第 3 章 高感度化への取り組み
3.6 電気化学的前処理条件の最適化
新たに作製した電極構造に最適な電気化学的な前処理条件の探索を行った。
酸化電位と還元電位は、2.1Vと−1.0Vを最適な電圧とした。酸化電位は、上 記2.4.3の図8同様に、酸化電位を1.8V または2.4Vにした場合に測定され た酸化ピーク電流値に比べ、2.1Vを印加した場合の方が測定された酸化ピー ク電流値が大きかったためである。また、還元電位に関しても同様に、−1.0V では−0.8V に比べ、最終的に測定される酸化ピーク電流値が大きく、また、
上記2.4.3の図7-bで示したように、−1.2Vに比べ、−1.0Vでは安定的な還元
ができていると考えられたためである。図10に示した測定原理において、従 来の免疫センサ(第2章参照)と大きく異なるのは、酸化によりW2上で生 成された銀イオンを W1 上に回収する点である。つまり、本測定原理では W2 上で酸化された銀イオンに関しては、還元されるまでの拡散距離が長く なる。つまり、酸化によって生じた銀イオンの大半を W1 上に回収するため に要する時間が長くなると予想される。これより、本測定原理においては、
酸化時間、還元時間が、非常に重要な因子だと言える。まず、酸化時間の最 適化を行った。HBs 抗原存在下で抗原・抗体反応により、銀ナノ粒子をW1 とW2上に捕捉し、その後、W1とW2に2.1Vを0から45秒間印加した。
続いて、−1.0VをW1のみに300秒間印加し、最後に、DPVによりW1上に 回収された銀を再度酸化させた際に流れる酸化電流を測定した。酸化ピーク 電流値の酸化時間依存性を図 14 に示す。酸化ピーク電流値は、酸化時間が 15秒以降で飽和した。これより、本免疫センサの最適な酸化条件として、2.1V を15秒間W1とW2に印加することとした。次に、還元時間の最適化を行っ た。酸化時間の最適化同様、HBs抗原存在下で抗原・抗体反応により、銀ナ ノ粒子をW1とW2上に捕捉し、W1とW2に2.1Vを15秒間印加し、銀ナ ノ粒子を酸化した。続いて、−1.0V を W1のみに 60から 540 秒間印加し、
銀をW1上にのみ析出させた。最後に、DPVによりW1上に析出した銀を再 度酸化させた際に流れる酸化電流を測定した。酸化ピーク電流値の還元時間 依存性を図15 に示す。還元時間を長くなると、酸化ピーク電流値は増大し、
480 秒程度でほぼ飽和状態となることが確認された。このため、本免疫セン サの最適な還元条件は、−1.0VをW1のみに480秒間印加することとした。
本免疫センサにおける電気化学的な前処理の最適な条件は、2.1V を 15 秒間 W1とW2に印加し、その後、−1.0VをW1にだけ480秒間印加する条件で ある。
図 14 酸化ピーク電流値の酸化時間依存性
W1 と W2 上での免疫複合体形成後、2.1V を W1 と W2 に 0〜60 秒間印加し、続いて、−1.0V を W1 のみに 300 秒間印加した後、DPV により測定された(a)酸化ピーク電流値の酸化時間依存性、
(b)電流波形である(酸化時間が 0, 5, 15 秒のものを抜粋)。各酸化ピーク電流値は 3 つの免 疫センサを用いて評価した結果の平均値であり、各エラーバーは標準偏差である。
図 15 酸化ピーク電流値の還元時間依存性
W1 と W2 上での免疫複合体形成後、2.1V を W1 と W2 に 15 秒間印加し、続いて、−1.0V を W1 のみに 60〜540 秒間印加した後、DPV により測定された(a)酸化ピーク電流値の還元時間依存 性、(b)電流波形である。各酸化ピーク電流値は 3 つの免疫センサを用いて評価した結果の平 均値であり、各エラーバーは標準偏差である。