これらの規定について詳細にみてみると、遠隔システムの利用について、
表12のように当事者、証人の遠隔出廷が規定されている。
なお、現行制度では、遠隔地からの出廷のさいに、証人尋問、当事者尋問、
専門委員などについて遠隔システムの利用を認めているが、口頭弁論期日に おける当事者(訴訟代理人を含む。)には、その利用を認めていない。これは、
訴訟が、裁判官の面前で、直接に、口頭でなされるべきことが求められてい ること(直接主義・口頭主義)に由来すると考えられる。
しかし、直接主義・口頭主義に忠実であろうとすれば、むしろ距離的、時 間的な障壁を克服し、それを実質化するために積極的に
ICT
を利活用して いくことが必要となるであろう。以下に、各手続における現状と制限事項および
ICT
化の障壁を整理する。⒜ 口頭弁論期日 ⅰ 証人尋問
民事裁判では、現行民事訴訟法が施行された1998年(平成10年)から、
ISDN
を利用したテレビ会議システムが導入された。これは、全国の地方裁 判所本庁およびその大規模支部等に設置され、証人尋問に関しては、事件が 審理される裁判所から遠くに住んでいても、近くの裁判所に出廷することに より、証人尋問手続ができるようになっている(民訴204条1号)。証人が 遠隔地に住んでいる場合、証人尋問を実施しようとすれば、証人または裁判所、当事者が、時間およびコストを負担せざるを得ない現状の克服を目指す ものである。また、年齢や心身の状態等で、証人が圧迫を受け精神の平穏を 著しく害されるおそれがあると認める場合で、裁判所が相当と認めるときも、
同様である。また、この尋問を行う場合、文書の写しを送信するためなどに、
表12 現行法における電話会議・テレビ会議システム利用規定 遠隔出廷等区分
電話会議 テレビ会議 遠隔地の出廷等の場所 当事者
(原告・被告)
※訴訟代 理人含む
証人等 専門委員
口頭弁
論期日 △△ 不可 不可
○△ 不可 不可
○○ △
不可
※簡裁少額訴訟 のみ電話会議に よる証人尋問可。
(法372条3項)
以下が可能
・証人尋問
(法204条1号)
・当事者尋問
(法210条)
・鑑定人意見陳 述
(法215条の3)
証人・当事者は遠隔地の裁 判所(規則123条1項)
鑑定人は相当と認める場所
(規則132条の5)
※法204条2号はビデオリ ンク方式で、証人・当事者 の出廷場所は受訴裁判所の 他の場所または他の裁判所
(規則123条2項)
○○ △ 専門委員の説明(法92条の3) 専門委員の説明
(法92条の3) 専門委員は通話できる場所
(規則34条の7)
弁論準 備手続 期日
△△ 不可 不可
○△ 一方の当事者
(法170条3項)
一方の当事者
(法170条3項)
通話できる場所
(規則88条2項)
○△ △ 専門委員の説明(法92条の3) 専門委員の説明
(法92条の3) 専門委員は通話できる場所
(規則34条の7)
書面に よる準 備手続 △△
双方の当事者
(法176条3項)
双方の当事者
(法176条3項)
通話できる場所(規則91条)
※裁判所・当事者双方の3 者が別々の場所からアクセ ス可能。
進行協 議期日
△△ 不可 不可
○△ 一方の当事者
(規則96条) 一方の当事者
(規則96条) 通話できる場所(規則96条)
○…当事者の法廷への出廷 法…民事訴訟法 △…当事者の法廷への遠隔出廷 規則…民事訴訟規則
〔 〕
〔 〕
〔 〕
〔 〕
〔 〕
ファクシミリを利用することを規定している(民訴規123条3項)。ただし、
接続場所は、裁判所内に限定されている。
ⅱ 当事者尋問
当事者尋問(民訴210条による204条の準用)は、証人尋問と同様である。
ⅲ 鑑定人質問
たとえば、医療関係訴訟における医者の鑑定などでみられる鑑定人質問に 関しては、要件が緩和され(民訴215条の3参照)、接続する場所も「相当 と認める場所(民訴規132条の5)」とされている。この緩和により、現実 には、たとえば病院内にテレビ会議システム機器を設置し、病院から鑑定人 として参加できるようになっている。
⒝ 弁論準備手続期日
弁論準備手続期日(弁論準備期日)では、電話会議システムやテレビ会議 システムの利用は、一方の当事者が出廷することによって利用可能となる。
⒞ 書面による準備手続
これは、双方の当事者または訴訟代理人が、電話会議システムを用いて裁 判官と協議し、争いのある訴訟物について準備書面を交換して、証拠調べの 口頭弁論前の争点・証拠の整理を行う手続である。当事者等はそれぞれ自宅 または法律事務所などから通信を行い、裁判所に出向くことを要しない。
⒟ 進行協議期日
裁判の進行に関して協議する進行協議期日も、当事者(原告・被告)の一 方の出廷を条件とするが、電話会議システムにより、参加することができる
(民訴規96条。なお、電話会議による参加は、「その期日に出頭したものとみ なす」とされている。同条2項)。
(ICT化の障壁)
⒜ 遠隔出廷が可能な手続の制限
現行法においては、電話会議システム・テレビ会議システムの利用可能な 手続が限定されており、さらに、利用できる場合においても、一方の当事者
の出廷が必要であるなど、制限が多い。また、証人尋問・当事者尋問・鑑定 人質問など、利用できる場面についても制限がある。
確かに、証人尋問等は、証人が実際に証言し、裁判官は五感(五官)を研 ぎ澄まして、証人の証言の信憑性をその表情や声などから判断しなければな らない(心証を得なければならない)。ただし、現行法では、その証人尋問 で遠隔システムの利用が認められているため、口頭弁論手続で遠隔システム を利用することに関しては、現実には大きな問題を生じることはないと考え る。
「インターネットを介した法廷空間の拡張」を目指すには、これらの制限 が障壁となる。
② 司法アクセス環境に関する現状と ICT 化の障壁
(現状)
現状では、裁判に遠隔から参加するための、ISDN回線を用いたテレビ会 議システムは、全国の地裁と規模の大きなその支部などに整備されている。
また、テレビ会議システムの通信料は、当事者が負担することになってい る。
(ICT化の障壁)
⒜ ICT環境の整った裁判所の限定
現状では、テレビ会議システムおよび電話会議システムを利用できる裁判 所は限られており、さらに、テレビ会議システムを利用する場合には、その 設備のある別の裁判所に出向く必要があるため、最寄りの裁判所が遠方にあ る場合には、テレビ会議システムによって利便性が向上するとは言い難い。
それゆえに、より便利な法律サービスの提供にさいして、テレビ会議システ ムの利用可能な裁判所が限定されていることは障壁となる。
⒝ ISDN回線を用いたテレビ会議システム利用時の費用負担 ISDN回線を用いたテレビ会議システムを利用する場合に、定額料金(基 本料金)は裁判所が負担し、通信料は当事者が負担する。特に、接続先が遠
隔地の場合には非常に高価になることも予想される。こうした費用負担が遠 隔裁判における充実したコミュニケーションを行う上での障害になっている と考える。
③ 実務環境に関する現状と問題点(特に、傍聴人と通訳人の場合)
(現状)
民事訴訟の口頭弁論は、公開の法廷で行われる(憲82条)。一般市民は裁 判を傍聴しようとする場合には、自ら裁判所へ出向き、裁判が行われる法廷 の傍聴席で傍聴を行うことができる。
なお、充実した適正な訴訟審理を支える関係者として、通訳人(法廷通訳 人)が存在する。通訳人は、外国人が原告または被告になった場合に裁判所 の法廷に出向き、同時通訳を行う。近年、グローバリズムの進展とともに、
特に、刑事事件などにおける法廷通訳の需要が高まっている。多民族国家で 共通語の英語を話すことのできない国民を多数抱えるアメリカでは、早くか らこの需要が高まり、国家資格としての法廷通訳制度が充実するとともに、
ICT
の利用も進展している。2001年(平成13年)3月時点で、アメリカは、173カ国語分の通訳を、電話、テレビ会議システムを通じてなすことができ るシステムを作り上げている。日本においては、使用人口の少ない言語につ いては、担当する法廷通訳人が不足しているのが現状である。
(ICT化の障壁)
⒜ 裁判所施設内に限定された裁判傍聴
一般に、法廷の傍聴席には限りがあり、必ずしも希望者全員が傍聴できる わけではない。特に社会の耳目を集める著名な事件になると、傍聴者が籤引 きで選別されている。また、どの事件がどの法廷で開かれるかについても、
事件当日に、受付に備え付けられている事件一覧表をみなければ分からない のが現状である。
傍聴が裁判所施設内だけに限定されていることが、裁判の公開を制約して いる面がある。