが確立されている。そのため、こうし た組織が活動する分野では、既存のルートの活用を優先してお り、コミュニティ担当職員の活躍は限定的なのが現状である。
なお、支援の対象団体は、担当地域内であれば自治会、連合自治会、NPO 法人など、種類を問 わない。
⑤研修制度
研修制度に関しては、大学教授による講習会、先進事例から講師を招いての事例発表など、年 間 2~3 回、座学により実施している。「今後は、より具体的な活動に即して、コミュニケーショ ン能力(対人能力)やファシリテーション能力の向上などに向けた体験型の講座を、通年でカリ キュラムを組んで実施したいと考えています」と杉田氏は語る。
(3)制度の特徴・メリット
①黒衣に徹する
杉田氏によれば「コミュニティ担当職員の活動に共通していえることは『地域あってのコミュ ニティ』という意識、つまり『まちづくりの主体は地域住民である』という意識を持って活動し ているという点でしょう」とのことだ。地域コミュティの醸成度合いによって、コミュニティ担 当職員が「突っ込むか、間をとるか、一歩引くか」の判断を求められるケースも多い。その際、
地域の状況をしっかり把握した上で、「あくまで黒衣役」という点を意識して進めているとのこ とである。
浜松市 市民部 市民協働・地域政策課
地域政策グループ 千葉一紀氏
②業務負担
コミュニティ担当職員は、元来が区役所職員、協働センター 職員であり、担当する職務の一部であるので、任命によって新 たに業務量が付加されたということではない。しかしながら、
役割の明確化により、より積極的な幅広い取組が求められてい る。
「ただし、職員自身の間から、業務の境界が分かりにくいと いう声はあるようです」と千葉氏。他の職種との兼任の場合と 異なり、地域づくりの拠点で従来から本人が担当していた業務 の延長なので「逆に『コミュニティ担当職員になったからとい って、何をやればいいのか?』という戸惑いはあるようです」。
例えば、公立校の入学式や卒業式は出席するが、祭への参加は ボランティアであるなど、どこまでが職務か分かりにくい場面 もあるという。「市では、コミュニティ担当職員の業務を『も ともとやってきた業務を一層充実させていく』ことと位置付け ています」。
③本庁との関係
基本的に、コミュニティ担当職員は課題解決を担う所管課への「パイプ役」という位置付けで あり、上がってきた課題は区役所・本庁で解決するのが原則である。所管課へは、コミュニティ 担当職員が直接持ち込んでおり、本庁の市民協働・地域政策課が仲介することはない。
こうした中「いわゆる苦情・陳情が集中するといったケースは少ないですね」と杉田氏は語る。
「行政の対応が難しいような要望は、コミュニティ担当職員が積極的に地域に出向き、様々な要 望や相談に関わりながら、地域との信頼関係を築いていけば、おのずと減ってくるものです」。
浜松市では「黒衣に徹する」という考え方から、地域の課題を把握しながら、住民のまちづくり への参加を促し、必要な助言をする方向で取組を続けている。
(4)制度の実績
①具体的な事例
まちづくりに関する業務は、すぐに効果が表れにくい性質があるため、具体的な成果が見えに くい面はある。その中でも、コミュニティ担当職員は次のような具体的な活動を行ってきた。
例えば、自治会長と一緒に土木整備事務所に出向き、道路の危険箇所等について調整したケー スがある。また、図書館の新設に当たり、住民の要望を聞きながら担当課との調整を図ったケー スがある。
こうした「目に見える」事例ばかりでなく、地域の主体的な取組を支援したり、地域の会合へ の積極的な参加を通じ、信頼関係を構築したりといった、地道な活動を積み重ねている職員も多 い。
浜松市 市民部 市民協働・地域政策課
地域政策グループ長 杉田貴博氏