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ドキュメント内 志 村 洋 子 今 泉 敏 (ページ 56-77)

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自閉症児における自己/他者知識に関する状況弁別の獲得と般化 57

で,自己質問(Know質問とThink質問)に対する応答 の形成を行った。

Slにおいては,文字カードを用いた指導を行った結果,

4ブロック目で達成基準に到達した。

S2においては,文字カードを用いた指導を行った結果,

正答率は50%前後まで上昇した。しかしながら,この指 導を7ブロック行ってもそれ以上の上昇傾向がみられな かったため,付加的指導を行った。その結果,15ブロッ ク目で本フェイズの達成基準に到達した。

S3においても,文字カードを用いた指導を行った結果,

正答率は40%近くまで上昇した。しかしながら,この指 導を5ブロック行ってもそれ以上の上昇傾向がみられな かったため,S2と同様の付加的指導を行った。その結果,

16ブロック目で本フェイズの達成基準に到達した。

③プローブテスト1:プリテストと同じテストを行った 結果,3名とも同じ応答パターンを示した。対面課題lの 自己質問についてはすべて正答することが可能となり,

他者質問についても正答の増加がみられた。しかしなが ら,他者質問に対して自分の可視/不可視に基づいた応 答をする誤答がみられた。観察課題1,2,3においても,

自分の可視/不可視に基づいた応答を行った。

④介入フエイズ2:対面課題lの4条件のうち,2条件 について文字カードと再認プロンプト手続き(Figure5)

を用いて指導を行った。

Slにおいては,この指導的介入を4ブロック行ったが 初発試行での正答は変化しなかった。そこで,付加的指 導を行った結果,20ブロック目で本フェイズの達成基準 に到達した。

S2においては,付加的指導を必要とせず,5ブロック 目で本フェイズの達成基準に到達した。

S3においては,Slと同様に4ブロック目までに初発試 行での正答は上昇しなかったため付加的指導を行った。

その結果,27ブロック目で本フェイズの達成基準に到達 した。

⑤プローブテスト2:3名とも対面課題1で可視/不可 視が異なる2条件においてプローブテストlでは63%の 正答率であったものが,100%の正答率まで上昇した。し かしながら,プローブテストlでは3名とも100%正答し ていた自己と他者(観察課題では2名の他者)で可視/

不可視が同一の2条件において,逆に正答率が低下した (S1は64%,S2は78%,S3は41%の正答率)。エラーパ ターンは,自分が数字を見た条件では他者は数字を見て いないとする応答,自分が数字を見なかった条件では他 者は数字を見ているとする応答が多くみられた。

⑥介入フェイズ3:Slにおいては,本フェイズを導入 した結果,8ブロック目で達成基準に到達した。S2にお いては,7ブロック目で達成基準に到達した。また,S3に おいては,13ブロック目で達成基準に到達した。

⑦ポストテスト:SlとS2においては,すべての課題 において100%の正答率を示した。S3においては,対面 課題1,観察課題1,2において100%の正答率を示し,

観察課題3においても正答率の上昇がみられた。

考 察

本研究では,空間的視点取得課題で高いパフォーマン スを示し,認知的視点取得課題で未分化なパフォーマン スを示した自閉症児者において,自己および他者の「知 識の有無」状況を弁別可能にするための条件を検討した。

まず,3名の対象者に対して自己の「知識の有無」状況 の弁別を可能にするための指導的介入を行った結果,自 己の可視/不可視に基づく「知識の有無」状況について は,文字カードを用いた指導的介入によって弁別可能に なることが示された(介入フェイズ1)。しかしながら,

自己の「知識の有無」状況が弁別可能になっても,他者 の「知識の有無」状況を弁別することへの転移はみられ なかった(プローブテストl)。

次に,自己と他者の「知識の有無」状況を弁別可能に するために,自己と他者で可視/不可視の状況が異なる 条件において,トランプが提示されている時に他者側に 移動して他者と「見え」を共有する再認プロンプト手続 き(Figure5)を用いて指導的介入を行った(介入フェイ ズ2)。その結果,3名とも直接指導を行った条件で正答 できるようになった。しかしながら,すべての対象者に おいて,対象者自身がトランプの数字を見た時は他者は 見ていない,対象者自身がトランプの数字を見なかった 時は他者は見ているとするような応答傾向がみられるよ うになった(プローブテスト2)。このことは,対象者は 他者状況を弁別しているのではなく,自分自身の可視/

不可視に基づくステレオタイプな応答パターンを学習し てしまったことを示唆している。

そこで,自己と他者で可視/不可視の状況が異なる条 件だけでなく,自己と他者で可視/不可視の状況が同一 の条件についても,再認プロンプト手続きを用いた指導 的介入を行った(介入フェイズ3)。この指導状況は,テ スト課題における対面課題lと同様なものであった。そ の結果,3名とも自己と他者の「知識の有無」状況の弁別 が可能となった。さらに,指導的介入を行わなかった他 者2名間の「知識の有無」状況を弁別する課題(観察課 題1,2,3)でも,適切に応答することが可能となった (ポストテスト)。このことは,文字カードや再認プロン プト手続きといった正答を促進するための変数を同定す るだけでなく,指導的介入を行う課題条件設定が重要で あることを示している。

本研究において行った各介入フェイズと各テストのパ フォーマンスの結果から,自己および他者の「知識の有 無」に関する状況弁別のためには,次の2つの変数を段

58 発 達 心 理 学 研 究 第 1 3 巻 第 1 号

階的に指導的介入の中で用いていくことが有効であるこ とが示された。まず,第1の変数としては,比較的単純 な自己のみのセッティング(対面課題2)で視覚的な文字 カードを用いた指導的介入(介入フェイズl)を行うこと が,自己質問に対する適切な応答の形成に有効であった と考えられる。しかしながら,この指導的介入だけでは 他者の「知識の有無」に関する状況弁別は不可能であっ た。次に,第2の変数としては,自己および他者を含む セッティング(対面課題l)において,他者側に回り込ん で他者と一緒に情報アクセスする再認プロンプト手続き を用いた指導的介入を行うことが,自己および他者の「知 識の有無」に関する状況弁別の獲得に有効であったと考 えられる。そして,この指導的介入を対面課題lの4つ のトランプ提示条件において行うことにより,未訓練の セッティング(観察課題)における他者2名の「知識の 有無」に関する状況弁別にも般化がみられることを示し た。

自閉症児においては,日常場面で心的動詞を用いた会 話を行うことが少ないと指摘されることから(Targe雁Flus‐

be19,1992;綿巻,1997),心的動詞の理解と表出に何ら かの困難性があることも予測される。そのため,心的動 詞を用いた複雑な課題を遂行可能にするための前提条件 を示すことが重要である。本研究の結果から,自閉症児 において自己と他者の「知識の有無」状況を弁別可能に するための前提として,自己についての条件のみを取り 上げて心的動詞を含む質問一応答スキル(question‑an‐

sweringskill)の形成を行うことが必要であるといえる。

介入フェイズ2とプローブテスト2の結果からは,自己 と他者の「知識の有無」状況が異なる条件のみを指導す ると,自己質問については他者質問の反対を,他者質問 については自己質問の反対を応答することを機械的に誤 学習してしまうことが明らかになった。そのため,「知識 の有無」状況が異なる条件に加えて,自己と他者の「知 識の有無」状況が同一の条件についても同時に弁別学習 させる課題設定をすることが重要であったといえる。Bar‐

on‑Cohen(1993,1997)は,自閉症児が他者の「見るこ とと知ることの関係」の理解に困難性をもっており,そ のために他者が自分とは異なる心的状態をもつというこ とを理解できないとしている。臨床的視点に立つならば,

「他者が自己と異なる心的状態をもっている」ということ の理解を指導すればよいということになるが,それに加 えて「他者が自己と同様の心的状態をもつこともある」

ということの理解も同時に指導していく必要があると言 い換えることができる。

近年,自閉症児に対して「心の理論」課題の指導を試 みた研究(Hadwin,Baron‑Cohen,Howlin,&Hill,1996, 1997;Howlin,Bamn=Cohen,&Hadwin,1999;McGIEgor,

Whiten,&Blackbum,1998;Ozonoff,&Miller,1995;

Swettenham,1996)が多く見られるようになった。これ らの研究において共通する結果は,直接指導した課題に 通過するようになり,指導を行わなかった近転移課題(課 題要素が類似しているとされる課題)には転移するが,

遠転移課題(課題要素が類似していないとされる課題)

には転移しないことである。しかしながら,これらの研 究に共通する問題は,テスト課題と指導課題の分析が不 十分な点にある(奥田,2001;奥田・井上,2000)。

本研究において行われたトランプ課題は,奥田・井上

・山口(2000)の研究においてすでに同一セッティングの 空間的視点取得課題に通過した自閉症児者を対象として いることから,プリテストでの低いパフォーマンスが空 間的視点取得の問題によるものとは言い難い。認知的視 点取得課題の困難性は,質問者が用いる教示内容の複雑 さ(心的言語の使用や聴覚刺激の多用),提示刺激の 性質 (情報提示時間の長さ,刺激のモダリティー),応答反応 (写真やカードの選択ではなく,音声による応答の産出)

といった要素にあると考えられる。これらの問題は,多 くの「心の理論」課題においても共通することであると いえる。

Pierce,Glad,&Schreibman(1997)は,自閉症児が 伝統的な「心の理論」課題において低いパフォーマンス を示す要因を,課題における注意の要請の大きさにある と指摘している。この指摘は,自閉症児における刺激の 過剰選択性(stimulusoverselectivity;Lovaas,Koegel,&

Schreibman,1979;Lovaas,Schreibman,Koegel,&

Rehm,1971;Schreibman,&Lovaas,1973)に関連す るものである。このような指摘からも,課題自体がもつ 困難性を低減した課題を,いかに設定できるかという視 点に立つ必要もあるといえる。このことは,実験研究に よって明らかになった知見を自閉症児の臨床に応用して いく際に,貴重な手がかりを供与してくれるものと思わ れる。また,「心の理論」における健常発達の順序性 (Wellman,1990)についても考慮に入れて,課題を構成 していく必要もある。しかしながら,自閉症児への指導 研究においては,健常発達の順序性のみにとらわれるの ではなく,障害特性や個人的特性を考慮に入れて行って いく必要がある。

従来の「心の理論」に関連する研究は,自閉症児群と 健常児群,あるいは知的障害児群などを群間比較し,自 閉症児群における特定的な障害や能力の欠如を指摘する ものが多かった。しかしながら,このような群間比較の 実験計画では,特定能力の欠如を相対的に示すだけであ り,障害をもつ個人の特性に応じた教育,援助に貢献で きるような直接的な要因を明らかにすることは困難であ る(日上,1999)。本研究では,従来の研究のように統制 質問に通過しない対象者を個人差として除外するような 群間比較研究の手法をとらず,単一事例の実験計画法⑯ar‐

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